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使い魔ファイト-17 - (2007/07/18 (水) 07:30:16) の1つ前との変更点

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 授業が始まる。やっぱりミキタカいないし。あいつ自由すぎ。  モンモランシーとギーシュもいないみたいね。どこでいちゃついてるのかしら。うらやまいやらしいわね。 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですね」  それは意見の分かれるところだと思いますシュヴルーズ先生。 「おやおや変わった使い魔を召喚したものですね、ええと……」  顔を伏せる生徒複数名。変わった使い魔だらけでシュヴルーズ先生がいじる相手に困ってる。  何あの蛙みたいなの。マリコルヌの? ちっさ。しょぼっ。後で笑ってやるの決定ね。  キュルケ誇らしげだけどあんたなんか実質呼んでないのと一緒じゃない。偉そうに胸張って。わたしに分けるか触らせるかしなさいよ。  むっ、眼鏡の横に浮かんでるちっちゃなドラゴンがこっち見てる。喧嘩売ってるのかしら。睨み返しておこうっと。 「あれあれ、台車で運ばれてるやつ。あの岩に埋め込まれた人間みたいなのは何?」 「岩に埋め込まれた人間なんじゃないの」 「そこでうごめいてる緑色のバラバラ死体は何?」 「緑色のバラバラ死体に見えるわね」 「なんだ。ルイチュってばなんにも知らないのね」  くっ。屈辱。皆してわけ分かんないモンばっかり召喚しないでほしいわ。グェスがまともに見えてくる。 「今から皆さんには土の系統の基本である『錬金』を覚えてもらいます」  シュヴルーズ先生がルーンを唱え、杖を振るう。ただの石ころがピカピカ光る真鍮に変化した。 「ゴ、ゴ、ゴ、ゴールドじゃない! ゴールド! ゴールド!」  どこの馬鹿かしらねうるさいったらないわと思ったらうちの馬鹿だった。 「グェスちょっと静かになさい」 「だってゴールドじゃないゴールド! あのババァ金作った!」 「ババァが作ったのは金じゃなくて真鍮! そんなに驚くようなことしてないの!」 「ミス・ヴァリエール! 授業中の私語は慎みなさい!」  怒られた。グェスのせいだ。 「おしゃべりをする暇があるのなら……」  シュヴルーズ先生とわたしの視線が交錯した。先生が一つ頷き、わたしが二つ頷き返す。 「それではミスタ・マリコルヌ。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」  台詞の前半と後半でつながりが悪いと感じた人も多かっただろう。  指名されたマリコルヌをはじめとして、皆が腑に落ちない顔をしている。  それでも文句を言わないのは、わたしが呪文を使えば何がどうなるか知っているから。  今年初めて担当になったシュヴルーズ先生も知ってるところを見ると、かなり有名になってるみたいね。  気のせいかわたしの見せ場を一つ無くしてしまったような……気のせいだといいんだけど。 「ゼロのルイチュだから気ぃ遣ってくれたのね。あのババァ、けっこういいやつじゃん」 「……今度ゼロって言ったら食事抜きだからね」  グェスに言われるまでもなくガックリきたけど、わたしは知らなかった。  今日という日はまだまだ終わらない。災厄がてぐすね引いて待っている。助けて。  昼食。授業に出ていなかったくせして堂々と座ってるミキタカ。だから自由すぎ。 「ルイズさん。自分の中にいる別の存在を感じたことはありませんか。その影響を受けたことは?」  ああ。こいつってちょっとした歓談の話題もこういうものしかないのね。次からは手招きされても遠くに座ろう。 「本来の自分にないはずの傾向はありませんか。ちょっとした趣味嗜好、なんでもかまいません」  ぺティはニコニコ顔でご主人様を見ている。この主人にして使い魔あり。 「外に出ないよう隠しているものはありませんか」  あったって言えるわけないでしょ。  わたしはね、生まれてこのかたずっとむっつり助平で通してるの。誰かの影響なんか受けてないの。  自分の中にやりたい盛りの犬畜生でも抱えてるっていうのかしら。失礼な話よね。 「ねえねえ、あたし達の他にも使い魔いるよ」  ナイスグェス。話題変えよう話題。  グェスの指差した先では巨大な鍋……いや、釜かな。