小説フレームアームズ・ガール

後日談「ただ大切な物の為に・後編」


1.死闘


 「あれは・・・!!」

 ナナミと共にカズマとホタルの迎撃に向かったシオンが、カズマがビームキャノンを構えている姿を見て厳しい表情を見せる。
 今まさに、ビームキャノンから大出力のエネルギー波が放たれようとしていたのだが。

 「砲撃型か!!」
 「撃たせはしない!!」

 シオンと追従していたナナミがフレズヴェルク・ダガーをストライダー形態に変形させ、高速でカズマに接近しつつ、機首からマナ・ビームマシンガンをカズマに浴びせた。
 それを巧みに避けつつ、カズマはビームキャノンをナナミに発射。
 だがナナミはストライダー形態の高速機動を駆使し、次々と放たれるビームキャノンを巧みに避け続ける。

 「機動性に関しては、あの新型の方がマガツキよりも上か・・・!!だが、しかし!!」
 「はあああああああああああああああああああああっ!!」

 再びフレズヴェルク・ダガーをフレームアーム形態に変形させたナナミが、マナ・ビームサーベルでカズマに斬りかかった。
 上空で何度もぶつかり合う2人のビームサーベル。2人の周囲に無数の糸状の閃光が走る。

 「シオン・アルザード!!お前の相手はこの私だぁっ!!」
 「こっちは近接戦闘特化タイプか!!」

 そしてビームサーベルの二刀流でシオンに襲い掛かるホタル。
 それをマナ・ハイパービームサーベルとマナ・ハイパービームシールドで巧みに受け止め続けるシオンだったが、ホタルの剣術と猛攻の前に完全に押されていた。 

 「行け!!フェザーファンネル!!」

 何とかホタルから間合いを離したシオンは、背中の翼から12基ものフェザーファンネルを一斉に分離し、全方位オールレンジ攻撃を仕掛けるが、それをホタルは驚異的な反射神経でもって避けまくり、シオンに斬りかかる。

 「それがどうした!?」
 「さすがに手強い・・・!!だが、それでも!!」

 シオンとナナミがカズマとホタルを相手に死闘を繰り広げている最中、コーネリア共和国の城下町付近では、コーネリア共和国軍とジャパネス王国軍による死闘が繰り広げられていた。
 迫り来るジャパネス王国軍のビームやミサイルを、コーネリア共和国軍の魔術師部隊が精霊魔法で次々と迎撃する。
 その凄まじい戦闘の様子は各国の戦場カメラマンたちを通じて、世界中で生中継されていた。
 ほとんどの国でテレビ番組の内容を変更して、この戦争に関しての特番が次々と組まれている。
 まさに世界中の人々が、今回の戦いに注目しているのだ。

 「正門にミサイルを撃ち続けろ!!奴らはあそこを守る為に下手に動けないはずだ!!奴らを徹底的に消耗させるのだ!!」

 隊長の命令で、ジャパネス王国軍の地上部隊から一斉に大量のミサイルが放たれる。

 『コルネーロ大尉、ポイントC24より敵地上部隊から大量のミサイルが来ます!!』
 「了解だ!!アーマーナイト部隊は総員盾を構え、衝撃に備えろ!!白魔導士部隊はプロテクション発動!!絶対にここを守り抜くぞ!!」

 スティレットからの通信を受けた隊長の命令で、重装型のパワードスーツを身に纏った兵士たちが大盾を構える。
 そんな彼らの命を守る為、背後に展開している白魔導士部隊が防御魔法を発動。兵士たちの周囲に障壁が展開された。
 次々と放たれるミサイル。だが兵士たちが身体を張って大盾でミサイルを受け止め、正門には決して届かせない。

 それと同時にコーネリア共和国軍の黒魔導士部隊から、次々と放たれる攻撃魔法。
 炎が、雷撃が、冷気が、烈風が、情け容赦なくジャパネス王国軍に降り注ぐ。
 そして先程のミサイルを受け止めて消耗した兵士たちを、白魔導士部隊が回復魔法で次々と癒していった。

 「怯むな!!一歩も引くな!!何としてでもここを死守するぞ!!俺たちがアルザード大尉やスティレット・ダガーに頼らなくとも戦えるというのを、奴らに見せつけてやるんだ!!いいな!?」

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
 隊長からの檄が飛び、コーネリア共和国軍の士気が一斉に高まる。

 「この戦いに勝利した暁には、エミリア様が自らグラビアヌードを披露して下さるそうだ!!」

 おえええええええええええええええええええええっ!!
 隊長からの檄が飛び、コーネリア共和国軍の士気が一斉に低まる。
 その様子をジャパネス王国軍の隊長が、歯軋りしながら睨み付けていたのだった。
 シオンやスティレット・ダガーなどに頼らずとも、彼らは『強い』・・・それをその身をもって思い知らされたのだ。
 ただでさえ守りが固い上に、こうも回復魔法で兵士たちを次々と回復されたのでは・・・。

 「火力を白魔導士部隊に集中させい!!奴らに回復魔法を使わせるなぁっ!!」
 「た、大尉殿!!敵のペガサスライダー部隊が後方より強襲!!」
 「何だと!?うわあああああああああああっ!!」

