題名:特殊清掃人グレイス・マクギルと孤独な死者たち
原題:The Undiscovered Deaths Of Grace McGill (2025)
著者:C・S・ロバートソン C.S.Robertson
訳者:菅原美保
発行:小学館文庫 2026.8.9 初版
価格:¥1,140
いろいろノワールを読んではいるけど、ここまで飛びっきり真っ黒でダークな作品は自分の読書体験でも珍しいかもしれない。作者は写真でみるとキャリアのある男性らしいがジャーナリスト暦20年の後、"Random"で作家デビュー、本書は二作目ということらしい。御覧の通り現代も邦題も、ちょっと珍しいと思われるくらいに長い。
さてタイトルの特殊清掃人とは何だろうということだが、本書の場合、亡くなって長期間経って発見されるなどの孤独死の現場を清掃する仕事を生業にする人らしい。少なくとも本書の主人公は死後何か月も誰にも気づかれずに放置されていた現場の清掃を請け負う文字通り清掃人である。
本書はその清掃人たる30代半ばの独身女性グレイス・マクギルをヒロインとしたダーク・ミステリ。最初はおえっと言いたくなるほど凄惨な現場の清掃で始まるのなけれど、作品全体を通して、その読んだような空気が入れ替えられることはほとんどない。独白文体による孤独さや仕事の過酷さを観ていて気の毒になって来るくらいなのだが、どこかおかしい。
巻半ばに達すると世界の見方がまるで逆転するという本は珍しくはないかもしれないが、この作品では、ダークなものがより黒々と深みを増すある転換点がある。一気に世界の見方が変わるのだ。
ただでさえ真っ黒なノワールなのに、さらに狂気じみた黒さがエッセンスとして加えられて、作品世界に広がりと深みが与えられつつ真相が知らされてゆく。その語り口が巧すぎて怖いくらいである。そしてバラバラに提示されていた様々な死が、最後に繋がってゆくまでのプロセスが本書の読みどころである。一人称小説というのは、なかなかに怖いものなのである。
ヒロインのグレイスは仕事も奇妙で特殊だが、その性癖も少し不思議と思われるシーンが最初に知らされる。孤独死の家の清掃を終えた家についは、帰宅後その精巧なミニチュアを作成し保存しておくという奇妙な習慣があるのだ。本書のカバー写真が実はそれなのだと、ここで気づく。
荒っぽく取っつきにくい仕事と、丹念できめ細かいミニチュア作りの習慣を持つヒロインの生活は前半。そしてある地点で読者の見え方が180℃変わってしまうのが、本書最大の特徴であり、個性である。そこからはこれまでの物語の見え方がすべて反転すると言ってよく、その地点の前後を語りつくすストーリー・テリングこそが本書最大の魅力と言えるのではないだろうか。
ラストまでの展開が読みにくいながら、ぐいぐい惹きつけられる物語力にまずは脱帽と言いたい。本書は20年間ジャーナリストとして活躍してきた男性(!)作家による二作目の小説ということである。女性一人称の文体へのチャレンジも、プロットもあらゆる意味で見事である。作品の転換点がシームレスに入って来る語り口には感心させられた。
ぐいぐい引き込まれることを約束するとともに、前半の明るさがダーク極まりない後半へと継がれてゆく語り口を是非味わって頂きたい。
(2026.9.20)
最終更新:2026年09月20日 14:57