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発芽! 花開く明日のために - (2008/11/26 (水) 22:33:51) のソース

発芽! 花開く明日のために 

「ジョータロー。……今日の授業後、ヴェストリ広場に来てくれ。 
 君ともう一度決闘がしたい。受けてくれるかな?」 
昼食時、承太郎がいつものように厨房で食事をしていると、ギーシュが先日のように同席してきて、食後の一服中に頼んできた。 
彼の言葉を聞いたシエスタは、驚いて下げに来たお皿を落としてしまい、割れる寸前で承太郎のスタープラチナがお皿をキャッチしシエスタの手に戻す。 
「……どういうつもりだ? ギーシュ」 
承太郎は静かに問い返した。ギーシュは真剣な面持ちだった。 
「……別に。ただ、最近よく荒れ事に巻き込まれるからね。 
 だから模擬戦をしたいというのが本音さ。僕は実戦経験がほとんど無いからね」 
「なるほど……だが俺は『スタンド使い』だ。 
 俺と戦ったところで、メイジとの戦いの参考にはなりゃしねーぜ」 
「いいんだ。強い相手と戦って、自分の実力を知りたいだけだからね」 
「…………いいだろうギーシュ。その決闘、受けて立つ」 
いつかの食堂の時と違い、あまりにも穏やかに決闘の約束をする二人を見て、シエスタはいったい何がどうなっているのかよく解らなくなった。 
「和やか」 
テーブルの下に隠れていたタバサは、 
タバサ特性はしばみ茶五号(略してタバ茶五号)を飲みながらそう呟いた。 
「てめー、また潜り込んでやがったのか」 
承太郎にも気づかれずにテーブルの下に忍び込み、タバ茶を飲ませようと隙を虎視眈々と狙うとは、このタバサ只者ではない。 

今日の授業が終わり、後は夕食の時間までのんびりくつろごうという時間。 
夕陽が紅に染めるヴェストリ広場に二人の男が対峙していた。 
夕陽が紅に染めるヴェストリ広場に二人の女が観戦していた。 
「さあ、ジョータロー。勝負だ!」 
「……それより……何でシエスタとタバサがここにいるんだ」 
承太郎はヴェストリ広場の隅にサンドイッチの入ったバスケットを広げ、かつ水筒まで用意して「二人の決闘見ながら食べよう」という気満々の二人を見た。 
シエスタ曰く。 
「だって、いきなり決闘だなんて……私、気になっちゃって」 
タバサ曰く。 
「偵察」 
追い払うべきか放置すべきか。 
即断できるはずのこの問題を、承太郎は「呆れ果てる」という感情で遅らせてしまった。 
その間にギーシュが薔薇の杖を抜く。 
「まあタバサなら何かアドバイスとか気づきそうだし、見ていてもらおう」 
「…………」 
まあギーシュの目的は自分と戦って強さを磨く事だし、優れたメイジに見てもらって意見をもらうのも悪くないだろう。 
それにギーシュ相手ならば本気を見せる必要もない。 
「やれやれ、いいだろう。かかってきな、ギーシュ」 
「ではまず試させてもらおう……僕が学んだ新たな戦法を。舞えよ紅薔薇!」 
ギーシュの周囲に突如現れた紅い花びらが宙を舞い空を彩る。 
夕陽を浴びてさらに赤みを増したそれは、承太郎へ向かって舞い落ちた。 
「何を企んでいるかは知らんが、花びらを浴びてやる理由はねーぜ」 
承太郎の身体から浮き出た屈強の戦士が無数の拳で天を突く。 
「オラオラオラオラオラオラオラ!」 
花びらは呆気なく承太郎の周囲へと撃ち落とされた。 
彼の身体には一枚たりとも花びらはついていない。だが――。 
承太郎は気づいた。自分の周囲に花びらが落ちている、それはいい。 
だがなぜ、自分の周りに円を描くように落ちた花びらから、ギーシュに向かって花びらの線が伸びているのだろうか? 
まるで、導火線のように。 


(お手並み拝見だ。やってみな、ギーシュ) 
承太郎はあえてギーシュの成長を見るためにその場から動かなかった。 
だがギーシュは、それを自分の作戦に気づいていないと勘違いしてしまう。 
「今だ!」 
ギーシュは自分の足元まで伸びる花びらに杖を向けルーンを唱えた。 
(あの詠唱は……確か錬金だったな。とするとこの花びらは……) 
「錬金! 油になれ!」 
途端に地面に落ちた花びらすべてが油に変わり地面に染み込む。 

それを見ていたシエスタは、承太郎が動かない事に不安を覚えた。 
「み、ミス・タバサ。ジョータローさんは大丈夫なんでしょうか?」 
「大丈夫」 
タバサは小さく答える。 

