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味も見ておく使い魔-13 - (2007/09/05 (水) 23:08:27) のソース
トリステイン魔法学院。 中央塔の大講堂にて… 「ブチャラティさんは、ここの授業が面白いんですか?」 ギーシュが眠そうに、座っている男に向かって立ち話をしていた。 午後一番の授業のため、頭より腹に血が回っているのだろう。 「いや、なんと言うか、興味深い。俺自身は、あちらでは小学校までしか行ってないからな」 「ブチャラティは小卒だったのか。なんだか意外だな」 ブチャラティと岸辺露伴が教室の最後尾にある椅子に座っている。 彼らのために用意された椅子の前には、他の学生たちと同じように、机があった。 「それで、今日は何の講義なんだ?」 一段前に座っていたルイズが振り返り、その質問に応じた。 「今回はミスタ・ギトーの『魔法の系統基礎』よ」 「そういえば、ルイズ。君はゼロ(虚無)の系統だったな」 「はいはい……」 ルイズがうわべは気にもしない様子で応じる。私もこのロハンの応対に慣れてきたのかしら、などと考えながら。 以前はゼロといわれただけでとてつもない屈辱を感じたけど…… 「おい、露伴。あまりルイズにゼロゼロいうな」 フォローしているつもりなのかしら。 でも、ゼロといった回数はブチャラティのほうが上ね。 悪気は無いようだけれど、覚えておきましょう。授業が終わった後が楽しみだわ。 あら?私って、こんなに意地が悪かったかしら? ルイズがそんなことを考えている間に、講師が講堂に入ってきた。 ギーシュがあわてて自分の席に向かう。 「それでは講義を始める。本日は最強の系統の話だ……」 『疾風』の二つ名を持つ講師が不精に話を始めていた。 彼の名はミスタ・ギトー。生徒たちにはあまり好かれてはいない。 なぜか? それは彼自身の授業の内容にある。 授業がつまらないのは学院教師共通の問題だが、彼のそれは一味違っていた。 「ミス・ヴァリエール。最強の系統は何かね?」 「虚無です」 ギトーはいらだたしく眉をひそめた。 「伝説の話をしているのではない。現実的な答えを聞いているのだ」 「『風』と答えれば満足でしょうか?ミスタ・ギトー」 彼は口調に秘められた皮肉に気づかない。心の内で、ルイズの内申をあげてやろうと考えていた。 「その通りだ。だが、諸君らの中には納得していないものがいるな」 「たとえば、ミス・ツェルプストー。君は違うようだな」 「はい」 キュルケは礼を失わない顔をしながら、確信した様子で返答した。 彼女にとって、ギトーには何の悪感情を抱いていないが、自分の『火』系統に対する自負は誰にも負けない。 「では、君が最強だと思っている系統の魔法で、私を攻撃したまえ。」 「いいんですか?ミスタ・ギトー。私は手加減はできませんわ」 「かまわん。君の二つ名『微熱』が冗談でないのならな」 キュルケから微笑が消えた。 呪文を唱え、杖を振ると、彼女の目の前に1メイルはありそうな火の玉が出現した。 それを教壇に立つギトーに投げつけるように飛ばす。 ギトーは実をかわすそぶりも見せず、杖を一振り。 烈風が舞い上がり、炎が消え去る。ついでにその向こうにいたキュルケを吹っ飛ばした。 破壊的な速度で教室の壁に頭から突っ込む。が、鍛えられた男の腕により彼女の体はしっかりと受け止められていた。 「大丈夫か?」 「あ、ありがとう、ダーリン」 いつの間にかブチャラティが立ち上がっていた。 ギトーはその様子を見ることも無く講義を続ける。 「諸君。今見たように『風』はすべてをなぎ払う」 ブチャラティがゆっくりと教壇に向かっていく。 キュルケは、彼の背中に、鬼気迫る迫力を感じていた。 「『風』が最強たる理由はこのほかにもある」 「ユビキタス・デル・ウィンデ…ん、なんだ?君は、下がりたまえ、使い魔風情が」 彼はそれを無視して歩き続けた。 ミスタ・コルベールは、いつも自分の額が跳ね返す太陽の光のような陽気さで学院内を歩いていた。 今日の授業はすべて中止である。なぜなら、王女が学院に来訪したからだ。 「生徒たちも喜ぶことでしょう」 そうつぶやきながら、彼の歩きはますます早く、講堂に向かっていた。 通常なら、王女がお忍びで来院したぐらいで授業の中止はない。 だが、学院長のオールド・オスマンはこの機会に乗じて『使い魔の品評会』を行おうとしていた。 決して王室尊崇の志を発揮したわけではない。 要するに、一々会場や応接を手配するのが「めんどくさいワイ」というわけである。 