約束の地
題名:約束の地
作者:
志水辰夫
発行:双葉社 2004.11.25 初版
価格:\1,700
志水辰夫はどこへ行くのか?
『ラストドリーム』では、男の夢の在りかと孤独をじっくりと描いたが、これもまた<あの>志水辰夫ではなかった。本書といえばそれ以上ではないかと思う。エンターテインメント性はこちらのほうが高いとは思うが、一言で言えば国際冒険小説というべきジャンル。志水辰夫が決して書こうとしなかった海外を舞台に多くのドラマを繰り広げる。
描かれるのはバルカンの民族紛争。トルコとユーゴスラビアの国境地帯に火花を散らすあまりにも長い屍の歴史が日本の情報機関にまで及び、主人公はこれに出生当時より巻き込まれ、そしてまるでモンテ・クリスト伯のような復讐を挑んでゆく。
こうしてダイジェストするだけでも、<あの>志水辰夫でもなく、かといってどの志水辰夫でもないのだ。あの、こだわりの文章にしても、枯れてきたというのか、刺が取れてしまい、一般の読みやすい文体に均されている印象があり、まるで上手な翻訳小説を手にしているかのような、毒のなさとスケールにただただおろおろするばかり。
これは志水辰夫という作家にお金を払って買った本であるのだろうか?
別段本書が面白くないと言っているのではない。普通の国際冒険小説として読めばそれなりに面白いし、クライマックスに至る善玉対悪玉の死闘に及んでは、冒険活劇そのものでもある。ソ連瓦解後の東ヨーロッパの歴史に対する掘り下げも深い。だが、
船戸与一のリーグにいまさら乗り出してどうするのだろうか。
村上春樹が『ねじまき鳥クロニクル』や『
アンダーグラウンド』を書いたときと同じような驚きがここにある。
矢作俊彦が普通小説に、
北方謙三が時代小説にスライドしたときと同じような驚きが。しかもシミタツは一旦純文学系統にスライドした作家なのに、今度はこちら側に戻ってこずに、どこか奈辺へと去ってしまったのかもしれない。
『飢えて……』『裂けて……』『背いて……』の時代はもう戻ってこないのだなとの確信のもと、当惑と歯噛みに満ちた一作でありました。
(2005.01.10)
最終更新:2007年05月28日 22:43