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ミカヅキ『祈りをこめて』

2008.06.02 23:48

ミカヅキX

祈りをこめて

 夕暮れ時の交差点で、僕は君の後姿を見つめていた。
 雑踏の中で、何度も振り返り、笑顔で大きく手を振る君の姿を。
 信号が赤になり、何台もの自動車が二人の間を高速で走りすぎていく。
 僕は、孤独に胸を締め付けられ、それから逃れようと一つ深呼吸をする。
 眼鏡越しに見上げた空は、林立する摩天楼の隙間で、まだ青さを保っている。
 やがてそれは、濃く深い黒に塗りつぶされてしまうだろう。
 眼を閉じると、さっきまで僕の横で笑っていた、君の制服姿が浮かび上がる。
 まだ、なにも知らない、君の笑顔が僕には痛かった。
 君は、なにも知らない。
 たとえ汚物で飾り付けられているとしても、君の魂はまだ無垢なままである。
 それすらも知らず、自分を羽化したての蝶であるかのように思っている君は、さなぎにすらまだ遠い一匹の芋虫でしかない。
 だが、なんと美しい芋虫なのだろう。
 ガラスのように透き通った蒼い光。
 ほとばしる鮮血のように深く鮮やかな紅。
 冷たい風の中で芽吹く小さいが豊かな豊饒の翠。
 レモンピールと向日葵が恥らうような刺激的な山吹色。
 僕は、君のせいでいつも心地よい眩暈を感じていた。
 ただ君は、そこで笑っていただけなのに。
 僕は、もう一度深呼吸をする。
 ねずみ色の排気ガスが、僕の細胞を塗りつぶす事を願いながら。
 家路を辿りながらも、僕の脳髄は、君の姿を求め続ける。
 目くるめく媚薬のような君のイメージが、僕を侵食していく。
 このまま年老いた象の様に、君が引く手にまかせて流れてゆくのもいいかもしれない。
 君に感じることだけを、唯一絶対的な真実と信奉して朽ち果てていくのもよいかもしれない。
 心からそう思う。
 そしてその想いの強さだけ、僕は君を拒絶する。
 理由などない。

 この手が、君と言う稀有の花を手折る前に。
 君の瞳が、僕と言う真実に汚される前に。
 この世界が、僕と君とを結びつけたように、僕は、君と世界に別れを告げよう。
 君と言う奇跡の一瞬に、祈りを込めて。




野良(--)
自殺する前の殺人鬼?06/03 20:50

ミカヅキX
まあ、へたれの逃亡なわけですよ、これは。06/03 22:26

水上 える
芋虫マニア?06/04 01:54
最終更新:2009年10月05日 00:12
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