 そんな彼らが正門に気を取られている隙を突いて、ペガサスライダー部隊が上空から一斉にジャパネス王国軍の地上部隊に襲い掛かった。
 完全に虚を突かれたジャパネス王国軍の地上部隊が一斉にビームマシンガンを放つも、上空を高速で動き回るペガサスライダー部隊を捉えられない。
 戦況は完全に、コーネリア共和国軍が優勢・・・だがそれでも旗艦アマテラスから指示を出すコウゾウは余裕の態度を崩さなかった。

 「奴らめ、スティレット・ダガーが使えないというのに中々やるではないか。精霊魔法というのは本当に厄介な物よのう。10年戦争において、あのグランザム帝国軍でさえも惨敗を喫しただけの事はあるようだ。」
 「天皇大将軍様、我が軍の損害率が10%を超えました!!このままでは!!」
 「慌てるな!!奴らの快進撃もここまでだ!!このまま例の作戦を実行する!!正門を攻略中の部隊を退避させろ!!」
 「了解!!」

 コーネリア共和国軍の旗艦バハムートが他の巡洋艦を従えて上空に陣取り、無数の砲台から放たれるビームやミサイルで味方部隊を援護する。
 オペレーターのスティレットたちを通じてエミリアの指示が兵士たちに飛び、エミリアの巧みな戦術によってジャパネス王国軍が次々と蹴散らされていく。
 そんな最中、正門を攻略中の部隊がコウゾウの命令で、突如撤退を開始。
 だが次の瞬間、ジャパネス王国軍の巡洋艦が一隻、無数の砲台から一斉にビームを放ちながら、突然正門に向けて特攻を始めたのだった。

 「敵高速巡洋艦ハルカゼ、周囲に巨大アンチビームフィールドを展開しながら、真っすぐに正門に向かって突撃して来ます!!」

 特攻か・・・!?スティレットの言葉に、他のオペレーターたちが厳しい表情を見せる。
 パワードスーツを身に纏った兵士たちが上空から一斉にビームマシンガンやビームキャノンを巡洋艦に放つが、アンチビームフィールドに阻まれて全く効き目が無い。
 彼らの必死の抵抗も空しく、巡洋艦が物凄い勢いで正門へと突撃していく。
 その様子をカズマと戦いながら、ナナミが歯軋りしながら見つめていたのだった。

 「まさかエミリア様の推測通り、本当にハルカゼによる特攻を・・・!!」
 「行かせんぞ、キサラギ少尉!!」
 「くっ・・・!!」

 カズマのビームキャノンから放たれる砲撃を、ナナミはフレズヴェルク・ダガーをストライダー形態に変形させ、巧みに避け続ける。
 味方部隊の掩護に回ろうにも、カズマの巧みな砲撃の前に完全に足止めされてしまっていた。
 そしてシオンもまたホタルに足止めされてしまっており、味方の援護に向かう事が出来ない。
 だがそれでも尚、シオンもナナミも全く慌ててはいなかった。
 コーネリア共和国軍の旗艦・バハムートには、こういう事態を想定して開発されたばかりの、とっておきの切り札が搭載されているのだ。

 「ステラ。ソルカノンで特攻する敵巡洋艦を破壊して下さい。」
 「イエス・マム!!」

 エミリアの言葉と同時にスティレットが端末を操作。バハムートの機首が展開し、巨大な砲台が姿を現した。
 コーネリア共和国軍が開発した最新鋭の戦略兵器・・・大型砲塔ソルカノンだ。

 「ソルカノン、セーフティーアンロック!!攻撃範囲内に味方部隊が巻き込まれない事を確認しました!!エネルギーチャージ・フル(100)%、全システムオールグリーン!!敵高速巡洋艦ハルカゼ、ロックオン!!」

 バハムートの機首に搭載されたソルカノンに、青色の粒子が収束する。
 そして物凄い勢いで正門に突撃する巡洋艦に向けて、スティレットは決意に満ちた表情でソルカノンを発射したのだった。

 「ソルカノン、ファイヤ!!」

 凄まじい威力の青色の閃光が、展開されたアンチビームフィールドをあっさりと無力化し、巡洋艦を貫く。
 正門の一歩手前で墜落し、炎上する巡洋艦。
 特攻が失敗に終わった形になってしまったが、しかしこれもまたコウゾウの計画通りなのだ。

 「ソルカノン射出完了!!次のエネルギーチャージ完了までヒトマル・ミニュート(10分)!!艦の出力がゴーマル・パーセント(50%)に低下!!出力のリカバリーまでサン・ミニュート(3分)!!」
 「ステラ、リカバリーと次発チャージを急いでください。ジャクソンは直ちにJHSシステムの準備を。」
 『了解だ!!任せろ!!』
 「シオンとナナミはそのまま2人の足止めを。ここは私たちだけで大丈夫です。」
 『『了解!!』』

 そしてソルカノン発射を見届けたコウゾウが、この時を待っていたと言わんばかりに指示を出す。
 コーネリア共和国に送り込んだ諜報部隊からの情報によって、ソルカノンの存在でさえも既にコウゾウは把握していたのだ。
 連射が出来ず、使用後はしばらくの間バハムートの出力が低下するという、ソルカノンが抱える致命的な弱点さえも。
 その隙を突く為に無人艦を遠隔操作で城門へと特攻させ、バハムートにソルカノンを撃たせた上で、万全の状態で強化人間部隊の少女たちを投入する。
 ここまでは、まさにコウゾウの思惑通りだったのだが・・・。

