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第十四話 『暴走! 惚れ薬バカップル!』後編 - (2008/02/10 (日) 00:41:48) のソース
☆★ トリスティン魔法学院の本塔と門を繋ぐ石畳の上を、一台の馬車が進んでいく。 昼食も終わり、午後の授業が始まろうとする時間帯のため、目撃者はいなかったが……いれば、必ず眉を潜めたことだろう。 その馬車は、貴族の子女が集うこの学院に、表門から堂々と入ってくる種類のものではなかったのだ。 まず、タイプからして違う。平民が引越しに使うような、装飾の一切無い幌馬車なのだ。何度も修繕された後が痛々しく、かなりボロ臭い。 だからといって、平民が使う馬車とも一線を画するのだ……詳しいものがよく見れば幌や使用されている木材が、実用性重視で作られた値の張るものだという事が理解できるだろう。 引くのも見た目も雄雄しい軍馬。その牽引は荒々しく、貴族が乗ったら一発で酔う事請け合いだろう。 極め付けが、幌に設えられた紋章である。 それは、見まごう事なき騎士団の紋章……それも、『星屑騎士団』と呼ばれる、少数精鋭で鳴る有名な騎士団の紋章であった。 ここに至るまで、土煙を上げて爆走してきた荒馬は、ゆっくりと速度をとして本塔の入り口でのけぞり嘶いてから停止する。 同時に、馬車の後ろが大きく開いて細身の人影が飛び降りてきた。 ジョーリーン・シュヴァリエ・ド・クージョー。 星屑騎士団の団長の娘であるその女性は、酔いなど欠片も感じさせぬ足取りで本塔に向かって歩き出し、御者を務めた隊員に声をかける。 「二時間後に戻るわ」 それまでは好きに時間を潰せ、という意味である。 簡潔すぎてなれなきゃ分かりにくい伝言だ……それを聞いた御者はその意味を了解したが、それでも聞かずにはいられなかった。 「じょ、ジョリーンさん!」 「……?」 「あの、この人たちは連れて行かないんですか」 御者の視点が、肩越しに馬車に向けられる。布に覆われて見えないが……そこには、二人の珍客がいた。何故か肩に乗っかっている鼠も、そちらを向く。 「う……うぅぅ……ま、待ちなさい……ミス・クージョぉぉぉぉぉっ……」 「うヴぉぇ……」 何か、こみ上げるものを押し殺すようなうめき声が二人分、ジョリーン郎達の耳朶を叩く。片方はジョリーンの名前を呼んでいるようだが…… 「放っときなさいよ。もう完全にあたし達の勝ちでしょーが」 「は、はあ……」 「やる事はわかってるわよね」 「はい」 ここに来るまでに、荒馬の馬車に力の限りシェイクされた同乗者に、御者の騎士は同情した。 鍛えられた騎士でもきつい星屑騎士団の荒馬車に、貴族が乗ってはひとたまりも無いだろう。 「じゃ。後はお願い」 去っていくジョリーンの背中を見送りながら、御者はいそいそと椅子の下から紙袋を取り出した。御者が真っ先にやるべき事。それは! いわゆる、エチケット袋である。それを布の隙間から中に突き入れて、一言。 「お二人とも。いります?」 ……ゲロの処理だった。 オールド・オスマンがジョリーン・シュヴァリエ・ド・クージョーの来訪を受けたのは……彼女の父を呼び出すための早馬を放った、その直後だった。 (早すぎんかの) 一瞬、そんなオマヌケな事を連想してしまったが、すぐに打ち消した。 単純に、入れ違いになってあちらのほうから訪問してきた、只それだけである。 とはいえ、完全にアポ無しの訪問である。 フーケの一件依頼防犯意識が高まり、事前連絡の徹底している学院では、原則としてアポなし訪問は受け入れない事になっている。 ジョリーンも、その点は十分理解しているはずなのだが…… (まあ、丁度いいわい) 厳重なボディチェックをするように言付けてから、入室を許可した。何者かの変装である可能性を感じての指示だ。 防犯の面からいえば後日に日程をずらすべきなのだが、状況を考えれば一刻も早く承太郎に話を通したかったのだ。 ギーシュのあの様子では、今夜の防衛すら難しいだろう。 「よく来てくれたの。ミス・クージョー」 教師につれられやってきたジョリーンに、ディテクトマジックをかけながら、オスマンは好々爺とした笑みを浮かべた。 本来なら非礼にあたる行為であるが、ジョリーンは気にしない。アポ無しでやってきた己の立場というものを理解しているのである。 「えっと……正直、会ってもらえるとは思わなかったわ。ありがとう」 「うむ。それで用向きはなにかのぅ」 「そ……それが……ないのよねー」 「――は?」 