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**小説フレームアームズ・ガール **後日談「繰り返される戦争」 ***4.壮絶な死闘の果てに  今から約20年前にルクセリオ公国の科学者が発見したビーム粒子の存在は、当時の技術レベルにおいては驚異的な代物であり、迫真の大発見だとして世界中から絶賛された。  この科学者はビーム粒子を用いた技術によって世界中の人々が豊かになってくれればと願い、世界中の国々にビーム粒子に関するデータと論文を提供。  だがこの科学者の平和を願う想いとは裏腹に、技術の提供を受けた世界中のほとんどの国が、ビーム粒子の技術を兵器として転用する事になる。  ビーム粒子を圧縮して放つビームマシンガンやビームハンドガンは、それまでの実弾銃よりも高威力であり、またビームサーベルの刀身は鋼鉄をも易々と切り裂き、ビームシールドの防御幕はロケットランチャーの大型弾頭の直撃にさえも容易に耐え抜いてみせた。  それだけでなく武器に弾薬を込める必要が無くなった事、さらにビーム粒子自体が非常に軽量である事も合わさり、兵器の大幅軽量化とコストの大幅削減にさえも成功した。  これまでの実弾銃や実体武器を遥かに凌駕する高性能、高威力のビーム兵器・・・それを無力化するIフィールドなどの対抗手段も開発された為、それに対抗する為の実弾武器の需要も決して減っているという訳では無い。  だがそれでも今ではほとんどの国の軍隊が、このビーム兵器を主力兵装として使用しているのが現状だ。それはグランザム帝国軍とて決して例外では無かった。  そのビーム兵器が、突然使えなくなってしまったとしたら・・・果たして兵士たちは正気でいられるのだろうか。  その混乱の隙を突き、予め用意していた実弾武器でグランザム帝国軍を一網打尽にする・・・それが建民の狙いだったのだ。  建民の命令で一斉にマシンガンやロケットランチャーを乱射するチャイナ王国軍。春麗や翆玲たちもミサイルコンテナから大量のミサイルを乱射する。  それとは逆に赤色の粒子に飲み込まれたグランザム帝国軍からは、粒子攪乱によってビーム粒子の活動を阻害され、これまで大量に飛んできた弾幕が全く飛んで来なくなってしまっていた。  これまでのグランザム帝国軍優勢の戦況が一転して、まさにチャイナ王国軍による一方的な蹂躙となってしまっている。  上空にいるカリンだけは粒子攪乱の影響を免れたようだが、それでもグランザム帝国軍の大半は事実上壊滅状態になってしまっていた。  その様子を建民が高笑いしながら、両手を何度も大きく叩きながら見つめていたのだった。  「ふははははははは!!見たかシルフィア!!これが真の戦術という物なのだ!!今頃奴らは突然ビーム兵器が使えなくなった事で慌てふためいているだろうて!!」  大量の粒子攪乱幕に包まれたグランザム帝国軍の様子を、目視でもセンサーでも確認出来ないのは残念だが・・・それでも建民は自らの勝利を信じて疑わなかった。  これで残るは事実上、上空で制空権を掌握しようと孤軍奮闘しているカリン1人と、彼女に随伴している60機近いキラービーグだけだ。  「わざわざ金リンダを人質に取るまでも無かったな。ジィダオ部隊は直ちにラザフォード中尉の迎撃に向かえ!!地上部隊はそのまま実弾武器による弾幕を緩めるな!!奴らを情け容赦なく大量虐殺するのだぁっ!!」  建民の命令でジィダオの飛行ユニットを展開した春麗らフレームアームズ・ガールたちが、一斉に上空のカリンに襲い掛かった。  そんなカリンを援護しようと、キラービーグが一斉に春麗たちにビームマシンガンによる弾幕を浴びせるが、それでも春麗たちはガンシールドで易々と防いでみせる。  「純白のヴァルファーレか!!だが我らジィダオの絶対障壁を崩せるか!?」  「雷春麗大尉・・・!!」  「ラザフォード中尉!!私怨は無いが、貴官のお命頂戴する!!覚悟ぉっ!!」  カリンのベリルソードと春麗のビームランスが何度もぶつかり合う。  そんな春麗を援護しようと、翆玲たちもまた一斉にガンシールドによる弾幕で、キラービーグを次々と破壊していく。    「国の為、民の為、我々はここで引く訳にはいかんのだぁっ!!」    間合いを取ったカリンだったが、春麗のガンシールドからカリンに無数のビームが襲い掛かる。  それをカリンは背中のアーセナルアームズから3本のベリルナイフを分離、合体させた防御兵器のディフェンスローターで巧みに防いでみせた。  春麗の砲撃をイクシオンのリフレクタービットのように空中制御したディフェンスローターで防ぎつつ、カリンはベリルソードとベリルナイフを2本ずつベリルショットライフルと合体させ、大型剣のフォートスマッシャーに変形させて翆玲に斬りかかった。  「このフォートスマッシャーの威力なら!!」  「器用な真似をする!!だが、やらせるかぁっ!!」  春麗の砲撃はディフェンスローターに次々と阻まれて、カリンには届かない。  カリンの斬撃を慌ててガンシールドで受け止める翆玲だったのだが、カリンのフォートスマッシャーの超威力によって派手に吹っ飛ばされてしまう。  あまりの威力に、翆玲のガンシールドに亀裂が走ってしまっていた。  「きゃあああああああああああああああああっ!!」  「総員ラザフォード中尉から距離を取りつつ翆玲を援護しろ!!