「slave sleep~使い魔が来る-10」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

slave sleep~使い魔が来る-10 - (2007/09/16 (日) 14:01:53) の1つ前との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

第10話 そいつの名はキュルケ 夜、誰もが寝静まった頃・・・。 「きゅるきゅる。(メーデーメーデー、こちらフレイム。現在ターゲット『ブローノ・ブチャラティ』を追跡中。 応答願いますマスター(キュルケ)。」 今、ブチャラティの後ろにサラマンダーの『フレイム』が追跡を行っている。 「ご苦労様・・・。でも油断しちゃダメよ。あの人は普段おとなしそうに見るけど、結構するどいから。」 使い魔に与えられる能力のひとつ、『主人の目や耳となる能力』。 (ただしルイズだけは例外でブチャラティの見ているものが見えない。) キュルケはこれでフレイムを偵察に出しているのだ・・・。 「きゅるきゅる。(現在ターゲットは厨房にいます。メイドが・・・となりにいます。 どうやら彼は洗い物を手伝っているようです。)」 「何ですって!?」 一方、ブチャラティとシエスタ。 「いつも手伝っていただいてありがとうございます・・・。」 「いや、いいんだよ。オレがそうしようと思ってやってるんだから。」 「そろそろ御休みください。もう遅いですし・・・。」 ガチャン! 「ハッ!大丈夫か?」 音に気付き振り向くとシエスタが皿を割ってしまっていた。 「だ、大丈夫です・・・。」 「とりあえず欠片を拾うよ・・・。」 「あ!いいです!私が!」 「そんなこと・・・ッツ!」 ブチャラティが指先に痛みを感じる。どうやら欠片で指を切ったようだ。 「あっ!血が・・・。すいません・・・。今絆創膏を・・・。」 「・・・・・・。」 「ブチャラティ・・・さん?」 「ん?いや、なんでもない。絆創膏頼むよ・・・。」 女子寮。 「きゅるきゅる(ターゲットは現在移動中・・・。)」 フレイムが後をつけているのに気づかないのか、ブチャラティは考え込んでいる。 (あの時・・。オレはどうやってシエスタが皿を割った事に気付いた?記憶が正しければ割れる音で振り向いたと思う。) 右耳を抑える。 (鼓膜が完全に治っているのか・・。そして目も・・。) ブチャラティは肉体の限界が近くなり、魂のエネルギーしか感じられない状態の時を思い出す。 (ディアボロはそれでオレを騙したんだったな・・。だが今はどうだ? ここから部屋まで壁にもぶつからずに、まるで食事中にソースを取るように簡単に進めていないか? そして決定的なのはあの時のシエスタの言葉。) ―――――――――でもよかった・・。脈拍も呼吸も良好です! (『時間』の延長ではない・・。オレは間違いなく生き返っている・・・。) 「・・・・・ルイズ・・おまえは・・。」 「きゅるきゅる(どうやらルイズ嬢のことで考えている様子。・・・おや?)」 フレイムの視界に新たに入ったのは、小柄な青髪の少女。タバサだ。 「きゅる!(ターゲットがタバサ嬢と接触!)」 「あら?タバサが?・・・ちょっと面白そうな展開かも?」 ブチャラティがタバサに話しかける。 「奇遇だなタバサ。・・・トイレに行ってたのか?」 コクリ。 「少し話がある。タバサ、『治癒』なんだが、あれはどこまで直すことが可能なんだ?」 「・・どこまで?」 「例えば、耳の鼓膜の修復とかはできるのか?」 タバサは少し考え・・言う。 「・・・医学に詳しいわけではないからなんとも言えない。でも多分できると思う。」 「・・・スクウェアなら人一人『生き返らせる』事も可能か?」 その時ブチャラティは、タバサの表情に暗い影がフッと現われたような気がした。 「・・・ただでさえスクウェアでも直せない症状と言うものはある。『生命の蘇生』なんて物は、現存する魔法の中には存在しない。」 「えっ!?」 ブチャラティが驚くのも無理はない。彼はてっきり魔法の中には、死すら克服する方法が存在するとばかり思っていたからだッ! そうでなければ自分が今ここにいる事の説明がつかない! 「・・・・でも。」 タバサが口を開く。 「あくまでそれは判明してる中での理論。