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題名:グレタ・ガルボに似た女
原題:Kvinnan Som Linknade Greta Garbo (1990)
作者:マイ・シューヴァル,トーマス・ロス Maj Sjowall,Tomas Ross
訳者:木村由利子
発行:角川文庫 1993.11.10 初版
価格:\560(本体\544)


 自分の書棚にある本はすべて読み終えた本ばかりとは限らない。何かの拍子に我が家にやってきた作品の中には、なかなか手に取られることなく、忘れられているものも少なくはない。最近、我家でも断捨離が行われるようになり、自分がいつか読もうと思っていていつまでも読まずにいる本は、存亡の危機に瀕している。なので、近いうちに読みたいと思う本は選別して、新刊が大きな顔をしている書棚に移動することで、何とか廃棄を免れている。それにしたって読まねば捨てられるという運命に変わりはない。よって、懐かしい作家たちの古い本を手に取る機会が増える。断捨離が進行しなければ、まだまだ古い書庫に眠ったままで、知らぬうちにぼくに別れを告げていたかもしれない作品たちを。

 マルティン・ベック・シリーズはスウェーデンを代表する全10作の刑事シリーズ。警察シリーズの好きなぼくは、エド・マクベインの87分署5シリーズ56巻同様に、ベック・シリーズ10巻をすべてを読破している。ちなみに87分署は、ぼくの誕生年1956年に一作目が出版され、2005年『最後の旋律』で断筆となる。1989年の『ララバイ』出版の折には、来日したエド・マクベインに早川書房にて実際お会いし歓談する機会を得て、サインも頂いている。ぼくはパソコン通信NiftyServeの冒険小説フォーラムで3代目Sysop(System Operator)を勤め、メニューに87分署専用会議室を設置したという時代である。

 マルティン・ベックの会議室も、実は短い間だが開設しており、その頃にシリーズは全部読んだのだが、夫婦ライターの一人ペール・ヴァールーが亡くなった後、シリーズは途絶えていた。しかし数年後、遺された夫人がオランダの作家であるトーマス・ロスと組んで新しい作品を書くことになったのが本書!

 スウェーデン語とオランダ語とで、一章ずつ書かれた原文は互いに翻訳されて手交され、どちらも互いの文章を読み切ってから次の章を書く、という、聴いたこともないような手数をかけて、アクロバティック、かつ労力もかかる作業により、丹念に作られ、完成したのだという。一章ずつ書いては、次の展開を、相手に委ね、そこから物語を紡いでゆくという手法だったそうで何とも凄い。しかも異言語ですよ。

 にも関わらず、本書を読んでみるとその語り口の滑らかにびっくりする。何の不自然も感じられないばかりか、ダブル主人公であるスウェーデン人ライターと、娘を探すオランダ人の父親がスウェーデンの町や群島の海を舞台に、活躍してみせるのである。

 当時の風潮でもあるのか、ミステリーというよりどちらかと言えば冒険小説的要素が強いのも、ぼくの好みである。1990年に完成されたこの作品を当時の時代や背景となる国々に思いを寄せながら、なかなかに妙味のある冒険物語として堪能させて頂いた。古く懐かしくアクロバティックな制作作法によりこの世に生み出されたいたって珍しい本作に乾杯!

(2026.8.14)
最終更新:2026年08月16日 20:24
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