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slave sleep~使い魔が来る-17 - (2007/11/05 (月) 22:45:10) のソース

アヌビス神③


ブチャラティ、きゅいきゅい、ウェールズ 
   →チンピラチームの親玉を叩くことに決定。ウェールズと二手に分かれる。 
    『鋼線』のベックと遭遇。フーケ、『破壊の杖』手がかりゼロ。 

キュルケ 
   →『アヌビス神』のスタンドによって操られたタバサと戦闘中。 
     たまたま居合わせたホル・ホースが巻き込まれた。 

ルイズ 
   →疲労により息使いが荒くなっていた。 
    顔は少し薄紅色になっており、少し汗ばんでいる。 
    「ねえ…。少しお願いがあるんだけど…。」 
    すこしよろめき気味になって懇願する。 

    「背中の『ジッパー』下ろしてくれない…?」 

    (空腹で倒れそうだから。) 


ブルドンネ街の外れでブチャラティは追い詰められた。 
「さてッ!!そろそろ年貢の納め時が来たみたいだなズラ…。」 
モミアゲとか髪がもさもさしたこのはぐれメイジ『鋼線のベック』に追い込まれ戦わざるを得なくなったブチャラティ。 
「イルククゥ!下がっていろ!!」 
デルフリンガーを構えてベックと真っ向から向かい合う。 
その時だった。ギーシュとの戦いの時と同じように左手のルーンが光る。 
「これはあの時と同じ…?なんだコレは?」 
「それこそがアンタが俺の使い手であると言う証さ。えっと、何てったかな? なんせ6000年も生きてるからちょっとばかり記憶に障害が…。」 
ベックのほうは既に焦れている。やがてイライラが最高潮に達した時彼の血管がプッツンと音を立てるッ!! 
「いつまでゴチャゴチャやってるつもりズラッ!!オレは待たされるのが嫌いズラ!」 
ベックがブチャラティめがけて飛びかかる! 
だがブチャラティはそれよりも一瞬早くベックの懐へ間合いを縮める! 
「ウギャンッ!!」 
剣の腹で殴られたベックは情けない声を上げながら壁に激突した。 

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 

「やはり気のせいではなかった。スタンドを使わずただ剣で叩いただけでこの威力。 このルーンの能力がそうさせているんだッ!!」 

ヨロ・・・。 
ベックが力なく立ち上がる。イルククゥはその様子にすぐに気がついた。 
「おかっぱさん!起き上がってるわ!気をつけてッ!!」 
ブチャラティが迷わず近付いた。 
だがその時だった。紙のはしで切ったような痛みがブチャラティの胸の辺りに走った。 
「ッ!!これは?」 
「そこを動くなズラ!!それ以上動いたら切り刻むズラ!!」 
ベックとブチャラティの間に複数の糸のようなものが張り巡らされている。 
「これは鋼線(ワイヤー)か?」 
「ご名答!それはオレが持参した糸を『錬金』して作ったワイヤーズラ! 鋭いから触れただけでスパッといくズラ。だがそれを薄皮一枚でしのぐとはやはりカンのいい奴ズラ。やるじゃないかズラ…。」 
ベックはその辺の瓦礫をワイヤーに叩きつける。するとまるで豆腐を切る様に瓦礫はスパリと容易く切れてしまった。 
「あ、危なすぎるのね!うかつに動いたら体がバラバラになっちゃう!きゅい!」 
当然ベックには近づけず立ち往生するかに思えた。 
しかしこの程度の罠はブチャラティの能力の前では無効! 
「『スティッキィ・フィンガース』!!」 
ジッパーを使ってベックの足元から間合いに入った。 
ここからならデルフで斬ろうがS・フィンガースで殴ろうがどちらでも簡単に倒せる! 
だがそのまま離れるであろうと思われたベックは逆に間合いを詰めたッ!! 
ブチャラティは目を疑う。近づいてくるベックの体中から針が生えているのに驚愕してしまったのだ。 

