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使い魔は手に入れたい-16 - (2007/08/02 (木) 17:06:40) のソース
「説明してくれないか!?さあ!さあ!さあ!さあ!さあ!さあ!さあ!!」 コルベールの顔がさらに近づいてくる。 その目は軽く血走っており、鼻息は荒く、生暖かくて気持ちが悪い。 「せ、説明しますから離れてもらえませんか!?」 この点に関しては必死だ。 もうすぐで唇と唇が触れそうなのだ。大体あと1㎝ぐらい。 女とキスならまだしも男とキスするのは精神衛生上最悪だ。しかもこんな衆人環視の中、目が血走って興奮したおっさんとしようものなら一生引きずる傷になる。 「む?おお、悪かったね。少し興奮してしまった」 これで少し!? もっと興奮したあんたなにする気だったんだ!?キス以上か!? 「それでその似ているものというのは?」 今度はちゃんと顔を離し、落ち着いた様子で聞いてくる。 これなら大丈夫か。 「『エンジン』というものです」 そう、コルベールが作ったものはエンジンだった。それはコルベールが天才といえる証明だ。 ラテン語のingenium(生まれながらの才能)を由来とする言葉で、エネルギーを動力に変えるものの総称、それが『エンジン』だ。 コルベールが作ったのはその中でも火を利用した熱機関と呼ばれるものだろう、……多分。 さすがに詳しいことまではわからないからな。 別にエンジン自体は全く凄いものではない。凄いのは魔法が使えるこの世界でエンジンを作ったことが凄いのだ。 さっきの生徒の発言通り大抵のことは魔法で済ますことができるのだ。 そして済ませられるからこそメイジどもはエンジンなどの、いわゆる科学技術などを発達させようと思わないのだ。 石を真鍮に変えたり、金に変えれたり、呪文一つで空が飛べたり、そんなのが普通なのだ。発達させるなんて考えが起こるわけない。 その中でエンジンを作ったのだ。それも平民ではなく、メイジであるコルベールが、魔法を使えるものが作ったのだ。 これを凄いと言わずして何を凄いというんだろうか。 少なくとも尊敬に値する凄さだろう。 「先ほどミスタ・コルベールが言っていたように、私の国では荷車にエンジンをつけて走らせています。馬は必要ありません。 船もエンジンを使えば帆をつけずに自由に動かせます。さらに空を飛ぶこともできます」 「なんと!やはり気づく人は気づいておる!」 私の説明にコルベールは喜びを隠しきれないようだ。自分と同じ考えを持つものがいたというのは嬉しいのだろう。 どうせこの世界じゃエンジンを作っている時点で変人確定だろうからな。 「きみはいったい、どこの国の生まれだね?」 また顔を近づけてコルベールが聞いてくる。 だから近づけるなって! 「日本という国です。ここからだとおそらく東のほうにあるんじゃないでしょうか?」 別に答えても構わないだろう。 どうせこの世界に日本などという国は無いだろうし。 別の世界きました、なんて言えるはずもないしな。正気を疑われる。 オスマンは知ってるけどな。 「ニホン、ニホンか。聞いたことがないな。しかし東というと……、まさかロバ・アル・カリイエの方から!?あの恐るべきエルフの住まう地を通って!? いや、『召喚』されたのだから、通らなくてもハルキゲニアへはやってこれるか。なるほど……」 なにやらぶつぶつと勝手に自己完結している間にコルベールの顔を押し無理やり自分の顔から引き離す。 これにコルベールは全く気づかなかった。 ある意味凄いな、尊敬できないが。 コルベールはうんうん頷きながら装置のほうへ戻っていく。 そして教壇に立つと教室を見回す。ようやく授業に戻るようだ。 「さて、皆さん!誰かこの装置を動かしてみないかね?なあに!簡単ですぞ!円筒に開いたこの穴に、杖を差し込んで『発火』の呪文を断続的に唱えるだけですぞ。 ただ、ちょっとタイミングにコツがいるが、慣れればこのように、ほれ」 コルベールが再び装置を作動させると再びヘビの人形が顔を出す。 「愉快なヘビくんがご挨拶!このように!ご挨拶!」 ヘビの人形は頭をぴょこぴょこ上下させる。 ……だからそれはつまらないって。 まずなんでヘビなんだ。あれか?人気取りのためか?うけると思ったのか? だとしたらあまりにもセンスが無い。だからといって私にセンスがあるかと聞かれれば否定するが。 そして生徒たちもつまらないと思っているのだろう、誰一人として装置を動かす意思を表すものはいない。 