あの大型剣の直撃をまともに食らえば、ジィダオと言えども危険だ!!」  「「「「「「「「リージェイ!!」」」」」」」」  ジィダオ部隊の少女たちがカリンを取り囲み、一斉にカリンにガンシールドからの弾幕を浴びせるが、それでもカリンが身に纏うレイファルクスの機動性の前に、ロックオンすらままならない。  翻弄される少女たちに、さらにカリンは無数のキラービーグからの弾幕を浴びせる。  このキラービーグの攻撃自体は、ジィダオの防御力の前では全く脅威ではない。だがそれでも少女たちの注意をカリンから削ぐには充分な効果を発揮していた。  キラービーグを1機撃墜した少女に、一瞬の隙を突いたカリンの斬撃が襲い掛かる。  「ひいっ!?」  「華花(シャンファ)准尉ぃっ!!」  少女に放たれたカリンの斬撃を、翆玲がガンシールドで再び受け止める。  再び吹っ飛ばされる翆玲。今の一撃でガンシールドの亀裂がさらに増すが、それでも翆玲は決して引かない。  「こんのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」  吹っ飛ばされながらも翆玲は、ビームハンドガンをカリンに向けて必死に乱射。  だがカリンはそれを的確に避けながら、フォートスマッシャーで翆玲に追撃を掛けた。  「何で!?何で当たらないのよぉっ!!」  「翆玲!!」  カリンの斬撃をガンシールドで受け止めた春麗が、そのまま至近距離からカリンにガンシールドからの弾幕を浴びせる。  慌ててそれを避けて間合いを離すカリン。だが春麗のガンシールドにも亀裂が走ってしまっていた。  やはりカリンは強い。春麗だけは何とか食らいつけているが、実力も練度も翆玲たちとは桁違いだ。それだけでなくレイファルクスの性能も春麗の想像以上だった。  ジィダオの性能なら足止め程度なら何とかなるんじゃないかと春麗は思っていたのだが、カリン1人にここまで苦戦させられるとは正直計算外だった。   先程まで春麗の弾幕を防いでいたディフェンスローターが3本のベリルナイフに分離し、再びカリンの背中の翼に収納される。  「まさに純白のヴァルファーレだな。それを纏うのがアルザード大尉の従妹だというのが、何とも皮肉めいた話だが・・・!!」  『た、隊長!!大変です!!地上部隊がぁっ!!』  「どうした!?何があった!?」  その死闘の最中、オペレーターの少女から春麗に信じられない内容の通信が届けられた。  『我が軍の地上部隊が、グランザム帝国軍からの実弾武器による砲撃を受けています!!』  「何だとぉっ!?」  慌てて春麗が地上を見下ろすと、赤色の粒子攪乱領域から大量の実弾による弾幕が、一斉にチャイナ王国軍に放たれていた。  予想外の出来事に、春麗も翆玲たちも驚きを隠せない。  建民もまた信じられないといった表情で、モニターに映る戦況を見つめていたのだった。    「ど、ど、ど、ど、ど、どうなっているのだ!?何故奴らが実弾兵器を!?ええい、構わん!!こちらも撃って撃って撃ちまくれぇっ!!」  「しかし先程の一斉掃射によって、我が軍の実弾兵器の残弾数も残り僅かです!!」  あれだけ盛大に撃ちまくったのだ。先に残弾が尽きるとしたらチャイナ王国軍の方だろう。  先に相手に撃たせて残弾を消耗させた所へ、逆にこちらは万全の状態で相手の弾切れを待ってから迎撃する・・・これがシルフィアの狙いだったのだ。  それがまさに功を奏し、シルフィアの狙い通りチャイナ王国軍は追い詰められてしまっている。  「ならばビーム兵器を使え!!まだエネルギー量は充分残っているだろう!?」  「粒子攪乱領域に阻まれ、我が軍のビーム兵器はグランザム帝国軍に届きません!!」    先程までとは一転し、予想外の出来事に慌てふためいてしまった建民。  それとは対照的に春麗は冷静沈着に、シルフィアの戦術を瞬時に理解したのだった。  「まさか我が軍の粒子攪乱を、守りの手段として逆に利用したとでも言うのか!?」  それにしてはグランザム帝国軍の手際があまりにも良過ぎる。戦闘前に建民の作戦が事前にシルフィアに漏れていたとしか考えられなかった。  チャイナ王国と同様に、グランザム帝国側もスパイを送り込んでいたとでもいうのか。だがあれだけ厳重な情報統制や入出国者の管理をしていたというのに、一体どうやって・・・?  だが今はそんな事よりも、この状況をどうにかする事の方が先決だ。   『隊長、殿下からのご命令です!!直ちにラザフォード中尉を撃墜して地上部隊の援護に回れとの事です!!』  「殿下も簡単に言ってくれるな!!だがここは指示に従うしかあるまい!!地上部隊に一時後退して体勢を立て直させるよう、殿下に御進言しろ!!」  『リージェイ!!』  地上部隊の兵士たちが、残弾数が残り僅かになってしまった実弾兵器を粒子攪乱領域に向けて必死に放つのだが、やがて弾切れを起こす兵士たちが何人も現れ始めていた。  元々建民が兵士たちに実弾兵器を所持させていたのは、奇襲目的の為だ。  チャイナ王国軍のほとんどの兵士たちが、作戦に支障が出ない程度の必要最低限の弾数しか武器に込めていなかったのだ。  実弾兵器というのはビーム兵器と違い、弾数をあまりにも多く搭載し過ぎると、それだけ重量が重くなってしまい、兵士たちの動きを逆に阻害する事になってしまうのだ。