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使い魔は手に入れたい-53 - (2007/10/08 (月) 00:51:31) のソース

早朝、朝靄が漂う魔法学院の玄関先に私とルイズは立っていた。ただ立っているわけではない。王宮からの馬車を待っているのだ。 
王女アンリエッタとゲルマニアの皇帝アルブレヒト三世との結婚式はゲルマニアの首府ヴィンドボナという場所で、2日後のニューイの月の1日に行われる。 
その結婚式の場でルイズは巫女として『始祖の祈祷書』を手に、式の詔を詠みあげなければならない。 
つまり、ルイズはヴィンドボナに行かなければ行かなければいけないのだ。お姫様がヴィンドボナへ行く際、一緒に行くことになっている。 
そのためお姫様のいる宮殿から王宮の馬車が迎えに来るというわけだ。学院に帰ってくるのは大体1週間後だろう。 
ちなみに私はルイズの使い魔ということで随伴しなければいけないらしい。 
ルイズは『始祖の祈祷書』を胸に抱えながら、私はデルフを使って足元にいる猫を地面に押し付けあることを考えながら時間を潰していた。 
あることというのは無論最近の生活についてだ。特に生活が苦しいところは無い。『幸福』ではないが前に比べ随分と充実している。 
しかし、不満が無いわけではない。今私が大いに不満に思っていることはルイズと同じベッドで眠っているというところだ。 
なぜルイズなんかと一緒に寝なくちゃいけないんだ?ルイズがキュルケのようにボンキュボンならむしろ喜んで一緒に眠るがルイズにはそういった魅力が感じられない。 
ルイズは13歳か14歳ほどだろうから当然かも知れない。だが、そうなると一緒に寝ているときは邪魔なのだ。何故他人のことに配慮して眠らなくちゃいけないんだ。 
一人で好きなときに好きな体勢で眠りたい。つまり自分のベッドがほしい。それが今の切実な願いだった。 
剣を売った金で画材を買おうと思っていたが変更してベッドを買ったほうがいいかもしれないと本気で思っている。安物なら買えるだろう。 
それと、 
「ルイズ」 
「なに?あ、ヨシカゲ!あんた何時までいじめてんのよ!」 
「ミー!」 
そう言ってルイズは猫を助けようとデルフを蹴飛ばそうとしてくる。 
だが、デルフに蹴りを当てさせるわけにはいかないので、猫をいじるのを止めデルフをルイズの蹴りの場所へ移動させる。 
猫はその隙をつきどこかへ走り去っていった。しかし、これでいい。猫をヴォンドボナへ連れて行く気がなかったので離れてくれて助かった。 
「まったく、趣味悪いわ」 
「そんなことはどうでもいい。ルイズ、トリステインに帰ってきてからでいいんだが、服を買ってくれないか?」 
「服?」 
「そうだ。私の服だ」 
そう、服。今現在私は衣服の替えを持っていない。それはなかなか由々しきことだ。この先一張羅で生きていくわけにもいかない。 
人が寝しまっている間に自分の服を洗濯したり、夜じゃあまり乾かないので生乾きで着たりと面倒くさいしな。 
「そういえば、あんたそれしか服持ってなかったわね」 
「ああ、さすがにもう色々と限界だ。使い魔に必要なものぐらいは買ってくれるよな?」 
「ま、まあ……今までよく働いてくれたからそれぐらいしてあげてもいいわね。それと同じ服を何着か作らせればいいんでしょ」 
「ああ、助かる。ついでに手袋と帽子の予備もあればもっと助かる」 
よし、衣服の問題は無事解決したな。しかし、こういったことはルイズが私に賃金をくれれば起こらないんだがな。だが、自分の使い魔に金を渡す奴がいるか?いるわけがない。普通使い魔ってのは下等動物(竜やなんかは例外だ)だ。 そんな文明もない奴らに金を渡しても意味がないからな。私は人間だが、使い魔だからルイズは金をくれない。わかりやすい方程式だ。わかりやすくてむかついてくる。 
幽霊でも金が要る世の中なのに金が手に入らないなんて。剣を売れば自分の自由な金が手に入るが所詮一回こっきりだしな。どうせならルイズに賃金でもくれるように交渉してみるか? 
