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本陣が前線に近づいていたとは言え、最前線までは余りに遠かった。 「相変わらず揃って脳みそがマヌケか! 戦略的にその辺把握して足並み揃えりゃ良かった事だろうが! 二階級特進しろ、派手に散れ。 何で前もって検討しておいて合図送れば済む事が出来ねえんだよ!」 「それより、なぁんか爆発音が近づいてる気がするのは俺の気の所為かね?」 デルフリンガーの言葉にワルドがキョロキョロと周りを伺う。 「確かに。 あれは恐らくは艦砲射撃の炸裂音か。 さてはシェフィールドめ、僕らをこの場ごと吹き飛ばして葬るつもりか」 確かにそれは理に適ったやり方と言えた。 例え先程の遍在二刀流を持ってしても、『風』のスクウェアスペル『カッタートルネード』を持ってしても、こういった単純物量火力による質量攻撃をいなすのは難しい。 「手は無いのか?」 「おめーら、何か手はねーのか?」 「何か良い手はあるかい?」 三者の声が重なる。 「クソ!何でこんな下らない事だけ、以心伝心呼吸ばっちりなんだよ!」 アヌビス神のその愚痴と共に、犬が『がおー』と遠吠えするような幻覚が見えた気がした。 「完全に落ち目じゃねーか。ワルドの旦那も前はこんなに間抜けなイメージじゃ無かったんだがね」 デルフリンガーの鍔のかちゃかちゃ音が何時もと比べてやたらと挑発的だ。 「キミらのペースに飲まれたんだ!」 それらの攻勢にワルドが二振りをぶんぶんと振り回す。 「にゃにおー!このおれだって元々そこそこクールな敵役のクレバーなイメージだったんだ!」 「しかたねーなあ。ここは最年長の俺っちが適案を教えてやらあね」 間抜けな言い合いを止めるべく、デルフリンガーが、胸を張るようなイメージで鍔をちゃきちゃきと何時もとは違う重くも頼もしく鳴らす。 「さてはデル公、新たな隠し機能か!」 「ブリミル仕込みの七つの秘密機能な訳だね?」 アヌビス神とワルドがデルフリンガーを覗き込む。 「ねえよ!そんな面白機能あるわきぇねえよ!」 「じゃあ」「では」 「「どうするんだ?」」 重なるその言葉にデルフリンガーは笑って答えた。 「こういう時はなァー」 「「こういう時は?」」 「逃げるんだよォォォー!!」 そしてワルドは走っていた、グリフォンを繋いでいた場所へと。 「おせーぞ急げ!」 アヌビス神が急かす。 そこらかしこで爆発が巻き起こり、何時消し飛ばされても可笑しくはない。 「これでも全力なのだがね」 先程の遍在二刀流の酷使で足腰が悲鳴を上げる中、鍛え上げられたワルドの肉体は良く頑張っていた。 ドカンと派手な音を立てて、側に有った荷台が消し飛ぶ。 爆風に煽られワルドは吹き飛ばされた。 「余裕綽々で帽子直してんじゃねーよ!」 立ち上がり、羽帽子を軽く叩いて被り直すワルドへデルフリンガーが文句を言う。 「はは、問題無い、目的地に到着したからね」 「だが、何も無いぜ?誰も居ないぜ?」 アヌビス神のその言葉にワルドは淡々と返した。 「あれだけの砲撃、砲弾の雨。逃げない方が可笑しいとは思わないかね?」 つまりは、グリフォンはこの場からさっさとトンズラしていた。 「役にたたねー!!」 「ちゃんと訓練してるのかよ!」 「しているさ。だから独自判断で危険なこの場を離れた。ちゃんと自分で繋いでいた器具も外してるだろう?」 「アホかあ!もっと思慮深くだなあ!」 「獣に期待し過ぎってものだ!」 「シルフィードなんかなあ!あいつだったら絶対迎えに来るぞ? しかも目の保養にもなるんだぞ?さり気にむちむちぷりんだ!」 「落ち着けアヌ公、発想がオスマンだ!しかも多分その事判る奴少ない」 再び近場に砲撃が着弾し、一同は吹き飛ばされる。 砲撃は正確さを増してくる、恐らく補足されたのだろう。 「ヴェルダンデなら潜って余裕なのによおー!」 アヌビス神の声を残し、ワルドがぼろ切れの様に再び宙を舞う。 「さらばワルド。この高さで、この姿勢なら楽に首折って死ねる。 いや、死んじまえ」 「つれない事を言ってくれる」 ワルドは、何のこの程度とばかりに宙で身を捩り……。 「やあ、ここで良いのかい?ヴェルダンでぶおああああぶじゅぅーるるる」 ぐちゃ 何かを踏みつぶした。 「おわぶっぐべべべべっ」 バランスを崩しワルドは顔面から、アルビオンの大地へkissをした。 「ヴェルダンデ!