それ故に建民は今回の作戦を効率よく実行する為に、兵士たちに弾数を必要最低限しか所持させなかったのだが。    『リアナ!!』  「了解!!総員バックワーム解除!!これよりチャイナ王国軍を挟撃する!!」  「「「「「「「「イエス、マム!!」」」」」」」」  その時を待っていたかのように、シルフィアの合図と同時に、いつの間にかチャイナ王国軍の背後に回り込んでいたリアナらゼルフィカール部隊の少女たちが被っていたマントを脱ぎ棄て、実弾兵器の弾切れに陥ってしまったチャイナ王国軍の地上部隊に一斉に襲い掛かった。  弾切れに動揺していた所をいきなり挟撃され、チャイナ王国軍の兵士たちが次々とリアナたちに虐殺されていく。  「な、な、な、な、な、何がどうなっているのだ!?奴らはジィダオ部隊に敗れて撤退したのではなかったのか!?そもそも何故今までレーダーに反応しなかったのだ!?」  「恐らくは何らかのステルス機能を使用し、潜伏していた物だと思われます!!」  「ス、ステルスだとぉっ!?おのれ、小賢しい小娘共がぁっ!!」  「殿下、我が軍の損害率が30%を超えました!!このままでは・・・!!」  「ええい、ジィダオ部隊を地上部隊の援護に回らせろ!!ラザフォード中尉は航空部隊に迎撃させろ!!あれだけの大出力のビーム兵器を何発も撃ちまくっているのだ!!あの新型フレームアームもそろそろエネルギー切れを起こす頃だろう!?奴を数で圧倒せよ!!」  「リージェイ!!」  建民からの命令を受けた春麗たちが、カリンをほったらかして慌てて地上部隊の迎撃に回った。  取り残されたカリンに、チャイナ王国軍の航空部隊からの砲撃が一斉に襲い掛かる。  フォートスマッシャーを分離させたカリンがベリルソードとベリルショットライフルを再びイーグルハント形態へと合体させて、航空部隊を迎撃。  カリンと生き残った40機近いキラービーグによって、次々と戦闘機が撃墜されていった。  そんな中、春麗とリアナが再び激突。ビームランスとビームサーベルが何度もぶつかり合う。  だが翆玲たちはゼルフィカール部隊の少女たちの前に、完全に押されてしまっていた。  「先程までとは動きがまるで違う・・・!!やはり貴官らが私たちに敗れたのは、殿下を油断させる為の演技だったのか!!」  「その通りよ。だけど今更気付いた所でもう遅いわ!!ついでに言っておくけど貴方たちの作戦は最初から把握していたわ!!シルフィア様が建民のパソコンをハッキングしたからね!!」  「やはりそういうカラクリだったのか!!」  そんな機密情報が入ったパソコンを何故ネットに繋ぐのか。そもそもシルフィアがハッキングのスキルを持っている事は建民だって知っていたはずだ。あまりにも軽率だと言わざるを得ない。  この建民のあまりの無能さ、軽率さのせいで、多くの兵たちが戦場で犠牲になったのだ。その事実に春麗は歯軋りしたのだった。  「我々のジィダオも損傷が激しく、それに地上部隊も実弾武器の残弾数も残り僅か・・・最早進退窮まったか・・・!!」  リアナと死闘を繰り広げながら、春麗は冷静に戦況を把握し、建民に通信を送ったのだが。    「殿下!!この戦、最早我が軍に勝ち目はありません!!どうか降伏を!!」  『ふ、ふざけるなぁっ!!何故この私があんな小娘に降伏などせねばならんのだぁっ!?』  「殿下、ご自愛下さいませ!!これ以上は兵たちを無駄死にさせるだけです!!どうか大人しくシルフィア皇女に降伏を!!」  カリンとの戦いで損傷した春麗のガンシールドが、リアナのビームマグナムの一撃によって遂に大破してしまった。  それでも春麗は怯む事無く、ビームランスで必死にリアナと白兵戦を繰り広げる。  「ラ、ラ、ラ、ラ、ラ、ラザフォード中尉はどうなっている!?奴さえ始末してしまえば・・・!!」  そのカリンによって戦闘機部隊は壊滅、さらにベリルショットランチャーにベリルソードとベリルナイフを2本ずつ合体させたフォトンランチャーによる砲撃が、巡洋艦の推進部を破壊。制御を失った巡洋艦が地上へと不時着していく。  「何故だ・・・!?あれだけ大出力のビーム兵器を何発も撃ちまくってるんだぞ!?幾ら何でもそろそろエネルギー切れを起こす頃だろう!?なのに何故あそこまで動ける!?まさか帝国の奴らもマナエネルギーの実用化に成功したとでも言うのか!?」  「巡洋艦9番艦、10番艦、航行不能!!我が軍の航空部隊の損害率が70%を超えました!!ジィダオ部隊もゼルフィカール部隊に完全に抑え込まれています!!さらにグランザム帝国軍の伏兵が地上部隊を挟撃!!完全に取り囲まれています!!」  「ええい、こうなったら切り札を用意してくれるわ!!」  カリンに巡洋艦からのミサイルが一斉に襲い掛かるが、カリンの背後から一斉にビームマシンガンによる砲撃が浴びせられ、次々とミサイルが撃墜されていった。  そしてカリンを庇うかのように、パワードスーツを装備した帝国兵20人が立ちはだかる。  「待たせて済まなかったなラザフォード中尉!!シルフィア様のご命令により、これより貴様を援護する!!」  「ジューダス大尉、そちらこそご無事で何よりです。」  「ここは俺たちに任せ、貴様は敵将・建民を討て!!」  「はっ!!」  味方部隊の援護を受けながら、カリンが全速力で建民のいる旗艦へと飛翔する。  このまま放っておいてもグランザム帝国軍の勝利は揺るがないだろうが、建民さえ始末してしまえば、主を失ったチャイナ王国軍は降伏するしか無くなるだろう。  