「こいつは!?」 
一瞬早く身を引くことに成功する。だがそうして改めて観察すると今のベックの姿は実に奇妙な物になっていた。 
「よくはわからないが…。錬金をかけても生物にはほとんど影響が無い中、唯一容易く錬金できる部分をオレは見つけたズラ。そう。『毛』ズラ。 
オレは体毛を鋼線に錬金して針を作って至近距離から刺すことを得意技のひとつとして戦うズラ。 離れすぎればトラップにかかるよう距離とかも確認しつつなズラ!!」 
離れれば鋼線のトラップ!近づけば全身を針の鎧で覆って襲い掛かってくる! 
この状況をどう切り抜けるか?ブチャラティの場合はジッパーで身を隠した。 
「やっぱりその妙な魔法で地面にやりすごしたズラ。だがもう気付いてるズラよ…? 
おまえはその技を使えるのは『息が続くまで』だろ?いつまでも隠れてられるならいちいち外に出る必要はないはずだからなズラ。」 
(すでに弱点を見抜かれている。このベックと言う奴なかなかやるな。) 
たまらず外に出る。だがすでに周りはワイヤーだらけで身動きがとれないッ!! 
「HNHNHNNHNHNNN~♪楽勝ズラ。このまま仕留めてくれるズラ!」 
ベックがとどめを刺そうと杖を向ける。だがッ!! 
「ヘン!この程度のワイヤーくらいオレなら余裕で切れるぜ相棒!」 
「…そうなのか?だとしたらすまなかったな。すでに切断は終了している。」 
「え゛?」 
そんなやりとりが交わされてからすぐだった。ワイヤーの罠がひとりでに切れていくのは。 
ブチャラティの能力を相手に強度は自慢にならない。超極小のジッパーを使って切れば容易い話だった。 
(やべえよ。また出番なしの会話担当の剣になりさがっちまう前触れか!?) 
「え…?え!?」 
ベックも目を疑う。剣で斬ったわけでもない。だが目の前で全く触れずにワイヤーが切れていく光景に動揺せずにはいられない。 
ベック自身は自分の『錬金』には自信があった。そんじょそこらの剣でも切れないような頑丈さも誇るワイヤー。 
それが得体のしれない破られ方をしたのだ。無理も無いことだった。 

「ま、まだだ!まだ負けてはいないズラ!」 
全身針だらけのベックが襲いかかるッ! 
「一歩引け相棒!地味に見えるがあれを全身にまともに喰らったら一発で即死だぞ!」 
「ダメだッ!イルククゥが後ろに…!」 
いなかった。うしろにいたと思った彼女はすでにいなかったのだ。 
逃げたのか?いや違った。彼女はベックの後ろにいたッ!! 
「きゅい~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」 
ベックに石を投げたッ!! 
「アダッ!アダダッ!このアマ・・・!」 
「おかっぱさんから離れて!次はもっともっと大きいやつぶつけるのね!きゅいきゅい!」 
ベックはこめかみに血管を浮き出させ言う。 
「おれ、女が自分に対し冗談を言うのは好まないズラ。 
そういう場合はおしおきズラ!!」 
イルククゥに注意が向いた! 
「やめろ!!!」 
気がついたときにはブチャラティが無我夢中で腕を伸ばしてベックを攻撃していた。 
だがその一撃は…。 
「ハンッ!こんなものでオレを攻撃できたつもり?笑っちゃうズラ!!」 
無常な針の一撃はブチャラティのスタンド攻撃が届く前にブチャラティの手に決まった。 