ありえないという意味ではない。 例えば・・・・"虚無"とか。」 「"虚無"・・?あの失われた系統って奴か・・?」 コクリ。 「そう。『失われた』以上、もう知る事はできないけれど。」 「・・・そうか。グラッツェ。いろいろためになった。」 実際はなおのこと謎が増えただけだったが。ともあれここでタバサと別れた。 チラ。 タバサはブチャラティの背中を見ながら腰の水筒に目をやる。 「・・・・670号の味見手伝ってもらえばよかった。」 「謎は深まっただけか。」 ブチャラティの寂しそうな背中を見守るフレイム。 「きゅるきゅる(マスター。もうすぐそちらに到着できそうです。)」 「ありがとう。偵察お疲れ様。」 キュルケはロウソクに火を灯しながら言う。 「・・・ウフフ。寂しそうな背中ね。ここで私が動けば・・・。 実に効果的にトリコになってくれると思わない?フレイム。」 「きゅるきゅる。(ええ。事は全て問題なく進んでいます。 事実ここまで全くバレずに追跡を進行しております・・。)」 ブチャラティが角を曲がる。 「・・・・ところで。」 「きゅる!?」 フレイムは驚愕するッ!ブチャラティがいないッ! 「きゅるきゅる!(み、見失った!?)」 ガバッ! 真下からブチャラティが掴みかかるッ!!彼は曲がったと同時にジッパーで地面に隠れていたのだッ!! 「ごまかせていたと思っていたのか。さっきからなぜオレをつけていた? 目的はなんだ?誰の差し金だ?」 「きゅる~う!きゅる~う!(ドジこいた~ッ!コイツはいか~んッ!! きっとマスターはお怒りになられる~~ッ!!)」 何言ってるかわからないブチャラティにはそれが物悲しく聞こえ、捕らえた奴を見る。 「・・・フレイム?なぜお前が?・・・キュルケの仕業という事か?」 「きゅる!きゅる!きゅる!きゅる!きゅる!(YES!YES!YES!YES!YES!)」 「アイツの部屋って・・・すぐ目の前の部屋じゃないか・・・。」 ルイズのすぐ隣の部屋。そこがキュルケの部屋だった。 「仕方ない・・・。入ればいいんだろ・・・。」 部屋に入ると部屋は薄暗かった。 「・・・入ったら?」 ブチャラティが部屋に入る。 「扉を閉めて。すきま風が入ると寒くって・・・。」 ガチャン。 「何の用だ?フレイムにオレを偵察させてまで。」 「立ち話もなんだしこちらにいらっしゃいな。」 声の方向に進む。ロウソクのおかげで難なく進めた。 かすかに甘い香りがした。どうやら部屋のどこかで香が焚かれているらしい。 進んでいくと、明かりがついた。 ぼんやりと淡い幻想的な光の中に、ベッドに腰掛けたキュルケの悩ましい姿があった。 ベビードールだけを着けた彼女はなかなかに艶かしい。 「どの辺りから気付かれていたのかしら?」 「広場から夕食(チューナ)に向かう合間から視線は感じていた。ギリギリまで引きつけて一気にひっとらえるつもりで気付かないフリをしていた・・。」 「それ最初からじゃない・・。完全にしてやられたみたいね・・。」 ブチャラティは続ける。 「それで?こんな手の込んだマネしてまでオレをどうしたいんだ?」 キュルケは真っ直ぐ、それでいて色っぽく見据えて言う。 「単刀直入に言うと、あなたに恋してしまったの・・・。」 予想外の返答が帰ってきた。 ブチャラティは正直戸惑った。 子供の頃から約8年間ほどギャングの世界で生きてきたが、色恋沙汰は苦手なのだ。 そもそもギャングの世界は「恋」だなんて単語には縁遠い物だ。 そういう面から取り入ってくる組織を潰しにかかるのはスパイの常套手段だ。 「貴方はあたしをはしたない女と思うかもしれない。でも私のこの気持ちは止められないの・・。 あなた片手で眠っているドラゴンを投げられる?普通出来ないわよね・・。 それと同じ。私の恋心を止めるのはそれくらい困難なのよ・・・。」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・。 「改めて自己紹介するわ・・。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。 二つ名は『微熱』。『微熱』のキュルケよ。」 「ディ・モールトグラッツェ(どうもありがとう。)ご親切に名乗られたことを感謝しよう・・。」 「ウフフ。この『微熱』と言う二つ名、まさに私のためにあるような物だと思わない? 