 「これで奴らは後10分はソルカノンを使えないはずだ!!カミカゼ部隊出撃!!この隙を突いてバハムートを撃墜するのだ!!」
 『『『『『『『『『『承知致しました。偉大なる天皇大将軍様。』』』』』』』』』』

 コウゾウの指示と同時に、洗脳、記憶消去を施された強化人間の少女たちがマガツキを身に纏い、リニアカタパルトで一斉にバハムートに向けて飛翔する。
 その様子をエミリアが、バハムートのモニターから厳しい表情で見据えていたのだった。

 「敵旗艦アマテラスよりマガツキ、ヒトマル(10)!!例の強化人間部隊だと推測されます!!」
 「ここまでは予定通りですね。ステラ、対空砲火と魔法障壁の準備を。」
 「イエス、マム!!」
 「この戦い、ただ勝つだけでは意味が無いのです。彼女たちを救った上で、コウゾウの愚かさを世界中に知らしめなければ・・・!!」 

 決意に満ちた表情で、エミリアは強化人間の少女たちの虚ろな瞳を見つめていたのだった。

2.暴かれた愚行


 コーネリア共和国軍の地上部隊が戦いを優位に進める最中、この戦いの流れを変えるべく、マガツキを身に纏った強化人間の少女たちが一斉にバハムートに襲い掛かった。
 バハムートの砲台から一斉に大量のミサイルやビームが放たれるが、強化人間の少女たちは凄まじいまでの反応速度、そしてマガツキの高機動でもって巧みに避け続ける。

 「偉大なる天皇大将軍様に逆らうエミリア・コーネリアには、無慈悲なる死を。」
 「崇高なる天皇大将軍様に歯向かう愚か者共は、皆殺す。」
 「殲滅せよ。愚か者共を一人残らず殲滅せよ。」
 「全ては大いなる天皇大将軍様の為に。」

 虚ろな瞳でバハムートにビームマシンガンやビームキャノンを浴びせる強化人間たちの少女たち。
 彼女たちからは人としての心、生気という物が全く感じられなかった。

 「強化人間部隊からの一斉砲撃開始!!艦の周囲に魔法障壁を展開します!!」

 その凄まじい猛攻に対抗する為、スティレットはバハムートの周囲に無数の魔法障壁を展開するが、ソルカノン発射直後で艦の出力が低下しており、本来の威力を充分に引き出す事が出来なかった。
 ビームマシンガンとビームキャノンで障壁を消耗させられた所へ、ミサイルランチャーから放たれたミサイルが情け容赦なく障壁を貫き、バハムートに直撃した。
 その凄まじい衝撃で、指令室が派手に揺れる。

 「右舷後方にミサイル被弾!!損傷軽微!!艦の運行に支障ありません!!」
 「さすがにやりますね。ステラ、フェザーファンネルで彼女たちの迎撃を。」
 「イエス、マム!!フェザーファンネル射出、ゴー!!」

 バハムートから30基ものフェザーファンネルが放たれ、強化人間の少女たちに一斉に全方位オールレンジ攻撃を仕掛けるが、強化人間の少女たちはその凄まじいまでの反応速度でもって避けまくり、次々とフェザーファンネルをビームマシンガンで破壊していく。

 「やはり自動制御ではシオンのようにはいきませんか。まあ彼が変態なだけなのですがね。」
 「フェザーファンネル、ヒトマル(10)基大破!!左舷前方にビームキャノン被弾!!強化人間部隊の2人に砲台に取り付かれました!!ビームサーベルで砲台を次々と破壊されています!!」
 「逆に好都合ですよ。マリナ、そのまま彼女たちを引き付けつつ、艦を後退させて下さい。」
 「了解!!」

 強化人間部隊の少女たちに追い詰められ、徐々に後退していくバハムート。
 その様子をコウゾウが、高笑いしながら見据えていたのだった。

 「馬鹿め!!今更ファンネルなどで奴らを止められるとでも思っているのか!?」
 「敵旗艦バハムート、砲撃を維持したまま後退していきます!!」
 「地上部隊を再び城門へと突入させろ!!この機を逃すな!!奴らを一気に叩きのめすのだぁっ!!」
 「了解!!」

 コウゾウの命令で、後退していたジャパネス王国軍の地上部隊が再び城下町の正門へと突撃していく。
 コーネリア共和国軍におけるシオン同様、ジャパネス王国軍においてもまた、強化人間部隊の少女たちは絶対的な「エース」・・・彼女たちの活躍の是非によって、戦いの流れはこうも大きく変わってしまうのだ。

 『おいおい、なぶり殺しにされてるぞエミリア様!!』
 「落ち着きなさい。この程度ならハバムートは沈みませんよ。このまま予定通り彼女たちをJHSシステムの効果範囲内に引き付けます。ジャクソン、私が合図したらJHSシステムの発動を。」
 『了解だ!!任せろ!!』

