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奇妙なルイズ-16 - (2011/02/06 (日) 16:25:01) のソース

サモン・サーヴァントに『爆発して』失敗するルイズは、学院長の取り計らいによりトリスティン魔法学院の二学年として授業を受けている。 
本来ならサモン・サーヴァントすら成功しないルイズは、使い魔を召喚するまで進級できないはずだが、オールド・オスマンはルイズの『爆発』に目を付けた。 
『彼女はすでに新種の使い魔を呼び出しているのではないか?』 
そう言って、オスマンはルイズの進級に反対する教師達を黙らせていた。 
実際には、土塊のフーケと戦った時の痕跡から、何らかの使い魔を呼び出していることは予想していたが、その確証はない。 
温情と言えば聞こえは良いが、オスマン氏はルイズに、執行猶予を与えているとも言えるのだ。 

ルイズは自分部屋で、腕から伸びる半透明の『腕』を見た。 
おそらく自分の使い魔であろうこの『腕』は、五体が揃っているのは感覚で理解している、しかし今はまだ『腕』だけしか自由に動かせない。 
ベッドに座ったまま、エルフの使う『先住魔法』のことを思い出した。 
エルフは杖も使わずに魔法を使うとか…もしかしたら、これはエルフの使う『先住魔法』なのではないだろうか。 
この腕は、障害物をすり抜けられるくせに、ものを掴むことができる。 
しかも精神を集中すれば、半透明な状態で人に見せることが出来る、これはキュルケとタバサが確認した。 

これを使い魔だと主張するにあたって二つの問題がある。 
一つは、前例のない『これ』が使い魔として認められるのか分からないこと。 
もう一つは幽霊騒ぎの件だ、キュルケとタバサが目撃した幽霊は明らかにこの『腕』だ。 
幽霊騒ぎは、トリスティン魔法学院を一時混乱に陥れ、キュルケとタバサ(と自分)を驚かし、ちょっと人には言えないような恥ずかしい目にあわせのだから。 
マリコルヌを全力でブチのめした後、二人にこんな事を言われた。 
「幽霊の正体があんたの使い魔だってバレたら…全生徒から恨まれるでしょうねぇ~♪」 
「…使い魔の不始末は主人の責任」 
キュルケはルイズの弱みを握って気分を良くしていたが、タバサからはシャレにならない殺気を感じた。 

とにかく、今のルイズには、部屋でため息をつくことしか出来なかった。 


その晩、ルイズの部屋を誰かがノックした。 
間を置いて叩かれる回数に、誰が訪問したのか気づき、客を迎えた。 
「こんばんは、ルイズ」 
「姫様、今日、ここに来られたということは…」 
アンリエッタはいつものようにディティクト・マジックで部屋を調べてから、フードを脱いだ。 
子供の頃のように、ルイズの隣に座る。 
「ゲルマニアの皇帝に、書簡が届き、その返答が送られてきました。内容は私を正室(正妻)として迎えるとの事です」 
「………そう、ですか…」 
しばらく、沈黙が流れた。 
「…思い過ごしならば良いのですが、一つだけ腑に落ちないのです。わたくしの婚約だけではなく、軍事的な提携に関しての要求書も添えられていたはずなのです、それはトリスティン側に有利な内容です。本来なら…わたくしの婚約だけでは見合わない内容でしょう」 
ルイズはじっとアンリエッタ姫の話を聞いていた。 
姫が言うには、トリスティン側が望む婚約の条件が、かなり高い状態であること、それにより婚約を引き延ばしできると考えたが、ゲルマニアは条件をすべて呑むということ。 
アルビオン貴族派がトリスティンへ侵攻を開始した場合、おそらくゲルマニアは何か理由を付けてトリスティンを見捨て、国力が低下したところでトリスティンに介入、そして王族と貴族をゲルマニアの支配下に置く… 
アンリエッタとマザリーニ枢機卿は、ゲルマニアにすら不信感を抱いていた。 
ルイズは知らなかったが、アンリエッタはマザリーニのことを嫌っている、しかし今回の出来事はアンリエッタに危機感を抱かせ、図らずしてアンリエッタとマザリーニの政治的信頼は強くなっていたのだ。 

