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ゼロの兄貴-48 - (2008/10/22 (水) 05:06:32) のソース

「ところで、どうしてフーケがここにいるのかしら?」 
一段落ついたのでとりあえずオスマンの待つ学院長に一同揃ったのだが 
今更になってキュルケがフーケが気付いたのかそう聞いてきた。 
「来たくて来たんじゃあない」 
どこか諦めたような表情でそう言ったが、当のプロシュートはフーケの肩に肘を置き涼しい顔をしている。 

「……そういう事。もう年なのに大変ね」 
二人の様子からある程度は察したのか、少しばかりの同情を含めて返したが、さりげなく禁句を入れているあたり流石と言えよう。 
「だ、誰が年ですって?わたしは『まだ』23よッ!」 
「あら、23といえば十分婚期を逃しているんじゃございませんこと?」 
「小娘が…どうやらあんたとは決着を付けた方がよさそうだね…」 
「よろしくてよ、おばさん。この微熱のキュルケ、謹んでお相手つかまつりますわ」 
売り言葉に買い言葉とはこの事か。 
あっという間に二人のボルテージが最高潮にまで到達しオスマンの前という事もすっかり忘れ睨み合い。 

「おいオメーら、話あんだから大人しくするか別の場所でやれよ」 
「「五月蝿い!」」 
二人ともやる気満々という具合だが、今ここでんな事されても邪魔なだけだ。 
今にも杖を出しそうな二人の間に無理矢理割り込むと、ガッシリと二人の首に腕を首に回す。 
俗に言うアームロックである。 

そして、続けて一つだけ宣告をする。これで止まらないのならどうなろうと知ったこっちゃあない。 
「……なんなら、その程度の年の差なんぞ分からないようにしてやってもいいんだがよ」 

テーレッテー 
こうかは ばつぐんだ! 

二人の頭の中にそんな音楽と言葉が聞こえてくるとほぼ同時に、同じような震えがプロシュートの両腕に伝わってきてきた。 

「い、いやねぇ、じょ冗談よ、冗談。ほ、ほらこんなに仲良し。ねぇ?」 
「そ、そうさ。わたしももう気にしてなんか……だ、だからその腕をーーー!」 
ぎこちなさ6割増しで無理矢理笑顔を作り出し、互いに向き合うキュルケとフーケを見てやっとこさ腕を放したが人選間違ったかもしれんと思えてきた。 

「なんで、きみはそういう事をしても怒られんのかのぉ」 
そうして聞こえてきたのはご存知オスマンの羨ましそうな声。 
「わしなんて…わしなんて尻撫でただけでも蹴られとるというのに……」 
そう言いながらフーケに触ろうとして近付き、綺麗なカウンターを繰り出しオスマンが3回転半しながら地面に倒れた。 
流石に、教え子に手を出さないだけマシなのだろうが、知ったこっちゃあない。
「クソ……馬鹿ばっかだ……」 
一応、こっちは真剣にやってるんだからもう少し合わせろと言いたいのだが、とりあえず今は説教している暇は無い。 
倒れたオスマンを無理矢理立たせると、本命の話を出す。 

「でだ、アルビオンに『密航』したいんだが、なんか手段を出せ」 
「うん、無理」 
瞬間、少し乾いた音が部屋に鳴る。 
間髪入れずに返してきた返答に突っ込んだ…もとい軽く殴った。 
「一秒も経ってねーのに無理ってのはオレをナメてんな?それともボケたか?この際ついでにもう200歳ぐらい歳とってみるか?ええ?」 
「いや、ホント無理。『密航』って事はバレたくないって事だからのぉ。補給艦に潜り込んでもバレるよ?それは」 

戦時だけにそういうチェックは厳しい。 
リトル・フィート、マン・イン・ザ・ミラー、メタリカなら気にしないでいいが、そうもいかない。 
さすがに正規乗員で無い限り老化してもバレるし、バレてもいいのなら相手を始末すればいいだけなのだが、状況が違う。 
おまけに、アニエスに知られた以上はなるべく早く行動したい。 

「……他は」 
「ふーむ。そういえばスカロン店長が女の子達を連れて、慰問に行くとかもしれないとか言ってたような」 
「却下だッ!」 
ああ見えて口が堅い事はしっているが、何されるか分かったもんじゃあない。 
今のところ、唯一にして明確なプロシュートの弱点というやつだろう。 