 強化人間部隊の少女たちの猛攻により、次々とバハムートの砲台が破壊されていく。
 次々と直撃するビームとミサイル。バハムートから立ち上る黒煙。
 城下町の人々の多くが、不安そうな表情でその様子を観戦していた。
 頼みの綱のシオンとナナミもホタルとカズマに足止めされており、エミリアの援護に向かう事が出来ない。
 こんな状況では、確かに市民たちが不安になるのも仕方が無いと言えるが。
 だが、それでも。

 「ソルカノン、エネルギーチャージ・サンマル(30)%!!ソルカノン発射に伴い低下していた艦の出力が完全回復しました!!」
 「ステラ、砲撃を止めて、魔法障壁を最大出力で展開。彼女たちをJHSシステムの効果範囲内まで引き付けて下さい。」
 「イエス、マム!!」
 「ジャクソン、JHSシステム・・・いけますね?」
 『おうよ!!いつでもいけるぜ!!』 

 ジャクソンの自信満々な回答を得たエミリアが、決意に満ちた表情で告げる。

 「そうですか。ではこの戦い・・・我々の勝利ですね。」

 何とこの絶体絶命の状況でさえも、全てエミリアの作戦通りだったというのだ。

 「敵旗艦バハムートからの弾幕が止まりました!!砲撃に使用していた魔力を全て魔法障壁に回した模様です!!」
 「馬鹿め、追い詰められて遂に自暴自棄になったかエミリア!!そのままカミカゼ隊を突撃させろ!!」
 「了解!!」

 自らの勝利を確信したコウゾウが思い浮かべるのは、バハムートが爆炎を上げて沈む光景。
 いかに精鋭を誇るコーネリア共和国軍といえども、それもスティレット・ダガーの恩恵があればこそ・・・そのスティレット・ダガーが使えないとなれば、所詮はこんな物なのだ。
 いよいよだ。いよいよコーネリア共和国が独占している魔法化学技術を、マナエネルギーを、自らの手中に収める時が来たのだ。

 この時までは・・・そう、本当にこの時までは、コウゾウはドヤ顔でいられたのだ。
 まさかこの僅か1分後に、コウゾウの表情が一気に絶望に染まる事になるとは・・・この時の誰もが思わなかっただろう。

 「強化人間部隊、全員JHSシステムの有効範囲内に入りました!!」
 「ジャクソン、システム発動!!」
 『おっしゃあ!!』

 エミリアの合図と同時に、突如バハムートの機首から放たれる凄まじい閃光。
 だが眩し過ぎるという訳では無く、むしろ安らぎを感じるかのような・・・そんな慈愛に満ちた光が強化人間部隊の少女たちを包み込む。
 次の瞬間、その優しくも温かい光に包まれた強化人間たちの少女たちの虚ろな瞳から、みるみる内に生気が戻っていった。
 先程までバハムートに猛攻を仕掛けていた強化人間たちの少女たちが、攻撃の手を止め、呆気に取られた表情で、一体何が起きたのかと周囲を見渡している。

 「・・・え・・・?」
 「あ・・・あれ・・・?」
 「わ・・・私たち・・・一体何を・・・。」

 互いの顔を見合わせ、何が起きたのか理解出来ないという表情をする少女たち。
 コウゾウもまた、何が起きたのか理解出来ないとばかりに、唖然とした表情をしている。

 「な、何だ・・・!?一体何が起きたというのだ!?」
 「データ分析完了!!精霊魔法リアライズ発動によって放たれた光だと推測されます!!」
 「そんな事は分かっておるわ!!カミカゼ隊の連中に何が起きたのかと聞いておるのだ!!」

 焦りと苛立ちを隠せないまま、オペレーターの女性士官を怒鳴り散らすコウゾウだったのだが。

 『勇敢なるジャパネス王国軍の皆さん。どうか攻撃の手を止め、私の声に耳を傾けて頂けませんか?私はコーネリア共和国王妃、エミリア・コーネリアです。』
 「な・・・!?」

 突然バハムートから、エミリアの演説が届けられたのだった。
 一体何事なのかと、ジャパネス王国軍の兵士たち、そして強化人間部隊の少女たちも、カズマとホタルも、攻撃の手を止めて一斉にエミリアの言葉に傾注する。
 そしてエミリアの口から飛び出したのは、誰もが予想もしていなかった信じられない言葉だった。

 『突然ですが今現在バハムートに取り付いている、マガツキ部隊の10人の少女たちについてなのですが・・・たった今我が軍のJHSシステムによって、コウゾウに施された洗脳を解除、同時に消去された記憶も復元致しました。』
 「は・・・はあああああああああああああああああああああ!?」

 まさかの信じられないエミリアの言葉に、コウゾウの表情が一気に絶望に染まってしまう。
 洗脳を解除って。記憶を復元って。一体この女は何を言っているのかと。
 そしてジャパネス王国軍の兵士たちも突然のエミリアの通告に、誰もが驚きと戸惑いの表情を浮かべていた。
 彼女たちが洗脳、記憶消去を施されていた強化人間だという事実を知っているのは、軍の中でも極一部の者たちだけに過ぎなかったからだ。
 彼女たちは表向きには、独自に結成されたばかりのフレームアームズ・ガール部隊・・・ただそれだけだという事になっていたのだが。 