「ぐぅッッ…!!」 
激痛が手に走った。手が一撃でズタズタになる。 
「相棒!大丈夫か!?」 
「なんとか…。」 
ベックはイルククゥの方向を向く。だがブチャラティは素早く目の前に立ち塞がった。 
「邪魔だ邪魔だァ!!おまえなんぞにオレは倒せないズラ~♪」 
ベックがふたたびイルククゥに向かう。しかしブチャラティは負けじと目の前に立ちはだかる。 
「SYAAAAAAAAAAAAA---------!!!!!」 
ブチャラティがデルフで防ぐがベックの攻めはおもいのほか荒かったッ!! 
防戦一方の中デルフがカタカタ音を立てて言う。 
「近距離ではあの針の餌食。遠距離ではワイヤーで奴の思う壺。 さあ相棒…。あんたはこの状況、どうやって切り抜ける?」 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 
ブチャラティが間合いを広げるッ!! 
「逃げてばかりでいいのかズラ?もっとも近づいても無駄ズラ。 
近付いたら針の鎧の餌食!殴られる前に突き刺してやるズラ! 
さあ見せてみるズラ。その手を尽くして絶望に伏すそのツラを…。」 
だがブチャラティの顔は…笑っている。 
「どう切り抜けるか?いいや切り抜ける必要もないんだ。 単純な手を使う奴ほどまた単純な手で倒せる物だぜ。それこそ拍子抜けするほど単純にな。」 
「何ッ!?」 
ブチャラティの次の行動!距離をとったッ! 
「腕を伸ばせば針の餌食。剣で攻撃しても近付かれてやはり針の餌食だ。」 
野球のバッターのフォームのようにデルフをかまえる。そして振るう!すると。 


「あれ?」 
一番驚いたのはデルフ自身だった。気がついたら自分の刃が柄から切り離されていたのだから。 
「ゲッ!!!剣が飛んできたズラ!?」 
ブチャラティはさっき剣を振るったと同時にジッパーをデルフに貼り付けてそれを切り離したのだ。 
これぞいわゆる『剣針飛ばし』である。 
当然、ベックに向けて振るったスイングはベックの肩に突き刺さるッ!! 
「ぐえっ!肩が!肩がッ!!」 
「そして怯んでいる隙に…。」 
ブチャラティが接近し、S・フィンガースの脚で急所を攻撃する。 
男なら、もはや描くまでも無く了解してるあの「急所」である。 
S・フィンガーズの破壊力Aの要素を存分に使って。 

ズコォ!! 

「OHHHHHHHHH---------!!!!NOOOOOOOOOOOOOO------------!!!!!」 
「ほらな。拍子抜けするくらい簡単に倒せただろ?」 
「信じられねぇ…。男として一番やっちゃいけねぇ技をためらいなくやりやがった…。 
なんてことしやがあうがzせxdrctgbyh!!」 
手元でデルフがカタカタ揺れている。 
「流石に同情するぜ…。それよりてめっ、相棒この野郎!!なんちゅー使い方すんだよ!!オレの刃が!」 
「今繋ぎ直してやるよ。騒ぎ立てるな。」 

しばらく呆然とした感じで見ていたイルククゥはやがて口を開く。 
「・・・・・・・え!?ということはコイツもうやっつけちゃったってことなの!? 
もう終わり!?完全にあの剣針飛ばし見せただけの戦いだけ!?きゅい!」 
そこでブチャラティは思い出したように言う。 
「しかしデルフリンガー。武器なんていらないと思ってたけど学ばせてもらったよ。」 
「え?何を?」 
「オレのスタンドの能力はただジッパーを貼り付けたりするだけの単純な能力だ。 だがその分スタンド同士の戦いのキモ、能力の応用がよく効くのがオレの自慢だ。 
それこそ一本の剣に能力を組み合わせた戦法だけでもバリエーションに富んだ戦いができるだろう。 ほかにもいろいろ考えてみるか。」 
デルフが少し混乱しながら言う。 
「え、それってつまりどういう事なんだ?」 
ブチャラティは微笑みながら言う。 
「これからもよろしく頼むぜ。喋る剣デルフリンガー。」 
「お、おう。(おいおいマジかよ!それってつまり…。変化刀としての大活躍フラグって事か!? 
やったぜ!相棒の能力の勝利だ!!ジッパー万歳!!)」 
と、デルフは心の中で小躍りしていた。剣なのに。 
「さて、そこのお前!そろそろ喋ってもらおうか。お前の親玉の情報を詳しく。 
無論ゲロッちまわないなんて甘い選択肢は考えないほうが身のためだぞ?」 
「ひぃっ!来るな、来るなぁ!!HEYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!!」 
その後、イルククゥはそう言って考えこみ、意地でもオチをつけようとしてこう言った。 
「…オ、オーノーだズラ。オメェもうおしまいズラ。 
逆に拷問ターイムの時間になっちゃったズラ。きゅいきゅい。るる。るーるーるー。」 