「へぇー、あんたにも苦手な相手が居たのかい。こりゃ今度話を聞いてみないとね」 
フーケが笑いをかみ殺しながら仕返しかと言わんばかりにそう追求してきたが、それだけは避けねばならない。 

「…そういや、襲ってきた連中は全滅したって報告するんだったよな」 
「そうじゃな。学院の生徒を人質に取ろうとしたんじゃから、宮廷の連中が見逃すはすはあるまい」 

「……ならオメーが生きてるってのは不自然なわけだ。全滅したんだからな。つーこたぁ分かるか?オレの言ってる事」 
フーケの方へ視線を向け、指を鳴らしながら手をフーケの前に出した。 
顔が青くなっていったあたり、どういう状況か理解できたらしい。 

「ま、まさか……」 
「60歳ぐらいに抑えといてやるから安心しろ。なに、一瞬だ」 
一気に後ろに後ずさる。その素早さたるや台所の黒いアイドル顔負けというやつだろう。 
そうなるのも当然と言えるのだが、しかしながらここは学院長室。 
オスマンの私室ともいうべき場所であるからには、そんなに広くはないのですぐに壁に突き当たった。
「わたしのそばに近寄るなぁぁぁあああああ」 
四体倒地し顔だけこちらに向け必死で叫ぶ。 
が、唯一この場でこの能力がヤバいと理解してくれそうなキュルケは思いっきり顔を逸らしているので助けになりそうもなく 
肝心のプロシュートもかなりの無表情で手を伸ばしてきているあたり止まりそうにない。 

「そ、そうだ!わたしに危害を加えない事が条件だって言ってそれを飲んだじゃないか!」 
「何言ってやがる。きっちり元に戻るんだから危害を加えるって事にはならねーよ 
  それに、オメーがそのままで向こう行くとバレた時に厄介だからな。今のうちに慣れさせといてやるよ」 
思い出したかのように学院に向かう前の条件を切り出したが 
本人全く一切の聞く耳を持たず。プロシュート的に危害=負傷、元に戻らないぐらいの老化。なので問題無いのである。 

「暴れんじゃねーぞ。加減が狂って手遅れになっても知らねーからよ。大体オメー一回食らってんだろーが」 
「い、いや…さ、触わらないで、お願いだから…」 
泣きそうかつ逃げようとしている女に無理矢理触ろうとしているとなるとちょっと絵的にアレだが、本人にその気はまったくなく 
ただ単に直食らわせてフーケだとバレなくしようとしているため、むしろスタンドパワー使うんだから感謝しろという具合である。 

「まぁ、渡る方法もまだ分かってないんだし、今はいいんじゃないかの」 
「……そいつもそうだな」 
オスマンの言を聞いて2~3秒考えたが、持続力Aとはいえ老化させっぱなしというのもパワーを使う。 
スタンドを戻し手を引いたが、一杯一杯なフーケを見て『死にゃしねーんだから大した事ぁねーだろうが、このマンモーニが』 
と内心思っているのはご愛嬌。 
もっとも、悲しきかなは価値観の違い。プロシュート的には60歳はまだ大した事は無いが 
キュルケやフーケの価値観としては60歳というのは寿命一歩手前に等しいのである。故に 