 『ジャクソン(J)が鼻くそ(H)ほじりながら作った洗脳(S)解除システム・・・名付けてJHSシステムです。』
 「せ、せ、せ・・・洗脳解除システムだとぉっ!?」
 『正確には私の精霊魔法リアライズを強化する為の、ブースターのような物なのですがね。以前ステラがヴィクターに施された洗脳に関するデータを基に、ジャクソンに作って貰いました。』

 諜報部隊を送り込んでいたのはコウゾウだけではない。エミリアもまたジャパネス王国に諜報部隊を送り込んでいたのだ。
 そして強化人間部隊の少女たちの事を知らされたエミリアは、彼女たちを救う為にJHSシステムをジャクソンに作らせていたという訳だ。

 精霊魔法リアライズ。これは元々は毒や麻痺などといった対象の状態異常を治療する為の治癒魔法で、これ自体は別に何も特筆するような代物ではない。精霊魔法の術者が一番最初に習得する初歩的な魔法だからだ。
 だがジャクソンは以前シオンから提供を受けたスティレットの洗脳に関するデータを基に、この精霊魔法リアライズの威力を強化し、「洗脳や記憶消去などの脳障害を治す事に特化させる」為のシステム・・・言わばエミリアが言うブースターを作り出したのだ。
 ただしシステムの有効範囲がどうしても限られてしまうので、彼女たち全員にバハムートの近くに来て貰わないといけなかったのだが。
 その為にエミリアはわざと追い詰められる事で、彼女たちをおびき寄せていたというわけだ。

 「ば・・・馬鹿な事を・・・!!朕がそいつらを洗脳したという証拠でもあるのか!?証拠も無しに朕を陥れようなどと・・・!!」
 『そう言うだろうと思って証拠も用意してありますよ。ステラ、例の動画を世界中に配信して下さい。』
 『イエス、マム!!』

 次の瞬間、スティレットの手によって動画サイトに配信されたのは・・・紛れも無く彼女たちが機械に拘束され、まさに洗脳を施されている光景だった。
 誰もが苦しそうに呻き声を上げ、口からヨダレを垂らしながら必死にコウゾウに許しを請い、助けを求めるものの、コウゾウはそんな彼女たちをヘラヘラ笑いながら見下している。
 その動画へのアクセス数は瞬く間に数十万、数百万、数千万に達し、世界中でとんでもない騒ぎになってしまっていた。
 これは誰がどう見ても、明らかに非道な人体実験・・・悪質な国際条約違反だからだ。

 確かにエミリアがその気になっていれば強化人間の少女たち全員を、この場で皆殺しにする事は出来た。
 だがエミリアが言っていたように、それでは意味が無い。ただ勝つだけでは意味が無いのだ。
 彼女たち全員を救い、コウゾウの愚行を世界中に知らしめた上で、この戦いに勝利しなければ。

 「馬鹿な!?強化人間はホタルだけでは無かったのか!?俺は何も聞いてないぞ!!」
 「ワタナベ中佐!!こんな愚かな男に付き従うのが、貴方の軍人としての本分なのですか!?」
 「くっ・・・!!」

 戸惑いを隠せないカズマに、ナナミの厳しい言葉が激しく突き刺さる。
 軍人の本分は国を、そして国民を、命を懸けて守る事・・・その為にカズマは今までその身を粉にして働いてきた。
 今回のコーネリア共和国侵攻にしても、軍人である以上は上層部からの命令は絶対、逆らえば抗命罪に問われるという事もある。
 だが何よりも魔法化学技術を手に入れ、国を豊かにする為という大義名分があったからこそ、個人的には不本意ではあったが、こうしてホタルと共にシオンやナナミと死闘を繰り広げていたのだ。

 しかし・・・もしこの動画が事実であったとするならば・・・ナナミが指摘するように、これ以上コウゾウに付き従う意義などあるのだろうか。
 そしてそれは他のジャパネス王国軍の兵士たちにとっても同様だったようで、兵士たちの多くが動揺を隠せず、完全に混乱状態に陥ってしまっていた。

 『天皇大将軍様!!これは一体どういう事なのですかな!?もしこれが事実であるならば、貴方の行為は悪質な国際条約違反ですぞ!!』
 「お、愚か者!!朕はこいつらを救う為に・・・そうだ、これはこいつらが6年前の震災のショックで重度のPTSDを発症していたから、それを癒す為の洗脳なのだ!!」
 『癒す為ですと!?どこからどう見ても、彼女たちは苦しんでいるではありませんか!!』
 「き、貴様ら、朕に逆らうつもりなのか!?朕を誰だと思っておるのだ!?抗命罪に問われたいのか貴様らはぁっ!?」