言いにくそうに目線そらしながら言い放たれ、オスマンの目が点になった。 まるで人を馬鹿にした返事である。普通なら、怒鳴り飛ばされてもおかしくないのだが……オスマンの胸中に沸き立ったのは、怒りよりも疑惑だった。 オスマンは、ジョリーンという人間を良く知っている。意味も無くこんな真似をする人間ではないのだ。ならば…… ジョリーンにそれをさせるほどの事情があるという事である。 「何か、あったのかね?」 「ええ。実は――」 ☆★ 「ヴぉげぁぁぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」 貴族にあるまじきとんでもない音を立てて、男はエチケット袋に向かって胃の中身をぶちまけた。 不快感と吐き気と酸欠で朦朧となる視界の中、袋の底に溜まっていく胃液の中に、禄に消化されていない昼食のクラブサンドが浮かんでいるのが見える。 「だ、大丈夫ですか? 助手の人……」 「さり気に傷つく気遣いありがとう……」 名前を呼んでもらえない悲哀を背負いつつ、男はよれよれと立ち上がりエチケット袋の口を閉じた。 上司が名前を覚えてくれず、『助手』で済ませてしまうものだから、皆もそう呼ぶようになってしまった。 そして、改めて自分の体を見返す。 彼が着ていたのは、目にも眩しい白衣だった。彼の誇りでもある純白には一点のシミも無く、心配していた『染み』は見受けられない。 思わず、ほっと一息ついてしまう『助手の人』だった。これでゲロのシミなんてつくろうものなら、只でさえきっつい上司に、何を言われることやら。 全く! と、視線を馬車へと向ける。 その中には『貴族の令嬢が人前で不浄な行為など出来ない!』と叫んで、自分を馬車の外にたたき出した非道な上司がいるはずだった。 おかげで地面の激突と同時に戻しそうになったというのに…… 「静かですね」 御者の言葉に頷きながら、ここだけは流石だよなあと、ぼけーっと思う『助手の人』。 どうやっているのか、彼の主は全く音を立てずに胃の中身をリバースしていらっしゃられる。 やがて、馬車の中から出てきた上司は……驚いた事に、しっかりした足取りで地面に降り立った。 顔色、髪の色艶、目つき……どれをとっても、先程までの様相は残っていない。 右手のエチケット袋が無ければ、事実を誰も信じようとしないほどの凛々しさで大地に立っていた。 見栄もここまで来ると国宝級だなと、思って見つめていると……上司の眦が跳ね上がる。そして、静かで激しい怒りを滲ませた声で、 「助手」 「は、はいっ!?」 「いつまでも立っていないで、フォローの一つもしたらどうなの?」 「え??」 「いつまで私にこんなものを持たせておく気よ!」 「い、イエスマムっ!」 悲鳴を上げるように応答する助手の人の背中を見て、御者は思った。 この人、苦労してるなあ……と。 「そ、それで……何処に行かれるおつもりで?」 「決まってるでしょう! 妹に会いに行くのよ!」 ☆★ 「回収したマジックアイテムの書類で手違いがあってさぁ……王宮に運び込まれるはずだったマジックアイテムの一部が、アカデミーに運び込まれる事になってたのよ。 見つけたとき大慌てで修正したんで、なんとかなったんだけど」 「なんじゃ? まさか……」 「そのまさか。アカデミーの連中が因縁をつけてきたの。 ……王宮の連中も係わり合いになりたくなかったらしくて。そちらで処理しろって丸投げよ。むかつくわ」 双方王国の組織ならば、どちらが所有しようと国が所有する事に変わりは無い。互いに話し合って決めろとそういうことである。 「成る程。つまり、アカデミーの連中が連日君達のところに押し寄せてきておるんじゃな? 問題の品を寄越せと」 ……暴走派穏健派に限らず、アカデミー自体との小競り合いである 連日連夜、しつこくしつこくセールスか何かのように屯所に押し込み、ねちねちいやみを言い倒すアカデミーの連中に、星屑騎士団の面々もお冠だったわけだ。 で。 「毎日しつこく交渉してきててね。まぁ、相手にもしてなかったんだけど……一人だけやたらとしつこいのがいてねぇ。こいつが又うるさいのよ。 で、そいつを撒くために色々画策したわ」 「ふむふむ」 「私達の馬車の荒さは知っているわよね」 「知っておるよ。わしもあれに乗って死に掛けたしのぉ」 「あん時アンタが死に掛けたのは、あたしにセクハラしたからでしょうが」 「い、いや、まあ……はははははははは」 親子揃ってダブルオラオラ喰らって、全治一年の重傷を負ったセクハラ爺は、当時の事を思い出したのか顔が一寸青かった。 