「これで終わりにするわよ!!」  フォトンランチャーを手に、旗艦の指令室に向けて突撃するカリン。  だが指令室の目の前でフォトンランチャーを構えたカリンが目にした物・・・それは・・・。  「な・・・母さん!?」  『動くなよラザフォード中尉!!貴様の母親がどうなってもいいのかぁっ!?』    リンダを背中から拘束し、首筋にナイフを突きつける建民の姿だった。 ***5.終戦  今にもカリンに殺される寸前の所で、母親を人質に取りカリンを脅す建民・・・その無様で見苦しい光景は世界中の戦場カメラマンを通して、世界中に生中継されてしまっていた。  リンダを人質に取られ、フォトンランチャーを構えたまま身動きが出来ないカリン。  そのリンダはとても不安そうな表情で、久しぶりに再会した娘の姿を見つめていたのだが。  「殿下、何を馬鹿な事を!!こんな真似をすれば重篤な国際問題になるという事が、貴方はご理解なさらないのか!?」  「亡命した民間人を人質に取る・・・あんな最低な統治者の為に命を懸けて戦う事が、貴方の本意なのですか!?雷大尉!!」  「くそっ、殿下もラザフォード中尉に追い詰められた事で、遂に気でも狂われたか・・・!?」  リアナと死闘を繰り広げながら、春麗は建民の愚かな行為を目の当たりにして苦虫を噛み締めたような表情になった。  民間人を人質に取って敵国の兵士を脅す・・・この建民の行為は重篤な国際条約違反なのだ。  仮にこの戦いでチャイナ王国が逆転勝利を収めたとしても、これでは戦争の後に待っているのは世界中からの強い非難だけだ。後々の他国との外交問題にさえ発展する事にもなりかねない。  いや、そこまでしなければならない程までに、シルフィアが建民を限界まで追い詰めてしまったと言うべきか。  シルフィアの一連の戦術によって、チャイナ王国軍の航空部隊はほぼ壊滅、地上部隊も損害率が60%を超えてしまっていた。いや、粒子攪乱を逆に利用された上に実弾兵器も弾切れになってしまった事から、実質壊滅状態だと言ってもいいだろう。  それとは対照的にシルフィアの戦術によって巧みに守られた事で、グランザム帝国軍の損害率はごく僅かだ。  頼みの綱のジィダオ部隊もリアナらゼルフィカール部隊に抑え込まれ、独立遊撃手として航空部隊に多大な損害を与えたカリンが、今まさに建民の首を取る寸前まで追い込んでしまっている。  この一連の状況が、建民をこのような凶行に走らせてしまったのだ。  「ラザフォード中尉!!武器を捨てて両手を上げろ!!少しでもおかしな真似をすればお前の母親を殺すぞ!!」  「カリン!!お願いだから言う通りにして!!もうこれ以上その手を血で染めるのは止めて頂戴!!」  「・・・・・。」  涙まじりにカリンに訴えるリンダを前に、カリンはやけにあっさりとフォトンランチャーを手放し両手を上げたのだった。  ガコンガコンと派手な音を立てながら、フォトンランチャーが旗艦の鋼板の上に転がり落ちる。  そのカリンの無様な姿を目の当たりにした建民が、リンダの首筋にナイフを突き付けたまま、ニヤニヤしながらカリンを見据えていたのだが。  「よーし、そのまま動くなよ!!いいか!?少しでも妙な真似をしたらこの女を殺すからな!?」  「あああ・・・カリン・・・!!」  「さすがの帝国軍最強の女剣士と言えども、身内を人質に取ってしまえはこのザマよ!!隠しても無駄だぞ!?その機体の動力源がマナエネルギーである事は分析済みだ!!いずれコーネリア共和国にも攻め込む予定だったが、その機体を鹵獲してしまえば我々もマナエネルギーの恩恵を・・・!!」  だが言いかけた建民に、カリンが建民だけでなく母親であるリンダにとっても、あまりにも残酷な言葉を告げたのだった。  「貴方、何か勘違いしていないかしら?確かに疑似的な無限稼働を実現してはいるけど、このレイファルクスの動力源はマナエネルギーじゃないわよ。」  「は!?」  「それに彼女は確かに私の母親だけど、それでも今は私の身内では無いわ。だから今ここで貴方に殺されようが、そんなの今更私の知った事じゃない。」  「な、何だとぉっ!?」  「私の家族はシルフィアとシオンだけよ。」  両手を上げながら威風堂々と、あまりにもはっきりと告げるカリンの姿に、建民が思わず頭に血を上らせてしまう。  そしてカリンにはっきりと絶縁宣言をされたリンダもまた、悲しみの表情でカリンを見つめている。  世界中の戦場カメラマンによって、母親を人質に取られたカリンが建民の前で両手を上げる姿が世界中に生中継されているのだが・・・どこからどう見ても追い詰められているのは逆に建民の方だった。  リンダがここで死んでも知った事ではないなど・・・これでは人質の意味がまるで無いではないか。  「き、き、き、き、貴様、本当に分かっているのか!?この女はお前の母親なんだぞ!?」  「そうね。でも貴方も知っているでしょう?私は彼女に捨てられたのよ。」  「そ、そ、そ、そ、それでも貴様の母親なのだぞ!?貴様は人でなしかぁっ!?」  「民間人を人質に取るような貴方に、そんな事を言われる筋合いは無いんだけど?」  「ぐ、ぐぬぬ、ぐぬぬぬぬぬぬ!!」  「どうしたの?彼女を殺すなら早く殺しなさいよ。」    