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衝撃! その名は『ヨシェナヴェ』 - (2008/11/26 (水) 23:34:32) のソース

衝撃! その名は『ヨシェナヴェ』 

翌朝になって、コルベールはさっそく竜の羽衣を学院へ移送するため、竜騎士隊に大金を払う約束をして運び出してもらった。 
ついでにコルベールも竜騎士隊に付き添って一緒に学院へ帰るらしい。 
曰く、シルフィードの背中を軽くして上げようと思ったらしい。 
承太郎達は、お昼にシエスタ特製のヨシェナヴェを食べてから帰る予定だ。 
コルベールもヨシェナヴェを食べたがっていたが、今は一刻も早く竜の羽衣を持ち帰って研究したい事と、シエスタが休暇を終えて学院に帰ってくればいつでも作れるという事で納得した。 
こうしてコルベールは竜騎士隊と一緒に竜の羽衣を持ってタルブの村を去る。 
残ったルイズ達は、授業をサボって得た休息を満喫していた。 

タバサは承太郎をピクニックに誘って怪しまれ断られ部屋で読書をしている。 
キュルケは承太郎をデートに誘って断られてやる事がないから読書をしている。 
ギーシュは人気の無い森に行って花びらやワルキューレを出して特訓している。 
シルフィードはのん気に草原でゴロゴロして遊んでいる。 
ルイズはシルフィードが遊んでる姿を見てぼんやりしていた。 
「……はぁっ」 
思い出すのは、昨日この辺で抱き合ってた二人の姿。 
そしてシエスタの告白。 
慌てて逃げ出してしまったため、承太郎が何と答えたのかは聞いていない。 
昨晩遅くにシエスタの家に戻ったから、どちらとも顔を合わせてない。 
今朝はわざと寝坊してみんなと朝食の時間をずらした。 
二人を避けてここまで来て、今は暇をもてあましている。 
「どうしたものかしら……」 

何気なくルイズは始祖の祈祷書を開いた。詔を早く考えねばならない。 
しかし祈祷書の中身が真っ白なように、ルイズの頭も真っ白だった。 
何も思い浮かばない。全然さっぱりちっとも微塵もだ。 
「……はぁっ」 
何度目かの溜め息をついた時、ちょっと強めの風が吹いた。 
パラパラと祈祷書のページがめくれる。どこもかしこも真っ白け。 
ぼんやりとそれを見ている。 
文字。 
パラパラと祈祷書のページが表紙の部分までめくれた。 
「……あれ?」 
さっき、風でめくれる祈祷書の中に、何か書いてあったような気がした。 
文字、だったと思う。多分。 
ルイズは慌ててページをめくった。 
文字が書いてあったのはどのあたりだったか? 
解らないため一ページずつしっかりじっくり確認していく。 
けれど結局文字を見つける事はできなかった。 
「……気のせい…………? 寝不足なのかな」 
昨晩はなかなか寝つけなかった。朝余分に寝たけど、眠り足りなかったのか? 
試しに目を閉じてうつむいてみたけど、特に眠気は感じない。 
でも、こうしていると頬を撫でる風がとても心地よく思えて、しばしルイズは日光のぬくもりと草木の香りに身をゆだねる。 
何もかも忘れて真っ白になれるような、そんな安らぎ。 
でも。 
「あ、ミス・ヴァリエール。おはようございます」 
目を開けて振り返ると、かごを持った私服姿のシエスタ。 
「お、おはよう」 
やばい、声がムッチャ震えてる。動揺丸出し。平民相手に、何でこんな。 