――今、この瞬間だけありがとう…… 

と、秘書時代を通してこれ程オスマンに感謝したのは初めてかもしれない。 
仙人っぽい外見のオスマンが本気で仙人のように後光が指して見えたのも仕方ない事なのである。 

そんなフーケをガン無視して別の場所から思いっきり高圧的な声。 
「歳食ってんだから、何か知ってんだろ。頭絞って考えろよ」 
「人使い荒いね君…わし、一応ここで一番偉いんだけど」 
二人を対比すると、ちょっとボロ雑巾気味のオスマンと 
椅子に座ってはいるが、机に足を投げ出して思いっきり偉そうにしているプロシュート。 
この事から敬意など一欠けらも持っていない事が凄くよく分かるであろう。
「ウルセー、それならそれなりの仕事してみせやがれ」 
地位や立場より、実績や報酬を重視するタイプなので、いくらオスマンが偉大なメイジなどと言われていても、見ていないのでこういう扱いである。 
おまけに、例の一件からただのエロジジイと認定しているため、恐らく余程の事が無い限りこの態度は覆るまい。 
「悲しいのぉ…年寄りはもっと丁寧に扱うべきじゃよ。もっと敬老精神というものを持ちたまえ」 
「生憎、オレはそういうモンは持ってねーし 
   オメーみたいな化物にんなもん必要ねぇ。手ぇ抜いたつっても直食らって外見が変わんねーってのはどういう事だ」 
「化物って酷くない?わしはただの可哀想な年寄りじゃよ」 
「ほーう。可哀想な年寄りってのは、そいつの足元にネズミを潜ませたりすんのか?なんなら寿命でくたばらせてやってもいいんだぜ?」 

やっとこさ立ち上がったフーケの足元に小さいハツカネズミがそこに居た。 
「な…!このジジイいつの間に!」 
「おお、モートソグニルわしの為に、お前は本当に可愛いのぉ。よぉ~~~しよしよしよしよし」 
「オメーがやらせたんだろうが」 
どこぞの元医者のようにモートソグニルを撫で回すオスマンに冷静に突っ込んだが、いい加減その髭面をブン殴りたくなってきた。 

「知ってようが知っていまいが……二秒やるから、知ってる手段ってやつを吐け」 
「案外せっかちじゃな。もっとゆっくり真実というものを考えてみたらどうかね」 
「ウーノ(1)」 
「ちょ、ちょっと待とう。な?ほら、よく言うじゃろう『ゆっくりしていってね!』って」 
「ドゥーエ(2)。じゃあいっその事永遠にゆっくりしてみっか?え?」 
『ゆっくりしていってね!』という言葉にやたらムカき2を早め、ついでに大往生させてやろうかとも思ったが 
それより先にオスマンが答えを出してきたので何とか止まった。 

「仕方ないのぉ…竜にでも乗れればいいんじゃろうが、気難しい生き物じゃからな」 
「…ああ、そういやそんな手があったな」 
野生のやつなんぞ乗りこなす気なぞ全く無いが、アテは一つある。 


少々カオスな状況の学院長室とは所変わって女子寮の部屋の一室。 
その中で青い髪、ご存知タバサが多少眠そうにしながら本を開いていた。 
「おねえさまに言われたとおりにあの人を連れてきたのね!シルフィ偉い!」 
と、部屋の窓一杯に映っているのはこれまたご存知のシルフィードだ。 

「おねえさま、ご褒美は美味しいものがいいのね」 
「……二個?」 
「きゅいいっ、きゅいーーーッ!きゅい!」 
「三個……?イヤしんぼ」 

と、そこに部屋のドアから軽いノック音がしてきた。 
「きゅい?誰かきたみたいだけどいいの?」 
「構わない」 
襲撃なんぞがあったのだから、今日の授業は無いだろうから慣習に従い本を読む事にすると決めたのでどうやら無視する事を決め込んだようだ。 
ぶっちゃけ言えば、シルフィードですら邪魔と言いたいのだが、一応の功績があるので好きにさせているという具合だ。
しばらく反応が無かったが、少しするとさっきより大きい…ドアを叩くような音がしてきたが手早く『サイレント』をかけ 
音がしなくなると満足したような表情で本に向き直った。 
だが、何時の時代も個人の平穏というやつは破られるものである。 

勢いよくドアが開かれ…もといブチ破られたためだ。 
キュルケならアンロックで開けるだろうし、他の生徒達にこんな真似をする者はいないので杖を引き寄せ身構えたが 
聞こえはしないが、重苦しい音をさせながらこちらに近付いてくる人物を見てサイレントを解いた。 

「居るんなら返事ぐらいしやがれ。それとも聞こえなかったとかいうんじゃあねーだろうな」 
破壊力Bのスタンドで思いっきりドアをブン殴った、ご存知プロシュート兄貴である。 
「……やっぱり似てる」 
「あ?何がだ」 
過去、ルイズがタバサの部屋のドアを爆破したという黒歴史的な出来事を思い出しての感想だが、プロシュート自身は知った事ではない。 