コルベールはそれを見てがっくり肩を落とした。 『エンジン』はきっと渾身の一作だったのだろう。それなのに生徒が誰も興味を示さないのであれば落ち込むのも当然か。 「ルイズ、あなた、やってごらんなさいよ」 そんな時突然そんな声が聞こえてきた。 その声が聞こえた方向に振り向くと授業前ルイズをなじっていたあの巻き髪がいた。 バカかこいつ?ルイズにやらせたら装置が爆発するに決まってるだろうが! そしてどうせ片付けをさせられるに決まってる! あれが爆発したら片付けは結構大変そうじゃないか!だというのに巻き髪のアマが余計なこと言いやがって! 「なんと!ミス・ヴァリエール!この装置に興味があるのかね?」 その声を聞きコルベールは顔を輝かせる。 させたら世界初(であろう)エンジンが壊れるぞ。 そして問題のルイズは私の隣で困ったように首をかしげていた。 「土くれのフーケを捕まえ、なにか秘密の手柄を立てたあなたなら、あんなこと造作もないはずでしょ?」 巻き髪ルイズを挑発するように、いや、挑発しているのだろう。 だがそういったことはやめて欲しい。私の苦労が増えるからだ。 もしルイズがやる気になって爆発したら、後悔させてやる。 「やってごらんなさい?ほら、ルイズ。ゼロのルイズ」 ルイズはその言葉を聞くと立ち上がり無言で教壇に歩み寄っていった。前列の席に座った生徒たちは椅子の下に隠れ始める。 巻き髪はわかっているのだろうか。 言葉には力がある。人を動かす力だ。それで今お前はルイズを動かした。 だが動かした結果も考えて言葉を発しているのか? きっと魔法は失敗するだろう。あの装置は爆発する。きっとコルベールはルイズに片づけを命じるに違いない。必然的に私も手伝うことになる。 その結果私の自由は奪われるだろう。そのせいで心にはストレスが溜まる。 コルベールはルイズのゼロを知らないのか忘れているのか知らないがにこにこと嬉しそうに笑っている。 ルイズは目を瞑ると大きく深呼吸し、円筒に杖を差し込む。 そして呪文を唱え始める。 私もそれを見ながら机に身を隠すように沈み込む。前は帽子が潰れたからな。気をつけなければならない。 溜まったストレスはどこにぶつければいい? 私なら溜めさせた奴にぶつける。つまり巻き髪にだ。 巻き髪が余計なことを言わず、ただ黙っておけば片付けはしなくて済んだのだから。 そして唱え終わった瞬間、円筒は爆発しコルベールとルイズを吹き飛ばした。 生徒の悲鳴が響き渡る。 爆発は油に引火し、あたりに火を振りまいた。椅子や机が燃え始める。 「ミスタ・コルベール。この装置、壊れやすいです」 そんな阿鼻叫喚の中、ルイズは立ち上がり、周りなど意に介した風もなく腕を組み言い放った。 さすが慣れてるな。 コルベールが起きてこないということは気絶しているらしいな。起きたら悲鳴を上げそうだ。 そんなことを思いながら立ち上がり巻き髪のほうへ近寄る。 「お前が壊したんだろ!ゼロ!ゼロのルイズ!いい加減にしてくれよ!」 「というか燃えてるよ!消せよ!」 ルイズへの数々の罵詈雑言が飛び交う中私は巻き髪を射程距離内に入れていた。 「『キラークイーン』」 もう一つの腕を発現させると立ち上がりなにやら呪文を唱えている巻き髪の首を掴ませる。 「うごぉ!?」 巻き髪は突然咽喉をを絞められたことに驚いたのか短い悲鳴を漏らす。 しかし慌てふためいている周りはそんなことを気にした様子はない。 別に私はこの小娘の首を絞めるのが目的ではない。こんなものでなにが後悔なのだろうか。 私はもう一つの腕を使い、巻き髪を燃えている机に投げ込ませた。 「きゃぁあああ!!!」 投げられ机に叩きつけられた巻き髪は床を転げまわる。 なぜならその髪や服に火が燃え移っていたからだ。 その後すぐに誰かが『水』の魔法を使い火は消し止められた。 巻き髪の髪は燃える前と違い見るも無残なものになっていた。髪が燃えたんだからな。いいザマだ。 今のを誰も私と関連付けるものはいない。私は『平民』だからな。人を触らずに投げ飛ばすなんてことはできはしない。 ……待てよ。私は腕を発現させるときなんって言った?『キラークイーン』、そういったんだ。 何故!?今になって気づくほど自然に口から滑り出ていた。 「『キラークイーン』」 その言葉を意識して口に呟いてみる。 その言葉は何の違和感もなく自分の中に吸い込まれ、それが右腕のことであると理解できた。 「どういうことだ、私はいったい……」 コルベールの悲鳴と生徒の声に包まれながら、私は自分の右手を見ていた。 ----