私の『火』の魔法系統といい、この火傷するくらい燃えやすい恋心と言い、 これほどマッチする名前も珍しいわよね・・。でも恋心はしょうがないじゃない・・。 だってあなたがここまで魅力的なんだもの・・・。」 「貴方達の決闘は・・・最初何が起きてるのか全然わからなかった。でもそれ以上に、その戦闘に打ち込む姿勢・・。かっこよかったわ。クールで知的で、でも勇敢で。 ・・そりゃギーシュもあの時かっこ良かったと思うわよ?でも私の心を射抜いたのはあなた。それにアレはモンモランシーのじゃない。」 ギーシュ『アレ』扱いかよ。とツッコミそうになったがやめた。 「それ以来私はあなたへの恋歌を綴り続けているの。ホント罪な人だわ。私ほどではないけど。私に至っては貴方が気になって、フレイムを使って様子を探らせたり・・はしたないったらないわ・・。」 それにしてもこのキュルケ、ノリノリである。 どんどんテンションが上がっている。確かにキュルケはそのモテっぷりからもその魅力的なのがよくわかる。並みの男なら落ちてもしょうがない。『並みの男』なら。 「気持ちは嬉しい・・。だが断らせてもらおう。」 「あら!?なぜ?私ではいけないのかしら?」 ブチャラティは真剣な目つきで言う。 「どうもオレはそう言う話には疎くってね。どうもそういうのだけは信じられないんだ・・・。そうでなくってもオレ達のチームでは『実害』が出たからな。」 「『実害』?」 流石のキュルケもキョトンとなる。 「あれは・・・一年前だったかな・・。まだ5人チームになったばかりの頃だった。 メンバーの一人に恋人ができたことからそれは始まった・・・。」 ブチャラティが遠い目になる。 「そいつは当時メンバーのなかでも古株、チームの中でもかなり馴染んだ奴だった。 あいつはたまにガラ悪いが、こういうときはかなり純情な奴だった・・。 純情なもんだからよく当時入ったばかりだったムードメーカー二人が冷やかしては大喧嘩してた時期もあったよ・・・。」 「へぇ・・・それでそれで!?」 キュルケもすっかり話に夢中になっている。 「それでどうなったかって?『実害』の話をしてるんだからな。無論騙されていたのさ。 途中で仲間の一人が怪しみだしたんだ。用心深い奴だったからな、後をつけたんだ。 だがそしたらそいつが集団に襲われたのさ。 逃げながらそいつがSOSを送ってきて、そこでオレたちはようやくその女が敵(の組織のスパイ)だと言う事に気付いた。」 ゴクリ・・。 キュルケが緊張感に押しつぶされる。 「なんとかオレたちの応援が追いついたから二人とも無事救出。運良くその事件はチーム内での問題で片付いたからよかったものの一歩間違えたら組織そのものが潰れてたとか当時の上司にイヤミを言われたのをよく覚えている・・・。」 「それで・・どうなったの?」 「聞きたいかい?」 「死んだよ。というか始末した。その騙された奴がな。」 「え!?」 キュルケはここでとうとうブチャラティを怪しみ始めた。敵とか組織とか少々ワケがわからなかったが、ここに来てもうブチャラティ何者だと思い始めた。 「そんな・・・。愛し合ってたんじゃあないの・・?」 「少なくともアイツは愛してただろうな。その日は最初で最後にアイツが涙を見せた日になったからな。 だが女は最初から利用して殺す気だったんだ。現実を把握したソイツはどうしたと思う? これ以上ないってくらいキレた。まずメリケンサックを右手に嵌めてぶん殴った。 それだけで綺麗な顔がグチャグチャになってたのに、さらに追い討ちをかけて腹を蹴りまくった挙句、最終的には殺人ウイルスで体中の組織をグチャグチャに破壊して殺した。 ・・・ここまで見せられたら恋なんてものを知りたくもなくなるのもわかるだろ?」 ――――――――キュルケの思考が停止した。話がグロテスクかつぶっ飛び過ぎてついていけてない。 ブチャラティがその様子を感じ取って思う。 (一切真実をかすめてないのにここまで大ボラを吹けるのも一つの才能だな・・。 そんな問題起こしていきてられるわけないだろ。ギャングの世界で生きていくには方便も必要だぜ。アリーヴェデルチ。) ブチャラティが部屋を後にしようとしたときだった。 「・・・・・・と思うわ。」 「え?」 キュルケが立ち上がる。 「その人の不幸は同情せざるをえないと思うわ。