 このように、コウゾウに謀反を起こす兵士たちまで何人も現れる始末だ。
 そんなコウゾウをさらに追い詰めるべく、エミリアはさらなる攻勢を仕掛けたのだった。

 『皆さんが先程観ていた通り、コウゾウ・アキシノミヤは彼女たちを洗脳するなどという、極めて悪質な犯罪行為を犯しました。よって我々は只今よりコウゾウ・アキシノミヤを虐待の容疑で拘束する為、旗艦アマテラスに対しての一斉攻撃を行います。』
 「エミリア貴様ぁ!!最初からこれが狙いだったのかぁっ!?」
 『勇敢なるジャパネス王国軍の兵士の皆さん。貴方たちに少しでも人としての心が残っているのであれば・・・直ちに戦闘行為を中止し、道を開けなさい!!』
 「ふざけるな!!全軍直ちに攻撃を再開せよ!!あの女の戯言(たわごと)に耳を・・・っ!?」 

 次の瞬間、艦内に鳴り響くアラーム、そしてオペレーターの女性士官から届けられた信じられない言葉が、コウゾウをさらに動揺させたのだった。

 「後方より熱源感知!!スティレット・ダガー10!!アイラ隊です!!」
 「な、何だとぉっ!?そんな馬鹿なぁっ!?」

 コウゾウの目の前の大型モニターには、アイラやアリューシャらスティレット・ダガー部隊の少女たちが突撃する光景が、情け容赦なく映し出されていたのだった。

3.ただ大切な物の為に


 「総員バックワーム解除!!目標敵旗艦アマテラス!!とっとと片付けてこんな下らない戦争にケリを付けるよ!!」
 「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」

 アイラの命令で今まで森の中に隠れていたスティレット・ダガーを身に纏った少女たちが、一斉にマントを脱ぎ捨て上空に飛翔。コウゾウがいる旗艦アマテラスに突撃を開始する。
 慌ててコウゾウの命令でアマテラスや周辺の艦隊からの一斉砲撃が行われるが、高速で動き回る彼女たちを捉えられない。

 「よーし、やっちゃうよー!!」

 放たれるミサイルをアリューシャがマナ・ビームマシンガンで次々と撃ち落とす光景に、コウゾウの表情は完全に絶望に染まってしまっていたのだった・・・。

 「そんな馬鹿な・・・!?スティレット・ダガーは一斉メンテナンスで使えないはずだ!!」
 『情報操作の為に、貴方が送り込んだスパイを敢えて泳がせておいたのですが・・・まさかこんな嘘の情報に、こうも簡単に引っ掛かるとは思いませんでしたよ。』
 「じょ・・・情報操作・・・!?嘘の情報だと・・・!?」
 『敵が攻めて来ると分かっているのに、主力兵器の一斉メンテナンスなんてする馬鹿がどこにいますか。』

 完全にスティレット・ダガーがいない物だと思い込んでいたコウゾウは、主力部隊のほとんどを城下町への攻撃に回してしまっており、アマテラスは完全に無防備の状態だ。
 それに加えて先程の洗脳動画を見せつけられた兵士たちが動揺し、謀反をする兵士たちまで何人も出るなどの混乱状態に陥り、指揮系統が完全に乱れてしまっている。
 これまでバハムートがフルボッコにされていた・・・これはエミリアの策で、わざとだったのだが・・・その鬱憤を晴らすかのように、先程まで守勢に回ってばかりだったコーネリア共和国軍が一転して攻勢に転じたのだった。

 『リニアカタパルト、エンゲージ。オラトリオ隊、全機全システムオールグリーン。射出タイミングをアキトさんに譲渡します。』

 そしてバハムートのリニアカタパルトから、万が一強化人間の少女たちの洗脳解除が失敗した時に備えた艦の防衛の為に、今まで艦内で待機していたアーキテクトらオラトリオ隊が、スティレットからのナビゲートを受けて出撃準備に入ろうとしていた。

 「命令とはいえ、艦が無様にやられているのをただ黙って見ているだけというのは、正直落ち着きませんでしたよ。危うく命令違反を犯して飛び出してしまいそうでした。」
 「その鬱憤をこれから存分に晴らせばいいさ、マチルダ。だが窮鼠猫を嚙むという言葉がある。追い詰められたネズミは何をしでかすか分からん。最早我々の勝利は決したも同然だが、油断だけは絶対にするなよ。いいな?」
 「イエス、マム!!」

 スティレット・ダガーを身に纏ったマチルダが、真剣な表情でアーキテクトに敬礼をする。

 『進路クリア。オラトリオ隊、発進どうぞ!!』
 「さあメインディッシュを頂こうか!!これよりアイラ隊を援護する!!オラトリオ隊、出るぞ!!」
 「「「「イエス、マム!!」」」」

 アーキテクト、そして轟雷、迅雷、マテリア、マチルダが、一斉にバハムートから出撃。
 その情け容赦の無い絶望的な光景は、コウゾウの目の前の巨大モニターにもしっかりと映し出されていたのだった。

 「さらに敵旗艦バハムートより熱源感知!!スティレット・ダガー4、スティレット・リペアー!!オラトリオ隊です!!」
 「ええい、ワタナベ中佐と001は何をやっているのだ!?」
 「現在アルザード大尉、キサラギ少尉と交戦中!!押され気味です!!」
 「押され気味だと!?あの役立たず共がぁっ!!一体何をやっているのだぁっ!?」

 コウゾウたちの救助に向かおうにも、カズマとホタルは完全にシオンとナナミに足止めを食らってしまっていた。
 ホタルを援護しようとビームキャノンをシオンに放とうとするが、突然死角から放たれたフェザーファンネルの一撃で、ビームキャノンを大破させられてしまう。

