屍蘭 新宿鮫III
題名:屍蘭 新宿鮫III
作者:
大沢在昌
発行:光文社カッパノベルス 1993.3.25 初版
価格:\790(本体\767)
感想が遅くなったのは、この作品からインパクトを受けたというわけでも何でもなく、なんだか感想を書きづらいなあ、というくだらない理由のみ。実は、この作品への感想は週末の新宿歌舞伎町での三次会で(別に小説世界と話題をシンクロさせたわけではないのだが)、Smileyさん相手にほとんど喋ってしまった。口にしてみて初めて、自分はこの本にこういう感想を抱いたのだなあ、との思いも強かった。だが、実は未だにこういう本への感想は書きづらい。でもこないだ口にしたことを書けばいいのだよな、考えてみれば。
単刀直入に言うと鮫島の恋人・晶がぼくは嫌いである。なぜ鮫島も登場人物たちも、彼女を只者ではないような口調で讃美しまくるのか、ぼくはわからない。「あのこはいい子だよ」なんて、一筋縄じゃ行かないようなその道のお姉さんがふと漏らしたりするのだが、晶のどこがいい子なのか、ぼくにはさっぱりわからない。こんな二十歳そこそこの小娘がぞんざいな男口調でロックに夢中になっているからって、いったいどこが魅力なのであるか?
ぼくにはわからないのだ。主要キャラクターを他の雑魚キャラに褒めさせたところで、読者の側がその感想に同調できなければ、キャラクター造形は片手落ちに終わってしまうと思う。晶が魅力的だというのなら、もういい加減にその魅力が何なのかを、人の口を介してではなしに、その行動を通して教えて
欲しいものである。これでどうだ、と言って欲しいところである。Smileyさんがオフでおっしゃった通り、 87 分署シリーズのテディ・キャレラの方が、よほど魅力的で現実的であると思う。
だから、そんな女の子と連れ立って歩くとっぽい格好をした三十歳そこそこの刑事鮫島というのも、その心理や趣味がぼくにはよくわからない。そんな鮫島をシリーズ化されても、それほど楽しいという気持ちにはなれない。
大沢在昌は、新宿鮫シリーズしか実は読んでいないのだが、このシリーズに限ってはどの作品もそこそこのストーリーの面白さを持っている。ページを開いたらあっという間に終章まで辿り着かざるを得ないたぐいの、強引な面白さを持っている。そういう意味でのパワーはあるのだと思う。褒めるべき点は多い。
だからと言って、こんなイージーな人物描写で通していてはだめだと思う。こんなことではキャラクター重視の大人の小説にはいつまでもなり切れないと思うのだ。そういう方向を望まないというのであれば話は別。
また、この作品は
逢坂剛のサスペンスによく似ているなと思った。逢坂剛は刑事小説もサイコ・サスペンスも病院モノもよく書く。一風変わった殺人者というのも逢坂剛の得意技だとばかり思っていたが、本作はことによるとその辺りの影響を少なからず受けているのかもしれない。
(1993.04.27)
最終更新:2007年06月17日 23:15