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学院! メイジとメイド その② - (2020/04/21 (火) 08:30:44) のソース

学院! メイジとメイド その② 

四系統のどれにも目覚めていない落ちこぼれ。 
ドット、ライン、トライアングル、スクウェアというランクのうち、 
一番下のドットにすら及ばない、魔法は使えるけど必ず失敗するメイジ。 
成功率ゼロ。だからゼロのルイズ。 
そして――メイジの実力は召喚される使い魔にも反映されるらしい。 
それを聞いた承太郎は約五十日の旅で得た『自信』ってやつがぶっ壊れそうだった。 
「ちょっと! 私の使い魔と何してんのよ!」 
授業終了後、承太郎がキュルケからルイズの話を聞いていると、 
ルイズ本人が不機嫌ですと顔に書いてやってきた。 
「別にー、あんたの二つ名を説明して上げてただけよ」 
「よ、余計な事しないで! こいつは私の使い魔なの! 
 こいつに物事を教えるのは私だし、面倒を見るのも私なんだから!」 
「プッ、アッハッハッ。その使い魔に面倒見てもらおうとしたのは、 
 いったいどこのどちら様かしら? ゼロのルイズ」 
「ど、どういう意味よ?」 
「この平民に、下着の洗濯を頼んだんですってね」 
「それが何よ。下僕がいるんだから身の回りの世話を任せるのは当然でしょ?」 
「でも、若い女が、若い男に、下着まで世話をさせるだなんて……はしたないわ」 
「ははは、はしたないー!? それをあんたが言うの!?」 
「いくら私でも、好きでもない男相手に下着を見せても触らせないわ」 
見せるのはいいのか、と承太郎は呆れた。 
この世界の貴族というのはとことん慎みというものとは無縁らしい。 
「これはもう貴族とか平民とか関係なく、レディとしての常識よ常識」 
「あああ、あんた! キュルケと朝何か話してたと思ってたら……!」 
ルイズの矛先が承太郎に向けられる。

「……言ったはずだぜ。寮や学院の事を質問していたと」 
「それが、何で私の命令をキュルケに報告してんのよ!」 
「…………」 
承太郎が黙っていると、キュルケが口出しをしてきた。 
「こいつが『洗濯は自分でするのか?』なんて私に訊いてきたから、 
 ちょっと事情を訊ねてみただけよ。 
 まさかあんたが使い魔に下着を見せびらかしてるなんてねぇ」 
「ちちち、違うわよ! それに、こいつ使い魔だもの! 
 平民だとか男だとか以前に、使い魔なの! だからいいの!」 
「平民にも使い魔にも性別くらいあってよ? 
 ルイズったら殿方にモテないからって感覚狂ってるんじゃない?」 
「あんたみたいな節操なしと一緒にしないで!」 
「負け犬の遠吠えがうるさいわね。 
 食事に遅れるから私はそろそろ行くわよ」 
キュルケはルイズいじめに飽きたのか、それとも単純にお腹が空いたのか、 
喧嘩を打ち切ってルイズの横を颯爽と通り過ぎ、くるりと振り向き承太郎を見る。 
「ルイズの使い魔が嫌になったら、私のところにいらっしゃい。 
 あんた顔がいいから、特別に私の召使にして上げてもよくってよ」 
「……悪いが遠慮しとくぜ」 
「あ、そう。じゃあね」 
所詮平民とキュルケも思っているらしく、 
承太郎に断られてもたいして気に留めず教室を立ち去った。 
そして残されたルイズは、承太郎の頬にビンタしようとして、 
身長が届かずジャンプして飛び掛り、承太郎がヒョイと避けて、ズデン。 
前のめりに地面に突っ伏した。 
「……大丈夫か?」 
「何で避けるのよ!?」 
ルイズは理不尽に怒鳴った。

結局ルイズは器用に避ける承太郎を殴るのをあきらめ、教室を出た。 
食堂への道中、ルイズは承太郎の表情の微妙な違和感に気づく。 
「なに不機嫌そうな顔してんのよ」 
キュルケにからかわれて不機嫌全開のルイズに鏡を見せてやりたいと思いつつ、 
承太郎は自分が不機嫌なのを否定せずに冷たい口調で言った。 
「てめー……メイジだの貴族だのと威張ってたくせに魔法を使えねーのか」 
「ちち、違うわよ! 魔法は使えるけど……し、失敗するだけだもん!」 
「それは使えねーのと同じだぜ。 
 貴族ってのは魔法が使えなくても口先だけで威張れるもんなのか?」 
「うっ……」 
「威張るだけの能無し野郎は俺の故郷にもいたが、はっきり言って気に食わねぇ。 
 てめーが女じゃなかったら気合入れてやってるところだぜ」 
「ののの、能無しですって?」 
「貴族だメイジだというだけで平民を見下すような奴は……俺が貴族として認めねぇ」 
承太郎の言っている事は、ルイズにとって痛いほど解る事だった。 
自分はメイジなのに、貴族なのに、魔法が使えない。 
だから学校のみんなから認められない。 
だから家族から認められない。 
だからゼロと呼ばれる。 
それでも精いっぱい貴族として恥じない生き方をしてきた。 
貴族の誇りを守ろうと、一生懸命。 
けれど、その努力はやはり……誰からも認められない。 
それはとても悲しくて、さみしくて、苦しくて、悔しかった。

平民に、それも己の使い魔から自分の一番のコンプレックスを突かれ、 
ルイズは泣きそうになり……でも貴族としての意地が、それをこらえさせて……。 
「ジョータロー! あんた、ご飯抜き!」 
こんな事しか言い返せない自分が、とても情けなかった。 

ルイズが承太郎に叫んだ場所は、ちょうど食堂の前だった。 
ルイズは逃げるように食堂に飛び込んでいく。 
そして承太郎は……食堂に入らなくては昼食を盗めないという事で溜め息をついた。 
「あの……どうかなさいました?」 
そんな承太郎に声がかけられる。振り向くとメイドの格好をした素朴な少女の姿。 
彼女の黒髪を見て、そういえば黒髪の人間はこっちの世界じゃあまり見かけないなと思った。 
「いや……何でもねえ」 
「あなた、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう平民の……」 
平民という言い草に承太郎は『またか』と軽く落胆した。 
「……おめーも魔法使いなのか?」 
「いえ、私は違います。あなたと同じ平民です。 
 貴族の方々をお世話するために、ここでご奉仕させていただいてるんです」 
「……そうか」 
「私はシエスタっていいます。あなたは?」 
「承太郎だ」 
「変わったお名前ですね……。それで、ジョータローさん。 
 こんな所でどうしたんです? 本当に何もお困りでないんですか?」 
「……実を言うと威張りちらした貴族様に飯を抜かれちまってな」 
「まあ! それはおつらいでしょう、こちらにいらしてください」 
承太郎はこっちに来て初めて出会った貴族以外の人間、 
平民のシエスタの対応を見て、ようやくまともな人間が見つかったと思った。
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