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ミカヅキ『騎士の物語・終章』

2008.06.07 04:16

ミカヅキX

騎士の物語・終章

 白銀の鎧は、血と汚物で本来の輝きを失っていた。
 草一本生えていない呪われた荒野は、魔獣の屍で埋め尽くされている。
 累々と横たわる異界の者共の、血と体液と臓物の山の上に、騎士は立ち尽くしていた。
 その両腕には、鎧と同じくどす黒い血で汚された二本の大剣。

 黒く冷たい風が吹きすさぶ荒野で、最後の戦いが始まろうとしていた。

 死んだように立ち尽くす騎士の前に、いつの間にか白髪の少年が立っていた。
 「・・・・・・・・・」
 少年が投げかけたのは、恥辱と侮蔑に満ちた、穢れた言葉であった。
 騎士の脳裏には、森の樹々が発するエメラルドの輝き浮かんでいた。
 はるかな大昔に思えるその光景では、騎士の横に並ぶ仲間がいた。
 涙、怒り、笑い、喜び。
 人として誇るべき素晴らしい日々があった。
 必死で生きながら積み重ねた、人生という名の積み木は崩れ去り、今は彼の手の中にはない。
 「・・・・・・・・・・・」
 少年の嘲笑と侮蔑は、騎士には届かない。
 騎士の心は、とうに死に果てていたからだ。
 わずかに残った、深い緑の記憶が、ただ彼の心に繰り返し、繰り返し浮かんでいるだけだ。
 微動だにしない騎士の姿に、少年の白い瞳が虚ろになる。
 少年は、哀れみの表情をうかべ、自らの纏う純白の長衣を脱ぎ捨てた。
 この最果ての地に似つかわしくないその色彩は、暗雲たち込める空に舞い、食い荒らされるように何かに千切り、引き裂かれていく。
 そして、長衣が消えた後には、少年の姿は無く、黒い巨大な塊がごろんと転がっていた。
 さなぎのような外見のその塊は、紫色の光を帯びながら、太く鉤爪のある手足を生やし、前後には太く長い尾と首を伸ばした。
 その高速の変化は、形だけではなく、蜥蜴の肢体を整えながら、ぐんぐんと巨大化していく。
 最後に、巨大な蝙蝠の様な羽を左右に広げると、無数の曲がりくねった角と牙が恐ろしげに飾り立てる凶悪な顔を漆黒の空に向けて、大地が震撼するほどの覇者の雄たけびをあげた。
 その声に、その振動に、うなだれていた騎士が動いた。
 ゆっくりと兜をあげ、眼前の巨龍に面を向ける。
 己の咆哮に満足げな龍は、ゆっくりと首を下ろし、騎士を睨みつける。
 騎士と龍は、無限とも思える時間睨みあいを続けた。
 ゆっくりと高まっていく緊張感に耐えかねたのか、これから起こる惨劇を予感したのか、天は涙を流し始めた。
 降り始めた雨は、一気に豪雨になる。
 激しい雨水は、騎士の体を洗い清める。
 その鎧は、込められた祈りの輝きを取り戻した。
 胸に模られた獅子の顎に光る、強き意志の現れである獣の牙が、その気高さを取り戻した。
 剣を握る拳に、力が込められていく。
 突然、騎士は二本の大剣を掲げた。
 右に構えた青き剣は雷光を発し、左に捧げた赤き剣は炎を纏う。
 二つの光に照らされながらもなお、巨龍の鱗は黒く輝く。
 龍の首が、獲物を狙う大蛇のように折り曲げられたとき、騎士が大地を蹴り、蒼い雷光と紅蓮の炎を携えて、黒き魔龍に踊りかかった。

 永劫に続くその戦いの結末は、まだ、誰も知らない。





野良(--)
なんだか自分の文章を思い起こさせられるなぁ。
この手の装飾文は流れの中でないと強調されないな。06/08 19:09
最終更新:2009年10月07日 19:22
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