武器を手放し両手を上げながらも、全く動揺せずにはっきりとそう告げたカリンの姿に、遂に限界まで追い詰められてしまった建民が、頭に血を上らせながらナイフを持つ右手に力を込め・・・そして完全にヤケになった建民がリンダを殺そうとした、次の瞬間。  「う、う、う、う、う、うわあああああああああああああああああああああ!!」  建民は頭に血を上らせてしまった事で、完全に失念してしまっていたのだ。  一連の戦闘においてカリンのレイファルクスのアーセナルアームズが、まるでビット兵器のように空中で分離、合体し、様々な形状の武器に変形していたという事を。  それを頭に入れていれば、もう少し冷静に思考を巡らせてさえいれば、シオンがヴァルファーレのフェザーファンネルを制御するのと同じ様に、カリンがアーセナルアームズを脳波でコントロールしているという考えに行きついていたはずなのに。  カリンに挑発されて冷静さを失ってしまい、カリンが手放したフォトンランチャーから完全に目を離してしまった事で、今回の惨劇を招く事になってしまったのだ。  カリンが手放したフォトンランチャーから突然ベリルナイフが分離し・・・指令室の窓を突き破って一直線に建民へと突撃したのだった。  それが寸分の狂いも無く、ナイフを手にした建民の右手へと突き刺さる。  「な、ながあっ!?何これぇ!?ひ、ひいっ!?」  「はああああああああああああああああああああああああああああっ!!」  その一瞬の隙を突き、フォトンランチャーから分離させたベリルソードを手にしたカリンが窓を突き破り指令室に突撃。問答無用でベリルソードで建民の心臓を貫いたのだった。    「・・・が・・・ま・・・!?」  「あ・・・あああ・・・げ・・・元首様・・・!?嫌ああああああああああああ!!」    一瞬の出来事だった。指令室のオペレーターたちがカリンに銃を向ける暇さえも無く、心臓を貫かれた建民は即死。そのまま泣き叫ぶリンダを問答無用でお姫様抱っこしたカリンが、指令室から即離脱。  そして大騒ぎになる指令室を尻目に、カリンが上空でリンダをお姫様抱っこしたまま、回線をオープンチャンネルに設定し、はっきりと宣言したのだった。   「敵将、呂建民、討ち取ったり!!」  うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!  カリンの宣言によってグランザム帝国軍は盛り上がり、逆にチャイナ王国軍は意気消沈する。  そして舌打ちしながら建民の死を見届けた春麗がリアナと死闘を繰り広げながら、翆玲に指示を送った。  「翆玲!!信号弾を撃て!!我が軍はシルフィア皇女に降伏する!!」  「リ、リージェイ!!」  慌てて上空に信号弾を撃つ翆玲。それを見届けたチャイナ王国軍の兵士たちが次々と降伏し、武器を捨てて両手を上げたのだった。  翆玲らジィダオ部隊の少女たちも、ゼルフィカール部隊の少女たちにビームマシンガンを突き付けられながら、両手を上げて降伏する。  かくして建民によって一方的に引き起こされた今回の戦争は、仕掛けられた粒子攪乱を逆に利用するというシルフィアの優れた戦術もあって、グランザム帝国軍の圧勝・・・最高指導者の建民がカリンに討ち取られ戦死した事で、開戦から僅か30分足らずで終戦を迎える事となった。  勝ちどきを上げる帝国軍の兵士たちの様子が、世界中の戦場カメラマンたちによって全世界に生中継されている。  そしてカリンもまたリアナたちに温かく迎え入れられながら、リアナたちの前にゆっくりと着地してリンダを降ろしたのだが。    「カリン貴方・・・元首様に対して何て酷い事を!!」  すっかり怯え切った表情で、リンダがカリンに文句を言い出したのだった。  「何も殺す事は無かったんじゃないの!?元首様と話し合いで解決しようとか、そういう事を少しも考えなかったの!?あの紫色の剣で元首様の心臓を串刺しにするだなんて・・・ああ、貴方は何て恐ろしい事を!!」  カリンに対して一方的にまくし立てるリンダを、ゼルフィカール部隊の少女たちもジィダオ部隊の少女たちも、呆気に取られた表情で見つめていたのだが。  「それに貴方、これまでに一体何人の兵隊さんを殺したの!?ルクセリオ公国騎士団の人たちもコーネリア共和国の人たちも、そして今日だってチャイナ王国軍の人たちを沢山!!貴方のせいでどれだけ多くのご遺族の方が悲しまれたと思ってるの!?」    当のカリンはリンダに背中を向けたまま、ただ黙ってリンダの説教に耳を傾けていた。  まただ。また。彼女も父親のカシムと全く同じだ。  新しい男を作って幼少時の自分を捨てて逃げ出した事を、何故全く謝罪しようともしないのか。  リンダに一方的にまくし立てられながら、カリンは拳を震わせながら歯軋りしていたのだが。  そんなカリンの心情を察した春麗が、カリンを励ますかのようにカリンの肩をポン、と軽く叩き、カリンを庇うかのようにリンダの前に立ちはだかったのだった。  「リンダ殿。殿下のご命令とはいえ、貴方を拉致軟禁してしまった私がこんな事を言うのも何ですが・・・貴方はラザフォード中尉に対して、他に何か言う事は無いのですか?」  リアナにビームマグナムを突き付けられながらも、それに全く怯える事無く威風堂々と、突然春麗がリンダに対してそう切り出した。  「貴方がカシム・ラザフォード殿と協議離婚し、我が国の金聖雲(キム・ゼイウン)殿と再婚、幼少時のラザフォード中尉を見捨ててチャイナ王国に亡命した事は、我が国ではとても有名になっている話です。