強盗プロフェッショナル
題名:強盗
プロフェッショナル
原題:Bank Shot (
1972)
作者:ドナルド・E・ウエストレイク Donald E. Westlake
訳者:渡辺栄一郎
発行:角川文庫 1975.1.20 初版 1998.9.25 改版初版
価格:\680
『ホットロック』で一旦ミステリを書かないと、宣言をしてしまった作者が、軽く前言を翻して、ドートマンダーをついにシリーズ化してしまう転機としてしまった一冊が、これである。今もなお衰えぬばかりか、先頭集団を疾駆するイメージの強いウエストレイクが、かつてミステリの断筆宣言をした、という話の方が、むしろ悪い冗談くらいにしか思えない。
本書はのっけから楽しい。原題の"Bunk Shot"は、きっと「銀行襲撃」と翻訳していいのだと思うが、だとすると、なんとも王道をゆくタイトルのように思える。しかし本書は、王道を行くクライムノベルというよりは、たがを外したデコボコ犯罪アクションと評した方がよさそうな、やっぱりユーモア・ミステリーなのである。
確かに銀行は襲撃するのだ。それも銀行の金ではなく、銀行そのものを盗んでしまうという奇抜なストーリーなのである。
銀行が改築される間、向かいの空き地に移動住宅として用意された仮店舗を、「移動住宅なのであるから」トレーラーで引っ張っていってしまおうという作戦である。本当に作者がこのような建物を目撃して、ストーリーに練り上げてしまったものであるらしい。
素晴らしいのは、実行に至るまでの、仲間集め・作戦計画・準備開始といった定番のプロセスが、きちんと物語として進行してゆくこと。その中でそれぞれのキャラクターが描き分けられ、ほのぼのと可笑しいこと。それでいて常にスリリングであり続けること。当然、湧き上がる仲間同士の小競り合い、新顔への違和感など、細かな点を見落とさず、手抜きせずというパーフェクトな点。
さて銀行が動き出す世紀の一瞬をどのように描写したか? これこそウエストレイクならではの手腕だ。すぐに映画にしたい。すぐに映画にして満席の観客をどっと笑いの洪水に叩き込みたい。そんな気分になってしまうような法螺の大きさ、愉快さ、痛快さなのである。
アマゾンでオペラを上演するという狂熱に駆られたあげく、船を山越えさせるという大法螺話を実践した男を描いた、ヘルツォークの映画『フィッツカラルド』は、そのばかばかしさ故に凄みがあったが、銀行を引っ張って逃げてゆこうとするドートマンダー一行の姿も、それだけで絵になるし、荘厳ですらある。
フィッツカラルドの船は丸太に乗って山を転げ落ちてゆくシーンが劇的なのだが、本書にもそうした劇的なクライマックスは用意されている。ただし劇的と言うよりも、あくまで喜劇的であるのだが。
悲観主義者ドートマンダーと楽天家ケルプの表情の違いが、最後の最後まで読者を掴んで離さない、なんともテンポのよい痛快喜劇である。『ホットロック』と言い、本書と言い、こんなシリーズなら、何冊だって読めそうだ(……まだ何冊だってあるのだけれど)。
(2005/03/20)
最終更新:2007年06月19日 22:06