殺し屋
題名:殺し屋
原題:Hitman (1998)
作者:Lawrence Block
訳者:田口俊樹
発行:二見文庫 1998.10.25 初版
価格:\790
「イージー・リスニング」という言葉があるように「イージー・リーディング」という言葉が、読書という趣味のなかにあるとしたらどうだろう。連想するのは
村上春樹のエッセイや短編小説、
矢作俊彦や浅田次郎の同じく短編小説、中島らもや浅田次郎のエッセイ集。そして海外ではそれは
ローレンス・ブロックの短編集にとどめを刺すだろう。どれをとっても、いずれ実力がなければ書けないジャンルなのだろう。
殺し屋ケラーの連作短編小説集。スタートの短編『名前はソルジャー』はハヤカワ文庫のブロック短編集『
夜明けの光の中に』収録されている。
殺し屋ケラーは、まるで普通の生活をする普通の感覚の人のようで、ただ他の人と違うのは、職業が殺し屋という部分のみである。まるでケラーの仕事は作家やトラベル・ライター、あるいは建築技師や、楽器制作者のように思える。そのくらいの平静さで殺し屋という職業を、少しばかり特殊な職業として手にしている。
とても安定した日常感覚で殺しを請負い、全米のどこにでも、たいていは飛行機で、現地ではレンタカーを借りたりバスに乗り継いだりして、旅し、そして殺す。やっていることはエルロイの『
キラー・オン・ザ・ロード』みたいで、殺している人数もさして変わらないように見える。でも決定的に違うのは、あくまで職業として選択した殺しであること。
殺し屋を依頼した老人が、ケラーを見て、自分の想像したどの殺し屋のイメージとも君は違った、と呟く。読者としてもそれは同じで、ここに登場する殺し屋は、ケラー以外の何者でもない。この本に出逢わない限り、こんなにも愛すべき殺し屋には会うことはまずないだろうと思う。
(1998/10/08)
最終更新:2007年06月28日 22:15