「使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man-5」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man-5 - (2007/09/19 (水) 00:30:32) のソース

今は夜のはずだが私の知っている夜よりも桁違いに明るい。 
電灯もないのに地面に転がる小石すらはっきり見えるほどだ。 
空には爛々と輝く二つの月。二つというのが自分が今まで培ってきた常識を嘲笑っているようで忌々しいが、こういった場合は便利だろう。 
それほど足元に注意を払わなくてもいいし、夜中に野外で活動するのにも適している。 
その代わり、隠し事はできない。暗闇に紛れ行動するにしては明るすぎる。 
地面をしっかりと踏みしめながらそう思う。 
しかし、ここに住んでいる人間はどう思っているのだろうか? 
……どうせ、暗いと思っているんだろうな。つきが二つあることが、この明るさここに住む人間にとって常識のはずだ。 
私には十分明るいが、それでもこの明るさは太陽の明るさには圧倒的に負けている。 
陽光と月光を比べれば、この明るさを暗いと思うのは当然だ。 
まあ、家の中の方がさらに暗いだろうがな。 
明かりをつけない限り、壁や屋根で月明かりを遮るからだ。 
初めにいた家も、窓から入る月明かりがなければ、殆んど真っ暗だっただろう。 
しかし、こんなことを考察しても何の意味もない。 
私が知りたいのはここがどこか?何故私がこんなところにいるか?ということだ。 
今のところそれを特定できる有力な情報は空に浮かぶ忌々しい月だけ。 
それ以外有力な情報はない。 
誰かに聞く。 
これが有力な情報を多く得る一番簡単な方法だ。 
しかし、今会うのは本当にまずい。なぜなら、今がもっとも爪が伸びる時期で、『性』の衝動がもっとも高まっているからだ。 
開放すれば、衝動も収まるだろう。しかし、こんな見ず知らずのところでそんな危険を冒すことはできない。 
それに突然負傷していたり、かと思えばベッドに横になっていたり、さっきまで外にいたと思ったら見知らぬ場所のベッドに横になっていたり。 
そんなことがこうまで続くと警戒してしまうに決まっている。
だから危険だと判断してもなんら不思議ではない。 
そしてそんな危険地帯で、殺人という行為を行うのは愚かなことだ。いや、ここに来るまでの経験がなければその愚かな行為を実行に移していただろう。 
おかげで今のところ危険の芽はないようだ。さっきカップルを見たときは危なかったが。 
しかし、さっきは我慢できたが、もうダメだ。次に誰か見かけたら危険がどうの油断がどうの思う前に、必ず殺してしまうだろう。 
とっくに限界を超えてるからな。 
そう思いながら歩いていると、やけに見晴らしのいい場所についた。 
ここは……草原のようだ。とにかくだだっ広い。 
草原をよく見てみると、あらゆるところに花が咲いている。 
草原は月明かりに照らされ青白く揺らめき、花も光を浴びて輝いているようにも思える。 
なかなかきれいだといえる光景だ。だが、こんな光景にそれほど興味はない。この光景で私が抱いている疑問が解決するわけでもないからだ。 
まあ、余裕があるときなら少しは楽しめる。それぐらいの景色だろう。 
「ヨシカゲ」 
突然聞こえたその声に無意識に全身が硬直する。 
今、誰かが、私のことを、呼んだ? 
ああ、呼んだ。間違いない。誰かが私に呼びかけた! 
「夜でもここはきれいね。夕暮れの明かりは力強く感じたけど、月の光はどこかやわらかく感じるわ」 
体が震えそうになるのを堪えながら、後ろを振り向く。 
そこには、人がいた。桃色がかった髪をもつ少女だった。 
「なっ!?」 
あまりの驚きに思わず声が出てしまう。当たり前だ。驚かないわけがない。なぜなら、私の疑問に関係する重大な人間だからだ。 
私はこの少女に頭を抱えられていた。その顔立ち、髪の色、その声、本人に間違いない! 