ヴェルダンデじゃねえか、……とギーシュじゃねえか!」 アヌビス神のその言葉にワルドが叫んで飛び起きる。 「『ギーシュさん』!?やはり『ギーシュさん』!」 モグラ叩きされて穴から覗かせた上半身を地面に突っ伏すその姿、間違いなくギーシュ・ド・グラモンその人であった。 「僕を助けるためにまさか……。 は!?もしや、あの砲撃で?許せん!」 潰れ、己の使い魔にもぐもぐ言われて介抱されるその姿を見て、ワルドは拳を強く握る。怒りを遥か彼方の上空に浮かぶ戦艦へと向けて吼える。 「馬鹿やってないでさっさと退きなさいよ!邪魔よ邪魔!」 そんなワルドの眼前で、突然蹴り出されるようにしてギーシュが宙を舞って地面に転がった。 「ご主人さまじゃねーか」 続けて穴から這い出てきたのはルイズであった。 更に続けてタバサ、キュルケ、フーケが這いだしてくる。 最後に途轍もなく不満げなきゅいきゅいとの鳴き声と共に、シルフィードが這い出てきた。 「きゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅい!!!!(狭かったのね、この姿の侭だなんて、お姉さまも無茶を言うのね!)」 「助かったぜご主人さま!流石やる時はやるタイプ! ピンチに駆けつける仲間がこんなにありがたいとは、おれ知らなかったね」 アヌビス神が大喜びでワルドの腰から騒ぐが、それ以上に砲撃音が騒がしい。 どかんどかんと、辺りの形ある物が次々と吹き飛び砕け散る。 「撤収」 タバサは簡潔に言うと、穴へと飛び込んだ。 総員慌てて穴へと飛び込み、最後にヴェルダンデがギーシュを引きずるようにして慌て穴へと滑り込む。 はっきり言って窮屈だ。 大人一人増えただけで、その穴はもうすし詰め状態である。 「離れて」 「むほほ、むほほん(無理だ、動けん)」 タバサの胸元に偶然顔を埋めたワルドが、やたらと生き生きして見える。実際は真っ暗で殆ど何も見えないのだが。 多分鼻がブラウスのボタンの間と布と布の隙間ストライクなのも奇跡的偶然である。 「動かないで、むずむずする」 駄目だこの男! 「ちょっ、だ、誰よ。やだ」 左手がルイズのお尻を触っている。あくまでも偶然である。 「この肘は誰のよ。ちょ、こら!」 右肘はフーケのたわわな何かを歪めている。 「あん。誰?動かしちゃ駄目よ」 右膝はキュルケの太股の狭間にある。 「く、暗いよ兄貴ぃ。ど、どど、どこだ、どこに居るんだ」 「落ち着けアヌ公。皆すし詰めで纏まってる。 しかしこの男、体勢は偶然だがタイミングは故意じゃねーのか!」 暗くても状況把握出来ているらしいデルフリンガーの言葉に対して、ワルドは弁解しようと声を上げる、すると鼻が更に幸せホールに潜り込んで幸せそうだ。喋ろうとした時に舌が何か触った気がする。 全てを置いといて、この一瞬の味だけは一生大事にしようと心に誓う。 しかしこりゃたまらん。 眼前以外も超スゴイ。 左手のこのグレイトな弾力、そして張り。 この絶妙な肉の厚さ、少な目さがこれまた程良い脂肪。 はははは、これは見ずとも、触り心地から想像しただけで誰の物か判る! 僕の物だ!もとい僕のルイズの物だ。 右肘に当たる、ぽよんぽよんましゅまろ。自分には見ずとも判る。 これはアルビオンの驚異だ! じゃなかった。マチルダちゃんもといフーケのおっぱいだ。ソムリエだから判る。 期待以上の感触、何とか右手を…… 右脚を締め付ける感覚がやばい。なにか残らず絞り取られそうだ。 これは魔性の兵器だ。挟み込む力と弾力のバランスが実に傾国。これからはふとももの研究もせねばなるまい。 ワルド絶頂! 尚誤解の無いよう改めて明記しておくと穴の中は薄暗いので、目と鼻の先程しか確認できず、色々誤解を招かずに済んでいる。 弁解の声は誤解の元である。 実際、全て他意は無く偶然巻き起こった事なのだから、慌てる必要は無いのである。 ワルドは深呼吸して落ち着くことにした。紳士として振る舞わねばならない。 どうにも先日アヌビス神に何かされてから色々フリーダム過ぎていけない。とても宜しくない。 すぅ~……はぁ~……。 やばい、物凄い良い香りだ。鋼の理性をどろどろに溶かす魔性の香りが嗅覚を擽る。 しかも息を吐くと同時に「や……はぁ……」とか少し上から何か堪えるようなかみ殺した声が聞こえた。 そもそも多少の老若問わずに女性に劣情を催すのは、男性として正常では無いだろうか。