 「ホタルと戦いながら、片手間でキサラギ少尉の援護を!?何と言う男なのだ!?」
 「ワタナベ中佐!!もうジャパネス王国軍に勝ち目はありません!!どうか降伏を!!」
 「まだだぞ!!キサラギ少尉!!」

 ビームキャノンの残骸を投げ捨て、懐からビームサーベルを取り出したカズマが、決死の覚悟でナナミに斬りかかった。
 互いのビームサーベルが何度もぶつかり合い、2人の周囲に糸状の閃光が走る。

 「何故ですか!?天皇大将軍の愚かさは貴方も思い知ったはずでしょう!?なのに何故そこまで命を懸けてまで、あの男を守ろうとするのですか!?」
 「例え愚王であろうとも、国の柱たる天皇大将軍様が今いなくなってしまえば、それこそ指導者を失った我が国は大混乱に陥ってしまうだろう!!それに!!」

 ナナミを弾き飛ばしたカズマが、ビームライフルをナナミに乱射する。
 咄嗟にフレズヴェルク・ダガーをストライダー形態に変形させて避けまくるナナミだったのだが、カズマの正確無比の射撃によって、フレズヴェルク・ダガーの機首に被弾。
 慌てて直撃部分をパージしたナナミが、フレズヴェルク・ダガーをフレームアーム形態に変形させて体勢を立て直す。だがそこへ迫るカズマのビームサーベル。
 何とかマナ・ビームシールドでカズマの一撃を受け止めるナナミだったが、カズマの気迫の前に完全に押されていた。

 「それに天皇大将軍様は、俺に君と戦えと仰られた!!ならば俺は軍人として、国と国民を守る為、祖国でこの戦いを見ているであろう国民に勇気と希望を与える為、俺が君と戦う姿勢を国民に見せつけなければならんのだ!!」
 「何て悲壮な覚悟なのですか・・・!?ワタナベ中佐、貴方は軍人であり過ぎた!!」
 「そうだ、俺は軍人だ!!だから俺は今ここにいる!!そして君の敵になった!!」

 カズマの渾身の一撃が、ナナミのマナ・ビームシールド発生装置を完全に破壊した。

 「くっ・・・!!」
 「それに君たちコーネリア共和国軍では規律が比較的緩いようだが、我が軍において敵前逃亡や抗命罪は、時効無しの重罪!!最悪家族や親族もろとも即刻その場で死刑なんだ!!だからこれは国民の為だけではない!!両親やホタルを守る為の戦いでもあるんだ!!」

 そう、これは最早カズマ個人の戦いではない。カズマにも守らなければならない物があるのだ。
 だからコウゾウが愚王だと分かっていても、それでもカズマは守りたい物の為に・・・ただ大切な物の為に、こうしてシオンやナナミと命を懸けて戦っているのだ。
 そしてそのカズマの姿勢、その覚悟は、今もこの戦いを戦場カメラマンを通じてライブ中継で観戦しているであろうジャパネス王国の国民たちに、勇気と希望を与える事にも繋がる。それはコウゾウが愚王であろうと無かろうと関係無い事なのだ。

 「俺の前に立ちはだかるのであれば、例えかつての同胞だろうと、君には今ここで死んで貰うぞ!!キサラギ少尉!!」

 体勢を崩したナナミに、カズマの渾身のビームサーベルの一撃が迫る。
 だがそれでもナナミは諦めない。ここで諦める訳にはいかないのだ。
 今のナナミにもカズマ同様、守らなければならない物があるのだから。
 そう・・・今のナナミの腹の中には、シオンとの間に身ごもったばかりの赤子が。
 ナナミもカズマと同じだ。ただ大切な物の為に、命を懸けてカズマと戦うのだ。

 「斬り捨て、御免えええええええええええええん!!」

 カズマのビームサーベルが、ナナミのブレズヴェルク・ダガーの右舷を切り裂く。

 「これでもう変形は出来まい!!」
 「まだだあああああああああああああああああっ!!」
 「何いっ!?ぐああああああああああああっ!!」

 だがカウンターで繰り出されたナナミのマナ・ビームサーベルによる一撃が、カズマのマガツキの背中の飛行ユニットを破壊した。
 両者、壮絶な相打ち・・・互いにフレームアームを損傷させられた2人が爆風で吹っ飛ばされ、力無く地上へと落下していく。

 「ナナミ!!」
 「カズマ中佐!!」

 慌てて戦闘を中断し、互いに別の方向に吹っ飛ばされたナナミとカズマを救助に向かうシオンとホタルだったのだが。

 「くっ、ワタナベ中佐が言うように、これでは変形した所で機体のバランスが・・・!!緊急安全装置作動、マナエネルギー完全開放、何とか墜落の衝撃を・・・!!」
 『ナナミさん!!』
 「スティレット!?」