「何か用?」 
普通というか、こういう乱入者は魔法でお引取り願うのだがそうはしない。 
手短にそう言ったが、ここまでやるからには何かあるのだろうと思う。 
もっとも、杖を向けた瞬間スタンドとかいうやつで容赦なく攻撃されるだろうという考えもあったからだが。 

「ああ、オメーに用があるってわけじゃあねーんだが」 
「じゃあ何」 
用が無ければ、人の部屋に乱入したりはしない。タバサの疑問も至極当然といえる。 

「オレが用があんのは……外に居るそいつだ」 
「ぎゅい!?」 
睨み付けるかのような視線を窓の外のシルフィードに向けると、どこか詰まったような鳴声が返ってきた。 
「あんな場所から何の準備もなく落とされたからな…本当にオシマイかと思ったよ…いや、マジに恐れ入った」 
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ という擬音を背景に部屋の真ん中に進んだが、窓の外のシルフィードは何かこう、テンパっている。 

(シルフィード) 
(は、はい…!) 
(説明して) 
質問は拷問に変わっているんだぜ?というような尋問が行われたが、シルフィードの答えは至極簡単である。 
「つまり、シルフィードに落とされた?」 
「100点満点だ。褒美をやりてーとこだが、そうもいかねぇ」 
(メイジじゃないって事を忘れてただけなの!悪気は無かったのね!) 
(黙ってて) 
(きゅい…) 
「オレは今からお前にごく簡単な質問ってやつをする。イエスかノーか二つに一つってやつをだ」 
こういった尋問役は、本来ホルマジオかメローネ(変態的な意味で)なのだが、まぁそうも言ってられない。 
「オレはそいつに簡単なスカイダイビングをさせられたわけだが……それはオメーの指示か?どうなんだ?答えろよ…」 

タバサの後ろからそう質問したが、これがブチャラティなら汗を舐めているところだろう。 
よくよく考えれば、あのチームで一番マトモそうなヤツが実のところ一番変態とも言える。 
結局のところギャングにマトモな神経のヤツなど一人も居ないという事か。 
まぁ、タバサ自身は汗なぞかいてないし動揺もしていないが。
「シルフィードが見つけた時にあの場所に連れてきて欲しいと言ったのは事実」 
(おねえさま……) 
小さい窓から部屋の中を無理矢理覗き込んでいるシルフィードは気が気ではない。 
下手に答えれば『ブッ殺した』という過去形で語られそうな展開になるかもしれないと思っているからだッ! 

そして、そんなシルフィードをに構わず、いつものようにタバサが言った。 
「だけど……落とせとは言ってない」 
(きゅいぃぃぃ!お、おねえさま、それはぁぁぁぁ!) 
(五月蝿い) 
「まぁ、あんときオメーはブッ倒れてたからな……つまり、あいつが勝手にやったって事でいいんだな?」 
「そうなる」 
(う、売ったぁぁぁ!おねえさまひどいの!シルフィきっとすっごく怒られちゃうのに!…ハッ!) 
シルフィードが気付いた。プロシュートの物とは違う冷たい雪風のような視線がこちらに向けられている事に。 
(お、おねえさまのあの目…シルフィの前に並べられたご飯を見るような冷たい目なのね…『残念だけど20秒と持たない運命なのね』って感じの!) 

ぎゅい~、と絹が裂けるような鳴声と共に恨みがましい目をタバサの方に向けていたが 
それよりも数段目立つ、スゴ味を感じさせる眼を見てさらにテンパる事になる。 

しかも、その眼が無駄に足音をたてながらゆっくりと向かってくるのである。 
(うう、怒られるだけで済めばいいけど……だけど、お肉が食べられなくなるのはイーーーヤーーーーー) 
どうやら、老化させられると判断したようで年老いて歯がボロボロになった自分を想像したらしい。 

空を飛べる翼があるのだから逃げてもいいのだが、そうすると今度はタバサにお鉢が回るかもしれない。 
自分の身体(主に食を司る部分)か主人のタバサか。 
シルフィードにとってどちらも譲れる問題ではないため、未だ窓の外に止まっている。 