「続いて、僕の足元まで伸びたこの油を『着火』する!」 
ギーシュは土のドットメイジであるため、ファイヤーボールなどは使えない。 
できるのはせいぜい着火の魔法程度だ。 
だから自分の足元まで伸ばした花びらを見下ろして――。 
地面が爆ぜる音にギーシュは視線を跳ね上げる。 
わずかな土煙を残して承太郎の姿が消えていた。 
「えっ!?」 
承太郎が油の中にいないのでは、着火しても意味は無い。 
どこに!? 承太郎はどこに消えたのかッ! 
ギーシュは承太郎がゴーレムの上のフーケに向かって跳躍した事を思い出した。 
即座に青空を見上げる。 
しかし、承太郎の目立つ学ランの色は空のどこにも存在しない。 
「ば、馬鹿なッ! 承太郎はどこに――」 
慌てて視線を下ろし周囲を見回す。 
上じゃないなら、どこにいるのか。 
「上だ」 
ハンデとばかりに居場所を教える承太郎。 
その声を聞き、ギーシュは再び空を見る。 
自分と太陽の間に承太郎がいた。 
「太陽に、隠れて――」 
虚を突かれたギーシュは、目の前に承太郎が着地するのを呆然と見ているだけだった。 
「どうした……? てめーの実力はその程度か」 
「ハッ! わ、ワルキューレ!」 
咄嗟に後ろに向かって跳んで逃げつつ杖を振るい、ワルキューレを六体出し壁を作る。 
ワルキューレはいっせいにスピアを承太郎に向けた。 
だが微塵も臆する事なく承太郎はワルキューレの後ろにいるギーシュを見据える。 
「わ、わっ、ジョータローさんの前にいっぱいゴーレムが!」 
またもや承太郎が危ないと勘違いしたシエスタが慌てる。 
だがタバサはのん気にサンドイッチを食べていた。 
シエスタに頼んではしばみ草を入れてもらったサンドイッチは、彼女の味覚では非常に美味であったが、これをそのまま承太郎に食べさせてもまた吐き出されるだけだろうと思うと、タバサはちょっぴりさみしかった。 
承太郎が一歩前に出ると、ワルキューレ達は一歩後ろに下がる。 
「どうした……かかってこないのか?」 
「くっ……ジョータロー。こうなったら僕の切り札を、お見せしよう」 
「ほう、そいつは楽しみだ。やってみな」 
「チェェェンジ! ワルキュゥゥゥレ!」 
そう叫んでギーシュは薔薇の杖を振った、ワルキューレ達の後ろで。 
ギーシュの猛りを見て、タバサは目を細めた。 
呆れたのだ。力に力で対抗しても、勝つのはより大きな力だというのに。 
もうフーケのゴーレムに踏み潰された事を忘れたのだろうか? 
承太郎はフーケのゴーレムよりパワーもスピードも上だというのに。 
――が、タバサは気づいた。なるほど、そういう事か、と。 
そして承太郎は気づいていないらしい。 
当然だ、ギーシュはワルキューレ達の後ろに隠れているのだから。 

承太郎の前で、三体のワルキューレが肩を組んだ。 
いったい何が始まるのかと承太郎は冷静に観察する。 
その三体のワルキューレの上に二体のワルキューレが飛び乗った。 
さらにその上に最後の一体がよじ登る。 
そしてアイスクリームのようにドロドロに溶けたワルキューレは、互いの身体の隙間を埋めていき、背後にいるギーシュの姿を完全に隠した。 
承太郎はというと、目の前でグニョグニョと融合する青銅の塊を見上げている。 
その青銅の塊は次第に人の形を成していった。 
身長三メイルという巨人にして戦士。 

「クイーン! ワルッ! キューッ! レェェェッ!!」 

ギーシュが叫ぶと、クイーン・ワルキューレは巨大なスピアを頭上で旋回させた後、承太郎に穂先を向けてかざしポーズを取った。 

  ジャッキィィ―――――z______ン 

感心した様子でクイーン・ワルキューレを見る承太郎。 
ギーシュはクイーン・ワルキューレの後ろから横に数歩移動し、薔薇の杖を口元に向けキザったらしいポーズを取る。 
「待たせたねジョータロー。これこそ僕を守護する『レディ・オブ・レディ』……。 
 気高く大地に立つ薔薇の結晶、天を突く拳と槍をその手に握る戦乙女。 
 青銅の鼓動を聞け! 明日の勝利を掴むため、挑め空前絶後の大一番ッ! 
 クイーン・ワルキューレ! これが! これがッ! これがァッ!! 
 僕のォ! 新しいィ! 魔法のォオッ……力だァァァァァァーッ!!」 
「スタープラチナ」 
オラ オラ オラ オラ オラ オラ 
巨大になっても所詮青銅は青銅。 
鉄に錬金されたフーケのゴーレムすら破壊したスタープラチナの拳を受けて、防げる理由など何ひとつとして存在しなかった。 


哀れ、クイーン・ワルキューレはボコボコにされた挙句、空に向かって殴り飛ばされた。 
「ゲェーッ! まさか、クイーン・ワルキューレをあんなに高く殴り飛ばすなんて!」 
「やれやれ、正直期待はずれだったぜ。こんなくだらねーものが切り札とはな」 
呆れながら承太郎はギーシュに向かって歩き出した。 