大釜が動いていた。 「あれは使い魔じゃありませんよ」 「使い魔以外の何にも見えないけど」 「あれは私の兄です」  ……血か。  昼食終了。お腹いっぱい。部屋に戻ろうとしたら呼び止められた。 「ルイズさんと私は皿洗い。グェスさんはデザートを配ってください。老師は食材の運び込みをお願いします」 「……なんですって?」 「ルイズさんは皿洗いですよ」 「何が?」 「老師とグェスさんの分の食事をもらいましたから、その御礼です」  貴族であるわたしに皿洗いをしろですって!  なんて怒鳴りつける選択肢もあったかもしれないんだけど、なぜかわたしは厨房でお皿を洗っている。  ここんとこ説得されることに慣れてるってのもあるけど、それだけじゃない。  なぜか分からないけどあまり抵抗無いのよね。グェスから言われたことがまだ頭に残ってるのかな。  酌が無いだけマシだなんて思っちゃうんだけど、わたしの前世は酌婦でもしてたんだろうか。  ぺティは年寄りにあるまじき体力で荷物を運んでる。  わたしは黙々と食器を洗っている。  グェスもそれなりに頑張ってるんだろう。貴族に喧嘩売ってたりしなきゃいいけど。  で、ミキタカも隣で皿洗ってる。シエスタと楽しくおしゃべりしながらね。なんでこいつばっかりいい思いしてるのよ。  楽しそうに話するもんじゃないわよ。グラモンの男は口をきくだけで子種仕込むのよ。 「ねえシエスタ」  ミキタカとばっかり話してる。まるでわたしがお邪魔虫みたいじゃないの。ええい、だったらこっちから話しかけてやる!  という決意の元話しかけたらそれだけでびっくりされるルイズマジック。何もそんな顔しなくても。 「あの……ミス・ヴァリエール、なぜ私の名前を?」  ……隠れ巨乳に注目して名前覚えてたなんて言ったらまずいよね。 「メイドの名前を覚えていることがそんなにおかしいかしら」 「も、申し訳ありません!」  なんでそんなにビビるのよー。別に怒ってないんだってばー。皿洗いの手ぇ止めてまで怯えることないってば。 「どうかお許しください……ミス・ヴァリエール」  そんな子犬みたいな目で見られてもなあ。身をすくませるシエスタに背徳的なものを覚えるけど、さすがにねぇ。  メイドの午後ワールドだったらすごいことしちゃうけど、ここ現実だし。しかもアウェーだし。  コック達の視線が柔肌に突き刺さる。いじめてるわけじゃないんだってのに。 「シエスタさん、ルイズさんは怒っているわけではありませんよ」  うわ、ずるっ。何よそのフォローのタイミング。こいつはそうやっていいとこ持ってくわけね。  ああ、シエスタの目。王子様を見る目。コックの人達がわたしを見る目……こわっ。何この落差。  何よ何よ、みんなでわたしを悪者にしちゃってさ。わたし抜きで勝手によろしくやってればいいじゃない。 「……お皿洗うの飽きた」 「そうですか」 「デザート配る方がいい。グェスと交代してくる」  いじらしいわたし。ただやめるだけじゃないあたりが成長してる証よね。自分で言ってて空しいけど。あーあ。  厨房ではちょっとしたアクシデントが起きていたけど、食堂ではちょっとどころじゃないアクシデントが起きていた。  今日のわたしは本当に裏目裏目。今日だけじゃないかもしれないけど、深く考えると死にたくなるから考えない。  メイド達が隅で震えている。生徒達は北の壁際を中心に、距離を保って半円状に囲んでいた。  そこから一人だけ抜け出てる子が……あれモンモランシーかしら。  てことはあの傍らにいるのが使い魔? あれが? 蛙って聞いてたけど……あれ蛙? 気持ち悪いことは間違いないけどねぇ。 「いい加減にしてギーシュ! いつまでそうやっている気なの!」 「お嬢様、我々は大変に目立っているようです」 「うるさい!」  懸命な呼びかけなんだけど、相手が大釜じゃ気の毒な人以外の何者にも見えない。 「うるさいのは君だモンモランシー! 君だけじゃない! 皆そうだ! 近寄るな! 僕に近寄るな!」  うわ、ド修羅場じゃないの。 「そんなことじゃ友達いなくなるよ、ねっ」 「うるさああああい!」  大釜の中で怒鳴ってるもんだから、わんわんと響く響く。  グェスグェスグェス……あ、いたいた。物凄い勢いで野次馬の中に溶け込んでる。 「ちょっとグェス。これどうしたの」  近寄るなり、グェスはわたしの鎖を掴んだ。どんだけ寂しがりやよ。 「いやわかんないだけど。あの釜の中覗こうとしたヤツがいたらしいよ。