だからこそ殿下は貴方を、ラザフォード中尉を脅す為の人質にしたのでしょうがね。」  「そ、それは・・・。」  「そんな貴方が今真っ先にすべき事は、ラザフォード中尉が殿下を殺した事を責める事ではなく、ラザフォード中尉に対しての心からの謝罪なのではないですか?」  「それは・・・仕方が無いじゃない!!裁判所が私の親権を認めてくれなかったのよ!!だからカリンをカリムさんに預けるしか無かったのよ!!」  リンダの苦し紛れの、まさに言い訳だとしか思えない言い分に、さすがの春麗も呆れたように溜め息をついたのだった。  やはりリンダは今のカリンの心情を、今カリンがどれだけ苦しんでいるのかという事を、全く何も分かっていないようだ。  自分のせいでカリンが今までどれだけ苦しんだのか・・・それを踏まえれば「仕方が無い」などという言葉は、まさに今までずっと苦しんで来たカリンに対する暴言もいい所だろう。  カリンとは真逆で今まで両親に大切に育てられてきた春麗にとっては、今のカリンの境遇があまりにも哀れで仕方が無かった。  カシムが勝手に残した借金を返済する為に、カリンが士官学校を辞めてまで風俗店で2年間も自らの身体を売り続けてきた事も、その日暮らしで精一杯でゴミ箱の残飯を漁って飢えを凌いでいた時期もあった事も、先日の民事裁判がきっかけとなって、今では最早世界中で話題になっている事だ。  それは当然、リンダの耳にも入っているはずだろう。それが果たして仕方が無いで済まされる事なのか。  自分が新しい夫とのうのうと幸せの日々を過ごしている間に、取り残されたカリンはまさに地獄の日々を味わい続けてきたというのに。  「・・・リンダ殿・・・貴方という人は・・・やはり何も分かっていらっしゃらないようだ。」    今まで貴方を苦しめてしまって御免なさい・・・その、たったその一言だけが、何故カリンに対して言えないのか。そんな事も言われなければ分からないのかと。  リンダは協議離婚の際に親権がカシムにあると裁判所に告げられたから、仕方無くカリンを見捨てるしか無かったと春麗に言い訳していた。  それは確かに法的には正論であり、仮にカリンがフュリーに相談した場合、リンダの言動は国際法に則れば確かに正論ではあると、そうカリンに告げただろう。  だが、そうではない。そういう事では無いのだ。  カリンがリンダに求めているのは、そういう事では無いだろうに。  さすがの春麗もリンダに対して苛立ちを隠せずにいたのだが・・・そんな春麗をカリンがそっ・・・と手で制したのだった。  「ラザフォード中尉?」  「もういいです、雷大尉。もう私はこの人に何も期待なんかしてませんから。」  もう二度と会う事は無いと思っていたのだが・・・いや、今後もう二度と会うつもりは微塵も無いのだが・・・この際だからカリンはリンダに対して、この場ではっきりと決別宣言をする事にした。  リンダにしっかりと正面から向き合い、とても真剣な表情で、カリンはリンダにまくし立てる。  「最初に言っておくけど、さっき私が建民に対して、母さんが今ここで死のうが知った事では無いと告げたのは、建民を脅す為のブラフでも何でもない。私の本心からの言葉よ。」  「そんな、カリン貴方、一体何を言っているの!?」  「あの時は人道的な立場から母さんを助けたけど、別に母さんがあの場で建民に殺されようが、そんなの私には今更関係無い。」  「殺すとか殺されるとか、どうしてそんな残酷な事を平気で言えるの!?さっきも言ったけど元首様を殺す必要があったの!?元首様と話し合いで解決しようとか・・・」  「あの状況で建民と話し合いが通用するとでも本気で思っていたの!?母さんの頭の中は花畑で埋まってるんじゃないの!?」  カリンに怒鳴り散らされたリンダが、怯えたような表情ですっかり黙り込んでしまう。  建民は本当にどうしようもない愚劣極まりない男だ。いずれマナエネルギーの技術を奪う為に、コーネリア共和国に戦争を仕掛けるつもりだったとまでカリンに断言したのだ。  あの状況で建民を殺さなければ、この先グランザム帝国に・・・いいや、これは最早グランザム帝国だけの問題ではない。世界中の国々が建民の脅威に晒される事にもなりかねなかったのだ。  そうなればこの先、一体どれだけの人々が傷つく事になるのか。一体どれだけの命が失われる事になるのか。  確かにリンダの言う様に話し合いが通用すれば、それに越した事は無かっただろう。だが建民のような愚劣な男を相手に、果たして話し合いなど通じるのだろうか。  それが出来ない状況だったからこそ、建民が横暴な態度を崩さず、理不尽な理由で一方的にグランザム帝国に攻めて来たからこそ、グランザム帝国軍もチャイナ王国軍を迎撃したのだし、こうしてカリンも建民をその手で殺したのだ。  グランザム帝国を、グランザム帝国に住まう多くの人々を、そして何よりも大切な存在であるシルフィアを、建民の魔の手から守る為に。  「これだけは覚えておいて頂戴。話を聞いた限りだと母さんは相当な平和主義者のようだけど、想いだけでは何も守れはしない。その想いを貫く為の力もまた必要なのよ。このレイファルクスだってそう、私は軍人として国を守る為に力を振るっているのよ。」  「だったらもう軍人なんか辞めて頂戴!!