一通り政治の話をしてから、アンリエッタはベッドから立ち、懐からトリスティン王家御用達の紙を取り、ルイズのペンを借りて書状を書き始める。 
そのときのアンリエッタの表情は恋する乙女のそれでありながら、どこか陰のある姿で、胸の奥の悲痛な思いを一文字一文字に込めているようだった。 
「ルイズ、この手紙をアルビオンのウェールズ皇太子に届けて欲しいのです、アルビオンの貴族派は王都を囲む準備を整えたと言われています、王城に攻め込まれる前に…」 
「しっ!」 

ルイズはアンリエッタの言葉を遮った。 
扉の外から気配を感じ、誰かが扉の外で聞き耳を立てているのが分かる、これはルイズの感覚ではなくスタープラチナの聴覚だが、ルイズはまだ自覚できない。 

アンリエッタをカーテンの後ろに立たせてから、ルイズは扉を勢いよく開けた。 
「どわっ!?」 
ごろん、と転がり込んできたのは、青銅のギーシュ、正しくは『ギーシュ・ド・グラモン』だった。 
転がりつつも薔薇の造花を手に持つ根性は見上げたものだが、ルイズは扉を閉めながら(二股のギーシュがのぞき見のギーシュに格上げね)などと考えた。 
「何やってんのよあんた」 
ルイズの質問に答えようともせず、ギーシュは立ち上がり、薔薇の花を両手に持ち直してこう言った。 
「薔薇のように麗しい姫さまのあと追っておりますれば、こんな所へ……、下賤な学生寮などで万が一のことがあってはと、鍵穴から様子をうかがっておりましたところ…」 
「ふーん、要はのぞき見? 重罪よね」 
そう言ってルイズはアンリエッタを見る、アンリエッタは困ったような表情でルイズを見たが、『とても楽しそうな』笑顔を見せていたので、アンリエッタはルイズの意図を汲んだ。 
「そうですね…公式な訪問ではないとはいえ、先ほどの貴方の言葉を借りれば、私をアンリエッタと知りながら後を追い、そして部屋を覗き見したと言うことになります」 
「姫さま、非公式とはいえ姫殿下訪問の御席は、王宮に準じると聞いています、故意に不作法を働いたのであれば侮辱にあたると存じ申し上げます」 
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの進言、この部屋の主たる責を負ってのものとして真摯に受け取ります、ではこの者に一級以上の罰を与えねばなりませんね」 

ギーシュは顔を真っ青にした。 
この世の終わりのような顔とは、こういうのを言うのだろうか、二股がバレた時とは比べものにならない。 

ルイズは内心で「やりすぎたかな?」と考えたが、たまには良い薬だろうと思って何も言わなかった。 
「ルイズ、この者の名は?」 
「グラモン元帥のご子息、ギーシュ・ド・グラモンでございます」 
「では…」 


アンリエッタはギーシュの前に手を出した、貴族の作法で言えば、手に口づけを許すという事だ。 
呆然としていたがギーシュだったが、差し出された手の意味に気づくと、さっきまで死にそうに震えていた男とは思えない程うやうやしく、手の甲に口づけをした。 
「では貴方に罰を与えます、私の…アンリエッタ姫としてではなく、ルイズの友人としてのアンリエッタに、力を貸して頂きたいのです」 
「任務の一員にくわえてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」 
ギーシュの言葉にアンリエッタは微笑む。 
「ありがとう。貴方のお父さまも立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいでおられるのですね。…この不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」 
「姫殿下がぼくの名前を呼んでくださった! 姫殿下が! トリステインの可憐な『薔薇の微笑みの君』が、このぼくに微笑んでくださった!キャッホー!」 
感動のあまり、立ち上がってわめき散らし、後ろにのけぞって転び、後頭部を打つギーシュ。 
それを見たアンリエッタは「ルイズの友人もおもしろい人ばかりね、うらやましいわ」と心底うらやましそうに言った。 

ルイズは、まるで看守にマスターベーションを見られた徐倫のように、嫌そ~~~~~な顔をしていた。 





アンリエッタ姫を見送った後、ギーシュは股のあたりを気にしながらヒョコヒョコと部屋に帰っていったらしい。 

「そりゃ怖かったでしょうね…」 
ルイズは、誰に言うわけでもなく呟いた。 

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