で、ミッキー兄がキレチャッタってわけ」  ミッキー兄の部分につっこみたいけど今は放っておくことにする。 「だいぶアルコール入ってるみたいよ。ほら」  大釜の脇にはワインの瓶が二本、空になって転がっていた。  まさか一人であれ全部空けたってわけじゃないでしょうね。そんなやつ激昂させたらヤバイんじゃないの。 「近寄るな近寄るな近寄るな近寄るな近寄るな近寄るな誰も近寄るなァァァ!」  うわ……あれなんだっけ。ワルキューレだっけか。 「スッゲェ! ねえ、あれも魔法?」 「魔法以外でできるわけないでしょ」  こんなとこでゴーレム呼び出すなんて、完全に判断能力失くしちゃってるよね。  誰か先生呼んできた方がいいんじゃないの。それとも肉親に説得させるためミキタカ呼んでくるか。 「やめなさいギーシュ! 私の言うことが聞けないの!?」  待てよ……ミキタカを呼ぶ? またあいつにおいしいとことらせるってこと? 「お嬢様、その説得は逆効果でございます」  これは何か予感的なものを感じますでございますよ。わたしの見せ場にできるんじゃないかな。 「うるさい! 僕に命令するな! どうせ死ぬんだ、もうどうなったってかまうもんかッ!」  ここで今日一日の帳尻を合わせる、と。いいね、これでいこう。 「待ちなさいギーシュ! 狼藉はそこまでよ!」  進み出た勇敢な美少女に集まる視線。ふふっ、今日のヒロインはわ、た、し。 「これ以上暴れたいのならわたしが相手になるわ!」  モンモランシーに小さくウインクをして、本気で傷つける意思が無いことをアピール。取り押さえればいいのよ。 「うるさいゼロのルイズッ! そんなに死にたいなら君から相手してやる!」  ワルキューレが武器を構えてこちらへ向いた。ふん、望むところよ。わたしの爆発なめるなっていうの。 「いくわよグェス! 援護しなさい!」  返事が無い。 「グェス、わたしの詠唱時間を稼ぐのよ!」  返事が無い。 「グェス?」  振り返ると、わたしの鎖を握っているのはなぜかマリコルヌだった。グェスはいない。 「何よマリコルヌ。何であなたがわたしの鎖持ってるのよ」 「君の使い魔、僕にこれ握らせて走っていっちゃったんだけど」 「は?」 「君が前に出た時、目にも留まらない勢いで」 「は?」  え? 何? は? あ? あ……あの女アアアアアアアア! ----
 授業が始まる。やっぱりミキタカいないし。あいつ自由すぎ。  モンモランシーとギーシュもいないみたいね。どこでいちゃついてるのかしら。うらやまいやらしいわね。 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですね」  それは意見の分かれるところだと思いますシュヴルーズ先生。 「おやおや変わった使い魔を召喚したものですね、ええと……」  顔を伏せる生徒複数名。変わった使い魔だらけでシュヴルーズ先生がいじる相手に困ってる。  何あの蛙みたいなの。マリコルヌの? ちっさ。しょぼっ。後で笑ってやるの決定ね。  キュルケ誇らしげだけどあんたなんか実質呼んでないのと一緒じゃない。偉そうに胸張って。わたしに分けるか触らせるかしなさいよ。  むっ、眼鏡の横に浮かんでるちっちゃなドラゴンがこっち見てる。喧嘩売ってるのかしら。睨み返しておこうっと。 「あれあれ、台車で運ばれてるやつ。あの岩に埋め込まれた人間みたいなのは何?」 「岩に埋め込まれた人間なんじゃないの」 「そこでうごめいてる緑色のバラバラ死体は何?」 「緑色のバラバラ死体に見えるわね」 「なんだ。ルイチュってばなんにも知らないのね」  くっ。屈辱。皆してわけ分かんないモンばっかり召喚しないでほしいわ。グェスがまともに見えてくる。 「今から皆さんには土の系統の基本である『錬金』を覚えてもらいます」  シュヴルーズ先生がルーンを唱え、杖を振るう。ただの石ころがピカピカ光る真鍮に変化した。 「ゴ、ゴ、ゴ、ゴールドじゃない! ゴールド! ゴールド!」  どこの馬鹿かしらねうるさいったらないわと思ったらうちの馬鹿だった。 「グェスちょっと静かになさい」 「だってゴールドじゃないゴールド! あのババァ金作った!」 「ババァが作ったのは金じゃなくて真鍮! そんなに驚くようなことしてないの!」 「ミス・ヴァリエール! 授業中の私語は慎みなさい!」  怒られた。グェスのせいだ。 「おしゃべりをする暇があるのなら……」  シュヴルーズ先生とわたしの視線が交錯した。