国を守る為に人殺しをするなんて、そんなの・・・」  「辞める訳が無いでしょう!?今の私はシルフィアの騎士(ナイト)なのよ!!それに私たちは人殺しを目的にしてる訳じゃない!!そもそも私を捨てた貴方なんかにどうして今更、そんな事をいちいち指図されないといけないの!?」  この期に及んでカリンに対して軍人を辞めろなどと軽々しく言えてしまうリンダに、リアナも翆玲も・・・いや、この場にいる全員が軽蔑の目を向けたのだった。  春麗も言っていたが、やはりリンダは何も分かってはいないようだった。  カリンが何の為にその力を振るっているのか・・・いや、それ以前にカリンの今の気持ちさえも。  目に涙を浮かべながら拳を震わせるカリンの右手を、春麗がそっ・・・と優しく両手で包み込む。  「ラザフォード中尉。貴官のリンダ殿への怒りと悲しみは、私も痛い程理解している。だが怒りに身を任せてリンダ殿を傷つける事だけは絶対に駄目だぞ?それではただの暴力に過ぎなくなってしまうからな。まあ聡明な貴官なら私に言われずとも理解しているだろうがな。」  「・・・分かっています。訓練兵だった頃、オラトリオ少佐に散々言われてきた事ですから。」  「そうか。ならいい。」  想いだけでは何も守れはしない、想いを貫くための力が必要だとカリンはリンダに先程言ったばかりだが、想いの無い力などただの暴力に過ぎないのだから。  力を持ったその瞬間から、力を持つ者としての責任が生じるのだ。  それを決して見失うなと、春麗はカリンに忠告しているのだ。  「リンダ殿。経緯はどうあれ、貴方は幼少時のラザフォード中尉を見捨てた。そのせいでラザフォード中尉が地獄の日々を味わう羽目になってしまった。どうかそれだけは頭に入れておいて下さいませ。」  「だって・・・そんなの・・・仕方が無いじゃない・・・じゃああの時私は一体どうすれば良かったのよ・・・!?これから私は一体どうすればいいのよ!?」  「それは貴方が今後、一生向き合わなければならない問題です。第三者の私が口出しすべき事ではありません。これから生き残った兵たちを呼んで貴方を自宅まで護送させますので、しばらくお待ち下さいませ。拉致軟禁に関しての謝罪と賠償は、また後日させて頂きますので。」    カリンに怒鳴られ、すっかり座り込んで落ち込んでしまったリンダだったのだが、そこへカリンのレイファルクスにシルフィアからの通信が入ったのだった。  リンダを無視し、カリンはシルフィアからの通信を開く。  『カリン、よくやってくれました。早速で悪いのですが雷大尉に私から直接話したい事があるので、後の処理はリアナたちに任せ、彼女を城の応接室に連れてきて貰えませんか?くれぐれも丁重に扱って下さいね。』  「了解。さあ雷大尉、こちらへどうぞ。」  「ああ。」  今更春麗に敵意が無い事はカリンも分かっているが、それでも万が一という事もある。カリンは春麗の両手に手錠を掛けたのだった。  春麗も特に抵抗する様子を見せず、シルフィアの命令で駆け付けた護送車へと乗り込んでいく。  その様子を翆玲たちが、とても心配そうな表情で見つめている。  「あ、あの、隊長・・・。」  「心配するな。シルフィア皇女なら決して悪いようにはしないだろう。むしろ逆にこれは好機だ。シルフィア皇女に今後の我が国の在り方について相談してみるさ。」  春麗と一緒に護送車に乗り込むカリンだったのだが、最後にリンダにはっきりと告げたのだった。  「さっき建民にも言ったけど、今の私の家族はシルフィアとシオンだけよ。」  「カリン・・・!!」  「・・・さよなら、母さん。もう二度と会う事は無いわ。」  カリンと春麗を乗せた護送車が、グランザム帝国の城下町へと走り去って行く。  その様子を地面に座り込みながら涙交じりに見つめるリンダを、リアナや翆玲たちが神妙な表情で見つめていたのだった。 ***6.新生チャイナ王国  「そ、そんな・・・たかが道を通るだけで1万ゴルダ払えだなんて、そんなの横暴過ぎるじゃないか!!」  「ここは既に俺ら青龍隊がシメてる私有地や。だからここを通りたければ俺らに通行料を払うのは当然の事だよなあ?」    よく晴れた清々しい青空に包まれた、翌日の昼間・・・武器を手にした数人のガラの悪い男たちがトラックを取り囲み、運転手に因縁を付けたのだった。  トラックの運転手の男性は運転席から問答無用で降ろされ、怯えた表情でまともに抵抗出来ずに銃を突きつけられている。  その様子を周囲の住民たちは、ただ黙って見ている事しか出来なかった。    建民が戦死し統治者が不在になっただけでなく、これまでの建民の圧政による住民たちの、溜まりに溜まった不満が一気に爆発した反動もあり、チャイナ王国の城下町の治安は今まさに最悪の状態にあった。  食料や物資の奪い合いなどで街中で立て続けに暴動が起こり、不法侵入や窃盗、強盗、強姦と言った犯罪も街中で多発発生している始末だ。  無理も無いだろう。これまでは絶対社会主義を掲げる建民の圧政によって、国中の住民たち全員が厳しい監視体制の下に置かれ、歯向かう者は問答無用で処刑される恐怖政治を敷いていたからこそ、チャイナ王国はこれまで表面上は平和でいられたのだ。  その建民がいなくなり、これまで自分たちを押さえ込んでいた物が何も無くなってしまえば、どうなるか・・・まさにこうなるのは必然だったと言える。  