理由



題名:理由
作者:宮部みゆき
発行:朝日新聞社 1998.07.30 8刷 1998.06.01 初版
価格:\1,800

 『火車』とどちらが好きかと言うと、ぼくはこちらのほうが少し好みなのかもしれない。『火車』の方が取り扱う問題は新鮮味があってこの作家の大化けとなったので、同傾向のこちらの驚き度が足りなく感じるのは仕方のないことだとも思う。でも、この間数年を経過し、作者初めての新聞連載小説ということもあって、より普遍的で現代的な問題に取り組もうという意欲が、ひしひしと感じられる力作なのである。

 書店や新聞広告である種の予感というか匂いのようなものを感じたので、珍しく(それこそ『火車』以来)この本を買った。それでも初版は入手できず、およそ二ヶ月間で8つも版を重ねているところに、相変わらずのこの作者の人気を伺い知ることができる。

 読み出してみると、導入部のドキュメンタリー・タッチにまず拍手。まるで島田荘司の『秋好事件』の導入部、あの重さがあって嬉しい。そして次々とルポルタージュ形式で事件を追うところは、最近の事件追跡型ノンフィクション・ノベルの面白さのエッセンス部分をよくも小説に導入したとの思いに、ぼくは心中二度目の拍手。村上春樹の『アンダーグラウンド』、前述の島田荘司『三浦和義事件』を思わせる、ぐいぐいと引き付けるタッチは、ぼくは好きである。小説の面白さはこうでなくてはいけないと思う。

 途中、バブルを挟んでの不動産業界の闇に迫る部分が、まさにバブル時期の代表作とも言える『火車』を時代も題材も受け継いで続編とも呼びたくなるくらいなのだが、推理小説的な謎解きの部分は、はなから推理小説読者でもないぼくは、なんだこんなものか、の印象。

 この小説は主ストーリーを遠回りして膨らませて描き、見事に現代の断面図をいくつも見せてくれている。そうした色彩が強いのは新聞小説という性格のゆえかもしれないが、もともとこの作者の中に強く存在する、推理以外の部分の魅力のおかげの用にも思える。

 『火車』のようにストレートではないものの、迫真のものがある。ひさびさの傑作なのではなかろうか。

(1998.07.28)
最終更新:2007年05月27日 23:14