オチてないよね♪ こんなの。 


一方 キュルケ。 
「『フレイム・ボール』!!」 
「『ウィンディ・アイシクル』。」 
炎の玉と氷の槍がぶつかり合っては消えてゆく。 
キュルケの感覚は今、ナイフのように研ぎ澄まされていた。 
「どう運命が二転三転すればあなたと殺しあう事になるのかしらね、タバサ…。 
もっとも私はあなたを殺す気なんてさらさらないけどね。」 
アヌビス神がタバサの口で、タバサの声で血に飢えた快楽殺人鬼のように楽しげに喋る。 
「おいおい、とことん甘ちゃんだねお壌ちゃん!殺意も無い戦い方でおれに勝てるつもりか? 全くもって…。」 
鋭い刃の切っ先をキュルケに刺すように向ける。 
「舐められたモンだなぁッ!!!」 
タンッ と音をたてキュルケに飛び掛るッ! 

「うわわっ!」 
さっき『エア・カッター』で切られた柱をアヌビスに投げる。 
スパスパスパッとあっという間に切り刻まれていく柱を尻目にキュルケが後ずさる。 
「や、やっぱりあんな業物相手にショートサイズの杖じゃあ受けられないわよね…。 どうしようかしら…。」 


その激戦の最中、隠密に壊れた建物の中を探る影が一つ。 
ホル・ホースが瓦礫から喋る本を探していた。 
「テル!おいテルノスケ!大丈夫か!?早いとこズラかるぜッ!!」 
過去にとある戦いによって本に姿を変えられたスタンド使い、宮本輝之介が呆れたように言う。 
「おいおい、苦労して見つけた目的のものを前にして逃げるのか!? 最後まであきらめずに探し回ったあの根性はどこに行ったんだよ?」 
「相手が悪すぎる!今回の任務、アヌビス神の疑いのある妖刀を確保するには、誰かを操る前にオレたちが確保する事が安全面において最も大切な事だったんだぜ! 
テル、おまえの能力『エニグマ』は「恐怖のサイン」を見つけなくては使えないんだったよな?」 
輝之介はその質問に答える。 
「ああ、だが相手が人間でなければ恐怖のサインは必要ない。 だがアヌビス神のような存在は試したことがないからわからない。」 
ホル・ホースはパイプを齧りながら言う。 
「わからないではダメなんだよ!『絶対』でなくてはいけないんだ。いいか?ああやってアヌビス神が人を操って自由になってしまったらだ。わざわざオレたちに協力しなくても勝手に辻斬り始めて、協力なんてしてくれないだろう。 奴を見つけたら即『エニグマ』で閉じ込めて絶対安全に確保するのが今回の計画だった。 だが見てのとおり奴は自由になった!早くも作戦失敗だ。」 
「ホル・ホースが戦って勝って恐怖させ、操られてる奴ごと閉じ込めてしまうのは?」 
「不可能だ。オレにはとても奴を恐怖を味あわせるのは無理ってもんよ。 
奴はあれでも当時『エジプト九栄神』だったころは、純粋な戦闘力なら最強だったスタンド使いなんだぞ?そうでなくても、ああ言う狂気的なタイプは恐怖なんてめったに抱かないと相場が決まっている。」 
「じゃあどうする?」 
「決まってるだろ…。そもそもこうなる確率がとても高かった無謀な任務だからな。既に手は打ってある。」 

ホル・ホース は にげだした! 

「命には代えられないぜ!シェフィールドには別の土産を渡して勘弁してもらおう!」 
「出来もしないのにどうしてこんな任務引き受けたんだッ!!」 
「ダメもとでもいいから手柄立てておきたかったんだよ!地位が地位だしメンツを保ちたかったからなッ!」 


