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咆哮! 貴族の誇りと黄金の精神 その① - (2007/09/15 (土) 22:57:24) のソース
咆哮! 貴族の誇りと黄金の精神 その① 真っ先に動いたのはタバサだった。さすがはシュヴァリエといったところか、焦りが無い。 落ち着いた口調でルーンを唱え杖を振る。 「エア・ストーム」 風のトライアングルスペルが巨大な竜巻を構成しゴーレムを包む、しかし効果は薄い。 続いてキュルケも胸に差した杖を引き抜き詠唱をしていた。 「ファイヤーボール!」 火球がゴーレムの頭に直撃したがゴーレムはまったく意に介さない。 「無理よこんなの!」 キュルケが叫び、 「退却」 タバサがうなずいて口笛を吹いた。 すると森の向こうからタバサの使い魔シルフィードが飛んで来る。 それを確認した承太郎は、あえてゴーレムの方向へと踏み出した。 「俺が時間を稼ぐ。おめー等はあいつに乗って逃げな」 「了解」 タバサとキュルケはゴーレムから逃げるように走り出し、シルフィードと合流しようとする。 だが、ルイズの姿が見えない。 「……? ルイズ?」 承太郎が周囲を見回すと、意外ッ、何を血迷ったのかルイズはゴーレムの横に回り込んでいた。 杖を掲げてルーンを詠唱し、魔法を放つ。ゴーレムの表面が傷ひとつ負う事なく爆ぜた。 「何してる! 引っ込んでろッ!」 「いやよ! あいつを捕まえれば、誰ももう、私をゼロのルイズとは呼ばないでしょ!」 正面の承太郎、右のルイズ、左に逃げているタバサとキュルケ。 ゴーレムは左に向かった。獲物が多いからか、破壊の杖を持っているからか。 「させるか!」 承太郎がゴーレムの足に肉薄し『腕』で足首を粉砕しようとする。 だが半ばまでえぐられたところで、これ以上はたまらないとばかりにゴーレムは足を引いた。 それをチャンスとばかりにルイズがさらに詠唱を開始し、ゴレームが腰を回して狙いを変更。 「ルイズ!」 ゴーレムの手がルイズに伸ばされる。失敗魔法の爆発がゴーレムの手のひらを焼いたが、その程度の衝撃で止まるほどやわではなかった。 承太郎はルイズを守るべく大股で走り出す。 『脚』を使えばビルを飛び越すようなジャンプが可能だが、 脚力が強すぎて移動力は『縦方向』に特化している。よくて斜め方向へのジャンプ。 『横方向』の移動は壁などを殴ったり蹴ったりといった『反動』で飛ばねばならない。 ゆえに、承太郎は走るしかない。己の健脚で。 「伏せろ!」 ルイズに向かって伸びた指を、承太郎の『右腕』が殴って真ん中からへし折った。 走ってきた勢いそのままに承太郎はルイズのマントを引っ掴んで、ゴーレムから距離を取るべくそのまま走り抜ける。 「馬鹿野郎ッ! てめーの魔法でどうこうなる相手じゃねー、引っ込んでな!」 走りながら怒鳴ると、ルイズも負けるものかと怒鳴り返してきた。 「やってみなくちゃ、わかんないじゃない!」 「敵の強さを正確に判断できねーようじゃ……死ぬぜッ」 「でも!」 ゴーレムの拳が承太郎達を狙う。いつまでも逃げ回ってる訳にもいかない。 さて、どうしたものか。 一方、シルフィードはタバサ達を乗せて飛び上がった。 「タバサ! 二人を『レビテーション』で拾うわよ!」 キュルケが宣言し、二人を拾えるようゴーレムを迂回して近づきほぼ真上に到達する。 「ジョータロー!」 キュルケが叫ぶと、承太郎が視線を上げた。気づいてくれた、チャンスだ。 「今から『レビテーション』で二人を……」 「キュルケ! 『レビテーション』で『こいつ』を拾えッ!」 『こいつ』って何? とキュルケが疑問に思うと同時に、承太郎の『腕』がルイズの胴体を掴んで……空中にぶん投げる! 「ヒィィィヤァァァアアア~~~~ッ!?」 「ルイズだぜ。ほれほれ、早く拾われねーと地面に墜落して再起不能になるぜ」 それにしてもこの承太郎、実に外道である。 ルイズはほぼ垂直に投げられ、ゴーレムの頭を追い抜いく勢いを見せる。 これは承太郎の想像以上にルイズの体重が軽かった事にも問題があった。 「この圧倒的パワー、まずい! 激突するわッ!」 「退避」 うろたえるキュルケの横で、あくまで冷静なタバサが指示を出す。 ギューンと空気を切ってルイズはシルフィードの横を上空に向かってすっ飛んでいった。 そして次第に上昇速度が低下し、一瞬だけ空中で停止し、落下開始。 「イィィィヤアァァァァァァァァァッ!!」 悲鳴を二連続で上げて落下するルイズにタバサが杖を向けレビテーションを唱える。 一度上空で停止して勢いを無くしたため、今度は拾うのも容易というものだ。 