「あれ?だれかしら?」 
「あ?」 
交渉するべきか否かを悩んでいる所に、ルイズの声が聞こえてきた。その声に反応しルイズを見るとルイズは玄関外の朝靄を見つめている。 
いや、人影を見詰めている。人影はこちらになかなかの勢いで近づいてきている。やがて朝靄が薄れ始め、人影がはっきりし始めた。
「あれは……、王宮の使者だわ」 
「王宮の使者?」 
王宮の使者は髪を振り乱し必死の形相でこちらへ走りよってきた。尋常と言える様子ではないことは一目瞭然だ。使者は私たちに気がつくと私たちに近寄ってきた。 
「ハァハァハァハァ……き、きみたち」 
「ど、どうかしたんですか?」 
ルイズも使者の様子におどいた様子で少し焦っている。 
「オールド・オスマンは今どちらに?と、取り急ぎ伝えねばいけないことが……」 
そういえばオスマンは今何をしているのだろうか?オスマンも私たちと一緒に宮殿へ行くことになっていたはずだ。準備に手間取っているのだろうか? 
「オールド・オスマンなら学院長室にいるかと」
「ありがとう。では急ぐので」 
そう言うと使者は学院長室を目指し走っていった。 
「ねえ、いったいなにがあったのかしら」 
「さあな。少なくともいいことではなさそうだったけど」 
あの使者の眼にあったのは焦りと悲しみだった。そんな感情を抱いている時点でいいことのはずがない。 
「なんだか胸騒ぎがするわ。わたしも行ってみる」 
「じゃあ私はここで王宮の迎えを待っておこう。迎えが来たときに誰も居なかったじゃあっちもこっちも困るからな」 
というか、いくらよくないことが起ころうと、私に害が及ばない限り知ったこっちゃない。 
「……わかったわよ!勝手にしなさい!」 
ルイズはどこか怒ったような声を出すと使者のあとを追っていった。やれやれ、何を怒っているんだか…… 
まあ、そんなことはどうでもいい。迎えが来るまで暇だな。何をして時間を潰そうか……。デルフと喋るか?そうだな、そうしよう。 
デルフを完全に抜きはなつ必要は無い。喋れる程度に抜けばいいんだ。そうすれば不意に見られたとしても怪しまれる心配は殆んどない……と思いたい。 
さて、何を話そうか。いや、そんなの考える必要は無いな。会話の内容は重要じゃあない。真に重要なのは会話をするということなのだ。 
デルフを喋れる程度に引き抜く。 
「おはよう相棒」 
「ああ」 
「相棒ってよ。あれか?好きな子ほどいじめたいってやつか?」 
は?抜いて早々何を言ってるんだこいつは? 
「何で?って顔だな。だってよ。相棒はあのこねこのことが好きなんだぜ。なのにいじめてるじゃねえか。もし好きじゃねえって言うなら相棒が気づいてないだけさね。ってか、これ前にも話したような気もするけどな」 
デルフ、お前はあの猫が気にっているのか?なかなか話題に出すことが多いが、まさか気に入っているのか? 
ちっ!私は別に好きだからいじっているわけではない!猫自体は……まあ、デルフほどではないが愛着を感じ始めていることは確かだ。 
だが、勘違いするな!暇だからいじっていただけだ!それだけなんだぞ! 
なんてことは口が裂けてもいえない。だから私は、 
「ふ~ん」 
とだけ返しておいた。自分が好感を抱いている者に素直な感情を発露するには多大な勇気が必要だ。私も早くそんな勇気を身につけたいものだ。 
そんなとき、不意に何かが私の足に触れた。下を見るとそこには、 
「ほら、こいつも相棒のことが好きだとよ」 
どこかへ去ったはずの猫が私の足に前足を乗せ私を見上げている。 
「……肩、乗るか?」 
「ニャー」 
……首輪を買うのもいいかもしれないな。 
そんな気持ちを黙殺しようと努力しながら私は猫を抱き寄せた。

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