静寂の叫び
題名:静寂の叫び
原題:A Maiden's Grave(1995)
作者:Jeffery Deaver
訳者:飛田野裕子
発行:早川書房 1997.6.30 初版 1997.12.31
価格:\2,600
『
眠れぬイヴのために』でも、この作家の風変わりなタッチと面白さとを認めているのに、さらに評価の高いと言われる新作が邦訳されていたことが、ついついぼくの中できちんとチェックされていなかった。『このミス』でいきなり5位に躍り出ている本書の作者が、何とJ・ディーヴァーであったと知り、まずは歯噛みした。そして読了してなお、『このミス』投票者の一人としてこの本を漏らしたことに歯噛みせなばならなかった。ぼくが2位以上に選択しておけば、3位にまでランクアップしていたのだと思うと非常に悔しい。ともかくもこれは傑作である。
のっけからラストまで息をもつかせぬ緊迫シーンの連続であるが、これは、作品のほとんどが、人質解放のためのすべての努力と、脱獄囚たちの非情な反応に占められているためである。そして何度も訪れるタイム・リミットへの恐怖は読者もともに手に汗握って迎えねばならない。朝に始まり、深夜に向かう連続クライマックス。この気を抜けないプロットは、読者を徹底した悪夢へといざなう。
人質は聾学校の教師と生徒たち。ほとんどが音のない世界の住人である。このあたりの素材をきちんと人質の心理の中で描き切っていることに一つの物語的な厚みがある。立て篭もる建物は、古びた元食肉工場。人質解放交渉のプロを軸にしたリアルな駆け引きは、他に前例を見ない大きな収穫であろう。ペルーの人質事件や、先日も衛星で放映されたアメリカン・ニューシネマ『狼たちの午後』が読書体験に重なってきた。
題材もさながら、これを味付けするプロットのひねりにひねった構成と、ラストへの予断を許さない、人を食ったような展開は、まさに圧巻であった。
連続するスリル、ひねり続けられる展開と数々の障害、またそこに息づくキャラクター構成の妙、そうしたすべてのエンターテインメント的要素を満載した、これは相当なすぐれ本!……と言い切りたいところだ。
(1998.02.04)
最終更新:2007年05月13日 13:32