彼の無精は、ミス・ロングビル、もといフーケが捕まったころから酷くなっている。 「生徒の皆さんはこの格好をステキと思ってくれるでしょうか?」 コルベールは、一般的に見て珍妙な格好をしていた。 その『一般』に彼自身は含まれていない。 変なロール(コロネ?)のついた金髪の鬘をつけているため、彼の地毛は見えない。 また、ローブにはテントウ虫のブローチがついており、胸の部分がはだけている。 「みなさ…ん?」 コルベールが教室の中に入っていったが、誰も反応しない。 それどころか、教室中の生徒が静まり返っている。 生徒の雑談が全くない。 彼自身の授業中では一度も実現できなかった静寂だ。 「あは、は、ははは…」 いや、ミス・ヴァリエールが時たま乾いた笑い声を出している。 教壇にはミスタ・ギトーの『首』が生えている。 正確には置いてあり、それに向かってブチャラティが説教をしていた。 時たま、手に持ったメイジの杖でギトーの額をハタいている。 その近くにはミス・ツェルプストーが立ちすくんでいる。 「キュルケもだ、室内であんなに大きな炎を出して…周りに迷惑がかかるだろうが」 「そ、そうね。ごめんなさいダーリン。私少し感情的になりすぎちゃったわ…」 「問題は君だ。ギトー。」 「学生を挑発した挙句ふっとばすだと?怪我をさせたらどうするつもりだ?何を考えている!」 「わ、私はいったいどうなたんだ?!」 目のおびえの様子から察するに、彼は自分の置かれた状況が理解できていない様だ。 「人の話を聞けッ!」 ブチャラティはそう叫んで、今度は頭部を『縦』に分けた。 つまり、前列の生徒たちは…… 生きている人体標本の頭部断面をじっくりと観察するハメになったわけで…… パタパタと机に突っ伏すものが続出した。 「グッ……オェ~!!」 「むっ!いいぞ、マリコルヌ君。その表情!リアルだ!」 「それに生きている脳なんてめったに見られるもんじゃない!」 ギトーは今何もしゃべることができないだろう。 鼻は何とかつながっているので呼吸はできるが。 「おまけにだ…君の話は『風』系統の自慢話ばかりだ。あんなものは『講義』とはいえない。君は教育者としての自覚があるのか? そんなに自分の系統に自慢があるのならば、なぜ破壊の杖捜索に志願しなかった?」 ぺチン。 ギトーの杖と彼の額が間抜けな音を奏でる。 その杖はおそらくミスタギトーから取り上げた杖だろう。 ミスタギトーの『首から下』が、教壇の下に転がっている。もがいているが、仰向けになっている。 そこから移動できていない。 コルベールは意を決して、教室の教壇へと進んでいく。 「み、皆さん!本日の講義はすべて中止です!」 「えー……皆さんにお知らせです」 彼はのけぞって、教室の静寂を取り除こうといっそう声を張り上げた。 その拍子に頭にのせた馬鹿でかいカツラがとれ、彼本来の、光の反射しやすい頭皮が見えた。 「す、滑りやすい」 タバサが、自分の頭をなでながらつぶやいた。 「……」 「……」 「プ…プププ、クックック。ハハハハハハハ!」 露伴が笑い始める。 「フフフ…」 「ハハッ!」 それにつられて、学生たちも笑い始めた。 「ええい、黙りなさい小童共!貴族はそのような笑いをするものではありません!」 彼の剣幕により、教室内はまたもや静寂に包まれたが、身が切れそうな冷徹な雰囲気は霧散していた。 「皆さん、恐れ多くも、アンリエッタ姫殿下が……」 皆がコルベールに率いられ、教室を出て行く。『品評会』の準備をする為だ。 気絶した連中も、コルベールが「レビテーション」の魔法で医務室に連れ出した。 「どうしよう、まだまだ先のことだと思って、何の対策も練ってないわ……しかも姫さまがご覧になるなんて。なんとかしないと……」 ルイズが上の空で教室を出、自分の部屋に向かっていった。 ブチャラティ達がその後に続く。軽快な会話と共に。 「ダーリン。さすがにやりすぎじゃないかしら?」 「いや、ブチャラティさんのやることにお間違いはない」 「ギーシュ、さすがにそれは買いかぶりすぎだ……」 「ムーー!!」(私はどうなっってしまったんだ?) ギトーは元の体に繋ぎ直されていた。 しかし、その代わりに、『お口にチャック』をされていた。リアルで。 そのような光景を見ることも無く、未だ教室内から動こうとしない者達がいた。 その二人は無言で向かい合う。心なしか目元が暗い。 「タバサ……ナイスガッツ」 「グッドフォロー、ロハン」 「…」 「…」 ピシ! ガシ! グッ!グッ! 太陽が、学院全体を明るく照らしていた。