私もそんな結末になってしまってはとても恐ろしいと思う。恋が怖くもなるわ・・。」 「でもこれだけは言わせてもらうわ!黙って聞いていればあなたまるでその彼の二の舞になるのが嫌だから恋を知りたくないと、私があなたを騙すかもしれないと思っている みたいだから言う! 私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー!! ツェルプストー家の女は恋において非常に正直な女!!色恋沙汰で人を騙すなんてマネは絶対しない!そんな事を言われて黙っていられないわ!」 ルイズをからかってるときとはうってかわってキュルケの目はいつになく真剣だ! 「・・・私を信じなさい。恋するものは強くなれる。恋を力に変えられるものは何よりも強く正直な人間よ。」 キュルケが後ろから抱きかかえてくる。 「私を信じて。私はあなたを信じてる。あなたこそが私が特別と思える・・・。」 「ノックしてもしもぉ~し。待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば……」 窓から男が話しかける。『レビテーション』で浮いてきたみたいだ。 「ベリッソン! ええと、二時間後に!」 「話が違う!」 キュルケが胸の谷間に差した派手な杖を取り出して詠唱する。 「『ファイアーボール』!!」 巨大な炎が窓ごと男を吹っ飛ばしたッ!! 「まったく、無粋なフクロウね」 「・・・スマン。もう一度言ってくれ。ツェルプストー家の女は何に正直だって?」 「え?いや違うわよ彼は!!私の中の一番はあなた・・。」 「キュルケ! その男は誰だ! 今夜は僕とすごすんじゃなかったのか!」 また違う男が覗き込んでいる。 「スティックス! ええと、四時間後に」 「そいつは誰だ! キュル「『ファイアーボール』!!」 有無を言わさずふっ飛ばすッ!! 「お前自分で恋する女は何より正直とか言ってたくせにこんな事を・・。」 「いいえ、あなたが特別なの!彼の勘違いよ。あたしが一番恋してるのはあなたよブチャラティ!」 スッ! 「こいつ・・。『ウソ』をついてない・・。(マジにないと思っている…。一つに夢中になると他を忘れるタイプか・・・。)」 「へ?今なにしたの?」 そしてそれと同時に三人の男が押し合いへしあいしている。そして三人同時に叫ぶ。 『キュルケ! そいつは誰なんだ! 恋人はいないって言ってたじゃないか!』 「マニカン!エイジャックス! ギムリ! ええと、六時間後に」 『朝だよ!』 「フレイム!」 「きゅるきゅる!(サー・イエッサー!)」 キィィィィィィィン 「きゅるきゅる(GO TO HELL。)」 カッ!! 『GIYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!』 「きゅるきゅる(悪いな。こちとらメシがかかってるんだ。でもさ、マスターの惚れっぽさを計算にいれてなかったと言う事もあるしさ、こらえてくれ。)」 ブチャラティが呆れたようにキュルケを見る。 「まだ何か言うことはあるか?」 「ええと、とにかく! 愛して・・モガッ!」 「もうしゃべるな。話がかみあわねえ。」 キュルケの口にジッパーを貼り付けた。 バタンッ! 今度は部屋のドアがノック無しで開く。 「なんだルイズか・・。」 「ななな、何これ!?」 「ん~~ッ!!ん~~ッ!!(ルイズ!彼にジッパーを解除させて!このジッパー引っかかって開かない!)」 キュルケがベビードール姿で口を塞がれてる。 暗くてよく見えないが、それを見て思春期真っ只中のルイズがいかがわしい真実にたどり着くのは造作もないッ!! 「こっ、こここっ……この、エロ犬ー!」 ルイズが右足でブチャラティを蹴ろうとするッ!狙うは・・・金的ッ!! スカッ 「え?」 はずした。否、足のほうがはずれた。 「え、ちょ・・。うわわわわ・・・。ふみゃッ!!」 ずっこけたッ!!それは美しくずっこけたッ!! ブチャラティは金的をくらう前にルイズの右足を"スティッキィ・フィンガース"で切り離したのだッ! 芸の細かい事にニーソックスの線にそってッ!! 「じゃ、先に部屋に戻ってるからなルイズ。」 「ちょ、待ちなさいブチャラティ!!足を直して行きなさいよ!このムッツリスケベ!!」 「ん、んぐ・・。(私の口も直してってよ・・・。)」 余談だがブチャラティは寝床をジッパーで作って寝袋のように寝ている。 To Be Continued =>
