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使い魔は手に入れたい-22 - (2007/08/07 (火) 23:49:19) のソース
「あのね、今度お姫様が結婚なさるでしょう?それで特別に私たちにお休みが出ることになったんです。でもって、久しぶりに帰郷するんですけど……。 よかったら、遊びに来て下さい。ヨシカゲさんに見せたいんです。あの草原、とっても綺麗な草原」 シエスタは瞳を輝かせ熱心に私に言ってくる。 「あとね?私の村にはとってもおいしいシチュー料理があるの。ヨシェナヴェっていうんです。普通の人が見向きもしない山菜で作るんだけど、とってもおいしいの! 是非、ヨシカゲさんにも食べて欲しいわ」 「……それはありがたいが、どうして私を誘ってくれるんだ?」 行ってもいいとは思うがここまで熱心に誘われれば疑問を覚えるものだ。 誘われる理由を思いつかないからな。ただ見てみたいと言っただけでここまで誘う人間など普通はいないだろう。 「……ヨシカゲさん、私に『可能性』を見せてくれたから」 「可能性?」 「そうです。平民でも、貴族に勝てるんだって。私たち、なんのかんの言って、貴族の人たちに怯えてくらしてる。 でも、そうじゃない人がいるってこと、なんだか自分のことみたいに嬉しくって。私だけじゃなくて、厨房のみんなもそう言ってて。 そんな人に、私の故郷を見て欲しいんです」 「ふ~ん」 可能性ね、私がしたのは可能性の掲示というそんな大層なものだったのだろうか? シエスタが言っているのはギーシュを倒したときのことだろう。 しかしあれは仕方なくしたいことだし、可能性うんぬんじゃなくて勝てる算段がなければ勝負なんてしなかった。 勝って当たり前の勝負に勝ってそれが可能性の掲示になるものなのだろうか? ……いや、考えてみれば平民にとってメイジに立ち向かうということ自体が潰えていた可能性なのだろう。 さらに私がメイジに打ち勝ったともなれば自分たちでもメイジに勝てるかもしれないという可能性を見るだろう。 だからシエスタが言っているのは大げさじゃないんだろうな。 「もちろん、あの、それだけじゃなくて。ただ、ヨシカゲさんに見せたくって……。でも、いきなり男の人なんか連れていったら、家族のみんなが驚いてしまうわ。 どうしよう……」 可能性か。 私には『幸福』なれる可能性がどれだけあるのだろうか。 もう私は幽霊ではない。人間だ。人間だからこそ時間は限られている。 幽霊だったら長い時間をかけてもよかった。しかし人間は年をとる。つまり老化だ。 老化の先に待つものは死。老化しなくても何かの拍子で死ぬかもしれない。確実に『幸福』になれる可能性は幽霊のときより減っているだろうな。 「そうだ。だ、旦那さまよって、言えばいいんだわ」 旦那さまか。旦那さまってのは夫のことだろうな。旦那の反対ってなんだろうな、奥さまか?妻って意味だし。 男と女が結婚すれば夫と妻って関係になる。だから旦那さまや奥さまなんてのは結婚しないと使えないな。 私はこの先旦那さまなんて呼ばれる日が来るのだろうか?呼ばれるためには結婚しないといけない。 じゃあ私は結婚するのだろうか?将来好きな女性ができて結婚したいと思うかもしれない。 「け、結婚するからって言えば、喜ぶわ。みんな。母さまも、父さまも、妹や弟たちも……、みんな、きっと、喜ぶわ」 しかし結婚なんて正直したくないものだ。 自分のためだけでなく奥さんのためにも働かなくちゃいけないし、自分だけの時間が減るし、浮気もしたらいけなくなる。 子供が生まれたらさらに稼がなくちゃいけないし、子供の世話に自分も参加させられるだろう。 結婚してなにかメリットでもあるのかね?一人のほうが楽だし好き勝手できるしいいと思うけどね。 今のところ連れ合いは人じゃないけどちゃんといるし。あいつ以外誰かと一緒にいようなんて思わないしな。 ってなんでこんなこと考えてるんだっけ? 「結婚することになれば、きっと村中が祝ってくれるわ。それで新しい家を作ってもらうのよ。小さくてもいい。二人きりだけの家を。 そして何年かしたら子供が生まれて、少し狭くなるから新しく家を改築したりして……」 「お、おい。シエスタ?どうした?」 シエスタは顔を真っ赤にして夢中になって喋っている。 なんかすごくやばい。というより大丈夫なのだろうか?耳まで真っ赤だ。 シエスタは私が喋りかけると、はっとしたように顔になり首を振る。 「ご、ごめんなさい!そ、そんなの迷惑ですよね!っていうか!ヨシカゲさんが遊びに来るって決まったわけじゃないのに!あは!」 いや、迷惑とか言われても途中からあんまり話し聞いてなかったからよく覚えてないんだよな。 なにか私の迷惑になるようなことを言ったのだろうか? しかし聞いてなかったのでどうでもいい。 「私自身は行きたいとは思うが」 「ほんとですか!」 シエスタが叫びながら私に聞いてくる。そんな大声出さなくも聞こえるって! 「だけど、ルイズの許可がなければ行くことはできない」 私は心からシエスタの故郷(タルブの村だっけか)に行きたいと思っている。 綺麗な草原を見てみたい。そこに咲く花を見てみたいと思う。 それを話していたシエスタの顔には嘘を感じれなかった。 シエスタ自身が心からその光景を綺麗だと思っているのだろう。 嘘じゃないのなら見る価値のある美しさなんだろうな。少なくともここにいては見れないのは確実だ。 問題はルイズだ。私にタルブの村へ行く許可をくれるだろうか? うーむ、考えてみても仕方ないだろう。 実際に聞いてみればわかる。話しているうちに丸め込めるかもしれないしな。あいつバカだからな。 「そうですか……」 シエスタは本当に残念だというような顔をしている。 もういけないと決め付けているのだろう。 「まだ、いけないと決まったわけじゃない。ちゃんと頼めばルイズも許可してくれるだろう」 「そうだといいんですけど」 シエスタは不安そうな顔をしながら子猫のお腹を撫で回している。 「今は考えていても仕方ない。どうせまだ期間はあるんだしな。その間に許可をもらえばいいことさ」 「……そうですね」 シエスタはそう呟きながら子猫を胸に抱きかかえる。 「まだ、諦めるのは早いですよね」 「そうそう。それでこれは何て読むんだ?」 「これはですね……」 その後私たちはまた勉強会を再開した。さてどうやってルイズに頼むかな。 とりあえずこの勉強でデカルチャーという文字を完璧に覚えた。どういうときに使うかはよくわからないけど。 ----