「確保」 そう呟いてタバサはルイズをシルフィードの背中に乗せた。 ルイズは顔を真っ青にして胸を押さえている。投げられたのが相当怖かったらしい。 「ちょっと、大丈夫?」 「ししし、死ぬかと思った」 「スリル満天」 タバサのクールなボケに苦笑しつつ、キュルケは地面を見下ろした。 丁度承太郎がゴーレムの手首から先を破壊したところだった。 「さすがジョータロー。あれなら楽勝じゃない」 「そ、そーもいかないわ。あいつ再生するから」 嫌々キュルケに持たれかかりながら、ルイズは口を苦くして言った。 ゴーレムは承太郎から数歩後ずさりつつ、手首で地面を擦って土を吸収する。 「やれやれ……このままいたちごっこを続けるとなると、ちと骨が折れるか」 スタンドと違い、ゴーレムをいくら攻撃してもフーケにダメージは与えられない。 ゴーレムを再生させるのに魔力やら精神力やらを消費しているかもしれないが、そんないつ切れるか解らないものに期待してもいられない。 一番手っ取り早いのはフーケ本体を叩く事。 承太郎の推測では恐らく自分とゴーレムを視認できる位置から、 ゴーレムを操作して戦っているのだろう。そしてそれは『森の中』の可能性が高い。 「森の中に投げ飛ばされた『ロングビル』を探せ!」 低く太い承太郎の声はしっかりとルイズ達に届いた。 「そ、そういえばまだミス・ロングビルが……早く助けないと!」 「彼女が投げ込まれたのって、どの辺りだっけ? タバサ、解る?」 「……違う。彼は彼女を『助けろ』とは言っていない」 タバサは目つきをほんの少しだけ鋭くして、森を上空から見下ろした。 生い茂る枝と葉が邪魔でほとんど何も見えない。 仕方ないとばかりにタバサはルーンを唱え、大慌てのキュルケに口をふさがれた。 「ちょっ、ちょっとタバサ! 今唱えようとしたの、エア・ストームじゃない!」 「モゴモゴ」 「いったい何を考えてるのよ! ミス・ロングビルが危ないじゃないの!」 「モゴモゴ」 「あ、ゴメン。喋っていいわよ。でも魔法禁止だから」 キュルケが手を放すと、タバサは森を見下ろしたまま理由を話した。 「風で葉っぱを吹き飛ばせば見つけやすい」 「でも! それじゃミス・ロングビルまで吹き飛ばされるでしょう!」 「構わない」 「えっ、ええ!? ちょっと、どーしちゃったのよタバサ!?」 「彼の推理が正しいとすれば――」 バゴォン! 巨大な破壊音にタバサ達の視線がゴーレムへと向けられる。 ゴーレムの右腕が地面を叩いたのだ。承太郎は、その腕の上を駆け上がっている! それを鷲掴みにしようとゴーレムの左手が伸びる。タバサが素早く呪文を唱えた。 「エア・ハンマー」 空気の塊がゴーレムの左腕を弾き返す。その隙に承太郎はさらに走る! 「効果があるかどうかは解らねーが……てめーの頭を叩き潰させてもらう」 肩に到達した承太郎は『両腕』で拳の弾幕を作りゴーレムの顔面を破壊する。 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」 ゴーレムが後ろにのけぞりながら、頭の土を森の中にまで吹っ飛ばされる。 だが、頭部を破壊し尽くされて背中から倒れようとした直後、 ゴーレムはグンッと身体を起こして承太郎を前方に振り落とす。 「仕方ねえ。こうなったら再生する時間を与えず粉々に粉砕するしかねーようだな」 落下中の承太郎に、ゴーレムの左拳が迫る。 当然承太郎は『両腕』をクロスさせてガードの体勢になった。 しかし! 簡単に防げると思ったその一撃に変化が起こる! 「何ッ!?」 左拳の表面が見る見る色を変えていった、鈍い鉄の色に。 「錬金ですってッ!」 キュルケが叫ぶとほぼ同時に承太郎は廃屋まで殴り飛ばされ、 天井を突き破って中に落ちてしまった。 ゴーレムは鉄と化した拳を握りしめ、廃屋に向かって歩き出す。 承太郎は無事だろうか? いくら『腕』が強力でも鉄となったゴーレムの拳を受けてはひとたまりもないのでは。 不安がキュルケの胸の中で爆発しそうになった時、キュルケよりも一足早くルイズの不安が爆発し行動を起こさせた。 「タバサ! それを!」 タバサはうなずいて、ルイズに『破壊の杖』の入った箱を渡す。 箱から『破壊の杖』を取り出し、改めて全体の形を見やる。 奇妙な形のマジックアイテムで、とても杖には見えない。 しかしこれを使うしか、承太郎を助ける手立てはないとルイズは思った。 「ジョータロォー!」 叫びながらルイズは風竜の上から飛び降りた。 ゴーレムの手の届かない高度から、魔法の使えないメイジが。 タバサは即座に『レビテーション』をかけ、ルイズを安全に着地させる。 「ゴーレム! あんたの相手はこっちよ!」 そう叫んでルイズは破壊の杖を振った。 ----