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暗く聖なる夜





題名:暗く聖なる夜 上/下
原題:Lost Light (2003)
作者:マイクル・コナリー Michael Connelly
訳者:古沢嘉通
発行:講談社文庫 2005.9.15 初版
価格:各\800

 ハリー・ボッシュはどこへ行くのか? これが前作『シティ・オブ・ボーンズ』のラストシーンから受けた衝撃と疑問。もちろんそれはボッシュ自身の自らへの答えなき問いかけであるだろうし、そのような選択肢=「引退」を採択した彼の心の奥深い闇については、シリーズのこれまで辿ってきた微細に目を向ける以外に知りようもない。

 ただわかっているもののいくつかは指し示す事ができる。ボッシュの母が未解決事件の被害者であるというジェイムズ・エルロイを思わせる血の運命(さだめ)。ヴェトナムではトンネルネズミとして敵中深いところまで地下を掘り進んだ禍々しい記憶が深いこと。そしてサンフランシスコ市警刑事として、これまで華々しい実績を残しながらも、常に上司や組織とぶつかり、時にはその違法すれすれの捜査そのものが内部調査課により、裁判にまで持ち込まれることもあった。

 他人に知られにくい闇の部分を多く抱え込みながら、殺人捜査には異常なほどの火熱を滾らせる生い立ちを持つ。一匹狼というには、部下指導などの責務を果たす事にも敏感で、同僚たちとの良好な人間関係に関しては常識的範囲内で人並みに充実させている様子が伺える。

 そしてエレノア・ウィッシュとの出会いがあり、離婚があり、彼女への熾き火のようにくすぶり続ける矛盾を孕んだ内奥の思いは、本書において新しいページを繰り始める。

 刑事部屋を離れ、新しい名刺はかつての権威を失い、あろうことか元の組織からの敵意を身に受けることとなったボッシュが、かつての未解決事件を追いかけるといった設定の本書。派手なハリウッド撮影現場での銃撃と現金強奪、それと相前後して起こったいくつかの事件の連関の環の中で、ボッシュの勘が働く。彼の視線の先端には、罪なき独りの女性の死。彼女を巻き込んだ暴力装置の仕掛けをめぐって、現在の時計が巻き戻されてゆく。

 公私に渡る変化に富んだ状況の中で、ボッシュの非日常的日常が、またしても人間の暗い闇の部分をまさぐってゆく。かつての恋人、かつての仲間たちとの、心の通い合い、そして疑念。奥深く、逆転に満ちた精細なプロットが、ボッシュの世界の普遍を奏でてゆく様が、何とも頼もしい限りである。

(2005/12/04)
最終更新:2007年07月08日 16:58