「……一寸した賭けを連中に持ちかけたのよ。それに勝ったら、品物を渡すって」 「成る程のう。大体わかったぞ……その賭けの内容っちゅーのが、『馬車に乗る事』だったんじゃな」 「そ。ついでに言うなら、『酔わない事』 全員酔ったらあたし達の勝ち。一人でも酔わなかったら連中の勝ち」 「……卑怯な話じゃのー。殆ど詐欺みたいなもんじゃろ」 「やっかましーわよ爺ッ! あんたも毎日ギャーギャー言われてみろっつーの! 絶対堪忍袋の緒が切れる! 親父が許可出したくらいなんだから、どんだけ切羽詰ってたかわかるでしょーがっ!」 「そ、それは……」 「……実際、ストレスだけじゃなくて、賭けが成立した事が意外だったわ。 あたし達がそういう脚本書いて親父がGOサイン出したのよ」 上に訴えたところで、アカデミーが聞かないのはギーシュの一軒から見ても明らかだ。ならば、手っ取り早く黙らせてしまえとこういう事である。 「アンの目の前で制約したからね。反故にする事は無いはずよ」 「姫様の前でかね……よくそんな下らん事で引っ張り出せたのぅ」 「ええ……好きなのよあの子。うちの馬車が」 「……姫様が?」 「そ。あれよ……怖い話したりして盛り上がったりするのと同じで、ああいう激しい乗り物がすきなのよ」 ちなみに、賭けの話を知ったアンリエッタがこっそり相乗りしようとして、マザリーニに必死で止められてしまい、涙目になったのはジョリーンしか知らない事。 ジョリーン達の世界だと、絶叫マシーンに夢中になるタイプだ。 「その上で。行き先はこの学院を指定したわ。 勿論、制約その場になって始めて相手に伝えたのよ」 「連中からすれば、敵陣のど真ん中に、敵のエスコートで飛び込むことになるからのぉ……」 実にいやらしい話である。 罠のかけ放題で相手の動きは一切不可能という状況に、相手を放り込もうというのだ……少しでもやましい事があるのなら、絶対に乗りたくない賭けだろう。 姫殿下の前で始めて賭けの内容を明かしたのも、いやらしい。 肝心のアイテムに大した価値は無く、敵陣に突撃するリスクを負うほど重要な者ではない。マトモな感覚の持ち主なら、絶対に断る。 それを姫様の前での制約とした事で、以後の手出しを一切不可能にさせるという策略だった。 のだが。 「ええ。暴走派なら、絶対に乗る事の無い賭けだったわ……けど」 「その、しつこい奴というのは乗ったんじゃな?」 「実に堂々と、ね……道中話してみた感じからしても、暴走派じゃないわね」 ようするに。 暴走派のつもりで小細工その他仕掛けたら、思いっきり穏健派だったというあほらしいヲチが待ち構えていたのである。 乗られたジョリーン達も、これにはかなり慌ててしまった。 まさか、本当に相手が受けるとは思っていなかった……もっと言えば、非常識な行為=暴走派という思い込みが、相手が穏健派だという想像を許さなかった。 賭けに使われる予定だった場所全てに対し、アポを取っていなかったのである。 土くれ問題で防犯意識が盛り上がってる昨今、アポなし突撃など門前払いされるに決まっているのだから…… 「そこをワシが呼び込んでしまったというわけか……やれやれ。そういう事は事前に連絡して欲しいのぉ。ミスタ・グラモンの事もある」 「したかったんだけどね。出来なかったのよ……連絡なんか入れて、万が一アカデミー側にその内容が漏れたらみも蓋もないし」 「アカデミーの連中の見張りは誰がやっておるんじゃ?」 「隊員を一人と、FFをつけてるわ。鼠に入ってもらってるから、ばれないし」 いいながら、ジョリーンは懐から取り出した壜を振って見せた。中身はうじゅるうじゅるいいながら蠢く、フーファイターズの『端末』だ。 成る程。 隊員は兎も角、FFがついているというのならば心配は無いだろう。 隠密性が高いので相手に気付かれず尾行できるし、ギーシュ達に危害を加えようとしたら乗っ取ってしまえば情報収集も楽だ。 「ま、結果オーライっちゅーやつかのぅ」 「そういう事。まぁ、ここまでの時点で思いっきり酔ってたしねぇ」 いたずらっ子のようににやりと笑い合ってから、ジョリーンは壜をしまおうとして、 『ジョリーン! なんか、変な事になったぞ!』 ……端末が叫び声を上げたのは、丁度その時だった。 「ナニがあった?」 一瞬で、いたずらっ子から戦士へと表情を摩り替えたジョリーンが、壜に向かって問いかけた。オスマンも杖を片手に追随する。 『女の方が、妹に会いに行くって言って寮に入った!』 