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題名:秘めやかな海霧
原題:Dead In The Water(1993)
著者:デイナ・スタベノウ Dana Stabenow
訳者:芹澤恵
発行:ハヤカワ文庫HM 1997.7.31 初版
価格:¥600


 デイナ・スタベノウのアラスカ人女性のヒロイン、ケイト・シュガックのシリーズの中でもかなり個性的な作品に仕上がっているのが本書。元捜査官で現在は探偵業を営むシュガックは、前作では雪山に登るシーンが、自分的にはとても印象深かった。ところが本書では冒頭から、船に乗っている。

 この作家の冒険小説的力量はこれまでの三作で十分に示されているのだが、ついに海洋冒険小説にまで才能の限界を広げ、その作風のバリエーションを本作では強烈に示してみせてくれた。

 最初は本業の探偵業では食っていけなくなってアルバイトのように海洋漁船に乗り込んでいるのかと思わせているが、読み進むうちに彼女は探偵業の一環としてこの船にスパイとして乗り込み、何かを探り出そうとしていることがわかる。

 その漁船<アヴィルダ号>では、既に行方が不明となっている二名の船員がいて、その原因と考えられるのが漁船が主として営んでいるのが漁ではなく、非合法ビジネスであるらしいことを匂わせつつ、なかなか明らかにされない展開で読者の好奇心をくすぐってゆく。

 さらには本書に冒険小説としての読みごたえを与えているのが、大自然たる海洋での嵐のシーン、アリューシャン列島を舞台にした国際的な漁獲戦争のような枠組みである。大戦後ソ連に奪われた日本の北方領土までが視野に入って来るために、アラスカ小説という区分を超えて国際冒険小説的なスケールまでが迫って来るような一冊となっている。

 いつもレギュラー陣は捜査官ジャック・モーガンくらいしか出演しないのだが、ケイトの村人たちや愛犬などを遠く残して独り敢然と乗り込んで臆さぬ女性探偵の冒険譚をしっかり味わうことができるのはおそらくこの一作だけであるような気がするので、その貴重さをこそ大切にすべく、この船とその背景にある予想外の陰謀への闘いを最後まで緊迫感を持って読み進めることができたこれは力作であった。

(2026.9.14)
最終更新:2026年09月14日 21:54