そいつの名はキュルケ② 夜、誰もが寝静まった頃・・・。 「きゅるきゅる。(メーデーメーデー、こちらフレイム。現在ターゲット『ブローノ・ブチャラティ』を追跡中。 応答願いますマスター(キュルケ)。」 今、ブチャラティの後ろにサラマンダーの『フレイム』が追跡を行っている。 「ご苦労様・・・。でも油断しちゃダメよ。あの人は普段おとなしそうに見るけど、結構するどいから。」 使い魔に与えられる能力のひとつ、『主人の目や耳となる能力』。 (ただしルイズだけは例外でブチャラティの見ているものが見えない。) キュルケはこれでフレイムを偵察に出しているのだ・・・。 「きゅるきゅる。(現在ターゲットは厨房にいます。メイドが・・・となりにいます。 どうやら彼は洗い物を手伝っているようです。)」 「何ですって!?」 一方、ブチャラティとシエスタ。 「いつも手伝っていただいてありがとうございます・・・。」 「いや、いいんだよ。オレがそうしようと思ってやってるんだから。」 「そろそろ御休みください。もう遅いですし・・・。」 ガチャン! 「ハッ!大丈夫か?」 音に気付き振り向くとシエスタが皿を割ってしまっていた。 「だ、大丈夫です・・・。」 「とりあえず欠片を拾うよ・・・。」 「あ!いいです!私が!」 「そんなこと・・・ッツ!」 ブチャラティが指先に痛みを感じる。どうやら欠片で指を切ったようだ。 「あっ!血が・・・。すいません・・・。今絆創膏を・・・。」 「・・・・・・。」 「ブチャラティ・・・さん?」 「ん?いや、なんでもない。絆創膏頼むよ・・・。」 女子寮。 「きゅるきゅる(ターゲットは現在移動中・・・。)」 フレイムが後をつけているのに気づかないのか、ブチャラティは考え込んでいる。 (あの時・・。オレはどうやってシエスタが皿を割った事に気付いた?記憶が正しければ割れる音で振り向いたと思う。) 右耳を抑える。 (鼓膜が完全に治っているのか・・。そして目も・・。) ブチャラティは肉体の限界が近くなり、魂のエネルギーしか感じられない状態の時を思い出す。 (ディアボロはそれでオレを騙したんだったな・・。だが今はどうだ? ここから部屋まで壁にもぶつからずに、まるで食事中にソースを取るように簡単に進めていないか? そして決定的なのはあの時のシエスタの言葉。) ―――――――――でもよかった・・。脈拍も呼吸も良好です! (『時間』の延長ではない・・。オレは間違いなく生き返っている・・・。) 「・・・・・ルイズ・・おまえは・・。」 「きゅるきゅる(どうやらルイズ嬢のことで考えている様子。・・・おや?)」 フレイムの視界に新たに入ったのは、小柄な青髪の少女。タバサだ。 「きゅる!(ターゲットがタバサ嬢と接触!)」 「あら?タバサが?・・・ちょっと面白そうな展開かも?」 ブチャラティがタバサに話しかける。 「奇遇だなタバサ。・・・トイレに行ってたのか?」 コクリ。 「少し話がある。タバサ、『治癒』なんだが、あれはどこまで直すことが可能なんだ?」 「・・どこまで?」 「例えば、耳の鼓膜の修復とかはできるのか?」 タバサは少し考え・・言う。 「・・・医学に詳しいわけではないからなんとも言えない。でも多分できると思う。」 「・・・スクウェアなら人一人『生き返らせる』事も可能か?」 その時ブチャラティは、タバサの表情に暗い影がフッと現われたような気がした。 「・・・ただでさえスクウェアでも直せない症状と言うものはある。『生命の蘇生』なんて物は、現存する魔法の中には存在しない。」 「えっ!?」 ブチャラティが驚くのも無理はない。彼はてっきり魔法の中には、死すら克服する方法が存在するとばかり思っていたからだッ! そうでなければ自分が今ここにいる事の説明がつかない! 「・・・・でも。」 タバサが口を開く。 「あくまでそれは判明してる中での理論。ありえないという意味ではない。 例えば・・・・"虚無"とか。」 「"虚無"・・?あの失われた系統って奴か・・?」 コクリ。 「そう。『失われた』以上、もう知る事はできないけれど。」 「・・・そうか。グラッツェ。いろいろためになった。」 実際はなおのこと謎が増えただけだったが。