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Start Ball Run-5 - (2007/06/25 (月) 16:19:18) のソース
「おいおいおいおいおいおいおいおい! なんだよこれはよぉー どうなってんだよォーーー」 城としか思えない敷地の壁づたいに、ジャイロは逃げまわっていた。こんなどこかもわからない場所で、とっ捕まることはできないから。 とにかく、外に出れば、何とかなる。多分そうだろうと、信じてみたが。 「広いじゃねーかよ」 かなりの距離を走ったり、幾つかの城壁を飛び越えたのに、全く城壁の外に出られないでいた。 「……ったく。こりゃ相当金持ちが住んでんだな」 闇雲に歩いても抜け出せそうにないと悟り、歩みを止めて一休みしようと、壁に背中を合わせた。 ――以前味わったような、嫌な感覚を憶える。 念のため――、彼は腰のベルトから取り出した鉄球を回転させ、壁にあてる。その壁に耳をくっつけた。何かを、聞き取るように。 回転する振動が壁から地表に伝わり、物体に反射して戻ってくる。まるでソナーのように。その音を彼は聞き分け、探知する。 ――近づいてくる、足音が聞こえた。それも、複数の人間のもの。 「あの癇癪持ちのおチビちゃんだけじゃねえな……。ったく、さっき11人に追いかけられたばっかりだろうが」 同じ目に遭うにしても、早すぎだろオイ。と、そう一人ごちる。 「しょーがねえ。やりあうにしても一人じゃキツイぜ。やっぱ、……逃げるが勝ちだな」 気分が滅入らぬようニョホホと笑い、向かってくる足音の反対側に逃げようとして、振り向けば。 「……なんだ、オメー」 土の中から、巨大な生物が顔を覗かせていた。 愛くるしい瞳がジャイロを捉える。土の中から顔を出してもぞもぞ動いている姿はなかなか愛嬌がある。 ジャイロは本来、かわいいものが嫌いではない。 レース前に荷物を見直したとき、捨てられずに入れたものが、クマのぬいぐるみだったほどである。 だが――、こんな何もわからない世界では、たとえこんなに可愛くても、敵かもしんねーから、やっぱ鉄球ぶつけて気絶させようと、彼なりによく考えて苦渋の末決断する。 そして右手に握っていたものを振り上げたとき。 「よくやったぞヴェルダンデ! さすがは我が使い魔だ!」 上を見る。 ……高いところが好きそうな男が一人、建物の壁に突っ立って、彼を見下ろしていた。 「はっはっは! 見つけたぞルイズの呼び出した平民! 君個人には何の恨みも無いが、これも級友を助けるため! 僕の“青銅の魔法”の錆になるがいい!!」 キザったらしい笑い声と、舞台の俳優のような動きで、彼は遥か下にいる男を見下す。 そんな彼の登場に、驚きもせず、どちらかというと呆れたような声で。 「……誰だ、オメー」 そう、尋ねた。 「僕を知らないのか!? ……いや、失礼。君のようなどこぞの辺境の平民には、僕ほどの逸材など耳にも入らぬことなど当然か」 髪をかきあげる仕草をしながら、手に持っていたバラの花を一輪、その胸元に置く。 「よかろう。本来貴族の僕の名前など、平民に語って聞かせるのも勿体無いほどなのだが、特別に教えてやろう。我が名はギーシュ。ギーシュ・ド・グラモン。名誉あるグラモン家の四男にして――」 「どーでもいいんだがよ、おたく」 「ど、どーでもいいだと!?」 「そろそろ、あぶねえと思うんだがよぉー。そこは」 「な、何を言って……」 ギーシュが自身の口上を遮られ。代わりにジャイロに、自身の危険を知らされる。 だからというわけではなかったが、そのときギーシュは、ようやく――自分の 真下 を見た。 既に、彼が右手に握っていた鉄球は無い。 鉄球は回転を伴って城壁に投げつけられていたからだ。 そしてそれは、勢いが衰えることなく、壁を垂直に登っていく。 その――、先には。機嫌よくなにやら喚き散らす、ギーシュの姿があった。 鉄球が、直撃する。――彼の左足と、右足の、中間に、残りの勢いを全て衝撃に変えて。 一瞬で顔色が変わった彼は、身動きすら――いや、心臓すら停止してしまったかのように、直立する。 「ニョホ、悪りぃー。玉潰れたか? まあそんときゃあ、カンベンな」 答えなど無く。 彼は城壁の向こう側へ、崩れるように消えていった。 「……なんだったんだ、あいつ」 ゆっくりと弧を描いて戻ってきた鉄球を回収し、その場を放れる。 しかし、彼の犠牲があったからこそ。 包囲網は確実に――狭まっていた。 ----