2008.06.05 23:20
ミカヅキX
『始まりの予兆』
巨漢が駆る、その巨大なバイクの右横には、小さな船のような座席が付いていた。
その座席で、赤い髪に
冷たい風を受けているのは、薔薇のように赤い軍服を着た少女であった。
その肌はすけるように白く、化粧っ気のない頬と唇は健康的な桃色に輝いている。
しかし、右眼からこめかみにかけて、異様な仮面が取り付けられていた。
それは、無骨な冷たい青色の鉄の半面で、本来眼のあるべき部分には代わりに視力の無いそれの象嵌が施されている。
その不気味な偽りの瞳には、不思議な文様が掘り込まれていた。
十字架に荊が巻きつけられたその紋章は、荊十字・ソーンクロスと呼ばれており、それを知る者には畏敬の念を抱かせるものであった。
少女の名は、マイ。
通称、
片瞑のマイ。
秘密組織シュトローム・フォン・フユンフ・クロイツェンの師団長であった。
無表情な鉄面に一部覆われたその異様な風貌は、16歳の少女に、師団長に相応しいものものしい雰囲気を与えている。
だが、愁いを帯びた生来の青い瞳は、見るものに対して、彼女の可憐さを十二分に語っていた。
その瞳の奥で、彼女は何を思うのか。
組織内の彼女の熱狂的なファンによると、この相反する二つの瞳こそが、彼女の一番の魅力なのだという。
鉄の瞳には服従心を、青い瞳には保護欲を駆り立てられるらしい。
荒れ狂う鉄の馬を自在に乗りこなす巨漢、彼女の運転手兼副官の
ゴライアス・アイゼンファウスト、通称・鉄拳のゴリアテも熱狂的なファンの一人である。
ただし彼は自他共に認める硬派で、マイの魅力はその魂の輝きにこそあると言って譲らない。
(今の私はさなぎのようなものかもしれない)
天才的な頭脳を持ち、鉄の克己心を誇る彼女は、渦巻く風とバイクのエンジン音の中で物思いに耽っていた。
(組織に見出されて以来、必死で己を高めこの地位に登り詰めたけれど、今の私は・・・)
青い瞳が、彼女の悩みを覗かせるように揺らめいている。
師団長になって以来、いや、組織に属して以来、彼女は周囲の期待に応え続けてきた。
たった三年で今の地位に付いた事を、誰もが納得するほどの成果を挙げ続けてきた。
もちろん、それは作戦自体が彼女の頭脳を生かすために立てられたものが多く、彼女にとってはまるでペーパーテストを解くようなものが多かった事も事実である。
それだけに、彼女は成果に比して、大きな満足感を得ることが少なくなってきた。
彼女の愁いの原因はそこにあった。
(いつの日か、この殻を破り、停滞した世界から飛び出す事ができるの?)
誰も、彼女の疑問には答えられない。
マイと同じ地位にいるほかの師団長も、彼女が敬愛してやまない総帥も。
突然マイが黒革の手袋に包まれた細い手を挙げた。
いつ何時でも彼女の一挙手一動に注意を払っているゴライアスは、その意をすぐに解し、かなりの高速で走っていたサイドカーを、マイに負担がかからないように気を遣いながら、それでいて速やかに停車した。
その副官の気遣いには無言で、マイは少年のように薄い胸元から、携帯電話型の通信機を取り出した。
「私だ」
「だ、団長!大変だ!」
少し甲高い男の声が、通信機から漏れ出した。
マイのもう一人の副官、ダビデス・イーゲルの声であった。
通称ハリネズミのディビッドは、小兵ながら歴戦の勇者で、諜報活動を中心とするマイの荊十字師団では常にその手腕を発揮してきた。
ただ、少々慌て物で、時々マイの指示がなければどうしようもできなくなる事がある。
今回もそうなのであろう。
逆に言うと、的確な指示さえ与えてやれば、任務の成功は約束されたようなものだ。
「落ち着いて状況を教えて」
「つ、つまり」
「ダビー。今、あなたは目標アルファの状態を確認するために、北鎌倉の私立山翁博物館にいるのよね?」
「あ、は、はい。そうです」
「で、私とゴライアスは、そこに向かっている。わかるわね?」
「はい。わかります」
「で、何が起こったの?」
「報告します!」
マイとの会話で落ち着いたのか、ダビデスの声が兵士のそれになった。
「私が見張っていたアルファ、アテナイの黒像式アンフォラが盗まれました!」
「・・・・・・・」
マイの片目が見開かれた。
師団長の珍しい表情に、ゴライアスは見入っている。
「団長?」
ダビデスの不安そうな声が通信機から聞こえてくる。
マイは無言のまま、ゴライアスに発車するように促した。
これが、マイとパンドラXX、後に終生の腐れ縁になる二人が出会う事件のはじまりであった。
水上 える
日本だったんだ(@_@06/06 03:04
ミカヅキX
いや、ゆくゆくは世界をまたにかけて活躍し、スペシャルでは月に行きます。はい。06/06 07:55
野良(--)
対照的な目の魅力ってのがいいな。06/06 20:04
モモと
続編所望~!! ついに出会い篇…連載第一回って感じですね!06/06 21:27
最終更新:2009年10月07日 19:15