「お加減でも悪いんですか? 顔色が悪いように見えますが……」 
「なな、何でもない。何でも」 
やばい、顔にも出てた。ルイズは慌てて草原へと視線を戻す。 
シルフィードが仰向けに寝転がってこっちを見ていた。 
こっち見んな。 
「……あの、私、ミス・ヴァリエールに何か粗相をしたのでしょうか?」 
「どどど、どうしてそう思うの?」 
「気のせいかもしれませんけど、何だか避けられてるように……。 
 あ、申し訳ありません! 失礼な事を言ってしまって」 
「別に、かか、構わないわ。それと、避けてないから。偶然だから」 
「ホッ、よかったです」 
「そそそそれよりあんた、ここ、こんな場所で、何してんのよ?」 
「ヨシェナヴェの材料を集めてるんです。野山にある山菜も使いますから」 
「そ、そう。ちゃんと綺麗に洗ってから料理しなさいよ?」 
「もちろんです。多分、ジョータローさんにお出しする、最後の料理ですから」 
「えっ」 
もう一度、振り返る。 
シエスタは今にも泣き出しそうな表情だった。 
しかしルイズの視線を感じたシエスタは、すぐ笑顔を作って誤魔化した。 
日食はほんの数日後。 
シエスタは休暇をタルブの村ですごす。 
つまり今日学院に帰る承太郎が、もし元の世界に帰ったら。 
そしてシエスタの反応から、あの告白の返事が、シエスタにとって幸せなものではなかったのではと考える。 
「……ねえ、もしジョータローが帰っちゃったら、どうする?」 
「待ちます。この世界で、いつまでも」 
「そう」 
今、ルイズがシエスタに対して抱いているのは――共感、だった。 
胸に穴が空いたような気分になって、そこからモヤモヤした気持ちは抜けていったが、とても寒く感じた。とても。 

お昼になると、シエスタ宅のリビングに貴族一行+使い魔が集合していた。 
テーブルには熱々のヨシェナヴェがおいしそうな香りを漂わせている。 
「さあ皆さん、腕によりをかけて作りましたので、どうぞご賞味ください」 
シエスタが自信満々に言い、ギーシュの期待は高まった。 
「いやあ、楽しみにしてたよ。何せ、君達の作る料理は絶品だからね! 
 食堂に出される料理とは比べ物にならない!」 
「しかもこいつは俺の故郷の料理だぜ。正確には寄せ鍋っていうんだがな」 
承太郎も祖国の料理を味わえるとあって嬉しげだ。 
キュルケも承太郎の祖国の料理なら、と期待を高まらせた。 
タバサはすでに臨戦態勢だ。 
ルイズも、この料理はよく味わって、感謝して食べようと思った。 
そして皆は鍋の中身をおわんによそい、息を吹きかけて冷ましながら食べる。 
「あら、本当においしい。ハーブの使い方が独特ね。この肉は何?」 
「野うさぎのお肉です」 
「うさぎ? へえ、こんなにおいしかったのね。味が染み込んでるからかしら?」 
キュルケはご満悦らしく、満面の笑顔を浮かべた。 
ギーシュは当然というか舌を火傷しそうな勢いで食べている。 
「ホフッ、ホフッ。この熱々なのがまた、ンま~い! おかわり!」 
一番乗りでおかわりをして、シエスタが嬉しそうによそう。 
ルイズも材料はこの世界の物なれど異世界の調理法で作られた鍋の味に舌鼓。 
おいしそうに具を頬張り、そして、独特の苦味を感じて「ん?」とおわんを見る。 
緑色の葉が入っている。 
色んな味が染み込んでいて、覚えのあるその味が何なのかすぐには思い出せなかった。 
しかしタバサはそれに気づき、ハッと承太郎を見た。ゴッツ見た。 
睨んだとか凝視とか視線で射抜くとかそんな勢いで。 
承太郎は一言も喋らず、しかししっかりと料理を味わいスープまで飲みながら、 
ギーシュに続いてのおかわりを自分ですくい――緑色の菜っ葉が混じり――。 