ともあれここでタバサと別れた。 チラ。 タバサはブチャラティの背中を見ながら腰の水筒に目をやる。 「・・・・670号の味見手伝ってもらえばよかった。」 「謎は深まっただけか。」 ブチャラティの寂しそうな背中を見守るフレイム。 「きゅるきゅる(マスター。もうすぐそちらに到着できそうです。)」 「ありがとう。偵察お疲れ様。」 キュルケはロウソクに火を灯しながら言う。 「・・・ウフフ。寂しそうな背中ね。ここで私が動けば・・・。 実に効果的にトリコになってくれると思わない?フレイム。」 「きゅるきゅる。(ええ。事は全て問題なく進んでいます。 事実ここまで全くバレずに追跡を進行しております・・。)」 ブチャラティが角を曲がる。 「・・・・ところで。」 「きゅる!?」 フレイムは驚愕するッ!ブチャラティがいないッ! 「きゅるきゅる!(み、見失った!?)」 ガバッ! 真下からブチャラティが掴みかかるッ!!彼は曲がったと同時にジッパーで地面に隠れていたのだッ!! 「ごまかせていたと思っていたのか。さっきからなぜオレをつけていた? 目的はなんだ?誰の差し金だ?」 「きゅる~う!きゅる~う!(ドジこいた~ッ!コイツはいか~んッ!! きっとマスターはお怒りになられる~~ッ!!)」 何言ってるかわからないブチャラティにはそれが物悲しく聞こえ、捕らえた奴を見る。 「・・・フレイム?なぜお前が?・・・キュルケの仕業という事か?」 「きゅる!きゅる!きゅる!きゅる!きゅる!(YES!YES!YES!YES!YES!)」 「アイツの部屋って・・・すぐ目の前の部屋じゃないか・・・。」 ルイズのすぐ隣の部屋。そこがキュルケの部屋だった。 「仕方ない・・・。入ればいいんだろ・・・。」 部屋に入ると部屋は薄暗かった。 「・・・入ったら?」 ブチャラティが部屋に入る。 「扉を閉めて。すきま風が入ると寒くって・・・。」 ガチャン。 「何の用だ?フレイムにオレを偵察させてまで。」 「立ち話もなんだしこちらにいらっしゃいな。」 声の方向に進む。ロウソクのおかげで難なく進めた。 かすかに甘い香りがした。どうやら部屋のどこかで香が焚かれているらしい。 進んでいくと、明かりがついた。 ぼんやりと淡い幻想的な光の中に、ベッドに腰掛けたキュルケの悩ましい姿があった。 ベビードールだけを着けた彼女はなかなかに艶かしい。 「どの辺りから気付かれていたのかしら?」 「広場から夕食(チューナ)に向かう合間から視線は感じていた。ギリギリまで引きつけて一気にひっとらえるつもりで気付かないフリをしていた・・。」 「それ最初からじゃない・・。完全にしてやられたみたいね・・。」 ブチャラティは続ける。 「それで?こんな手の込んだマネしてまでオレをどうしたいんだ?」 キュルケは真っ直ぐ、それでいて色っぽく見据えて言う。 「単刀直入に言うと、あなたに恋してしまったの・・・。」 予想外の返答が帰ってきた。 ブチャラティは正直戸惑った。 子供の頃から約8年間ほどギャングの世界で生きてきたが、色恋沙汰は苦手なのだ。 そもそもギャングの世界は「恋」だなんて単語には縁遠い物だ。 そういう面から取り入ってくる組織を潰しにかかるのはスパイの常套手段だ。 「貴方はあたしをはしたない女と思うかもしれない。でも私のこの気持ちは止められないの・・。 あなた片手で眠っているドラゴンを投げられる?普通出来ないわよね・・。 それと同じ。私の恋心を止めるのはそれくらい困難なのよ・・・。」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・。 「改めて自己紹介するわ・・。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。 二つ名は『微熱』。『微熱』のキュルケよ。」 「ディ・モールトグラッツェ(どうもありがとう。)ご親切に名乗られたことを感謝しよう・・。」 「ウフフ。この『微熱』と言う二つ名、まさに私のためにあるような物だと思わない? 私の『火』の魔法系統といい、この火傷するくらい燃えやすい恋心と言い、 これほどマッチする名前も珍しいわよね・・。でも恋心はしょうがないじゃない・・。 だってあなたがここまで魅力的なんだもの・・・。」 