これまでならこういう状況なら即座にチャイナ王国軍が駆け付け、問答無用で男たちをその場で射殺していただろうが・・・その軍が今ではまともに機能していない状態なのだ。    「ぐあっはっはっはっは!!ほらほらほらほらほら、俺様がお前らを抱き締めてやるからよお!!」  「嫌ああああああああああああ!!助けてえええええええええええええええ!!」  即席の柵の中に閉じ込められた沢山の女性たちが、目隠しをした大柄な男に追い掛け回され、怯えた表情で逃げ回ってしまっている。  その様子を周囲のガラの悪い男たちが、ニヤニヤしながら見つめていたのだった。  「あいつも趣味の悪い奴だぜ。ああやって目隠しをして、怯える女を追い掛け回して襲うと興奮するんだってよ。」  「そんな回りくどい事して何が楽しいのかねえ?俺にはとても理解出来ねえや。」  「ま、人にはそれぞれ好みって奴があるんだろうけどさ。」  女性たちが逃げないように柵の入り口で見張ってる数人の男たちが、目隠しをしながら女性たちを追い掛け回す男を、何とも呆れた表情で見つめていたのだが。  「あああ・・・せめて雷大尉がいて下されば、決してこんな事には・・・!!」  「ぶははははははは!!な~にが雷大尉だ!?あいつなら帝国の捕虜になったって世界中でニュースになってるだろうが!!あんな女、いなくなっちまえばただの小便よ!!ぎゃははははははは・・・っ!?」  高笑いしながらトラックの運転手の男性に銃を突き付けている男の肩に、何者かが背後からポン、と軽く手を乗せる。  んだよ、今楽しんでる最中だってのに・・・そんな不満そうな表情で背後を振り向いた男だったのだが・・・その表情が一転して恐怖に震えてしまい、無様にもお漏らししてしまったのだった。    「・・・は・・・ははは・・・しょ、小便・・・(泣)。」  目隠しをした大柄な男が、興奮しながら逃げ惑う女性たちを必死に追い掛け回す。  何やら女性たちの黄色い歓声や、「ここは私に任せろ」「早く逃げろ」といった言葉が聞こえるが・・・そんな事はお構いなしに、男は遂にがっしりと女性の1人を抱き締めたのだった。  「あーっ、つーかまーえたーっ!!」  そのまま女性を壁に叩き付け、その豊満な胸を大きな両手で揉む男だったのだが・・・。  「・・・あーっ?何だ何だ?この女、随分と固ぇおっぱいだなぁおい。」  「そうか。このジィダオの装甲の強固さを気に入って貰えて何よりだ。」  「えあ?」  自分が壁に叩き付けた女性に目隠しを外された男は・・・視界に映った女性の姿に驚愕してしまったのだった。  チャイナ王国軍の新型フレームアーム・ジィダオを身に纏っている、美しくも凛々しい女性・・・それはまさにグランザム帝国の捕虜となっていたはずの・・・。  「れ、れ、れ、れ、れ、れ、雷春麗・・・!?な、何でここに・・・捕虜になってたんじゃ・・・!?」  「はああああああああああああああああああああああああっ!!」  「ごえあっ!?」  そのまま大外刈りで男を地面に叩き付けて拘束した春麗は、呆れた表情で溜め息をついたのだった。  シルフィアとの対談を終えて、そのまま身柄を解放されて帰国してみれば、随分と城下町の治安が最悪な状況になってしまっているようだった。  とはいえこうなる事は、春麗自身も想定の範囲内だったのだが・・・ただ1つだけ、シルフィアに頼まれた事だけは全くの想定外だった。  「全く、私にこの国の女王になれなどと、シルフィア皇女も随分と無茶な事を言ってくれる・・・!!私は平民出身の軍人であって皇族の血筋でも無し、まして政治に関しては全くのど素人なんだぞ!?そもそも夫と両親にどう説明すればいいのだ!?」  「何を言ってるんですか。隊長ならきっとこの国を良き方向へと導いてくれると、私はそう信じています。それにシルフィア皇女殿下もサポートすると仰っていたではありませんか。」  「簡単に言ってくれるなよ翆玲。世の中には適材適所という物があってだなぁ。大体私なんかが女王になってしまったら、殿下が遺された5人の御妃たちがどう思うのか・・・。」  それこそ王位継承権を巡って、建民の5人の妃たちに恨まれ、内乱でも起こされそうな気がするのだが・・・それでも今は先に片付けなければならない事が山程ある。  先程までトラックの運転手を脅していた男は、翆玲に情け容赦なくビームハンドガンの銃口を向けられ、怯えた表情でお漏らししてしまっていた。  他の青龍隊とやらの男たちもジィダオ部隊の少女たちに全く歯が立たずに、あっさりと拘束されてしまっていたのだった。  当然だろう。正規の軍人である、まして最新鋭のフレームアームを纏っている彼女たちに、多少腕に覚えがあるだけのチンピラ如きが勝てるはずが無いのだ。  「だが、その話は取り敢えず後だ。まずは城下町の治安維持が最優先だ。お前たち!!この国で悪事を働く馬鹿共を全員根こそぎ逮捕するぞ!!いいな!?」  「「「「「「「「「リージェイ!!」」」」」」」」」  「無様に生き恥を晒した我が身なれど、それでも国の為、民の為、及ばずながらも必死に足掻いて見せるさ!!行くぞ!!」  決意に満ちた表情で上空へと飛翔する春麗に、救助された住民たちが一斉に歓声を送ったのだった。 [[前半へ>後日談その4前半]] [[戻る>トップページ]]

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