「男と女、入った寮はどっちなんじゃミスFF」 『女子寮だ……歩きなれてやがる』 「妹……アカデミーの人間が姉におる女生徒か」 学生の中で、アカデミーに縁のある人間は、そう多くは無い。歩きなれているという事はここの卒業生かもしれない。 その多くは無い人間をオスマンは全て記憶しており、その記憶の棚をひっくり返して、該当者を探そうと試みた。 「ちなみに、そのアカデミー研究者の名前はわかるかのう」 『当たり前だろ』 「確か……」 一瞬の間をおいて告げられた名前。 それに、オスマンは顎が外れるほどの衝撃を受けることになる。 『た、大変じゃぁーっ!!!!』 『!?』 オールド・オスマンのしわがれた声がルイズの部屋に響き渡り、ズォースイは椅子から立ち上がった。 立ち上がっただけではない……全身の細胞に戦意をいきわたらせて、臨戦態勢をとったのである。 オスマンの姿が見えないというのに、声がする……怪現象の原因に、ズォースイは思い当たる節があった。オスマンの使い魔……鼠のモートソグニルである。 使い魔を使った音声伝達は、そんなに珍しい技術ではなかったが……オスマンの声量とそこから滲み出る焦りが、切迫した事態の警鐘を鳴らしていた。 才人はルイズをがっちり抱きしめながらデルフリンガーを取っていた……惚れ薬でラリっててもこういう反応を示す辺り、中々のものといえるだろう。 「……何!? 何なの……才人……私、怖い……」 「大丈夫さルイズ! お前には俺がついてるし、俺にはお前がいるから!」 「……え?」 「お前からの愛があれば! 俺はいくらでも強くなれるからさ!」 「……あぁ! 才人!」 「……ルイズ!」 つっても、交わされる会話には自重の欠片もなく、かっこよさは全くなかったが。 振りかざされるデルフリンガーもあほらしいのか、一言も発せず心なしか刀身も垂れて見える。 ギーシュは……まだ死んでいた。意識を取り戻すどころか、身動ぎ一つしない。 ダメージが深いらしい。色々と。 とっとこと目の前にかけてきた白いハツカネズミを見下ろし、ズォースイは短く低く問うた。 「……何か?」 『う、うむ! 今から、ミス・ヴァリエールとその使い魔を隠すんじゃ! 一刻も早く!!』 「アカデミーですか」 言いながら、ズォースイは動いていた窓に駆け寄ってそれを開け放ち、全身を露出させないようにして外をうかがう。 神経は、完全に戦闘体制のそれだった。近くに敵がいれば、精製した鉄のナイフで呼吸するように切りつける……暗殺者独特の憎悪なき殺意が全身から滲み出す。 『い、いや! アカデミーはアカデミー何じゃが、敵ではないというか……その物騒な殺気を収めてくれんか! 殺したらかなり不味い!』 「敵ではない?」 『うむ! 兎も角、まずは二人の姿を隠して……』 ――ま、待ってください! 勝手に出歩かれては困ります! ――うるさいわね! 姉が妹に会いに行くのに、何故騎士団の許可を取らなければならないの! ――じょ、助手の人も止めてくださいよ! 困るんですってば! 「……っ!」 「え?! この声……」 廊下からの声に戦闘体制を整えるズォースイの横で、ルイズの目が丸く見開かれる。 ……響いてきた声の、女性のほうに聞き覚えがあったのである。 バ ン ッ ! ロックがかけられたはずの扉が、叩きつけるように開かれた。実に鮮やかな手際のアンロックで、無理やりに開錠されたのだ。 女性の部屋に入室するに相応しい行いとはとてもいえなかったが……彼女の立場を考えるのならば、無理も無い。 ――扉を大きく開け放った犯人である女性は、室内の状況に硬直していた。 蜂蜜を黄金と割って溶かしたような見事な色合いのブロンドにウェーブがかかり、腰まで伸ばされている。 十人中九人が美しいと答えるような、整った顔立ちの持ち主であったが……吊り目がちの相貌は、美しさと同時に威圧感を相手に与え、おせじにも気安く声をかけたくなるようには見えなかった。 右手に携えた、お荷物……襟首掴まれ引きずられ、ボロボロになった男の姿も、彼女の性格のすさまじさを物語っていた。 年の頃は20代の後半だろうか。ハルケギニアの常識で図るなら子供の一人もいてよさそうな彼女の顔は……何故か、耳まで真っ赤に染まっていた。 引きずられていた男は、おやと眉を潜めた。 長いこと彼女と付き合いのある男には分かったのだ。彼女が、怒り以外の原因で顔を赤く染めていることが。 「な、な、な、な、な、な……!」 「え、え、え、え、え、え……!」 仁王立ちになった女性は顔を赤く染めて、才人といちゃついていたルイズは目を白黒させて……全く同時に、叫び声を上げていた。 