ホンキートンク・ガール




題名:ホンキートンク・ガール
原題:The Widower's Two-Step (1998)
作者:リック・リオーダン Rick Riordan
訳者:伏見威蕃
発行:小学館文庫 2004.3.1 初版
価格:\695



 テキサス州を舞台に女性カントリー・シンガーのデビュー劇を巡って巻き起こる連続殺人事件。現代にしては、いわゆる相当に地味な事件であり、時代遅れでローカル色豊かなカントリー&ウェスタンという音楽ジャンルの上に展開するこの人間悲喜劇は、派手さもなければ、取り立ててアピールするほどのアクションもさしてない。どちらかと言えば、人間たちが本音や虚言で語り、自然や季節がそれを取り巻いているゆったりしたリズムで、すべてが進んでゆく。

 逆に言えば、失われた開拓史時代からの連綿とした流れを意識したかのような南部エンターテインメントが流行の当代、こういうゆったりした末広がりの作品が、都会派の派手目な作品の持たない部分を請け負って息づいてゆくのかもしれない。

 本作はアメリカ探偵作家クラブ賞ペーパーバック賞を受賞。同じ探偵見習いトレス・ナヴァーのシリーズでは第一作『ビッグ・レッド・テキーラ』(小学館)が既にアンソニー賞、シェイマス賞のダブル受賞を果たしている。この二冊で本国でもリオーダンは、ペーパーバック・ライターからハードカバー作家へ昇格されたようである。

 内容は実にゆったり、じっくり感があり、人物造形の書き込みがしばしば事件を遠くへ置き去りにする傾向がある。カントリーの本場テキサス。ホンキートンクと呼ばれる音楽とダンスの酒場を舞台に、売れっ子バンドと女性シンガー、彼らに群がる音楽ビジネス、さらに背後に拡がる違法ビジネスの悪党たち。

 とは言え悪党たちとの直接対決は意外に少なく、どちらかと言えば、主人公は人生そのものを巻き込まれながら事件に深く入り込んでゆく。勧善懲悪の物語からは距離を置いて、誰もが、見果てぬ夢、あるいは少しだけの罪を背負って、欲望と平和の中で揺れている。人間の弱さ、世界を満たす悲哀が、全編を貫き、そこで酒が酌み交わされ、音楽が奏でられる。

 しっとりとしたラストシーン、主人公の選択、人間たちの邂逅と離別、そうした感触をこそ味わうべき作品なのかもしれない。時代を何年も遡った感のある気配。干し草の匂いが薫ってくるような地味な長編だ。

(2004.03.14)
最終更新:2007年07月11日 20:51