ワルドの脳裏で天使が高説をたれた。 Q、つまりは僕は今何をするのが正しいのだろうか? 模範解答A、ロイヤル・ソヴリンへ向かい敵の撤退を促す。 模範解答B、口を大きく開き最大限深呼吸で酸素を確保、手が強ばらないように軽く運動をし、腕が冷めて動きが鈍らぬように良く動かし、先程酷使した足も良く動かしてほぐすべき。 模範解答C、穴を広げるべく努力をする。 つまりはBか! 人生の絶頂とはまさにこの事! 舌も手も腕も足も更なる奥地を目指して、進むべきでは無いだろうか。それならば、ABC全てを兼ねている気がする。心のブリミルが笑顔でそう囁いた。 まてよ。こういう時の独断は不味い、正常な判断が行えていないかも知れない。 人生経験豊富な者に相談すべきだろう。 「アヌビス、デルフ、僕は男だよな?」 流石に密集状態で心の落ち着きをある程度戻したのかアヌビス神も落ち着いて答えた。物騒発言の余裕は無いようだが。 「寝ぼけたのかよ、どうみても男だろ。むさ苦しいまでに野郎だ」 「酸欠で意識でもやばいのか?どう考えても男だぁね」 「判った、では男として行動する」 「何すんだ」 「掘り進む」 「なるほど狭いから広げるってこったね?」 まずは鼻を左右に振り多少強引に!壁となっている物が緩んだ所で右……いや、左の僅かな盛り上がりをどうにかすべく攻める!そこで一気に息を吐き吸うように……うむ、口だろうが舌だろうが使ってでも掘り進むべきだ、併せ技だな。 左腕は指先の感覚を頼りに少しづつ穴を広げ……。 どすん 念入りにプランを練っている所でいきなり体勢が崩れた。 「ヴェルダンデ、無事穴は広がったかね」 「もぐもぐ!」 突然辺りはひらけ、うっすら明かりが射す。どうやらギーシュが錬金で土より作った油を布に染ませ、即席松明としたようだ。 「くっ!良い所で誰だ! はっ!?『ギーシュさん』だと?」 そうか、僕は人としての道を踏み外しそうに。『ギーシュさん』がそんな僕を踏み止まらせてくれた。 何が良い所なんだ? 先程とは体勢も変わり、密集団子状態が解除されてばらけた為、言葉の真意が伝わる事無く、誰もがそう思った。 そして、耳に聞こえたその天啓も同じ『ギーシュさん』の声にワルドは勝手に感動し、心で笑顔のブリミルに『ギーシュさん』の素晴らしさを説いた。 なお現状のワルドは四つん這い状態であり、そして辺りにタバサの姿は見当たらない。 いや、ワルドに組み伏せられ手いた。偶然! 彼女は先程のくすぐったいのに耐え、若干涙目で頬を紅潮させている。ブラウスの胸元が何故かボタンが外れ緩んでいる有様である。 言葉の真意が伝わった。 「わ、わわわ、ワルド?」 その状況を嫡子して硬直したルイズの上擦った声がほら穴に響く。 耳に飛び込んできたルイズのその声に、素早く状況を確認し、下を見、そして生唾を飲み込む。 取り戻した理性が消し飛びそうな光景が視覚を激しく刺激した。 ワルドの脳内では、先ほどのルイズの声が静かに木霊する。 落ち着け、皆見てる。 顔を再び上げきょろきょろと周辺を伺う。 漂う気まずい沈黙。 「どいて」 タバサの小さな声が静かにこぼれた。 ワルド、誤解ではないが大いに誤解された。 「なあ兄弟」 「何だデルフ」 「すげー、オスマンじゃねえか?」 「言葉の意味は判らんが、何となく大体合ってる気がする」 望まぬ侭、共に奇異の視線を浴びるのに巻き込まれた二振りがトホホと言葉を交わした。 『こんな事なら思い切っておくべきだった!』 僅かにでも、こう思考を走らせた彼を誰が責めることは出来るだろうか。いや、出来はしない(男性は) 這うようにして抜け出し、着衣の乱れを直しボタンをとめる為、胸元を庇いながらごそごそとするその姿はある種官能的であった。 『次のチャンスは必ず!』 ワルドは思わず、ぐっと握り拳を作る。 いや、やはり責めるべきかもしれない。 「はは、きみたち何ぼやっとしているんだい」 一人早々にヴェルダンデに穴を広げさせ、何時の間にやら、やれやれと状況に呆れたフーケを宥めながらエスコートし、先へと歩み始めたギーシュが振り返り言った。 ルイズとキュルケは釈然としなかったが、この天然薔薇男が一番まともな事を言って行動をしているので、状況改善の為、素直に従う事にした。 To Be Continued ----
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