「や、やりました! よく解らないけど、ギーシュ様のゴーレムをやっつけました!」 
スタンドは見えずとも、それが承太郎が言っていたスタンドの力だろうと思い、シエスタは承太郎の勝利を今になってようやく確信した。 
だが、最初から今この瞬間まで承太郎の勝利を確信しているタバサは小さな声で言う。 
「まだ」 
タバサの視線は承太郎でもギーシュでもなく、 
上空に殴り飛ばされたクイーン・ワルキューレに向けられていた。 
どうやらシエスタはクイーン・ワルキューレの派手さと承太郎に目を奪われ、ギーシュの切り札には気づいていないらしい。 
それほど注意深く見なくとも、この角度からなら丸解りの手段なのに。 
そして。 
「来る」 
タバサが呟いた。 

クイーン・ワルキューレが落下する。 
もう決着はついたばかりに、承太郎の背後へ。 
クイーン・ワルキューレが落下する。 
その背にワルキューレを乗せて。 
クイーン・ワルキューレが落下する。 
その背中を踏み台にして七体目のワルキューレが承太郎に襲い掛かる。 
これが、ギーシュの策だった。 
クイーン・ワルキューレで承太郎の注意を引き、 
その背後で七体目のワルキューレを作り、クイーンワルキューレの背中に掴まらせる。 
後は承太郎がクイーン・ワルキューレと戦っている隙に、七体目のワルキューレで奇襲をかけるという手筈。 
一瞬でクイーン・ワルキューレを殴り飛ばされた時は失敗かと思った。 
事実クイーン・ワルキューレが後ろに吹っ飛ばされていては七体目の出番は無かった。 
だが幸いにも吹っ飛ばされた方向は上。 
ワルキューレはクイーンの身体を盾に! 隠れ蓑に! 絶好の好機を得た! 
(頼む――成功してくれ!) 
肉薄するワルキューレの槍が承太郎の背中を狙う。 
それに気づいた素振りを見せず、承太郎は真っ直ぐギーシュに向かって歩いている。 
(勝ったッ! 決闘敗北イベント完!) 

「オラァッ!」 
バッゴ―――――z______ン!! 
それは一瞬の出来事だった。 
その間にギーシュは勝利の確信を敗北の確信へと変える。 
承太郎は振り返りもせずスタープラチナを出現させ、後ろ目掛けて拳を振り下ろす。 
拳がワルキューレの頭を潰し首までめり込ませた挙句、ワルキューレの身体を地面に叩きつけた。 
「おめーはワルキューレを『七体』出せるのに、なぜか『六体』しか出さなかった。 
 だから……『七体目』に警戒するのは当然の事だぜ。ゲームセットだ」 
両手をポケットに突っ込んだままの承太郎は、ギーシュの前まで行き勝利宣言をした。 
最早ギーシュに残された手段は無く、ガクリと地面に膝をつける。 
「ま……負けた。またしても完全敗北だ」 
「そうでもねーぜ」 
えっ? と思い、ギーシュは承太郎を見上げた。彼の頬に赤い線が一筋。 

「そ、その傷は……?」 
「ワルキューレを殴る時、スタープラチナの頬を槍がかすめた。それだけさ……」 
それを聞いて、ギーシュはスタープラチナへのダメージ=承太郎へのダメージという、とても重要な事をスルーして、とにかく承太郎にとてもとても小さな一矢を報いた事を、両手を握りしめて空に掲げて歓声を上げるほどに喜んだ。 
「やった! やったぞッ! あのジョータローに、一矢報いた! やったぁっ!」 
「やれやれ、舐めときゃ治るような傷ひとつでそんなに喜ぶんじゃねー」 
承太郎は頬の傷から血が垂れないよう軽く拭い、観戦していたシエスタに声をかけた。 
「シエスタ、すまねーが傷の手当てをしたい。薬はあるか?」 
「あ、はい。今お持ちしますね」 
シエスタが救急箱を取りにヴェストリ広場を去った後、 
タバサが承太郎に近づき学ランを引っ張ると、小声で訊ねてきた。 
「それ、わざと?」 
ギーシュの自信をつけるため、わざと傷をつけられたのか。という意味だ。 
「……さあな…………。ただひとつ言えるのは、七体目の動きはなかなかよかったって事だ」 
「そう。お疲れ様」 
タバサがねぎらいの言葉をかける、というとんでもない行動を取ったが、承太郎はそれが罠である事を知っていたから、 
一緒に差し出されたバスケットと水筒に目もくれなかった。 
「……サンドイッチとお茶」 
まだあきらめきれないらしくタバサは言う。 
「どーせまたはしばみ草が入ってるんだろ。こっそり食わせようとするんじゃねーッ」 
こうしてはしばみ草サンドイッチとタバサ特製はしばみ茶五号を回避する承太郎。 
はしばみ草をめぐる不毛な戦いはまだ終わりそうになかった。 

その後、ギーシュは善戦したお祝いとしてタバサからの差し入れをもらった。 
すると大空に吹っ飛んで、五分後に落下してきて気を失った。原理は不明だ。 
ちなみに一緒に観戦していたシエスタは承太郎の身を案じてばかりで、一切サンドイッチにも水筒の中身――タバ茶五号も口にしていなかった。 
 
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