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奇妙なルイズ-10」を以下のとおり復元します。
アンリエッタ王女は、薄暗い私室のカーテンを開けようと杖を手に持ったが、カーテンを開けぬまま杖を下ろした。 
まだ日は高いというのに薄暗い部屋は、彼女の心そのものだった。 
十七歳の少女としての自分は、ルイズを友達だと思っている。 
しかし王女としての自分は、これからルイズに困難な任務を押しつけようとしている。 

水晶のついた杖をいじりつつ子供の頃のことを思い出す。 
『杖を手持ち無沙汰に扱うのはみっともない行為です!』 
ルイズと一緒に怒られた、懐かしい思い出だった。 

昨日、隣国のゲルマニアに向けて送り出された使者は、アンリエッタとゲルマニア皇帝との婚約を正式な物とする手紙を携えている。 
水面下ではアンリエッタとゲルマニア皇帝の婚約、そしてトリスティンとゲルマニアの軍事的な同盟がほぼ決定している。 
それをわざとらしく手紙で知らせることで、”感動的な婚約”とやらを演出しようと言うのだろうか。 
アンリエッタがゲルマニアに嫁げば、ルイズと友人の関係を維持したまま顔を会わせることは不可能になってしまうだろう。 
アンリエッタは、本日何度目か分からないため息をつきながら考える。 
ルイズなら主従の関係であっても、私の本心に気づいてくれるはず… 

しばらくしてメイドの一人が、アンリエッタに何かを伝える。 
アンリエッタは無言で頷くと、メイドは廊下に待機していたもう一人のメイドと入れ替わり出て行った。

「姫様!」 
「ルイズ!ああ、ルイズ、貴方には本当に苦労をかけてしまったわ、私のわがままでこんな格好をさせてしまって!」 
二人きりになった途端、アンリエッタはメイドに抱きついた。 
メイドの正体は言わずとも分かるだろうが、変装したルイズである。 
「どうかお顔を上げてください、私は、姫殿下のいやしきしもべに過ぎませ…」 
「そんな言い方はしないで!」 
アンリエッタが今までとは違う、何か別の悲しみを含んだ声を上げた。 
姫は、涙を流していた。 

アンリエッタの部屋の奥、寝室のベッドの上で、二人は子供の頃の思い出と同じように並んで座った。 
「ルイズ…わたくしは、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのです」 
「ゲルマニアですって!」 
ゲルマニアが嫌いなルイズは、驚いた声をあげた。 
「…しかたがないの。同盟を結ぶためなのですから」 
アンリエッタは、ルイズにハルケギニアを取り巻く情勢を話し始めた。 

アルビオンの貴族たちが反乱を起こし、王室打倒が画策されているということ。 
反乱軍は次にトリステインを、その次にはゲルマニアの王室を打倒しようと目論んでいること。 
アンリエッタがゲルマニア皇帝に嫁ぐことで、トリスティンとゲルマニアの同盟を結び、アルビオンの反乱に対抗しようとしていること。 

アンリエッタは口には出さなかったが、ゲルマニアとの結婚を望んでいないのは明らかだった。だからこそ、ルイズは何も言えなかった。 
「姫さま……」 
「王族が、好きな相手と結婚するなんて、夢の中ですら許されないのですから」 
寝言で使用人を呼んだ婦人に腹を立て、使用人を罰する貴族もいるのだ。 
それを揶揄しているのだろうかと考えたが、アンリエッタの話は揶揄どころの話ではなかった。 

「ゲルマニアの貴族はわたくしの婚姻をさまたげるための、ある材料を捜しています…おお、始祖ブリミルよ……、この不幸な姫をお救いください……」 
アンリエッタは、顔を両手で覆うと、肩を振るわせた、いつもならその仕草に驚き、アンリエッタを心配するはずのルイズは、自分の内心が冷めているのを感じていた。 
「姫さま、姫さまのご婚姻をさまたげる材料ってなんなのですか?」 
ルイズは静かに、真剣に話しかけた、アンリエッタは両手で顔を覆ったまま呟く。 
「……わたくしが以前したためた一通の手紙なのです、それがアルビオンの貴族たちの手に渡ってしまったら、それをゲルマニアの皇室に届けることでしょう」 
「それは、どんな内容の手紙なのですか」 
「ごめんなさい、ルイズ、それは貴方に言うことは出来ないのです、もしその手紙がゲルマニアの皇室に渡れば、婚姻はつぶれ、トリステインとの同盟も崩れ…いえ、ゲルマニアやガリアの手で、トリスティンはアルビオンを消耗させる材料にされてしまうかもしれないのです…」 
ルイズは、静かに、しかし力強く、アンリエッタの手を握った。 
「姫さま…私への密命は、その手紙のことなのでしょう?」 
顔を覆っていた手をルイズに握られ、泣き顔を隠せなくなったアンリエッタはルイズを見た。 
そこには、いつになく真剣な表情の、アンリエッタの初めて見るルイズが居た。