 地上に墜落するナナミに送られる、スティレットからの通信。
 そして同じく地上へと墜落するカズマもまた、何とか地上に激突する寸前の所で、全速力で駆け付けて来たホタルに抱き止められた。
 互いにマガツキの緊急安全装置を作動。地面に派手に激突したものの、それでも何とか2人共軽傷で済んだようだ。マガツキの防御力の高さを表していると言えるだろう。
 だがホタルのマガツキもまた、元々シオンとの死闘で激しく損傷していた事に加え、さらに地面に激突した衝撃をまともに受けて、中破してしまった。
 ホタルのマガツキから派手にほとばしる、凄まじい火花。

 「済まないホタル、助かっ・・・!?」
 「はああああああああああああああああああああっ!!」
 「な・・・!?」

 だがそこへ上空から颯爽と現れたのは、損傷したフレズヴェルク・ダガーを脱ぎ捨て、いつの間にかイクシオンに換装していたナナミだった。
 ナナミとカズマが相打ちになると事前に予測していたスティレットがナナミを救う為に、バハムートからイクシオンを絶妙なタイミングで、リニアカタパルトでナナミの下に飛ばしていたのだ。

 「何いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」
 「カズマ中佐ぁっ!!ぐああああああああああっ!!」
 「ホタルーーーーーーーーーーーっ!!」

 次々と放たれたマナ・ホーリービームライフルから、カズマを抱き止めたまま慌ててビームシールドでカズマを庇ったホタルだったのだが、シオンとの戦いによるダメージ、そして地面に激突した衝撃で、ビームシールド発生装置が損傷していたようだ。
 ナナミの一撃で、遂にビームシールド発生装置が大破。地面に倒れたまま完全に無防備になってしまったカズマとホタルに、イクシオンを纏ったナナミが地上に降りてマナ・ホーリービームサーベルを突き付ける。

 「ワタナベ中佐。そこの強化人間の彼女と共に、どうか降伏を。」
 「キサラギ少尉・・・くっ・・・!!」
 「お願いです。どうか降伏を。私は2人を殺したくはありません。」

 戦場とは残酷な場所だ。例え肉親や友人、恋人が相手だろうと、降伏せずに敵対する以上は殺さなければならない。さもなくば自分が殺さなかった「敵」によって、自軍や友軍に多大な犠牲が出る事も有り得るからだ。
 ナナミとカズマは互いに面識は無いが、それでもカズマはコウゾウやシュナイダーのような下衆野郎とは違う・・・正真正銘の「武人」なのだ。
 悲壮な運命により、互いに敵同士として殺し合う羽目になってしまったが・・・それでもナナミは出来ればカズマを殺さずに済ませたかった。

 「ナナミ、無事か!?」
 「シオン隊長!!」

 そしてナナミの身を案じ、慌てて駆け付けて来たシオン。
 互いにマガツキを損傷し、地面に倒れて無防備の姿を晒し出すカズマとホタル。さらに目の前には万全の状態のイクシオンを纏ったナナミが。
 シオンもシオンでホタルとの死闘の最中に左腕を負傷し、派手に出血してしまっているようだが・・・それでも戦えない程の傷では無いようだ。
 この状況ではどう考えても、これ以上戦った所で確実にシオンとナナミに殺される・・・戦闘継続は不可能だった。
 エミリア様ならば、決して悪いようにはしないだろうと・・・それを信じたカズマは何とか身体を起こし、両手を上げてナナミに降伏の意志を示したのだった。

 「・・・分かった。俺とホタルは君たちにコーネリア共和国軍に降伏する。」
 「カズマ中佐、しかしそれでは・・・!!」
 「ただし先程のカミカゼ隊と同様に、エミリア様の精霊魔法でホタルを治して頂く事が条件だ。」
 「・・・カズマ中佐・・・。」

 決意の表情のカズマを見たホタルもまた、何とか身体を起こして両手を上げる。
 それを確認したナナミが深く溜め息をつき、マナ・ホーリービームサーベルを懐に収めた。

 「当然です。エミリア様もそれを心から望んでおられますから。」
 「感謝する、キサラギ少尉・・・それと・・・。」

 立ち上がったカズマは、突然ナナミに深く頭を下げた。
 いきなりの出来事に唖然とし、思わずカズマに抗議しようとするホタルだったのだが、カズマのとても辛そうな表情を見て思い留まってしまう。
 そして唖然としていたのはナナミも同じだったのだが・・・カズマの口から語られたのは、ナナミが思いもしなかった贖罪(しょくざい)の言葉だった。

 「6年前の大震災の、あの日・・・俺は避難所から必死に電話をしてきた君を見捨てるような事を言ってしまった。自分たちだけで何とかしてくれなどと・・・上層部から命じられていた事だとはいえ、何て事を言ってしまったんだと、俺は今でも激しく後悔しているよ。」
 「・・・じゃあ6年前・・・あの電話で私と話していたのは・・・まさか・・・」

 あの時電話で軍に助けを求めて来た少女が、まさかこうして時を経て敵として自分の前に現れ、よもや殺し合う羽目になってしまうとは。
 運命というのは何と残酷な物なのか・・・それでもカズマはナナミに対し、心からの謝罪を行ったのだった。

 「今更こんな事を言った所で、君に許して貰えるなどとは到底思っていない。だがそれでも言わせてくれ・・・キサラギ少尉、6年前に君を救ってやれなかった事・・・本当に済まなかった。」

最終更新:2019年01月04日 08:58