先生が一つ頷き、わたしが二つ頷き返す。 「それではミスタ・マリコルヌ。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」  台詞の前半と後半でつながりが悪いと感じた人も多かっただろう。  指名されたマリコルヌをはじめとして、皆が腑に落ちない顔をしている。  それでも文句を言わないのは、わたしが呪文を使えば何がどうなるか知っているから。  今年初めて担当になったシュヴルーズ先生も知ってるところを見ると、かなり有名になってるみたいね。  気のせいかわたしの見せ場を一つ無くしてしまったような……気のせいだといいんだけど。 「ゼロのルイチュだから気ぃ遣ってくれたのね。あのババァ、けっこういいやつじゃん」 「……今度ゼロって言ったら食事抜きだからね」  グェスに言われるまでもなくガックリきたけど、わたしは知らなかった。  今日という日はまだまだ終わらない。災厄がてぐすね引いて待っている。助けて。  昼食。授業に出ていなかったくせして堂々と座ってるミキタカ。だから自由すぎ。 「ルイズさん。自分の中にいる別の存在を感じたことはありませんか。その影響を受けたことは?」  ああ。こいつってちょっとした歓談の話題もこういうものしかないのね。次からは手招きされても遠くに座ろう。 「本来の自分にないはずの傾向はありませんか。ちょっとした趣味嗜好、なんでもかまいません」  ぺティはニコニコ顔でご主人様を見ている。この主人にして使い魔あり。 「外に出ないよう隠しているものはありませんか」  あったって言えるわけないでしょ。  わたしはね、生まれてこのかたずっとむっつり助平で通してるの。誰かの影響なんか受けてないの。  自分の中にやりたい盛りの犬畜生でも抱えてるっていうのかしら。失礼な話よね。 「ねえねえ、あたし達の他にも使い魔いるよ」  ナイスグェス。話題変えよう話題。  グェスの指差した先では巨大な鍋……いや、釜かな。大釜が動いていた。 「あれは使い魔じゃありませんよ」 「使い魔以外の何にも見えないけど」 「あれは私の兄です」  ……血か。  昼食終了。お腹いっぱい。部屋に戻ろうとしたら呼び止められた。 「ルイズさんと私は皿洗い。グェスさんはデザートを配ってください。老師は食材の運び込みをお願いします」 「……なんですって?」 「ルイズさんは皿洗いですよ」 「何が?」 「老師とグェスさんの分の食事をもらいましたから、その御礼です」  貴族であるわたしに皿洗いをしろですって!  なんて怒鳴りつける選択肢もあったかもしれないんだけど、なぜかわたしは厨房でお皿を洗っている。  ここんとこ説得されることに慣れてるってのもあるけど、それだけじゃない。  なぜか分からないけどあまり抵抗無いのよね。グェスから言われたことがまだ頭に残ってるのかな。  酌が無いだけマシだなんて思っちゃうんだけど、わたしの前世は酌婦でもしてたんだろうか。  ぺティは年寄りにあるまじき体力で荷物を運んでる。  わたしは黙々と食器を洗っている。  グェスもそれなりに頑張ってるんだろう。貴族に喧嘩売ってたりしなきゃいいけど。  で、ミキタカも隣で皿洗ってる。シエスタと楽しくおしゃべりしながらね。なんでこいつばっかりいい思いしてるのよ。  楽しそうに話するもんじゃないわよ。グラモンの男は口をきくだけで子種仕込むのよ。 「ねえシエスタ」  ミキタカとばっかり話してる。まるでわたしがお邪魔虫みたいじゃないの。ええい、だったらこっちから話しかけてやる!  という決意の元話しかけたらそれだけでびっくりされるルイズマジック。何もそんな顔しなくても。 「あの……ミス・ヴァリエール、なぜ私の名前を?」  ……隠れ巨乳に注目して名前覚えてたなんて言ったらまずいよね。 「メイドの名前を覚えていることがそんなにおかしいかしら」 「も、申し訳ありません!」  なんでそんなにビビるのよー。別に怒ってないんだってばー。皿洗いの手ぇ止めてまで怯えることないってば。 「どうかお許しください……ミス・ヴァリエール」  そんな子犬みたいな目で見られてもなあ。身をすくませるシエスタに背徳的なものを覚えるけど、さすがにねぇ。  メイドの午後ワールドだったらすごいことしちゃうけど、ここ現実だし。しかもアウェーだし。  コック達の視線が柔肌に突き刺さる。いじめてるわけじゃないんだってのに。 「シエスタさん、ルイズさんは怒っているわけではありませんよ」  うわ、ずるっ。