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使い魔は穏やかに過ごしたい-5 - (2007/11/11 (日) 16:41:05) のソース

服が納められた包みを持ちながら店を出る。わかってはいたがやはり人が多い。最悪だ。店の中にあまり人がいなかったため余計にそう感じる。 
ここから人がいなくなったらどれだけ気持ちがスカッと爽やかになるだろうか。まあ、そんなこ思っても現状は何も変わらない。 
心に思っただけで願いが叶うなんてことは絶対にない。 
「結構高かったわね。もう今季のお小遣いがほとんどなくなっちゃったわ」 
私に続きルイズも部屋から出てくる。言葉通り金が少ないらしく顔を少し顰めている。この服はそんなに高かったのだろうか?だからといってルイズに感謝することはない。 
これは私に対するルイズからの当然の報酬なのだ。買ってもらって当然で、高いからといって負い目を感じる必要は無い。 
しかし、報酬とは言っても今までの働きからしたら随分と安い報酬だと思うけどな。だが貴族の小遣いってのは服を4着買った程度でなくなるほど少ないのか? 
ガキだから持たせる額が少ないのかもしれない。それか何かに使ったとか……、そういえばルイズにデルフを買わせたんだったな。 
それにアルビオンで受けた傷の治療費も全部ルイズが出したんだったな。だから金が無いのかもしれない。治療に使う秘薬は高いって聞くしな。 
そう思うと感慨深いものが……ないな。デルフは絶対に必要なものだったし、アルビオンで怪我をしたのはそもそもルイズが分不相応な依頼を受けたから。 
つまりルイズのせいだ。身の程を知ってしっかり断っていれば私が死に掛けるなんてこともなかっただろう。謝られることはあっても感謝することは無いだろう。 
あ、アルビオンのことは前に謝られたっけ。 
「ヨシカゲ。何つっ立ってのよ。行くわよ」 
「ん、ああ」 
既に歩き出していたルイズの声に現実に引き戻されルイズの後姿を追い始める。しかし、これでやっと帰れるな。やれやれだ。こんな人混みとはさっさとおさらばしたいね。 
帰れるとわかると少し足が軽くなった気がする。心がこの人ゴミから抜け出せるとわかって喜んでいるのだろう。 
「今宵は、めでたき日にござる……、めでたき日にござる……」 
「きえ~~~~~~~~っ!」 
「ハハハハ~~!拳王の肉体は砕けぬ!折れぬ!朽ちぬ!」 
「笑えよベジータ」 
「俺を誰だと思ってやがる!」 
「いちからか?いちからせつめいしないとだめか?」 
「卑怯……!後ろをバック!」 
人混みにいるため嫌でも周りの人間の声が耳に届く。その殆んど全てが笑い声や楽しげに弾む声だ。こんな声を聞いていると、ふと思う。 
なぜ、私は祭りが楽しめないのだろうかと。そりゃあ人混みが苦手だからと言ってしまえばそれまでだが、そもそも祭りで人混みができない祭りなんてあるのだろうか? 
