2008.06.11 22:00
野良(--)
夕暮れ時の街の中、冷たい風の吹く道の端に、少年は座りこんでいた。
そこに繁った草葉に潜む、黒いさなぎを見つめている。
後ろを人が通っても、自転車が音を鳴らしても、車が高速で走り抜けても、まるで気にすることもなく、じっとさなぎを見つめ続けている。
眉一つ動かさず、瞬きすら忘れたような真剣さで、石のように微動だにしないまま、ただたださなぎを見ているばかり。
日が落ち、月が昇り、星が瞬くころになり、そこにようやく変化が生まれた。
少年にではない。さなぎが、その殻を破り始めたのだ。
黒いさなぎの背が小さく割れ、ゆっくりと開いていった。
対照的な白い体が、徐々に姿を現していく。
苦しげに揺れながら、少しずつ広がっていくものは、穢れのない白い羽。
星の輝きを映したそれは、薄い薄いガラスのよう。
さなぎからぶら下がったまま、蝶はしばし身を休めていた。
少年は動かない。外の世界に出てきた蝶を、静かに眺めているばかり。
円らな瞳を揺らしもせず、ただまっすぐに見つめ続けている。
どれほどの時が流れただろう。
月の光を浴びながら、蝶がその羽を動かし始めた。
ゆっくりと、しっかりと、触れる空気を確かめるように、銀の羽を揺らめかせる。
時がきた。
蝶は広げた羽をふわりと浮かし、さなぎから静かに脚を放した。
同時に柔らかく羽ばたいて、周囲の空気をわずかに乱す。
生まれて始めての飛翔の時は、優雅で、華麗で、そして一瞬。
蝶の二度目の羽ばたきは、伸ばされた少年の小さな手に、あえなく握りつぶされていた。
見ている者は誰もおらず、咎める者ももちろんいない。
街の音は通り過ぎていくばかりで、少年を気にかけるものなど一人もいなかった。
その行動もまた、知られることなく通り過ぎていくだけ。
顔色一つ変えることなく、少年は握った手をゆっくりと開いた。
生まれたばかりの蝶の羽、千切れ崩れたその骸を、変わらぬ眼差しで静かに見る。
目を揺らすこともなく、眉をひそめることもなく、ただ確認のためだけに。
ここまでの時に比べれば、それはごくごく一瞬の出来事。
ゆっくりと立ち上がるまでの、動作の中の短い挙動。
少年は命の残骸をその場に撒き、手の汚れを打ち払うと、静かにその場を去っていった。
ミカヅキX
個人的には、握りつぶした時点で終わる方が好きですね。06/11 23:09
水上 える
個人的には、握りつぶして食べちゃうのが好きですね。06/29 02:55
最終更新:2009年10月07日 20:15