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ゼロと使い魔の書-04 - (2008/05/21 (水) 00:43:15) のソース

[[ゼロと使い魔の書]] 
第四話 
朝焼けが琢馬の頬をぬらした。 
静かな洗い場に着くと、洗濯を始めた。洗剤などの道具は何一つとしてないが、水洗いである程度汚れは落ちる。 
しばらくの間、水の流れる音だけが響く。春といってもまだ水が冷たい。 
下着が洗い終わったところで、不思議な鳴き声が聞こえてきた。 
顔を上げると、校舎のほうで青緑色の竜が部屋を覗き込むような姿勢で上空を羽ばたいていた。 
革表紙の本で調べるまでもない。あれも誰かの使い魔なのだろう。 
そんなつもりではなかったが、つい習慣で唇の動きを読んでしまう。 
「お・ね・え・さ・ま・だ・い・じょ・う・ぶ・な・の・ね……?」 
もし、人語を話しているのだとすれば、そう言っているはずだった。言ってる内容には興味がなかったが、人の言葉を解するのだとすればもしかすると 
The Bookの記述が読めるかもしれない。機会を狙って試してみよう。 
「あら、あなたは……」 
振り返ると、昨日のメイド姿の少女が少し驚いたような顔で立っていた。干してある洗濯物を取りに来たのだろう。 
「ああ、すまない。使わせてもらってる」 
「いえいえ、構いませんよ。どうぞご自由にお使いください」 
どことなく東洋人を思わせる顔立ちの少女は、軽く会釈すると干してある洗濯物を取り込み始めた。 
「あなた、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」 
少女は慣れた手つきで仕事をこなしながら、話しかけてきた。 
「よく知ってるな」 
「ええ、なんでも、召還の魔法で平民を呼んでしまったって。噂になってますわ。それにしても……洗濯、お上手ですね」
予想していなかった言葉に、少し手を止める。 
「別に大した事じゃない。こんなものは一人暮らしすれば嫌でも慣れる。この環境にも早く慣れたいものさ」 
洗濯の手際をほめられるとは思っていなかった。これが当たり前だったからだ。 
やはり、自分は孤独が板につく。友人のプレゼントを自分の復讐のために投げつけるような人間なのだ。 
「あの、差し出がましいかもしれませんが、もし分からないことがあれば私に聞いてください。私、シエスタと申します」 
提案の意図を測りかねた。社交辞令で申し出ているのではないのは顔を見れば分かった。 
「ありがたいが、なぜ俺にそこまでしてくれる?俺は使用人どころかただの使い魔なんだぜ?」 
「どちらも同じ平民ですから、困ったときはお互い様ですよ」 
シエスタは微笑んだ。野に咲く花のような屈託のない笑顔である。 
「普段は厨房にいますので。それではお先に失礼しますね」 
「ああ」 
面倒だったので残り半分以下になった洗濯物に視線を固定しながら答えた。それでも向こうは気を害することなく足早に遠ざかっていった。 
少女の気配が完全に消え、仕事を片付けた後、先ほどの会話を思い出す。 
「こっちは名乗っていなかった、か」 
なぜそんなことが気になるのか分からなかったが、奇妙な罪悪感が沸いてきた。革表紙の本を取り出し、たった今抱いた感情を読み返してみる。 
自分のことのはずなのに、なぜか説明のつかない、不思議で不可解な気分であった。 
後で厨房に訪れる事にして、とりあえず部屋に戻り自分の主人を起こすことにした。
「ご主人、朝だ」 
薄いネグリジェに包まれたピンクの髪の少女は、まるで赤ん坊のように無垢で安心しきった寝顔を浮かべていた。自分の睡眠を邪魔するものは何もないという感じの無防備すぎる姿態である。 
「ご主人、朝だ」 
耳元に口を近づけ声量も上げて再び言ったが、返事はなく呼吸音だけが返された。 