何よそのフォローのタイミング。こいつはそうやっていいとこ持ってくわけね。  ああ、シエスタの目。王子様を見る目。コックの人達がわたしを見る目……こわっ。何この落差。  何よ何よ、みんなでわたしを悪者にしちゃってさ。わたし抜きで勝手によろしくやってればいいじゃない。 「……お皿洗うの飽きた」 「そうですか」 「デザート配る方がいい。グェスと交代してくる」  いじらしいわたし。ただやめるだけじゃないあたりが成長してる証よね。自分で言ってて空しいけど。あーあ。  厨房ではちょっとしたアクシデントが起きていたけど、食堂ではちょっとどころじゃないアクシデントが起きていた。  今日のわたしは本当に裏目裏目。今日だけじゃないかもしれないけど、深く考えると死にたくなるから考えない。  メイド達が隅で震えている。生徒達は北の壁際を中心に、距離を保って半円状に囲んでいた。  そこから一人だけ抜け出てる子が……あれモンモランシーかしら。  てことはあの傍らにいるのが使い魔? あれが? 蛙って聞いてたけど……あれ蛙? 気持ち悪いことは間違いないけどねぇ。 「いい加減にしてギーシュ! いつまでそうやっている気なの!」 「お嬢様、我々は大変に目立っているようです」 「うるさい!」  懸命な呼びかけなんだけど、相手が大釜じゃ気の毒な人以外の何者にも見えない。 「うるさいのは君だモンモランシー! 君だけじゃない! 皆そうだ! 近寄るな! ぼくに近寄るな!」  うわ、ド修羅場じゃないの。 「そんなことじゃ友達いなくなるよ、ねっ」 「うるさああああい!」  大釜の中で怒鳴ってるもんだから、わんわんと響く響く。  グェスグェスグェス……あ、いたいた。物凄い勢いで野次馬の中に溶け込んでる。 「ちょっとグェス。これどうしたの」  近寄るなり、グェスはわたしの鎖を掴んだ。どんだけ寂しがりやよ。 「いやわかんないだけど。あの釜の中覗こうとしたヤツがいたらしいよ。で、ミッキー兄がキレチャッタってわけ」  ミッキー兄の部分につっこみたいけど今は放っておくことにする。 「だいぶアルコール入ってるみたいよ。ほら」  大釜の脇にはワインの瓶が二本、空になって転がっていた。  まさか一人であれ全部空けたってわけじゃないでしょうね。そんなやつ激昂させたらヤバイんじゃないの。 「近寄るな近寄るな近寄るな近寄るな近寄るな近寄るな誰も近寄るなァァァ!」  うわ……あれなんだっけ。ワルキューレだっけか。 「スッゲェ! ねえ、あれも魔法?」 「魔法以外でできるわけないでしょ」  こんなとこでゴーレム呼び出すなんて、完全に判断能力失くしちゃってるよね。  誰か先生呼んできた方がいいんじゃないの。それとも肉親に説得させるためミキタカ呼んでくるか。 「やめなさいギーシュ! 私の言うことが聞けないの!?」  待てよ……ミキタカを呼ぶ? またあいつにおいしいとことらせるってこと? 「お嬢様、その説得は逆効果でございます」  これは何か予感的なものを感じますでございますよ。わたしの見せ場にできるんじゃないかな。 「うるさい! ぼくに命令するな! どうせ死ぬんだ、もうどうなったってかまうもんかッ!」  ここで今日一日の帳尻を合わせる、と。いいね、これでいこう。 「待ちなさいギーシュ! 狼藉はそこまでよ!」  進み出た勇敢な美少女に集まる視線。ふふっ、今日のヒロインはわ、た、し。 「これ以上暴れたいのならわたしが相手になるわ!」  モンモランシーに小さくウインクをして、本気で傷つける意思が無いことをアピール。取り押さえればいいのよ。 「うるさいゼロのルイズッ! そんなに死にたいなら君から相手してやる!」  ワルキューレが武器を構えてこちらへ向いた。ふん、望むところよ。わたしの爆発なめるなっていうの。 「いくわよグェス! 援護しなさい!」  返事が無い。 「グェス、わたしの詠唱時間を稼ぐのよ!」  返事が無い。 「グェス?」  振り返ると、わたしの鎖を握っているのはなぜかマリコルヌだった。グェスはいない。 「何よマリコルヌ。何であなたがわたしの鎖持ってるのよ」 「君の使い魔、ぼくにこれ握らせて走っていっちゃったんだけど」 「は?」 「君が前に出た時、目にも留まらない勢いで」 「は?」  え? 何? は? あ? あ……あの女アアアアアアアア! ----

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