「くっ!」 
キュルケの火はまるでこたえてないとでも言わんばかりにアヌビスは次々と薙ぎ払う。 
「そんな直線的な炎がおれに聞くかよ!ポルナレフを乗っ取った時に炎をも切り裂く技術はばっちり覚えたからなぁ~~。 そんなすでに『覚えた』火は通じない。」 
「空気を切り裂いて炎を…!」 
その剣技に息を呑む。圧倒的な実力にキュルケ自身の心が折れるのは時間の問題だった。 
「タバサ…!」 
正直、キュルケは終始胃の中に鉛を埋め込まれたような気分だった。 
目の前の変わり果てた親友の姿は戦いに身が入らなくなる。 
本当は戦いたくない。タバサを傷つけたくない。 
でも・・・。 

かつてタバサは差し伸べたキュルケの手を払いのけたことがあった。 
タバサは自分の苦しみを打ち明けようともしなかった。 
タバサは巻き込みたくなかったのだ。大切な親友だからこそ、キュルケを頼らなかった。 
いつだってタバサは一人で戦っていた。いつだって苦しんでいた。 
今だって苦しんでいるだろう。あの子は優しい子だから…。 
だからこそ手を差し伸べずにはいられないのだ。だからこそ支えずにはいられないのだ。 
(こんなこと勝手な事かも知れないけど、わたしにとってはいつものことよ…。) 

(ただ親友を助ける。それだけの話じゃないの。) 

それが強引かつ単純な生き方をモットーとするキュルケという人間だった。 
考える。どう考えても戦力は向こうの方が上。まともにやっても絶対勝てないだろう。 
(それに極力タバサを傷つけたくない。荒っぽくやったらタバサも大火傷じゃあすまされない。) 



その時あることを思い出した。 

真っ向から戦ってもかなわないなら搦め手だッ!! 

さっきのギーシュの台詞だ。 
そうだ。なにか直接的ではない手を使えばタバサを助け、あわよくばアヌビスを倒せるかもしれない。 
でもどうすればいいか。半端な炎ではアヌビスは防いでしまう。 
防ぎようが無いほどの大きな炎を使えば確実にタバサは重傷を負うだろう。 
何があるか。アヌビスでも防げない、なおかつタバサを傷つけずに倒す方法。 
そこまで考えて・・・・・キュルケの顔に笑みが浮かんだ。 
「どうした?なにかオレに勝てる策を思いついたか?」 
キュルケは自身ありげに返す。 
「勝てる策?ええ。いまあなたを倒す方法を思いついたわ。知りたい?教えないわよ。」 
「おい!何後ずさりしてんだ?まさか逃げるつもりじゃあないだろうな。」 
「ウフフ。」 

ダッ!「大当たりよッ!!」 

ギーシュたちやホル・ホースとは逆方向に逃げ出したッ!! 
「なんだなんだ?お前らの間じゃあ逃げるのが流行の最先端か?無論逃がすつもりは無いぜ!」 
アヌビスはキュルケを追った。アヌビスに乗っ取られたタバサは素早い。 
不意をついて逃げたキュルケに追いつくのは時間の問題。 
振り返ったキュルケが度肝を抜かれるのも無理は無かった。 
「信じられない!速すぎるわ!あの子こんなに足速かったの?それともこれもヤツの能力!?」 
「『エア・ハンマー』ッ!!」 
風の一撃がキュルケに命中!建物の中に吹っ飛ばされるッ!! 


そこはさきほどブチャラティが来ていたイタリア料理店だった。 
「ちょ、ちょっと!人の店をぶっ壊すつもり!?迷惑な客なら帰ってもらうわよッ!!」 
店長があたふたしながらキュルケに怒鳴る。 
「あら、ごめんなさい。でも非常時だからカンベンしてくれないかしら?今気を抜いたらあの世に行ってしまいそうなくらい追い詰められてるの。」 
アヌビスが凍りつくような笑みを浮かべながら入り口の外にいた。 
その様子を見て驚く人が二名。 
(に、兄ちゃん!アヌビス神だよ!!あいつもここに来てたんだッ!!) 
(それくらいわかる!けどよぉ、なんかかつての仲間の再会を喜べるような空気じゃなさそうだぜ…。) 
その時、怯える[[ボインゴ]]が何かを見て何かに気付いた顔をする。 
だがそれに気付かないキュルケが店長に問いかける。 
「あなた、ちょっと聞きたいことがあるのだけどいいかしら?」 
質問を聞いて店長が答える。 
「そんなの、この町にだってあちこちにあるわ「この店を出て右!そのまま真っ直ぐ行ったところにあるッ!!」 突然、そう割り込んだのはボインゴだった。 
「お、おい!ボインゴ!何やってるんだ!?」 
「ボインゴ?こいつらオインゴとボインゴか…?」 
「グラッツェ(感謝するわ)!!そこなら問題ない!」 
だが間髪いれずアヌビスがキュルケに杖を向ける。 
「『ウィンディ・アイシクル』ッ!!」 
「『ファイヤー・ボール』ッ!!」 
空中で術がぶつかり合い、衝撃で椅子が吹っ飛んだ。 
その時に煙も出たため、キュルケがアヌビスの脇をすり抜けていった事に気付くのに数秒かかった。 
ボインゴが本を見ながら言う。 
「予知通りになった…。次はどうなる? 