「なにやってるのよチビルイズーーーーーーーーーーーっ!!!!」 「エレオノール姉さまぁーーーーーーーーーーっ!!!!?」 そう。 彼女の名前は、エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。 アカデミーの研究者の一員であり、ヴァリエール家の長女。 ルイズの姉、その人だった。 ……エレオノールという人物を一言で表すとしたらなんと答えるか。 常に彼女の暴虐に怯え、並々ならぬ被害をうけている助手は、こう答えるだろう。『清廉潔白』と。 暴走と凶器が渦巻く現在のアカデミーにおいて、エレオノールは随一といっていいほどの常識人なのだ。 ヒステリックだとかそういうレベルではなく、それ以前の人間としての考え方が、である。 助手に対する扱いはSっ気全開で酷いが、研究に対しては誰よりもひたむきだし、他者に厳しい以上に自分に厳しいその姿は、決して醜いものではない。 正直、数々の暴虐に好感度がマイナス入ってる助手の人も、その美点だけは認めざるをえない。 家系の煌びやかさとあいまって、穏健派の中心人物である。暴走派の『博士』とは双璧をなすとのもっぱらの噂だ。 さて、そんな彼女は……暴走派が大多数を占める現在のアカデミーにおいては、必然的に風当たりが強くなっている。 表立った嫌がらせは無いが、小さな陰に篭った嫌がらせなら、コツコツコツコツしつこく繰り返されてきた。 今回の星屑騎士団とのいざこざも、その一つだ。 暴走派の中枢であるともっぱらの噂の教授から、押し付けられたのである。 (ふざけないで頂戴! 厚顔無恥の恥知らず共が!) 王命に背き、貴族としての規律を踏み荒らす暴走派に顎で使われる事実に、エレオノールは歯噛みをせずにはいられない。 だが、彼女は清廉潔白であり、もっと言えば生真面目。更に言うなれば、貴族にあるまじき事に貧乏性だった。 例え意に染まぬ仕事であろうが、仕事自体は正当なモノである以上、完璧にこなさなければ気がすまないのである。 彼女は毎日毎日星屑騎士団に通い詰め、直談判を繰り返した。 そしてようやく、姫殿下の制約の下に品物を取り返す算段をつけたのである。 これに成功すれば、姫様のアカデミーの印象も良くなり、自分の立場は安泰……暴走派に対するこの上ない牽制になるはずだった。 だというのに…… 失敗した。 完膚なきまでに、賭けに敗北したのだ。 馬車に酔わなければ勝ちという単純なルールにもかかわらず、彼女の平衡器官は荒馬の牽引に耐え切れなかった。 この事実は、エレオノールの精神に多大なる衝撃を与えた。 元来生真面目な彼女である。自分が暴走派を何とかしないといけないという責任感に、今回の失敗に対する罪悪感が加わり、この上ない重圧となって彼女を押しつぶさんとした。悔しさに歯噛みしながら、音を漏らさぬように胃の中身をエチケット袋に流し込み…… (ルイズ……) 彼女が妹の顔を思い出したのは、そんな時だった。 別にゲロからルイズを連想したのではない。 ただ、この場が学院で、そこに妹がいて……しばらく会っていなかった妹に、無性に会いたくなったのである。 致命的な失敗を、身内の存在が慰めてくれる……貴族だのメイジだの言っていても、緒戦は人間だ。そんな所は、平民となんら代わりが無かった。 久しぶりに会った妹に何を言おうか。 内心でウキウキしながら、それをおくびにも出さずに会いに行った先で…… 肝心の妹は、男の膝の上でいちゃいちゃしてらっしゃったとさ。 普段のルイズなら、姉を前にして冷や汗の一つも流して縮こまっていただろう。 だが、今のルイズはいろんな意味で普通じゃない。ついでに言うなら使い魔も普通じゃない。彼らの精神はすっかりラリってらっしゃられるのだ。 部屋の入り口でわなわな震える己が姉に対し、ルイズはおずおずと口を開いた。 「ね、姉さまは一体何の御用事……ひゃぅっ!」 問いかけようとした耳たぶを、才人がぱくっと口に含む。そのまま、もぐもぐとやわらかく刺激してから、小さくささやきかける。 相手に敵意が無いと知って安心したのか、手にしたデルフも床に放り出している。 『もう好きにしてくれ……』 インテリジェンスソードの切ない呟きを聞くものは、誰もいなかった。 「なぁルイズ……あの人知り合いなのか?」 「う、うんっ……私のお姉さま。エレオノールお姉さま……さ、才人! 今は離れて……お願いだから……!」 「なんで?」 「なんでって……お姉さまの前で恥ずかしい……」 「はっはっはっはっ! 見せ付けてやればいいじゃないか」 「そ、そんなぁ……」 嫌がりつつも、ルイズの瞳は蕩けて状況に酔っ払っている。