「貴方達の決闘は・・・最初何が起きてるのか全然わからなかった。でもそれ以上に、その戦闘に打ち込む姿勢・・。かっこよかったわ。クールで知的で、でも勇敢で。 ・・そりゃギーシュもあの時かっこ良かったと思うわよ?でも私の心を射抜いたのはあなた。それにアレはモンモランシーのじゃない。」 ギーシュ『アレ』扱いかよ。とツッコミそうになったがやめた。 「それ以来私はあなたへの恋歌を綴り続けているの。ホント罪な人だわ。私ほどではないけど。私に至っては貴方が気になって、フレイムを使って様子を探らせたり・・はしたないったらないわ・・。」 それにしてもこのキュルケ、ノリノリである。 どんどんテンションが上がっている。確かにキュルケはそのモテっぷりからもその魅力的なのがよくわかる。並みの男なら落ちてもしょうがない。『並みの男』なら。 「気持ちは嬉しい・・。だが断らせてもらおう。」 「あら!?なぜ?私ではいけないのかしら?」 ブチャラティは真剣な目つきで言う。 「どうもオレはそう言う話には疎くってね。どうもそういうのだけは信じられないんだ・・・。そうでなくってもオレ達のチームでは『実害』が出たからな。」 「『実害』?」 流石のキュルケもキョトンとなる。 「あれは・・・一年前だったかな・・。まだ5人チームになったばかりの頃だった。 メンバーの一人に恋人ができたことからそれは始まった・・・。」 ブチャラティが遠い目になる。 「そいつは当時メンバーのなかでも古株、チームの中でもかなり馴染んだ奴だった。 あいつはたまにガラ悪いが、こういうときはかなり純情な奴だった・・。 純情なもんだからよく当時入ったばかりだったムードメーカー二人が冷やかしては大喧嘩してた時期もあったよ・・・。」 「へぇ・・・それでそれで!?」 キュルケもすっかり話に夢中になっている。 「それでどうなったかって?『実害』の話をしてるんだからな。無論騙されていたのさ。 途中で仲間の一人が怪しみだしたんだ。用心深い奴だったからな、後をつけたんだ。 だがそしたらそいつが集団に襲われたのさ。 逃げながらそいつがSOSを送ってきて、そこでオレたちはようやくその女が敵(の組織のスパイ)だと言う事に気付いた。」 ゴクリ・・。 キュルケが緊張感に押しつぶされる。 「なんとかオレたちの応援が追いついたから二人とも無事救出。運良くその事件はチーム内での問題で片付いたからよかったものの一歩間違えたら組織そのものが潰れてたとか当時の上司にイヤミを言われたのをよく覚えている・・・。」 「それで・・どうなったの?」 「聞きたいかい?」 「死んだよ。というか始末した。その騙された奴がな。」 「え!?」 キュルケはここでとうとうブチャラティを怪しみ始めた。敵とか組織とか少々ワケがわからなかったが、ここに来てもうブチャラティ何者だと思い始めた。 「そんな・・・。愛し合ってたんじゃあないの・・?」 「少なくともアイツは愛してただろうな。その日は最初で最後にアイツが涙を見せた日になったからな。 だが女は最初から利用して殺す気だったんだ。現実を把握したソイツはどうしたと思う? これ以上ないってくらいキレた。まずメリケンサックを右手に嵌めてぶん殴った。 それだけで綺麗な顔がグチャグチャになってたのに、さらに追い討ちをかけて腹を蹴りまくった挙句、最終的には殺人ウイルスで体中の組織をグチャグチャに破壊して殺した。 ・・・ここまで見せられたら恋なんてものを知りたくもなくなるのもわかるだろ?」 ――――――――キュルケの思考が停止した。話がグロテスクかつぶっ飛び過ぎてついていけてない。 ブチャラティがその様子を感じ取って思う。 (一切真実をかすめてないのにここまで大ボラを吹けるのも一つの才能だな・・。 そんな問題起こしていきてられるわけないだろ。ギャングの世界で生きていくには方便も必要だぜ。アリーヴェデルチ。) ブチャラティが部屋を後にしようとしたときだった。 「・・・・・・と思うわ。」 「え?」 キュルケが立ち上がる。 「その人の不幸は同情せざるをえないと思うわ。私もそんな結末になってしまってはとても恐ろしいと思う。恋が怖くもなるわ・・。」 「でもこれだけは言わせてもらうわ!黙って聞いていればあなたまるでその彼の二の舞になるのが嫌だから恋を知りたくないと、私があなたを騙すかもしれないと思っている みたいだから言う! 