「どうですか? ジョータローさんの故郷の味と違ったりしませんか?」 
シエスタが訊ねる。承太郎が答える。 
「具が違うから、そのままとはいかねーが、こいつぁうまいぜ。 
 故郷で食うよりもずっとな。こんなうまい鍋は初めてだ」 
「まあ! よかった、喜んでもらえて」 
シエスタの笑みに釣られて、承太郎も微笑を浮かべた。 
そしてその希少価値の高い微笑の唇に、スプーンが具を運ぶ。 
緑色の葉が入っている。 
タバサは、さすがにこれでヤられたら熱いと思い、避ける準備をする。 
だが。 
「シエスタ、この緑の野菜は何だ? 独特の苦味が利いててうまいぜ」 
「あ、それははしばみ草です。ジョータローさん、苦いのお好きみたいですから」 

 ス タ ー プ ラ チ ナ ・ ザ ・ ワ ー ル ド !! 
 ド―――――z______ン 
 時 は 止 ま る。 

その時、確かに時は止まった。 
しかし時の止まった世界の中を、みんな普通に動いていた。 
例外は一人、タバサのみ。 
*┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 
世界の時が止まったというよりは、むしろ彼女のみの時が止まったと表現するべきか。 
彼女は信じられない光景を見て茫然自失と化していた。 
そして続く言葉を聞く。 
「はしばみ草……? こいつぁたまげた、料理次第でこんなにうまくなるとはな」 
「え? もしかしてジョータローさん、はしばみ草は苦手でしたか?」 
「ああ、だがシエスタの寄せ鍋だけは別だぜ」 
「えへへ、ありがとうございます」 

遠くで声が聞こえる。 
――独特の苦味が利いててうまいぜ。 
――はしばみ草……? こいつぁたまげた、料理次第でこんなにうまくなるとはな。 
――シエスタの寄せ鍋だけは別だぜ。 
馬鹿な、そんな馬鹿な。 
彼にそう言わせるのは、自分だ。自分だったはずだ。 
そのために日夜研究し、彼のために改良を重ねてきたというのに。 

完成したのに。 
タバ茶七号。 
私の、最高傑作。 

その瞬間、タバサのマントから小さな水筒が落ち――彼女の時は動き出した。 
「あら? タバサ、何か落としたわよ」 
隣の席に座っていたキュルケが水筒を拾う。 
当然、水筒の落ちた音はみんな聞いていたため、視線はそこに集中する。 
当然、承太郎も。 

「タバサ? どうしたのよ」 
水筒を差し出すキュルケだが、タバサは受け取ろうとせず、乱暴に鍋をあさってはしばみ草を自分のおわんによそう。 
そして食す。 

はしばみ草の苦味と、他の様々な食材の味が見事に溶け合っている。 
それはまさに異界の叡智が生み出した鍋料理に込められた魂そのもの! 


――浦木少尉! 俺に構わず行け、日食に飛び込むんだ! 
タバサは戦友の身を案じる兵士の姿を見た。 
――俺は、生きる! 生きて、アイナと添い遂げる! 
タバサは恐怖を乗り越え愛を叫ぶ男の姿を見た。 
――勇気ある誓いと共に進め。 
タバサは幼い勇者に未来を託し神話となった勇者の姿を見た。 

「タバサ?」 
はしばみ草を食べて固まる親友を見て、キュルケは不安になる。 
承太郎やルイズ達も妙に思ってタバサを見ている。 
タバサは、震えていた。 
「あ、あの、お口に合いませんでしたか?」 
恐る恐るシエスタが訊ねると、タバサは席を立ってシエスタに向かった。 
彼女にとってギーシュの次に交流のある貴族がタバサだが、無口で無表情で承太郎以上に何を考えているのかよく解らない相手だ。 
そんなタバサが、なぜ自分に向かってくるのか? 
不安に駆られるシエスタの手を、タバサがギュッと握りしめた。 
「私の負け」 
「え?」 
負けって、何の話ですかとシエスタは疑問に思った。 
「あなたの勝ち」 
親友のキュルケも、今回のタバサの行動はさっぱり理解できなかった。 
しかし承太郎は何となく理由を察し「やれやれだぜ」と呟く。 

その後、タバサは誰よりも一番多くヨシェナヴェをおかわりしたという。 
でもはしばみ草は承太郎に多めに取らせるよう動いていたそうな。 
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