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夕食は楽しいものだった。 昨日の雰囲気などどこにも存在しない。 鍋を囲みながら、みんなが笑い、食べ、また笑う。 シエスタの学院での生活や、ルイズの学院での生活、最近村であった出来事などをはなし大いに盛り上がった。 「はい、ヨシカゲさん。どうぞ」 「ああ、ありがとう」 「シエスタ、それとってくれない?」 「これですか?」 「あー!それぼくもほしい!」 「ダーメ。これはミス・ヴァリエールのよ」 「いいわよシエスタ。その子にあげて」 普段の私ならこんな雰囲気でも、ちっとも楽しいと思わなかっただろう。 しかし、今私はこの状況を楽しいと思っている。 なぜだろうか? 駄々をこねるガキは見ただけで鬱陶しく思えるし、食事は静かに食べたい。 そんなことを常々思っているはずなのに。 「ほんと、あの景色はきれいだったわよね」 「そうですね。私も見慣れてたはずなのに感動しました」 やはりあの景色だろう。 何もかもが茜色に染まるあの景色が自分の心に焼け付いて離れることがない。 あの景色が自分の心にどんな影響を及ぼしたのかは予測はつかない。 ただ、人の笑顔や感動を綺麗だと、美しいと思えたのは、凄まじい変化だと感じている。 今、ルイズやシエスタの顔を見てもそれほど綺麗だとは思わない。 やはりあのときの一時的な気の迷いだったのだろう。 しかし、ルイズが、シエスタが喋るたび、それを面白いと思う。 私はルイズを見下していた。シエスタを都合よく動かせる女だと思っていた。 そんな彼女らと共にいて楽しいと思っているということは、私は今そう思っていないということだろう。 「どうしたの?そんなにやにやしちゃって?」 ルイズが本当にどうしたのだ?といった具合でこちらを見てくる。 「いや、楽しいな、思ってな。どうだ?ルイズも来てよかったと思わないか?」 「……実は初めそんなに期待してなかったの。どうせ田舎だろうし、そんな面白いものないだろうって思ってたわ」 「その口ぶりだと見事に期待を裏切られたらしいな」 そう言うとルイズが素直に頷く。 「ほんとに来てよかったと思ってるわ。心の底から。わたし、今ならきっと最高の詔を考えられるわ」 「そうか。よかったな」 「ヨシカゲ、誘ってくれてありがとう」 「こっちも、連れてきてくれてありがとう」 きっと普段ならありえない二人の会話。 普段のルイズなら、絶対に私にこんなことを言ったりしないだろう。 私も絶対に、こんなことを言ったりしない。 でも今夜は特別だった。 「わたし、りっぱな貴族になるわ。それで守るの。ここの人たちを、国のみんなを。アルビオンみたいに守ってもらうだけ、見てるだけはもうしたくない」 「安心しろ。そう思ってるだけで立派な貴族だ。あとはその思いを心に何時までも留めておければ、かならずなりたい自分になれるさ」 私はそう言ってルイズに笑いかけた。 夕食も終わり、皆がそれぞれの部屋にいるであろうこの時間。 私も例に漏れず自分の部屋にいた。 「で、ヨシェナヴェを食べたんだけど、こう、なんというか懐かしい味がしたな。きっと昔私も寄せ鍋食べてたんだよ」 「そりゃ相棒の国の一般的な料理だろ?食ったことあって当然なんじゃねえのか?」 「そうかもしれないな」 そしていつものようにデルフと喋っていた。 猫はここが定位置だというように私の肩に乗っている。 「しかし相棒、今日はなんだか活き活きしてんな。なんかいいことでもあったのか?」 「ああ、もうすぐ空が飛べるかもしれないしな。いつかお前も乗せてやる。一番乗りでな。それと素晴らしい景色をみたんだよ」 「……おでれーた。相棒がこんなにも素直にぺらぺら喋るなんてよ」 「それにしても今日は疲れたな。結構移動したからな。さっさと眠るか」 デルフを鞘におさめ、ベッドの横に立てかける。 そして猫をベッドに放り投げ、自分もベッドに寝転ぶ。 それからまもなく、私は眠りに落ちていくのを感じた。 そのとき、思い浮かんだのは、忘れたはずのあの人影だった。 誰そ?彼? ひどい頭痛によって目が覚める。 身体を起こし、頭を振り、頭痛を紛らわす。 さっきまで本当にいやな夢を見ていた。 私の身体を砕くあの腕が再び私の身体を砕くのだ。 しかもあの杉本鈴美が私に喋りかけてくる。 貴様に安心は訪れないのだと。 やがて頭痛もなくなり、頭がようやく周囲の状況を飲み込み始める。 自分の隣に丸まっている猫。 立てかけられている剣。 簡素なつくりのベッド。 同じく簡素な机。 そして少し小さめの洋風の部屋。 ……どういうことだ!? さっきいた場所と全然違うぞ!? 手を見る。 そこにさっきまでいたはずの恋人たちの姿がそこにはなかった。 それを確認したとたん、自分の身体に酷く抗い難い衝動が駆け巡るのを感じた。 川尻浩作として暮らしていたあの日々のように、長い間我慢しているような感じだった。 人を殺さずにはいられないという、自分の性を。 ----
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