そのまま訪問者を放置プレイして、二人のいちゃつきタイムが始まった。 姉が目の前にいるというシチュエーションに、何かが刺激されたらしく、才人の左手がルイズの太ももをセクハラチックに滑っていく。 二人の唇が重なり、その口内を互いの舌で蹂躙しつくした。 ブチブチと、エレオノールの脳裏の血管がグロス単位で切断される音がした。 「ルイズゥ……何? それは何? あなた、真昼間からそんなふしだらな真似をして、私に喧嘩を売っているのかしら? あてつけ? あてつけなの?? 私に対するあてつけなの? ねぇ?」 「……ほぇ?」 唇を離し、ルイズはとぼけた声を上げて姉を見た。才人の唇との間にかかった唾液の橋がエレオノールの血管切断速度を速めていく。 だが、彼女とて腐ってもアカデミーの人間である……自分の妹の様子が明らかに可笑しい事に気付き、怒りを抑えて杖を振るった。 使用したのはディテクトマジック……結果を見た彼女の意識が、一瞬にして研究者のそれへと移り変わる。 「……! 惚れ薬ね。 それも、相当強力な奴を二人して飲まされてる」 「強力というよりは、何か混ぜ物がされてるようですが」 いつの間にか、助手の人もその隣に立って杖を振るっていた。杖に返ってきた反応にふむ、と顎をなで…… 「増幅……いや、固定かな……どの道、男のほうが飲ませたって言うのはなさそうですね」 「でしょうね。平民に手が出せる薬じゃないわ……助手。手持ちの薬で消せる?」 「無理ですね……これは水の専門分野。僕の専門分野は『土』ですから。ものが固定なら多少は役に立てますけど」 「……役に立たないわね! そこのあなた!」 肩をすくめる助手を切り捨て、エレオノールはズォースイに向き直った。対するズォースイは無言……そして、警戒を一切解いていない。 肩に乗ったモートソグニル越しに、簡単な事態の説明は受けていたが……生憎と、ズォースイは相手がルイズの身内だからといって対応を変えるほど甘くは無い。 偽者、助手が暴走派……最悪、彼女自身が暴走派の人間だという可能性もあるのだ。 偶然が重なったとはいえ、アカデミーの人間を内部に呼び込んだ以上、警戒してしかるべきである。 「一体ルイズに何が起こったのか……説明していただけるかしら!」 「……なら、しばらく待つ事だ。 もうすぐ、オールド・オスマンがいらっしゃられる」 答えて、再び無言……そのかたくなな態度が気に触ったらしく、エレオノールの眉が跳ね上がった。 ただでさえルイズの有様に切れていたのである……彼女の沸点は今この上なく低くなっていた。 自分をじろじろ睨みつけているのも気にいらない。ズォースイは単に不審者を監視しているだけなのだが、それを誤解したらしかった。 「……学院長に聞けと? 私は、あなたに聞いているのよ!」 「ならば尚更だ。俺に答える義務は無い」 「……あなた。私が何者なのか理解していないようね」 「理解している。だが、俺が忠誠を誓っているのはトリスティン王家と、オールド・オスマンに対してだけだ。 ヴァリエール公爵家に対してではないし、お前に傅く義務は無い」 「もう一度聞くわ。答えなさい」 「もう一度答えよう。断る」 二人の視線が重なり合い、火花を散らす。苛烈な威圧感を持つエレオノールと、それに応対するズォースイの二人に、助手の人は頬に汗を流しながら無言を貫いた。 経験上よく分かっている。この状態のエレオノールに手を出すのは地雷原を無防備に進むようなものである。 触らぬ神にたたりなし……四六時中神の傍らにいる助手は、その理屈を良く心得ていた。 んがしかし。 彼以上にその理屈を知っているはずの少女は、それすらわからなくなるほどにラリっていた。 「なぁルイズ……」 「何? 才人」 「お前の姉さん、えらくイライラしてないか?」 お前らが原因だよ。 突っ込みたかったが助手は耐えた。火に油を注ぐの嫌だったので。 「えっと……あ!」 「何だ? なんか、思い当たる事でも……」 「うん。多分、お姉さま興奮したんじゃないかしら」 「俺らの愛に当てられちゃったのかぁ……」 「そうなのかも……」 いや、確かに興奮してるけどニュアンス違うから! 突っ込みたかったが助手は耐えた。そこに更に火薬放り込むの嫌だったし。 惚れ薬ってすげーなーと、ぼんやり思った助手だったが……暢気にしていられたのはそこまでだった。 「お姉さま、伯爵様となにかあったのかしら」 「!!!!!?!!?!?!!!」 一瞬にして。 助手の心が恐怖と絶望に、顔色は青にそれぞれ塗り替えられた。