あったとしてそれは楽しめる祭りなのか?きっと楽しめないだろう。楽しくないから人が集まらないのだから。人が多ければ多いほど祭りは楽しい。 
しかし、私は人が多ければ多いほど、つまり楽しければ楽しいほど祭りを楽しめない。本当に最悪だな。楽しい祭りを楽しめないなんて不幸にも程がある。 
私だって、こういった祭りに興味が無いわけではない。素直に祭りを楽しみたいと思っている。楽しいと思うことは『幸福』と確実に繋がっているからな。 
キラヨシカゲと闘ったときは自分が幽霊でよかったと感じたが、こんな思いをするとなんで自分は幽霊だったんだって思っちまう。 
もう幽霊だったときの思いも癖も無くして生きたいものだ。 
「わぁ!」 
不意に、ルイズが可愛らしく叫び立ち止まる。一体どうしたというのだろうか?ルイズの後ろに回り、ルイズが見ているものを覗き込む。それは一つの露店だった。 
指輪やネックレス、ブレスレットやらが並べられている。どれもこれもキラキラとした宝石で彩られている。どうやら宝石をあしらった装飾品を売っている露店らしい。 
だが、そんなもの私には関係ない。
「ルイズ、さっさと行くぞ」 
何よりルイズが祭りを楽しんでいるのが気に入らない。まったく、使い魔は楽しみたくても楽しめないというのに。 
「せっかくのお祭りなのよ。見るぐらいいいじゃない」 
クソっ、こいつ祭りを堪能する気満々だな。 
「もしかしたら馬車がもう来てるかもしれないだろ?待たせてたら悪いじゃないか」 
「大丈夫よ。まだそんなに時間が経ってないからきてるはずないわ」 
「…………あっそ」 
こりゃあだめだな。絶対に自分を通すつもりだ。私が何を言おうと自分が飽くまで見るだろう。 
「ほら、近くで見てみましょうよ」 
ルイズは提案のような感じで言ってはいるが、私の意見など聞かず既に店に近づいていっている。 
このままルイズを放っておいてしまってもいいのだが、そうすると後で何を言われるかわからない。いや、されるかわからないの方が正しいか。 
もはや諦めの境地でも開けそうな感じで私も店に近づく。 
「いらっしゃい!見てください貴族のお嬢さん。珍しい石を取り揃えました。『錬金』で作られたまがい物じゃございません」 
ルイズを見てターバンを頭に巻いた商人は声をかけてくる。なかなか素早い対応だ。 
ふと、商人の言葉で思い出す。そういえば、『錬金』で石を真鍮に変えたりすることができるんだったな。ってことはやっぱり宝石も『錬金』で作れるわけだ。 
金だって作れるらしいから別に驚くようなことでもないがな。しかし、やっぱり人工物より天然の方がいいのかね?天然と人工じゃそんなに質が違うのか? 
『錬金』で作られた宝石を見たことが無いからわからない。仮に結構な違いがあるとしよう。そして、この店に使われている宝石の類が全部天然物だとしよう。 
だとしたら、この店は宝石の無駄遣いをしているとしか思えないね。装飾があまりにも目立ちすぎて重く苦しい感じがするし宝石がまるで目立ってない。 
素人目から見てもあまりいい商品は無い。これじゃあ貴族であるルイズがつけるにはあまりにも似合わない。ルイズはこんなものに目を引かれたのか? 
だとしたら趣味が悪いとしか言いようが無い。こんな趣味が悪い奴とは思ってなかったんだけどな。 
そんなこと思っていると、ルイズがある商品を手に取った。それは白いペンダントだった。 
どうやら貝殻を彫って作られているらしく、大きな透明な石が幾つもはめ込まれている。多分水晶か何かだろう。光に反射してキラキラしている。 
他のに比べて質素な作りで、いかにも安物ですって感じがしており、よく土産売り場に売ってあるキラキラしたキーホルダー。まさにあんな感じな品物だ。 
そんなもんを気に入るなんてさすが貴族様だ。さすが公爵家のお嬢様。高貴な所で育っただけのコトはある。実にお目が高い。本当にいい目をお持ちですね。 
だからさっさとそれを買って早くこの場を立ち去りましょうね。 
しかし、ルイズは何時まで経っても買う様子はない。ただ見ているだけだ。こいつ買う気あるのか? 
「買わないのか?」 
そう聞いてみるとルイズは困ったように首を振った。 
「お金がないもの」 
そういえば、今季のお小遣いはもう殆んどないと言っていたな。残り少ない金だ。慎重に使うのは当然だろう。だが、私がいるということも考えてほしい。 
お前が買おうか買うまいか考えている間、私はずっとここで待つことになるんだぞ? 
