リガの犬たち
ラトヴィアという国を知っているか? そう問われてもまずは答えられない。リトアニア、エストニアと並んでバルト3国と呼ばれソ連支配下にあったが、ゴルバチョフがペレストロイカを行い、1991年に独立した。ラトヴィアは、スウェーデンから見ればバルト海を挟んで目と鼻の先にあるにも関わらず、感覚的には遠く、異なる政治文化の国家であるらしい。本書は、1991年に独立したばかりの政情不安なラトビアと、その首都リガを舞台としたヴァランダー・シリーズの第二作である。
ヴァランダーはU-NEXTでTVシリーズにもなっており、配信を何本か観ているはずなのだが、本書のストーリーは記憶になく、本書でその壮絶な緊張を改めて知り、味わった次第。政治的緊張は突き詰めると軍事緊張であり、いわばどのように歴史を積み重ねた国の都市であれ、軍事力や暴力により血で汚れた状態にあるということだ。
本書はスウェーデンの冬の海に流れ着いたゴムボートに載せられた二つの死体に始まる。どうやら拷問を受けているらしい。しかもそのゴムボート自体がある夜消えてしまう。漂着遺体は誰のものであり、ゴムボートはなぜ消えたのか? ラトヴィアでの捜査を命じられたヴァランダーは本書では、ほぼかの地を舞台に活躍を見せてくれるものである。
本書のスタート時、ヴァランダーは、父の小屋を訪ねたり、家を出て専門学校で学ぶ娘の将来を案じる日々を過ごしつつ、亡き同僚を思って日々を過ごしていたが、ラトヴィアという対岸の国でありながら永いこと門戸を閉ざされていた国に渡り、その異様さと同時にスウェーデンとの歴史的な相違を強烈に感じつつ、言語にも苦労しつつ、現地捜査関係者とともに捜査を進めるが、捜査官というよりまるでスパイのように扱われる緊張の中で真実を追う。
誰もが信用ならない政治的暗闘の渦中にある首都リガでの静かなる暗闘は、時に銃撃と火線に曝され戦争状態のようになる。いともたやすく起こる暗殺。
裏切りや政治闘争のさなか、現地の協力者たちと気持ちを通わせるヴァランダーの孤独な闘いが本書を通して緊張を高めてゆく。
他では類を見ないほど犠牲になる者も多く、政治的暗闘の醜さが人の命を奪い、歴史ある古都リガの町を内側から壊しているように思う。
かつて『Z』という作品を読み、かつ映画化作品を観たことがある。軍事政権下にある暗闘(ギリシャがモデルだったと言われる)とその中で起こった平和主義者Z氏の暗殺(映画ではイブ・モンタン)の物語だった。その暗闘と裏切りの世界を這い回るジャーナリスト(配役ジャック・ペラン)や司法検事(配役ジャン・ルイ・トランティニャン)たちの戦いぶりを映画でも本でも振えて堪能させてもらったが、それに迫る暗闘ぶり思い出させられる、怖い怖い一作であった。今の日本の国情を見ていると、高市政権ならばこんなことはいつ起こってもおかしくないと、背中を恐怖が走り抜ける次第だ。
(2026.08.06)
最終更新:2026年08月06日 15:02