そんな事やってるうちに遂にプロシュートの腕がシルフィードを捉えるべく、まるで鎌首を上げ獲物を捕らえる蛇の如くゆっくりと持ち上げられたッ! 
(きゅいぃ…最後に沢山お肉食べたかったのね…) 
もう諦めたのかシルフィードの頭の中には今まで食べた美味しかった物が次々と現れては消えていっている。 
走馬灯に近いものがあるのだろうが、全て食的なものしか現れていないあたり、本人の欲望が最優先されているといっていい。
「待った」 
しかし、そんなシルフィードに救世主現れた! 
意外!それはタバサッ! 
「確かに、私が命令したわけじゃない。でも……使い魔の責任は主人の責任」 
「すると、オメーが身代わりになるって事か?」 
そう問うと、タバサが小さく頷いた。 
(……で、でもダメなの!シルフィよぼよぼのおねえさまなんか見たくない!) 
(…変わりにお肉は抜き) 
(お、おねえさまぁぁ!ならシルフィも一緒!) 

何かこう、主人と使い魔との絆が一層強まったようだが、何話してるかさっぱり分からないプロシュートには知ったこっちゃあない。 
「悪りーが、オレとしては誰かの責任を他人が身代わりに被るってのを認めるわけにはいかないんでな」 
誰かに身代わりになってもらうようでは、そいつは一生成長しない。 
まぁ、ギャングの中にそういう連中はものスゲー居るわけだが。 

右手を窓の外のシルフィードの額に当てる。 
タバサが少しばかり批難めいた目でジーっとこっちを見ているが特に気にしない。 

(お肉…でも、おねえさまが無事ならそれでいいの…でも、お肉…) 
(シルフィード…) 
あくまで食事の比率が大きいのか、最後まで気にしていたようだが目を閉じ、来るべき老化を覚悟していたが 
次にシルフィードが感じたのは老化による疲労などではない。 

シルフィードが感じたのは、額を数度ノックするような音。 
まぁ実際竜の硬い皮膚を人の手がコツコツと叩いているのだからノックとも言えなくも無い。 
「…きゅ、きゅい?」 
「結果論としちゃあ、あれで先手取れたようなもんだからな。穴も開いてねーし、あの件に関しては貸しって形で終わりにしといてやるよ」 
元より、落とされた事で来たわけではなく、目的は別にある。 
「で、だ。オレとしてはその貸しを今すぐ返して貰いたいってわけだ」 
「返す?」 
「こいつ貸せ」 
そう言って指差すのは勿論シルフィードだ。 
「そいつなら、アルビオンに行けんだろ。前も行ってたしな」 
普通の竜なら無理だが、シルフィードならタバサ経由でなんとかなる。 
この際、どんな小さな貸しだろうと利用してシルフィードを使うと決めたようだ。というよりそれしか方法が無いのだが。
「どうしてアルビオンに?」 
そりゃあこれからドンパチやろうかという場所に行くというのだから、その疑問も当然だ。 
「あー?気に入らねぇやつが居るからな。厄介な事になる前にそいつを始末しにいくだけだよ」 
死者に老化が通用しない事もあるが、やはり偽りの精神を与えるなどという誇りを踏み躙るようなやり口が気に入らないというところが大きい。 
この際、いい機会だからボスにやる予定だった分も全部纏めてクロムウェルにやっちまおうという事である。 

人、それを八つ当たりと言う。 

「……クロムウェル?」 
「よく分かったな。まぁ、オメーもアレを見たから分かるだろうがな」 
プロシュートは簡単に言ったが、一国の皇帝を一人で始末するという事である。 
クロムウェルをガリア王に置き換えれば、それがどれだけ遠い道かタバサにもよく分かる。 
それを気に入らないというシンプル極まりない理由でやろうというのだから呆れるしかないというやつだろう。 

少しばかり怪訝な表情でこっちを見てきたタバサに気付いたのか、さも当然という風にプロシュートが返した。 
「ああ、そういや言ってなかったな。オレ達は向こうじゃそれが本業だ。 
  さっきのは条件付いてたから手間取ったが…次からは遠慮する必要なんてねーから楽なもんだ。 
 スタンド使いでも無い連中なら、オレにとっては何人居ようが関係ねぇ」 
射程距離半径200M。全員がオスマンみたいなのなら問題だが、最初からフルパワーで老化させていけば 
軍隊組織そのものを相手できるとまでは思っていないが、純粋な対人に限れば千人だろうと、その気になれば例え一万人だろうと関係ない。 
つくづく暗殺というより殲滅向きな能力だと思うが、ホワイト・アルバムよりはマシというところか。 
むしろ、少数で風の遍在でも送り込まれるほうが余程厄介というべきだろう。 