一瞬の驚きの後、ルイズのまなざしに、アンリエッタは恐怖を感じ、ルイズの手をふりほどいた。 
「あ…! わたくしは、なんてことを、なんてことを…わたしは、おともだちに、こんな、ああ、ルイズ、許して!」 
アンリエッタはベッドのカーテンにしがみつき、ルイズへの謝罪を続けた。 
カーテンが締め切られ、灯りと言えば窓枠周辺から反射して入り込む日の光。 
そんな薄暗い部屋の中で見たルイズの瞳は、まるで白金でできた鏡のようにアンリエッタを映した気がした。 
それに驚いたアンリエッタは、矛盾に気付いてしまったのだ。 
友達としてルイズを頼ろうとしていたアンリエッタは、自分のしぐさが、芝居がかかったモノだと気付いてしまった。まるで同情を買うかのような仕草をした自分が急に恥ずかしく、そして後ろめたくなったのだ。 
生まれてから17年、王族としての威厳を備えた祖父王と父王の姿は目に焼き付いている。 
それと同時に、華美な言葉を並べ立てて、王族に取り入ろうとする貴族達と、王族の権威を利用しようとする者達を見てきたのだ。 

いつの間にか自分にまで染みついていた『謀略』の知識を、ルイズにまで向けてしまった。 
アンリエッタはそれが悔しかった。 

ルイズは薄暗い部屋の中でも、アンリエッタが悲しみ、そして苦しんでいることが理解出来た。 
友達だからこそ理解出来る。いや、友達だからこそ理解出来なくてもいい。 
アンリエッタは、貴族達の謀略にまみれて育った、貴族の誇りや責任感を利用して人を扇動する技術も、自然と身につけてしまったのだろう。 
だからルイズはアンリエッタの仕草が演技だったとしても悔しくはない。 
『騙されても良い』と考えたのだ。

「ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが、貴族として申し上げます」 
アンリエッタは、今までに聞いたことのない程の、凛々しいとも言えるルイズの言葉に驚いた。 

「始祖ブリミルより血を分けしトリスティンに仕える貴族は、決して失望致しません」 

「貴族は、貴族にとって都合の良い猊下(げいか)を祭り上げるものでは決してありません。姫殿下の行為が、トリスティンに危機を招くものだとしても、貴族はその誇りをもって始祖ブリミルに仕え、王家を守護し、領民を守るものだと断言致します」 

そして今度は、呆然とするアンリエッタの手を強く握り、語りかけた。 
凛々しい表情から一変して、笑顔を見せるルイズ。 

「でも今は、アンの友達として、私に出来る限りのことをするわ、だって、私にしか頼めないと思ったから私を呼んでしょう?」 

「小さかった頃、魔法を使えない私に、壊れかけた小舟を動かさせて、沈みそうになって、お父様と教育係に叱られたこと、覚えてるでしょ?」 

「アンは、実は無茶なことをするお姫様だって知ってるわ!知ってるから、だから泣かないで!」 

ルイズの笑顔にアンリエッタは涙を流した。 
小さい頃から慣れ親しんだ『おともだちのルイズ』が、そこにいたのだ。 
彼女は悲しみではなく、喜びを涙した。

その夜、アンリエッタは子供の頃の夢を見た。 
このところの執務と心労が、彼女の眠りを妨げていたが、今日ばかりは違った。 
遊び疲れて眠ってしまった子供のように、枕を抱きしめて、つかのまの幸せな夢を見ていた。 




ルイズは、憧れの人との再会して抱擁を受けたことと、友達としてアンリエッタと語らうことが出来たことと、覚悟を決めたアンリエッタから重大な密命を受けたことに興奮し、なかなか眠れなかった。 

あんまりにも眠れないのでトイレに行った。 

キュルケとタバサが居た。 

翌日から三人一緒にトイレに行くことになった。 



幽霊騒ぎは三人の絆を深めたのかもしれない。 
『…やれやれだぜ』

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