少女は指輪をして大きな本を小脇に抱えている。そして…… 
「どうしたの?そんな驚いたよな声出して」 
その眼には、仗助や康一や早人を彷彿とさせる何かを宿していた。 
康一のガキにしてやられたときのことを思い出す。早人に『バイツァ・ダスト』を破られたときのことを思い出す。仗助と退治したときを思い出す。 
億泰に、早人に、康一に、露伴に、承太郎に、そして仗助に追い詰められたときのことを思い出す。 
今、目の前にいる少女が眼に宿しているものは、あのとき仗助たちがその眼に宿していたものに非常に近かった。
「帽子と手袋してないなんて珍しいじゃない」 
少女を凝視する。この少女は私のことを知っている。さっき私のことを名前で呼んだからだ。 
しかし、私は普段帽子は被らない。手袋もしない。 
そこまで思いふと思い出す。目が覚めたあの部屋、あの部屋に帽子と手袋があった。 
あれは私のもの?私が普段身につけているというのか?そんなバカな…… 
「ヨシカゲ?さっきから様子が変よ?」 
少女は心配するような声をかけてくるが、顔は無表情そのものだ。心配なんてまるでしていない。 
そう思っていると同時に今まで我慢していたものが心の中にあふれ出す。 
もう『性』をがままんすることはできない。確かに目の前の少女は私の疑問に対する答えの有力な情報を持っているだろう。 
しかし、我慢できない。仕方ないが殺す以外の選択肢はない。そう結論すると、心が落ち着いてくる。 
そしてキラークイーンが届く距離まで移動しようと少女に近づこうとした瞬間、 
「どうしてわたしがここにいるかわかる?」 
少女は私に問いかけるようにそう言ってきた。これから殺そうと思っていたが、そういわれた瞬間少し考えてしまう。なぜ少女がここにいるのかを。 
考えたのはほんの一瞬だったしすぐにそれはどうでもいいことだと判断したが、少女の次の言葉で完全に動きが止まってしまった。 
「わたしがここにいるのわね。あんたをつけてきたからよ」 
なんだと。私をつけてきた、だって…… 
「ヨシカゲの部屋に行こうと思ってたら、窓から偶然あんたが家から出て行くのが見えたのよ。 
こんな時間にどこに行くんだろうと思って見てたらなんだかあんたに違和感を感じたの。それであんたをつけたの」 
この少女は何を言っている…… 
「あんたに首を絞められたことがあったわよね。別にあれが本当なのか夢なのか、それはもうどうでもいいわ。でも、あのときからわたしはヨシカゲを見てきたわ。 
初めの頃は首を絞められたから観察してただけだけど、今じゃ癖みたいなもんね。他の人まであんたと同じように見るようになったわ」 
何を言っている…… 
「そのおかげで、他の人の微妙なしぐさ、表情の変化もわかるようになってきたわ。もちろん、ヨシカゲより表情や動きが多い人限定だけどね」 
何を言っている。
「ヨシカゲはあんまり表情も変えないし、しぐさも殆んど変わらないわ。でも、固有の動きみたいなのを持ってるのよ。どんな人もそうだけど。 
そして、今のあんたにヨシカゲ固有の動きは見られないわ。ヨシカゲってよほどのことがない限りそこまで表情を変えたりしないしね。ゼロセンのときみたいな」 
何を言っている! 
「初めその固有の動きが全くなかったから違和感を感じてあんたをつけてきたけど、観察すればするほど、違和感が増したわ。そして、最終確認として声をかけたの。 
それで、こっち見たときの目を見てわかったの」 
少女の言葉一つ一つがなぜか癪に障る。 
「何を言っている貴様!」 
「あんたはヨシカゲじゃない。今、はっきり確信したわ!ヨシカゲの瞳は、そんなに黒くない!」 
少女が空いている手を腰に持っていき何かを引き抜く。それは細長い枝のようなものだった。 
それをこちらに向ける。 
「あのとき、みんなで食事してたとき、初めてヨシカゲが心を開いてくれた気がしたわ。そのとき見たヨシカゲの瞳はそんな色してなかったのよ!あんたは誰!」 
目の前の少女を殺す!きっとこの少女は私の平穏の妨げになる! 
この瞬間、私はそう確信した。 
自身の衝動を抑えるためにではない。仗助たちのような障害になると確信して殺すのだ。それは、目の前の少女を敵と認識した瞬間だった。 
「『キラークイ……!」 
少女を殺すためにスタンドを出そうとした瞬間、頭に異常な激痛が走る。 
一体これは!? 
頭を両手で押さえ込んで膝を突く。 
「か…………がぁあああ!」 
頭が今にも割れそうになる。目の前が真っ赤に染まっていく。 
ふと目の前に何かが見える。それは劇場だった。劇場にいる人間が全員こちらを見ている。その中に、杉本鈴美がいた。 
そして、その隣に私と同じように頭を抱えうずくまっている人間がいる。それを確認した瞬間、私の意識は急速に薄れていった。

----
記事メニュー
ウィキ募集バナー