「待ちやがれッ!!」 
全力疾走するキュルケを追う。必死に逃げるキュルケに氷を放つ。 
「『ウインディ・アイシクル』!!」 
当たらない。キュルケは必死になって避けている。 
「やろう!ちょこまか逃げやがってッ!!」 
アヌビスが立ち止まり精密にキュルケを狙う構えに入る。 
「ラグーズ・ウオータル・イズ・イーサ・ウインデ…!」 
空中に現れたのは巨大な氷の槍(ジャベリン)。キュルケに向かって一直線に飛ぶッ!! 
「『ファイヤー・ボール』!!」 
ドットスペルでは防げる大きさではない。当たった炎の玉はウソのようにかき消える。 
「やばいッ!!」 
近くにあった大きな板を投げつけて走る。だが簡単に貫いたそれはキュルケの足元に落ちた。 
大きな衝撃でキュルケが前に吹っ飛ぶ。 
「きゃあッ!!」 
前の建物に頭をぶつけてしまった。強く打ち付けて血が出たが意識ははっきりしている。 
「この建物の中に入る…!『アンロック』!!」 
その建物の鍵はウソのようにあっけなく開いた。 
学院内で禁止されてる『アンロック』をまるで気にしないように使うためよく疎まれたキュルケなら簡単に開けれるだろう。 
「これでよく周りから疎まれたものだったわね…。でも今回は使い慣れてたのが幸いしたわ…。」 


入ったキュルケはまずちゃんと火が消えてない暖炉に向かって呪文を唱えた。 
「『フレイム・タワー』!!」 
大きな火柱がゴウゴウと音を立て暖炉の中で燃え上がる。 
「まずはこれで…。」 
「こんなところに逃げてどうする気だ?」 
すでにアヌビスがキュルケの後ろに立っていた。キュルケの顔が青ざめる。 
「もうすでにこんな近くに…!」 
また脇を避けて逃げないようドアを閉めて唱えた呪文を開放する。 
「『ウィンディ・アイシクル』!!」 
一歩引いたキュルケも立ち向かう。『火』の三乗の魔力で唱えられるラインスペル。 
「『フレイム・ボール』!!」 
相殺させてアヌビスは言う。 
「地の利を利用したか。確かにお前とコイツのクラスは同じトライアングル。 
だが攻撃力はお前の『火』の系統が上か。この近距離ならおまえの呪文のほうがパワーも上回るだろうな。」 
アヌビスはタバサの右手に握られた自身を、抜き身の刃を向ける。 
「だが奇遇だな。オレも近距離での斬り合いのほうがお好みなんだよなぁ…。」 
アヌビスが飛び掛るッ!! 
「最後の一騎打ちと行こうかなお嬢さんよぉ!!」 
「『ファイアー・ボール』!『フレイム・ボール』!!『フレイム・タワー』ッ!!」 
キュルケが呪文を連発して畳み掛ける。自身の精神力が尽きるまで放つつもりだ。 
アヌビスはそれを受け流すように斬る。 
「無駄だと言ってるんだよこんな炎はッ!!」 
「『フレイム・ボール』!・・ッゲホッ!『フレイム・ボール』!!」 
アヌビスは横に袈裟斬りにする。衝撃でキュルケがまた吹っ飛んだ。 
「もう虫の息か?ハン!そろそろ止めと行こうかねぇーッ!!」 
「『フレイム・ボール』…!!」 
倒れてもなおキュルケは呪文を止めない。 
「あきらめが悪い女だぜ。喉掻っ切って終わりにしてやろうか!?」 
アヌビスの刃がキュルケを捉える…! 


