善人による完全犯罪
題名:善人による完全犯罪
原題:The Bodies (2025)
著者:サム・ロイド Sam Lloyd
訳者:高山真由美
発行:ハーパーBooks 2026.8.25 初版
価格:¥1,500
この本はノワールなのか。ダーク・ミステリなのか。ブラックジョークなのか。それともトラッドなスリラーなのか? いずれのカテゴリーにも入っているようにも見える反面、それらのどれでもないのではないか? と思えるあざとさも感じられる。
家族小説であることは間違いないと思う。父と子。夫と妻。兄弟。義兄弟。また限界を知らぬバイオレンス小説であることも間違いないと思う。死体まみれのスプラッタ小説でしかないようにも見えるが、そこには家族の愛憎が混淆して混淆して混淆し過ぎているようにさえ見える。
愛と憎しみ。誤解と拙速。様々なキャラクター間に潜む闇の意志が複雑に絡まり合っては激突する小説であるようにも見える。殺人や傷害事件が連鎖的に発生する合間に見える家族への想いや、その想いすら悪用しようとする憎悪等々。
さほど複雑な人間関係ではないのだが、それぞれの人物が加害者と被害者に分かれるのではなくどちらにも属したり、死闘暗闘を繰り広げたりする物語ではある。もちろん戦争小説でも暗闘小説でもない。狂気も凶器も複雑に交差する物語でありながら、各キャラが極端に動き、知略や暴力を駆使するゆえに、日常が破壊される物語、という風に見える。
キャラクター表を何度も見返しながらそれぞれの関係性を計り見ることに疲れてしまう作品であった。誰が悪であるか、誰が犠牲になるのかは、割とわかりやすいが、どこに善人や味方がいるのかはわかりにくいストーリーであり、その作り自体が本書の意図であると思える。丹精込めて作り上げた血と憎悪のプロット。
英国小説としては珍しいくらいにスプラッタでホラーで胸が悪くなる憎悪に満ちていながら家族愛を描こうとしている作者の思惑も感じずにはいられない。要するに多くの娯楽要素をごった煮にしてサービスが過剰になり過ぎた腹いっぱいのバイオレンス・ワールド。
現代風の小道具の数々を使ったまさに今の時代の小説であることも特徴であるように感じた。田舎町のようでありながら、防犯カメラ、スマホ、車など、デジタル化の進んだ今現在の小道具がそれぞれの事件に絡む、いやそれどころか重要な役割を果たしてしまうあまりにリアルでモダンなミステリー。ある意味、ひと昔前のシンプルな推理小説に餓えてくるような不安で恐ろしい気配を感じさせられる読書時間であったように思う。
このような現代的ミステリーの執筆方法に興味を覚える一方で、古くアナログな犯罪や人間同士が肉弾戦で立ち向かう物語に改めて愛着を覚える気持ちも半端ではなかった気がする。
(2026.10.07)
最終更新:2026年10月07日 20:39