そう言うとどこからか、何か興奮気味の声が聞こえてきた。 
「やっぱり凄いのね!おねえさまも手伝ってもらえばいいの!」 
(シルフィード!?) 
(きゅい!?…ま、間違えたのね) 
どうやら少しハイになって間違えたらしいが後の祭り。しっかり聞かれてしまっていたりする。 

「おい……何か言ったか?」 
「……気のせい」 
「どっかで聞いたことあんだよ…今のは」 
部屋を見たが他に人は居ないし、何よりタバサの口調ではない。 
となると、残ってるのは窓の外に居るシルフィードなのだが、これは竜だ。
と思ったが、ここはバカデカイ島が丸々一個空に浮いてるようなブッ飛んだ世界であるし 
竜というのはファンタジー映画基準からすれば結構口が利けたりする生物だ。 
タバサは口を割りそうにないし面倒なので直接本人(本竜)に聞いてみる事にした。 

(何言われても答えちゃダメ) 
(わ、分かってるの。シルフィ絶対喋らないのね) 
「口が利けるってんなら答えろ。答えない場合は『目の中に親指を突っ込んで殴り抜ける』」 
親指どころか、拳が丸々入るだろうという突っ込みは横に置き、選択肢YES or yes。拒否権一切無しの質問…もとい尋問に 
一秒も経たずに綺麗サッパリ洗いざらい全部まとめて喋ってくれました。 

「メンドクセーことしやがる。大して変わんねーだろーが」 
「そうでもない。韻竜は数が少ないから」 
「オレはそれより、そいつを使い魔ってのにしたオメーの方が気になるがな。さっきも言ったがマジで何モンだよ」 
使い魔=メイジの実力がここの方程式だ。となると、その珍しい韻竜を召喚したタバサもかなり珍しい部類に入ると踏んだ。 

「きゅい!それはシルフィが説明するのね。おねえさまはガリア王家の王女さまなの」 
「ほー、それが何でこんな所に居やがる」 
「それはとっても悲しい話なの…おねえさまのお父さまは暗殺されて、お母さまも食事に毒を盛られておかしくなっちゃったのね」 
ここまでは下手な本の中にもよくある話だ。というより、型に嵌り過ぎてむしろ拍子抜けしたという方が正しい。 

「で、それをやったのが、こいつの親父の兄貴か弟ってとこか?」 
「その通り!よく分かったのね」 
「よくある話じゃあねーか。ま…こんなに近くにいるとは思わなかったが」 
王族と聞いても態度は一切変えない。メローネじゃないがタバサの生まれや育ちが何だろうとどーだっていいのである。 

「それだけじゃないのね!おねえさま、ずっと昔から北花壇騎士団っていうのに入れられて 
  危険な任務を与えられてるの…この前だって吸血鬼を退治しろだなんて言われて、死ぬかと思ったのね!」 
「シルフィード、それ以上は言わないでいい」 
「でも~…」 
「……ダメ」 
「……分かったのね」 
「ヒネたガキだとは思ってたが、そりゃあそういう事やってりゃあそうなるな」 
パッショーネの構成員の中にも今のタバサぐらいの年齢のやつは腐るほど居る。 
ナランチャやフーゴ、[[ペッシ]]あたりがそうだ。 
だが、シルフィードの言い方からすると、それより遥かに前から任務をこなしていた事が理解できる。 
ヒネたガキと言ったが、この場合むしろ汚れ仕事を押し付けられているあたり、よくもまぁこの程度で済んだなと感心したぐらいだ。 
「で、汚れ仕事をこなしても報酬は殆ど無くて拒否権も無ぇ。おまけに、少しでも反抗しようとしたらお前か母親が始末されるってとこか」 