私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー!! ツェルプストー家の女は恋において非常に正直な女!!色恋沙汰で人を騙すなんてマネは絶対しない!そんな事を言われて黙っていられないわ!」 ルイズをからかってるときとはうってかわってキュルケの目はいつになく真剣だ! 「・・・私を信じなさい。恋するものは強くなれる。恋を力に変えられるものは何よりも強く正直な人間よ。」 キュルケが後ろから抱きかかえてくる。 「私を信じて。私はあなたを信じてる。あなたこそが私が特別と思える・・・。」 「ノックしてもしもぉ~し。待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば……」 窓から男が話しかける。『レビテーション』で浮いてきたみたいだ。 「ベリッソン! ええと、二時間後に!」 「話が違う!」 キュルケが胸の谷間に差した派手な杖を取り出して詠唱する。 「『ファイアーボール』!!」 巨大な炎が窓ごと男を吹っ飛ばしたッ!! 「まったく、無粋なフクロウね」 「・・・スマン。もう一度言ってくれ。ツェルプストー家の女は何に正直だって?」 「え?いや違うわよ彼は!!私の中の一番はあなた・・。」 「キュルケ! その男は誰だ! 今夜は僕とすごすんじゃなかったのか!」 また違う男が覗き込んでいる。 「スティックス! ええと、四時間後に」 「そいつは誰だ! キュル「『ファイアーボール』!!」 有無を言わさずふっ飛ばすッ!! 「お前自分で恋する女は何より正直とか言ってたくせにこんな事を・・。」 「いいえ、あなたが特別なの!彼の勘違いよ。あたしが一番恋してるのはあなたよブチャラティ!」 スッ! 「こいつ・・。『ウソ』をついてない・・。(マジにないと思っている…。一つに夢中になると他を忘れるタイプか・・・。)」 「へ?今なにしたの?」 そしてそれと同時に三人の男が押し合いへしあいしている。そして三人同時に叫ぶ。 『キュルケ! そいつは誰なんだ! 恋人はいないって言ってたじゃないか!』 「マニカン!エイジャックス! ギムリ! ええと、六時間後に」 『朝だよ!』 「フレイム!」 「きゅるきゅる!(サー・イエッサー!)」 キィィィィィィィン 「きゅるきゅる(GO TO HELL。)」 カッ!! 『GIYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!』 「きゅるきゅる(悪いな。こちとらメシがかかってるんだ。でもさ、マスターの惚れっぽさを計算にいれてなかったと言う事もあるしさ、こらえてくれ。)」 ブチャラティが呆れたようにキュルケを見る。 「まだ何か言うことはあるか?」 「ええと、とにかく! 愛して・・モガッ!」 「もうしゃべるな。話がかみあわねえ。」 キュルケの口にジッパーを貼り付けた。 バタンッ! 今度は部屋のドアがノック無しで開く。 「なんだルイズか・・。」 「ななな、何これ!?」 「ん~~ッ!!ん~~ッ!!(ルイズ!彼にジッパーを解除させて!このジッパー引っかかって開かない!)」 キュルケがベビードール姿で口を塞がれてる。 暗くてよく見えないが、それを見て思春期真っ只中のルイズがいかがわしい真実にたどり着くのは造作もないッ!! 「こっ、こここっ……この、エロ犬ー!」 ルイズが右足でブチャラティを蹴ろうとするッ!狙うは・・・金的ッ!! スカッ 「え?」 はずした。否、足のほうがはずれた。 「え、ちょ・・。うわわわわ・・・。ふみゃッ!!」 ずっこけたッ!!それは美しくずっこけたッ!! ブチャラティは金的をくらう前にルイズの右足を"スティッキィ・フィンガース"で切り離したのだッ! 芸の細かい事にニーソックスの線にそってッ!! 「じゃ、先に部屋に戻ってるからなルイズ。」 「ちょ、待ちなさいブチャラティ!!足を直して行きなさいよ!このムッツリスケベ!!」 「ん、んぐ・・。(私の口も直してってよ・・・。)」 余談だがブチャラティは寝床をジッパーで作って寝袋のように寝ている。 To Be Continued =>

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
記事メニュー
目安箱バナー