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ライルズ山荘の殺人




題名:白い殺意
原題:A Cold Day For Murder (1992)
著者:デイナ・スタベノウ Dana Stabenow
訳者:芹澤恵
発行:ハヤカワ文庫HM 1995.1.31 初版
価格:¥560


 アラスカ発の探偵小説なんてあるんだ? しかもそれを未読のまま書棚に30年以上も眠らせて、買ったことも忘れていたのは自分自身ではないか。C'est la Vie! これもまた人生。

 それでも5月にアラスカ・クルーズを楽しんで来たばかりの今この時に、この作品を発見して良かった。書棚に収められてそのまま忘れられている本が悲鳴をあげたのだろうね、きっと。

 そう、本書は31年前の本である。パラパラと開いてみたところ、アラスカを舞台にした現地アリュート人女性が主人公の探偵を務めるシリーズ第一作ではないか。アラスカ! たちまち本書の世界にのめり込む。

 ぼくがこの5月に訪れたアラスカは、太平洋岸どちらかと言えばカナダ寄りの夏場の観光を主とした土地ばかり。冬には誰もいなくなるような小さな港町や氷河鉄道だった。

 しかし、本書の舞台となるアラスカはずっと北部にあるいわば観光地ではない本物のアラスカ。ぼくが訪れた海辺の観光地ではなく、ずっと北極に近いフィヨルド内部、アンカレッジの周囲に点在する小さな町、いや村である。誰もが知り合いだったり、親戚や友人であったりもする。そして厳しい自然と冬の永い土地。

 主人公は元検事局捜査官で現在は探偵であるケイト・シュガック。ある事件での負傷をきっかけに、私立探偵として生きている独身女性。彼女はアラスカ先住民(アリュート人)という設定で、職務に関しては元刑事であるからか相当の腕利きであることが窺える。

 ケイトの厳格な祖母。ロードハウスという誰もが集まる酒場。誰もが誰かの友だちや親せきであるような小さな町(村?)での窮屈にすら思える人間関係。それでいながら事件は発生する。否、むしろそれだからこそ事件が発生する?

 殺人がひとつ勃発すると、都市部から捜査官がやってくる。アラスカと言いつつも、無法ではなく、さほど辺境の土地というわけでもないのかもしれない。それでもさすがに極北のミステリーなので、自然状況は大変厳しそうだ。大都市ではない町での小さな事件に関わる誰もが知り合い同士のような世界。

 いろいろな意味で自然に個性が強く出ている作品であるように思う。キャラクターたちの出自や、出張って来るアメリカ人の持ち込む文明史観が自ずと対立したり、火花を散らしたりする。失踪した国立公園レインジャー。埋もれてしまいがちな犯罪。日常と非日常との境目のはっきりしない極北の空気を呼吸しながら、あまり経験したことのない種類の骨太ミステリー・シリーズ第一弾であった。

 ちなみにデイナ・スタベノウの翻訳作品は6作あるらしい。どんな場所であれ個性的な作家は世界にいるものだ。

(2026.8.26)
最終更新:2026年08月26日 13:45