クラ…。 
タバサの体がよろける。妙な眩暈に襲われたようだ。 
「な、なんだ?急に体の動きが鈍く…!」 
アヌビス自身には痛みや苦しみはないため、タバサの顔色が悪くなっているのに気がつかなかった。 
顔からはいやな汗が出て、呼吸はゼイゼイと苦しげに荒くなっている。 
「な、なにをしやがった!?」 
「ウフフ…。なぜ私がここに来たと思う…?このレンガ造りの家に入ったのは何も行動範囲を狭めるためじゃあないわ…。」 
よくみるとキュルケ自身も顔に汗がにじみ出る。 
「まさか…熱か!?熱でコイツ自身を弱らせるためにこの家に!」 
「石の竈があるように、石というのは耐火性があるかわりにとても熱を含みやすい性質があるわ。 
こういうレンガに囲まれた家の中で火の呪文を乱発すればもちろん熱を含んで熱くなるわ。 
そうね…。もうサウナ風呂の熱さは越えたころじゃない?暑い中町中動き回ったことだしさぞ熱にまいってるでしょうね。」 
「バカなッ!てめーも危険じゃねーか!何考えてやがる!?」 
キュルケは腹の中から声を絞り出すように言う。 
「これでいい…。あなたひとり苦しませはしないわタバサ…。これが最善の方法よ。」 
「くそッ!『ウィンディ・・・』!」 
グラッ!タバサの体が大きく揺れる。 
「『フレイム・ボール』ッ!!」 
出来かけていた氷の塊が完全に消失する。冷気も残さずに。 
「わたしの『火』は全てを溶かし『尽くす』と言ったはずよ…。タバサの精神力ももう限界でしょうしね…。」 
「こいつ…!途中からここに来るまで弱い術ばかり使ってたのはこの為かッ! 
だから『ジャベリン』を前にしても力をセーブしていたのかッ!!」 
「はあっ!!」 
杖でアヌビスの刃の横っ腹を叩きつけるッ!! 
「ヤバイッ!握力がもたねぇッ!!」 
「今…助けるわタバサ…。」 
「くそおおおおおおおおおお!!!!」 


バシャンッ!! 

キュルケを絶句させるのに十分な音だった。 
アヌビスは叩き落される前にタバサのマントからあるものを取り出していた。 
「そ、それは…!?」 
それはレストランとかにあるウェイターが水のおかわりを注ぐ水の容器だった。アヌビスはそれをタバサの頭にぶっかけたのだ。 
「さっき…レストランに突っ込んだだろ…?その時…おまえが『火』の使い手だということを考慮して…、 こいつをくすねておいたんだ…。その判断はやはり賢明だったようだぜ…。おどろいたな、ぬるま湯みたいになってるぜコレ。」 
失策…!キュルケは絶望する…。 
「そんな…。もう少しだったのに…!!」 
タバサを一時的に復活させたアヌビスが閉めてしまったドアを切り刻む。そこから完全に熱は逃げてしまった。 
「熱で弱らせるのはいい手だったが詰み(チェック)が甘かったなキュルケさんよ…。そのアイディアに敬意を表し、一撃で斬り殺してやるぜ…。」 
自らが熱にやられすでに疲労した体は動かない。 
(ここまで…なんて…。友達を助けられないまま終わるなんて…。ブチャラティも、間に合わなかった、ようだわ…。」 
アヌビスが振りかぶる。 
「ゴメンね…。タバサ…。」 
その瞬間まで、彼女はタバサの身を案じた。 


