ホット・ロック
題名:ホット・ロック
原題:The Hot Rock (1970)
作者:ドナルド・E・ウエストレイク Donald E. Westlake
訳者:平井イサク
発行:角川文庫 1973.6.20 初版 1998.9.25 改版初版
価格:\780
一つのお宝を盗み出すのにこれほど苦労する物語というのは、数あるクライム・ストーリーでもなかなかお目にかかることはできないだろう。出所したばかりのシリーズ主人公ドートマンダーに、ケルプがある計画を持ちかける。お定まりの仲間集めから開始するが、その仲間たちの一筋縄では行かないこと。でこぼこコンビならぬ滅茶苦茶泥棒チームがこうして出来上がる。これがドートマンダー・シリーズのスタート地点。
恥ずかしながらこんな傑作ストーリーを読んでいなかったし、映画もまだ見ていない。世代的にはハマっていて当然の自分が、今こうして70年代を回帰するようにこの時代の犯罪喜劇にすっかり骨抜きにされるなんて、幸せと面目のなさとを同時に痛感する以外にない。
一つのお宝を奇抜な計画で盗み出す。いわば犯罪小説の基本形である。この小説はその基本形に沿った形で展開する長編小説であるが、実は内情を明かせないものの連作短編のシリーズとしてもおかしくはないところだ。むしろ連作短編のようである長編というところにこの小説の魅力が込められていると言っていいかもしれない。
さまざまな襲撃を繰り返して、最後に何とかしちまう話というのは、自分の知る限りでは神保裕一の『奪取』、古くは
山田正紀『襲撃のメロディ』他の連作短編襲撃モノ。しかし海外ミステリーでこの手のものはあまり記憶にない。
おまけに襲撃をいつも同じメンバーで繰り返すうちになんとなくチームの連携がますますよくなり、キャラがどんどん立ってゆくあたりは本作の面目躍如たるところ。それぞれのおかしなキャラが襲撃の都度様々な楽しみをぼくらに与えてくれることを保証できるし、何よりもドートマンダーの苦虫を噛み潰したような表情がいつも思い浮かぶ。たまらなおヒューマニティを感じさせるあたりは、スターク名義での悪党パーカーのシリーズでは表現しきれない部分だと思う。
そして何よりくすくすと笑い出さざる得ない随所のユーモアと、それゆえの痛快。小説を引き立たせる様々なエッセンスを詰め込んで、誰もが面白おかしく、それでいて手に汗握りながら読んでゆける快作が、ここにあるのだ。
新シリーズを読み出す快感はぼくのようなスキモノ読者にはたまらないものがあるのだが、古手の未読シリーズにだってこういう発見はあるのだ。そしてこの未読シリーズの楽しみはこれから広がっているのだと考えると、ぼくの内心の浮かれ具合がいかほどのものか、それこそ想像頂けるものと思う。
(2005/02/13)
最終更新:2007年06月19日 22:04