「それでも復讐しようとして生き延びてきたら、こうなったってわけだ。よくやんぜオメーもよ」 
「……知った風に言わないで」 
珍しく感情を含んだ声でタバサがそう呟いたが、それこそそういう風に言われる筋合いは無い。 
「ガキが誰に物言ってやがる。オメーこそ知った風な口利いてんじゃあねぇ…!」 

「組織に良い様に使われるってのは、オレ達が一番よく知ってんだよ 
  仲間二人見せしめに殺され、それでも何もできずに飼い殺しにされて、やっと掴んだボスの手掛かりを追って反逆したが 
 戻ってみりゃあ、あいつらもボスもくたばってやがった。オメーはまだいいぜ。復讐する相手がいるんだからな…ッ!」 
言い終えると同時に重い音が部屋に響いた。 
素手で思いっきり部屋の壁を殴ったのだが、壁から少量の血が流れ落ちている。 
ボスはブチャラティ達に倒されたが、落し前は自分の手で付けたかったというのが本音というところか。 
自分の知らない所で復讐対象が倒されていた場合、後に残るのは振り下ろす相手の居ない拳と同じだ。 

「…ちッ!どうもガラじゃあねーな。物に当たんのはギアッチョの担当だ」 
勢いに任せて壁をブッ叩いたが、それでもどうにもならん事ぐらい理解している。 
まぁ、素手でカーステレオをブッ壊すギアッチョなら今頃壁はボコボコであるのだが。 

「って事だ。その冷めた面見てるとますますオメーがリゾットに見えてきたぜ。 
  こっちの仕事が片付いたらお前の方も考えといてやるよ。ただし、高いがな」 
「考えておく」 
「迷うことないのね!おにいさまに手伝ってもらえばすぐ終わるのに」 

……なんだってェェェェ!?

妙に聞き慣れない言語がシルフィードから飛び出たため、タバサとプロシュートの思考が同時に一瞬止まった。 
「……おい、てめー今なんつった」 
「手伝ってもらえばすぐ終わるって言ったのね」 
「違う、その前だ」 
「きゅい?おにいさま?」 
「それだ。どういうこった、ええ?第一オメー幾つだ。どう見てもタバサより年上だろお前」 
兄貴ならともかく、『おにいさま』と呼ばれたのは人生初めてだ。しかも、自分より明らかに長生きしてそうなナマモノにである。 

「だっておねえさまの他にお話してもいい人だし、だからそう呼ぶって決めたの」 
「わたしは話してもいいとは許可してない」 
「きゅい……でも、失敗は前向きに生かさないとダメだと思うのね」 
「オメーまでリゾットみたいな事言うんじゃあねぇよ。で、歳は」 
「よく覚えてないけど200歳ぐらいだったと思うのね」 
「200!?オスマンのジジイと同じでババァじゃねーか!」 
「きゅい!?おにいさま酷い!人間と竜は寿命が違うのに!」 
人間としての的確な突っ込みにシルフィードが竜として抗議したが、そこにタバサが付け加えてきた。 

「竜の200歳は人間で言うと10歳ぐらい」 
「……14~5秒ってとこか」 
「……なにが?」 
人間一人寿命寸前に追い込むのに一秒程度だが、竜相手だとそのぐらいかかるという事だ。 
火でも吹いてくれれば別だが、やはり竜は敵に回したくない相手というところだろう。 

「オメーがタバサ以上にガキってのは分かったが、もう少しどうにかしろ。気が抜ける」 
「嫌なの?それじゃあ…美味しそうな食べ物っていう意味の…『生ハムさん』ってのはどう?」 
「それはマジで止めろ」 
そのままじゃねーかと言う突っ込みは置いといて、『生ハム』とそのままの意味で呼ばれるのは遠慮願いたい。 
ペッシを魚料理、リゾットを雑炊、メローネをメロンと呼ぶようなものと思えばご理解頂けるだろうか。 
「それじゃあやっぱりおにいさまなのね」 
「……あー、もう好きにしやがれ」 
生ハムと呼ばれるより幾分かマシだとしたが、少しばかりペッシとデルフリンガーが懐かしくなってきた。 
まぁ、シルフィードの声で兄貴と呼ばれるのもどうかと思わないでもないが 
とりあえず悪い方向に転んでは無いので少なくとも当面それで妥協する事にした。 


プロシュート兄貴――人外の舎弟?二匹目ゲット!

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