一方。 

「今…目の前を走り去っていったのは…キュルケ?」 
一人町を彷徨っていたルイズが驚く。 
「こんなところで一体何やってるのよ?」 
しかし彼女には今、構っている暇はない。なぜなら今彼女は迷子だからだ。 
「わ、私が迷子なんじゃあないわッ!!迷子って呼ぶならご主人様のそばにいつまでもいないブチャラティのほうよ! 
大体私はこのあたりの地理も詳しいし、迷うのはあいつのほうに決まってるわ!!」 
怒鳴っているうちに音が鳴る。 

グゥ~~~~~。 

「おなかすいたわね…。」 
金は持っていた。でもブチャラティの『ジッパー』で背中から体内にしまってあり、なおかつそれに手が届かないのだ。 
「ブチャラティの…バカ。見つけたらおしおきしてやるんだから…。」 
疲労と空腹で彼女は半べそになっていた。 
「あいつだって、状況は同じはずよ…。その泣きっ面みるまでは、諦められないわ…。」 
タフな精神で前に進むルイズだった。 
その時、目の前に一人の男が現れた。 
「…あんた、誰よ?」 


一方。 
ズッタン!ズッズッタン! 
「うんごおおおおおおおおおお!!!」 
ズッタン!ズッズッタン! 
グイン!グイン! バッ!バッ! 
「うんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」 
ズッタン!ズッズッタン…… 
鼻の穴に切り離された自身の指を詰められ、口の中に切り離された自身の足を詰め込まれてベックが悲鳴をあげる。 
「さあ、とっとと話してもらおうか。ン?おまえの親玉はどこかって聞いてるんだぜ?」 
「モガガ…!ひらないズラ…。」 
バキッ!! 
ブチャラティの蹴りがベックにぶち当たる。口から足が取れた。 
「知らないじゃあないぜ。今親玉がなにをしようとしているのかくらいはわかるだろ?ン?」 
ドゴッ!!パンチがベックにクリンヒットする。 
「おかっぱさん、いくらなんでもやりすぎだと思うのね…。」 
「オレたちは命を狙われたんだ。これくらいやらないと、」 
ブチャラティが腕に手をやる。 

ボキィッ!! 

それは肘の関節をはずした音だった。 
「があああああッ!!」 
「このまま伸ばしてみるか。関節はずすと結構伸びるんだぜ?」 
かつて、波紋使いはそれを『ズームパンチ』として発展させたが、波紋の使えないベックに激痛が和らげることができるわけもなく、激痛に身を捩じらせた。 
「ぐうううう!!!」 
「早く言わねーと拷問はさらに続くんだぜッ!!答えてもらおうじゃねーか。お前らの情報を洗いざらいな!」 


「フ、フフ。そうだな、そろそろいいだろうズラ。教えてやるよ従者さんよ。」 
「…?何の話だ?」 
ベックの顔には笑みがあった。 
「知ってるんだぜズラ。お前、貴族の女に仕えてるんだろ?それがこんな荒っぽいチンピラとは思わなかったが、ウチのメンバーが運良く見てたんズラ!おまえが貴族の女と商店街を歩いてたのをな!目に付く桃色の髪だしすっごくマブイ娘だから印象に残ってたみたいだズラ。」 
「きゅい…?それって…。」 
おそらくブチャラティの主人、あの怒りっぽい女の子の事だとイルククゥは思った。 
「いったい…何の話だ?」 
「お前、目を離してていいのかズラ?今頃リーダーはあの女を見つけたころズラ。 
リーダーは女の子を殺すのがだーい好きだからなぁズラ…。特に美女なら美女なほどいいって言ってたズラ。 
おまえにそんな絶望を教えられるなら喜んで…敗北してやるズラ…。」 
ブチャラティの顔は間違いなく青ざめていただろう。 
「なん・・・・だと・・・!?」 
「いやー、綺麗な肌してたみたいだからなズラ!切り裂いてやりたいッて願望はわからなくないなぁズラ! ハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!アガァッ!!」 
ベックは顎に蹴りを喰らい、そのまま意識を失った。 
「探すぞ…!」 
「きゅい?」 
「事態は一刻を争うッ!!急げ!早く探し出すんだッ!!早くッ!」 
ブチャラティが冷静さを失っていた。 

『鋼線』のベック 再起不能 
To Be Continued⇒ 
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