すると、商人はルイズの言葉を聞いて値を下げると言ってきた。どうやら商人も売るのに必死なようだ。……どんな商人もそれは同じか。 
「四エキューにしときます」 
商人はそう言って笑顔を見せた。元値は知らないが、とにかく値下げで四エキュー。デルフは確か百エキューだったな。 
エキューがどの程度の高い値かはよくわからないが、貴族なら四エキューぐらい普通に買えるんじゃないか?しかしルイズは、 
「高いわ!」 
そう叫んだ。どうやらお小遣いは本当に殆んど無いらしい。四エキュー今のルイズにはそれすらも高いのだ。私がアンリエッタからもらった金貨や宝石。 
宝石をのぞいて、金貨一枚が一エキューだとすれば私なら十分にこのペンダントを買うことができる。だが、ルイズのためにこの金を使う気も更々ない。 
買ってやればさっさとこの場から離れるだろうが、それだけのために買ってやる気は絶対に起こらない。
「う~~~……」 
しかし、買ってやらなければテコでもここを動きそうにない。では、どうすればいいか?なんとか諦めさせればいい。 
「ルイズ。それが欲しいんだな?」 
「え?」 
ルイズが私の言葉に驚いたように振り向く。それを無視し、ルイズが持っていたペンダントを取り上げる。 
「あ!何するのよ!」 
「これが欲しいんだな?」 
ルイズが文句を言ってくるのをこれまた無視し、ルイズに念を押す。 
「買ってやるよ。金が無いんだろ」 
「うそ……」 
呆然とするルイズをやっぱり無視し、ペンダントを商人の前に一旦置き、少し大仰な感じでポケットを探る。 
「確か四エキューだったな。これで足りるか?」 
私がポケットから取り出したのはもちろん金貨だ。大体二十枚ほどだろうか。私の予想では金貨一枚が一エキューだが、必ずしもそうだという保証は一切無い。 
なのでなるべく余裕を持って差し出したのだ。それ以外にももう一つ目的はあるがな。 
「こ、こんなにいりませんよ!」 
商人は私が出した金貨の多さに驚いたらしく大きな声を出した。しかしすぐに冷静さを取り戻す。さすが商売人。 
「ひい、ふう、みい……、これで結構です」 
商人は私の掌に乗っていた金貨を四枚取るとそう言った。そして、これで私の予想は正しかったと証明された。やはり一エキューは金貨一枚のようだ。 
「ヨ、ヨシカゲ?ほんとに買ってくれるの?」 
「何を見ていた?もう金まで払っただろ」 
「ヨシカゲ……」 
余った金貨をポケットに戻し、商人の方へ向き直る。そして私の目に映ったのは、 
「あれ?どこだ?おい、どこ行っちまったんだよ。おかしいな~」 
何かを一心不乱に探す商人の姿だった。 
「どうかしたの?」 
ルイズはその商人の態度に疑問を持ったのか、商人に尋ねる。 
「……え、え~とですね~。あのですね~」 
商人はいかにもやばいといった感じで口ごもる。 
「いいから早くペンダントを渡してくれないか?金は払っただろ」 
私は商人を見据えながら手を差し出す。 
「私は金をあんたにあげたわけじゃないんだぞ」 
「は、はい!しかし、あの、その、え~と…………、ペンダントが無くなってしまいまして……」 
「何を馬鹿なことを言ってるんだ。私たちをおちょくっているのか?私がさっきあんたの目の前に置いただろ。ルイズも見たよな」 
「う、うん」 
私の言葉に少し戸惑ったように同意する。するしかない。何故なら私は確かに商人の目の前にペンダントを置いたのだから。ルイズにも商人にもはっきり見えるようにな。 
「置いたのはほんのついさっきのことだぞ?なのに無くなった?これは馬鹿にしているとしか思えないよな~」 
「そそそ、そんなこと言われても本当に無くなっちまったんですよ!ほら、いくらでも探してもらっても構いませんよ!」 