真横のエレオノールの動きがぴたりと止まったのを、助手は肌で感じた。 同時に、なんか恐ろしい気配も。 ――そ、そこに行くかァーッ!? 「伯爵?」 「ええ。お姉さまの婚約者なのよ……お姉さま素直になれないから、何かあったんじゃないかしら」 ――だ、駄目ぇーッ! それッ! 地雷ッ! 地雷ですからッ!! 叫んで静止しようにも、声が出ない……四肢全部が恐怖で塗り固められて、身動きが取れないのだ。 彼に出来る事は、汗を滝のように流してガタガタ震えることぐらいだった。 ルイズの言葉をきっかけにエレオノールが纏いだした鬼気に……ズォースイはこれまた、懐かしさを感じていた。これは確か…… (あぁ……そうだった) 昔、宴会の時に同じ気配を感じた事がある。[[ペッシ]]が、酔っ払った弾みでフーケに絡んだあの時に。 そのときのペッシの発言を、そのまま抜粋しよう。 『いつまでもこんな仕事してちゃあ、結婚できないんじゃねーのか?』 ……フーケの拳がペッシの顔面にめり込んだのは、その直後の事。 そして開催された一方的なタコ殴りショーを止められるものは、仲間内にさえいなかった。婚期の遅れをかなり気にしていらしたらしい。 その時フーケが放っていた気配と、エレオノールが放つ気配が、全く同質のものだったのだ。 エレオノールがルイズの話題にこんな反応を返す、という事は…… 「……ルイズ」 ゆらりと、エレオノールの体がルイズに向き直る。全身から立ち上る『恐ろしい何か』に煽られるように髪の毛が揺ら揺らと蠢き、その体から放たれるプレッシャーは更に倍増して殺傷能力すら秘めていそうで。 「……お、お姉さま!?」 今までにないプレッシャーに、さすがのルイズもひとかけらの正気を取り戻し、頬を引きつらせる。 怯える手の中のご主人様に、才人の表情が切り替わり、床に落ちたデルフリンガーを手に取った。 「婚約は……」 「ほぇ!?」 「婚約は解消よ!!!! 解消しましたがぁ…… 何 か !!!!?」 怒声とともに迸る何かに、ルイズと才人は勿論の事、デルフリンガーまでたじろいた。 「な、何故に……?」 「なんでも! もう限界だそうよ!!!! そんな私の目の前でいちゃつくなんて……偉くなったわねえチビルイズ!!!!」 あー、そりゃ怒るわなー……と、デルフリンガーは納得した。助手殿に至っては、あった事も無い伯爵様とやらの気持ちも理解できる。 こんな苛烈な性格じゃあ、ついていけなくなるのも当たり前である。 エレオノールは知らないが、伯爵のそのお言葉は屋敷に残された手紙に記されたものであり、肝心の伯爵様は行方不明である。 『旅に出ます。探さないで下さい』と同じ勢いだ。お姉さま一体なにやった。 只でさえ結婚適齢期を踏み越えてしまったというのに、そこに来て婚約破棄である……エレオノールの心中やいかほどのものか。 何よりも外聞を気にする貴族にとって、嫁き遅れというのは耐え難い屈辱であった。 ルイズとて、エレオノールの妹である。彼女はその事を言われるのをどんなに嫌っているか、100も承知のはずだ。 「か……」 ……だが、それは正気の時ならばの話。 今のルイズの脳細胞は才人で埋め尽くされ、姉の事など一欠けらも残っちゃいなかった。 「かわいそう……」 『へ?』 涙目でルイズが漏らしたお言葉は、エレオノールとその助手の声を唱和させた。 自分を見つめるルイズの目つきと、その奥に光る感情を見て、エレオノールの思考が停止する。 (え? 何、あの子のあの目) 「お、おいルイズ! どうしたんだよ」 「だって……お姉さま……きっと胸が無いのを気にして……ひくっ……」 ぐ さ っ ルイズとよく似た断崖絶壁なお胸に、無慈悲な言葉が突き刺さる。 「素直になれなくて……それで……伯爵様に捨てられてんだわ……」 ぐ さ っ 無慈悲なお言葉第二撃。今度も結構深く刺さりました。 「長女だから、はやく跡取りを作らなきゃならないのに! 普通ならもう子供もいなきゃならないのに!!」 ぐ さ ぐ さ っ ! おおっと、今度は二連撃だ。こいつはきつい。 ――じ、地雷踏むどころか地雷原に踊りながら突っ込んだぁぁぁぁぁぁぁっ!? あまりにアレな反応をしてくれたルイズと才人を前に、助手は……ダッシュで部屋から逃げ出した。さりげなく、ズォースイもその後を追う。 「私も……素直になれなくて……ひくっ……色気も無いし……」 「ルイズ……?」 「捨てちゃやだよぉっ……才人……素直になるから、私の事捨てないでぇ!」 がばちょと抱きついてくるルイズを抱きとめ、才人はふっと笑った。 「馬鹿だなあルイズ。