2008.06.15 19:49
野良(--)
「……さむ……」
夜よりも暗い闇の中、冷たい風が頬を切り抜けていく。例年通りの異常気象というやつだろう。春も終わろうかというこの時期、温かさに弛緩した身には殊更に痛い。
もっとも、四歩も歩みを進めた時には気にもならなくなっていた。赴く場所が寒々しいのはいつものことだ。今さら文句を言ったところでなにもよくはならない。
踏みしめる砂利と雑草の音を聞きながら、男は足を進めていった。
他の音は遠くにしか聞こえない。高速の高架下は冷たく、暗く、そして異常にうるさい。
灰色の天井を大小の車両が走り抜けるたび、ヒビの入ったコンクリートの柱が激しく揺れた。昼でも日の射しこまない暗がりには、得体の知れない残骸が鼻をつく腐臭を漂わせている。
月も星もでていない夜の中、灯りは灰色の蛍光灯が一つだけ。時おり切れる人工的な光が、冷たい空気をさらに鋭利なものへと変える。浮かび出される朽ちた光景は何一つ変わっていないはずなのに、明暗が繰り返されるほどに現実との歪みを増しているように見えた。
灰色の天井、崩れかけた柱、人工の光の横に置かれた、巨大なさなぎのせいだろう。
人の目には見えぬモノを、男の眼は確かに視ていた。
闇よりも遥かに黒い、鋼鉄めいた無機質な殻。
生と死の間に眠る、醜く美しい夢の器。
その内側で溶けている肉。流れうねる黒い念。形造られる躯を想像する。
これほどの大きさに育つまで、幾人の想いを喰らったのだろう。
憎悪、悲哀、憤怒、絶望。
人が魔と呼ぶ概念は、そんな負の念から生まれて、爆ぜる。
結びつき、絡みつき、重なり交わり深まることで、より澱み、より腐り、より醜悪な想いとなって。
このさなぎはただの収束点でしかない。今この場で散らしても、やがてまた別の場で集まり生まれるだけだ。多少の念を祓ったところで、消えることは決してない。
人が営みを続ける以上、想いは必ず生まれるのだから。
男はそんなことを少しだけ考えて、意味がないと放棄した。
なにをどうしたところで条理が変わることなどないし、自分には関係がないのだから。
砕けば報酬が得られる。その因果さえ守られるなら、なにも言うことはない。
砂利と雑草の地面を踏み、拳を握り固めながら、男は黒いさなぎへと近づいていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
退魔モノでも書いてみようかと考えて、その原案を少し気合いれて書いてみた。説明部分がもう少し濃くできそうだな。もっと重さを醸しだしたいんだが。この手の話はどうしても軽くなるんだよな。もっとドロドロした内容で展開を考えてみるか。
ミカヅキX
雰囲気ありますね。
退魔物って、退魔師と魔の描写が難しいですよね。
ドロドロした重い魔物に、同じくらい重い設定の退魔師にするか、正反対の退魔師にするか。
そのへん「闇狩り士」は上手いと思います。06/15 23:52
野良(--)
ドロドロした主人公とかってどうも苦手なんだよな。
そればっかりになってしまいそうで。
苦手克服のためにも考えてみるか。
どうもサブに女の子を設定しようとすると軽くなる。
いっそおっさんばっかりの渋い展開にしてみたりするか。06/16 00:36
水上 える
おお、これが最初なのか。へー。
文体的にはだいぶ重くできてると思います。あとはネタしだいなんじゃないかなあ。。06/29 03:03
最終更新:2009年10月07日 20:29