ルイズは先ほど私がペンダントを置いた場所を見る。しかし、そこにペンダントは無い。ルイズと商人はペンダントを探したが一向に見つからない。 
…………見つかるはずが無い。
「ダメだわ。ほんとになくなっちゃってる」 
やがてルイズと商人は探すのを諦めた。さて、 
「おい。ペンダントが無いんじゃあ金をやるわけにはいかない。同じデザインのペンダントも無いから、早く金を返せ。わかっているだろうが四エキューだ」 
「は、はい!勿論です!ご迷惑をかけてすみませんでした!」 
商人は慌てた様子で四エキューを私に差し出してくる。私はそれを受け取ると手早くポケットに突っ込んだ。 
「今度からしっかり商品を管理しろよ。じゃあな。行くぞルイズ」 
「え?ちょ、ちょっと」 
ルイズの手を掴むと私はルイズを引っ張りながら店を離れた。そして暫らく歩いたところでルイズの手を離す。 
「いきなり引っ張ることないじゃない!」 
「悪かったな」 
「まったくもう……。でもおかしいわよね?いきなりペンダントが無くなるだなんて」 
「本当だな」 
人の目から見たらそりゃおかしいだろう。そこにあったものが何の前触れも無くいきなり消えたんだ。おかしくないわけが無い。だが、私にとってはおかしいことでもない。 
何故なら消えることがわかっていたからだ。なぜ消えることがわかっていたのか?それは私がペンダントを消したからだ。詳細はこうだ。 
まず初めにルイズの手からペンダントを取り上げ、商人の前に置く。勿論商人とルイズに見えるようしっかりとだ。 
そしてこのとき、すでにキラークイーンはペンダントに触っている。次に少し大げさな感じでポケットを探る。 
これはルイズと商人の目をペンダントではなく私に引きつけるためだ。なんとしてもペンダントから目を背けさせる必要があったからな。 
さらに念のため金貨を多く取り出した。そして商人の目を金貨に引き寄せ、ルイズの視線を私の体で遮る。これで準備は完了だ。 
後はキラークイーンのスイッチを押せばいい。そうすればペンダントは爆破されなくなるというわけだ。この騒ぎの喧騒のなか、小さな破裂音など誰も気にしまい。 
たとえ気づいたとしても、見た瞬間にペンダントは爆破され終えている。爆破される前からペンダントを見ていなければ、ペンダントが消える瞬間を見ることなど不可能。 
もし私のスタンド能力をルイズ、あるいは商人が知っていればタネが解ったかもしれないが、知っているわけも無い。ゆえに誰も消えた理由はわからない。 
ペンダントが無ければルイズがペンダントを諦めると思い実行したが、どうやらうまくいったようだな。 
「せっかく買ってもらったのに……」 
ルイズが少しブルーな声でそう呟く。……これじゃあストレスが溜まるんじゃないか?手に入りそうだったものが手に入らなかったのだ。 
そりゃあストレスが溜まって当然だろう。今ルイズにストレスを溜めさせるのは好ましくない。ストレスの発散対象が私になりかねないからな。 
ではどうすればいいか……、おだてるか?そうすればルイズのことだ。すぐに調子に乗ってペンダントのことなど忘れるに違いない。 
「安心しろ。あんなペンダントをつけなくてもお前は十分可愛いぞ」 
「……え?な、なに!?いきなり何を言うのよ!?」 
……ん?予想していた反応と大分違うな。驚いてはいるが喜んでいないように見える。 
「私が何か変なことを言ったか?」 
「い、言ってないわよ!」 
ルイズは顔を赤らめながらそう叫ぶと私を無視し、どんどん先へ進んでいった。どうやら怒らしてしまったらしい。やれやれ、 
「年頃の少女の考えることはさっぱりだ」 
今の心境を端的に呟きながら私はルイズの後姿を追いかけていった。

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