部屋を見回すと立派な花瓶に一輪さしてあるのが目に入った。見た事のない派手な花だった。 
それを手に取ると、ルイズの鼻の下に持っていった。 
「んぅ……?」 
花の芳香に気づいたルイズは覚醒した。視線が交差し、次いで手元の花に移る。 
そしてどう反応していいのか分からないといった困惑した表情を浮かべると、無理に怒ったような顔をつくった。 
「ふ……ふん!平民のあんたにしては気の利いた起こし方じゃない!」 
「そうか、それはよかった」 
少し顔を赤らめるルイズは、昨日の高慢な姿よりもずっと幼く見えた。 
花瓶に戻しにいくと、ルイズはのたりのたりとネグリジェを脱いでいた。 
「服、着させなさい。下着はそこのクローゼットの一番下、制服はそっちだから」 
The Bookを呼び出す。 
自分がまだ施設にいた頃、よく年下の子供の着替えを手伝っていた。 
その時の経験を読み返し、もっとも効率のいい着せ方を考える。 
「……あんた、随分手際がいいけど、弟とか妹とかいるの?」 
一瞬手が止まった。脳裏に虹彩の薄い少女の顔が浮かぶ。 
「……いないな。ただ昔は孤児院で生活していたから、こういうことは慣れている」 
「そうなの」 
それ以上ルイズは特に何もいわず、眠そうに目をこすってされるがままになっていた。
着替えが終わり、ルイズと部屋を出たところで丁度隣室の扉も開いた。 
出てきたのはきつい緋色の髪をした女性であった。背も高くモデル体系で健康そうな褐色の肌だった。 
その女性はルイズを見るとニヤリと笑って話しかけてきた。 
「おはようルイズ」 
ルイズは顔をしかめ、露骨に嫌な感情を示した。おそらくわざとだろう。 
「おはようキュルケ」 
「それがあなたの使い魔?ふーん本当に平民なんだ」 
その表情には嘲りが含まれていた。 
わざわざ名乗る必要もない。そう感じて軽く頭を下げるだけにしておいた。 
「そ、そういうあんたの使い魔はなんなのよ!」 
その発言は墓穴だと、ひそかに思った。案の定キュルケと呼ばれた女性はそれを狙っていたらしい。 
「使い魔っていうのはこういうのを言うんじゃない?来なさい、フレイム。あたしも昨日、召喚したのよ。誰かさんと違って、一発で呪文成功よ」 
部屋の中から出てきたのは虎ほどもある巨大なトカゲだった。この距離でも体が熱気に包まれる。 
「ほら見て!この鮮やかで大きい炎の尻尾! きっと火竜山脈のサラマンダーよ!好事家に見せたら値段つかないわよ?」 
ルイズは悔しそうな表情を浮かべた。もう少し弱みを突けば泣き出してしまいそうな顔である。 
主人のいさかいには興味ないのか、あらぬ方を眺めるサラマンダーを見ながら、余りよく考えずに心に思った事を口に出した。 
「使い魔の実力は、値段ではかるのか?」 
気温が上昇しているのにも関わらず、空気が凍ったような雰囲気に包まれた。どうやら地雷を踏んだらしい。 
純粋な疑問を呟いただけだったのだが、二人とも鋭い指摘と受け取ってしまったみたいだ。 
「そうよ!どうかしてるわ。いくら使い魔が立派でも主人たるメイジがそれじゃあねー。 
何よりも大切なのは信頼じゃなくて?」 
反撃するルイズ。はからずも役に立ったらしい。 
「……さ、先に失礼するわ!」 
下らない墓穴の掘りあいは、キュルケと呼ばれた女性が赤い髪をなびかせ立ち去ることによって幕を閉じた。 
「少しは役に立つじゃない」 
ルイズは自分を見上げながら言った。 
「純粋に疑問に思っただけだ。もし本当なんだったら、平民の俺は最低ランクだろうからな」 
ルイズは何か言いたそうにしていたが、結局中途半端に口を開け閉めしただけだった。 
「と、とにかくついてきなさい」 
歩き出すルイズの後につき従う。距離間は先ほどのキュルケとサラマンダーを参考にさせてもらった。
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