歩兵の本領
題名:歩兵の本領
作者:
浅田次郎
発行:講談社 2001.4.10 初版
価格:\1,500
浅田次郎でも躓くことがあるんだ、それも短編集で、といきなり思ってしまった。つまらないのである、この本。とことんつまらないので、投げたくなるほどに。
一作一作のサイズが浅田次郎の距離ではないというか、短か過ぎるような構成にも問題ありだとは思う。でも何よりもこの本をつまらなくさせている理由は浅田的事実があまりに作中に影を落しているからなのではないかと、ぼくは思う。
この作家は本来、現実から離れた言わば幻想的な作風の作家なんではないかと、はたとこの本を読んでいて考えてしまったのだ。現実から距離ができればできるほど浅田次郎の間合いになる、と言おうか。彼の作風の自由度が高くなって楽しくなってくるとでも言おうか。
この本は、浅田次郎が過去にていた自衛隊という食材をメインに煮たり焼いたり炒めたりした懐石料理みたいなものである。食材が偏り過ぎるとろくなことにならないのは、料理店も短編小説集も同じで自衛隊専門料理店というのは、ぼくにはそれほど面白く感じるものではなかった。食材があまりにも現実的に過ぎて、こなれていないものであるならばなおのこと美味しくはなかったのだ。
自衛隊というのは題材にしてみれば、火の通し方次第では面白いところになるのかもしれない。特殊で閉鎖的で独特の世界ではあるのだと想像できる。しかしその環境の特異さという香辛料に頼り過ぎて、せっかくの浅田的コクとも言うべき隠し味が損なわれてしまったというのが、この本のイメージなのである。ここまでリアルかつ特殊な世界を描くならば、もう少し客観が
欲しいというか、自己の思い入れとは距離を置いて欲しい。作家の現実的な本心や感慨などには、よほど特異なものでない限り、ぼくはあまり興味を持てないのだ。
(2001.07.02)
最終更新:2007年06月04日 23:09