俺がお前のこと捨てるわけが無いじゃないか!」 「……本当?」 「ああ! 胸が無かろうが」 才人の手が、ルイズの胸の上に乗ってなにやら蠢いちゃってます。 「やぁ」 「素直になれなかろうが」 いや、今はこの上なく素直になってると思うけど。 「俺にはお前だけだよルイズ」 「才人ぉ……」 「ルイズ……何なら、子供なら俺達が作っちまおう!」 「え……?」 「嫌か?」 「ううんっ! 嬉しいッ!!!!」 潤んだ瞳で見つめあい、互いの唇を重ね合わせ……下手な官能小説真っ青の激しいキスだった。 ルイズも才人もそっち方面の経験がないはずなのに、やたらと上手いのは、昨日一晩で何度も繰り返して上達したからだろう。 実の妹の激しいキスシーンという、普通に生きてたら絶対お目にかかれない代物を目撃させられたエレオノールだが、それどころじゃなかった。 (さっきのあの子の目……) 思い出すのは、ルイズの自分を見つめる目。 (え? 何?? あの目。ひょっとしてあの子……私を哀れんでいた????) そうだ。 あの時のルイズは、確かにエレオノールを哀れんだ。『キスの一つもしたことがないなんて、かわいそうなお姉さま』と。しかも、それを台詞にしやがった。 『かわいそう』。 普通ならそこまで目くじら立てるような台詞ではない! だが……今のエレオノールにとって、これほど腹立たしい事はない! しかも! (あの子……私を出汁ににしていちゃつき始めやがりましたか????) ぶ ち ッ 脳裏に響いた音を、他人事のようにエレオノールは聞いていた。 (き……切れた。 私の頭の中で 何かが切れた……決定的ななにかが…………!) 人それを堪忍袋の緒という。 エレオノールは、ルイズの発する哀れみの匂いを感じた……彼女は、その匂いが大嫌いだった。 召使や他の貴族の子女、同僚が時折自分に向けるのと、全く同じ匂い! エレオノールは思った。 (チビルイズのにおいを消してやるッ!) エレオノールの逆鱗、『婚約関連の単語』! それを聞いた時、彼女はぶち切れるッ!! 蠢く美しいブロンド! 漲る怒気! 眼鏡越しに輝く血走った瞳! これが―― 「ち……」 これが――! 「 チ ビ ル イ ズ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ッ !!!!」 こ れ が 『 嫁 き 遅 れ 』 だ ッ ! 悲鳴と怒号と破砕音。ついでに無抵抗の誰かが盾にされる音。 それらがオーケストラを奏でる扉の前で、奇しくも事情を知るものが集合していた。 オールド・オスマンと、ジョリーン、御者とFF入りの鼠。食器を回収に来たマルトーとシエスタ。脱出してきたズォースイと助手の人。そして、意見を仰ぐためにオスマンを探していたモンモランシー。 彼らは全員無言で扉を見つめていたが……モンモランシーが、その沈黙を打ち破る。 「あの、オールド・オスマン」 「……なんじゃいミス・モンモランシ」 「薬の成分が分かりました。惚れ薬とワインと……多分、固定薬です」 「固定薬?」 物質の固定化を補助する土属性の秘薬の一種である。惚れ薬ほどではないにしろ中々に高価なものである。 水の秘薬と混ぜると中々物騒な効能を発揮する為、許可無く取り扱うことが禁じられているものだ。 固定薬は水の秘薬と混ぜ合わせる事で、秘薬の効果を『固定』してしまうのだ。正確には秘薬の影響を受けた人間の体の状態を、固定する。 効果そのものを増幅させる事はないが…… 土の秘薬の専門家である助手が、興味深げに問うた。 「つまり……彼女達はあの状態で固定されてしまったんですか」 「はい。少なくとも、自然に戻ることは無いと思います……」 「戻ったとしても50年後とかそこらでしょうな」 中々に絶望的な情報だったが、それ以前に……部屋の中の狂騒を、どうにかしなければらない。 しかし、固定薬と惚れ薬の効果双方を打ち消す魔法薬となると、どれだけの労力と財力が要求されるのだろうか? ……長い。 長い長い沈黙の後に。 「……マルトーさんやぁ……飯ゃまだかいのぉ」 現実逃避とばかりに呆けたふりをするオスマンに、 「現実から目を逸らさないで下さいオールド・オスマン」 「さっき食ったでしょう」 「とっとと止めて来い爺」 ズォースイとマルトー、ジョリーンの無慈悲な突込み三連撃が突き刺さった。 ちなみに、会話に全く加われていなかったギーシュだが。 ……誰も助けてくれなかったために、室内の騒ぎに思いっきり巻き込まれていた。盾にされていたのはこいつである。 本当に色々と不幸な奴である。