2008.05.29 03:25
水上 える
「知ってるか望美、かたつむりって宇宙人なんだぞ」
「えーうそー」
「この小さい殻の中に、ナノマシンがいっぱい詰まっててな、
地球征服のためにいまは情報収集してる最中なんだ」
「理科の教科書にはそんなこと書いてないよお」
「教科書にも書けない秘密なんだよ」
「じゃあなんでお兄ちゃんがそんなこと知ってるの?」
「俺はな、選ばれた戦士だからだ」
「えーうそー」
「かたつむり星人と戦う運命なんだ」
「孝志、望美、ご飯よ!いつまで庭で遊んでいるの、手を洗っていらっしゃい」
「はーい」
うそーとか言いながら、そのとき幼い私はそれを信じていた。
成長するにつれ、いつしか嘘だと知った。
かたつむり。陸に住む貝の仲間。ただの小さな生き物。
そして16歳の夏、そのことを兄がまだ本気で信じていようとは、夢にも思っていなかった。
「あ、もしもしお兄ちゃん、久しぶりー。東京での一人暮らしはどう?
大学ちゃんといってる? サボって遊んでばっかいたらだめなんだからねー」
携帯電話を買い換えたので誰かに電話をしたくなった。
それでなんとなく兄に電話をした。正月休みに帰ってきて以来、会っていなかった兄に。
ザ、ザザーー
「もしもしお兄ちゃん、聞こえてる?」
なんだかノイズが多い。新しい携帯電話がなにか不安定なんだろうか?
AMラジオよろしく、部屋の中で向きを変えてみたり移動してみたりするが、一向にノイズは収まらない。
ザザーー
「……望美か?俺は、これから戦いに行く……」
「え?何言ってるのお兄ちゃん?」
「……前世からの仲間がそろったんだ……」
「は?ぜんせ?」
「……もしかしたらお前を巻き込んでしまうかもしれない……」
「ちょっと、お兄ちゃん?」
「……しかし、やつらに箱をもらっても絶対に開けてはいけない。それはパンドラの箱……」
「ねえ、会話が通じてないよ、ねえ!」
「……この星を守れるのは俺たちしかいないんだ。後のことは頼む、望美……」
そこで一方的に通話は切れた。
「なんなの、もう」
数週間が経ち、私はその電話のことをすっかり忘れていた。
なにしろ夏休みである。海、プール、お祭り、やることはたくさんあった。
「あー今日も楽しかった」
今日は、近隣の大きい街に友人と買い物にいってきた。
戦利品の確認はひとまず置いておいて、自室のベッドに倒れこむ。
いい感じに日焼けした肌をさすりながら、明日のスケジュールを確認しようとしたとき、
「望美、なんか荷物届いてるわよー」
母親からの声。
リビングに行くと、小さな包みを母から渡された。
「差出人が書いてないのよねえ、望美、懸賞とか通販とかした?」
「いや、してないけど……なんだろう」
不思議に思いながらも受け取って、再度自室に戻る。
「ま、いっか。とりあえず開けてみよう」
紙の包みをそっとはがしていくと、中には1通の手紙と、手のひらに納まるくらいの小さな木の箱が入っていた。
この箱の中には、すべての美しいものとすべての醜いものが入っています。
それを知るべきだと思うなら箱を開けてください。
なお、それに付随する私たちの殺戮は決して快楽主義に由来するものではありません。
「なにこれ」
手紙の内容は正直さっぱりわからなかったが、箱――
そこでようやく、以前の電話で兄が、箱がどうしたとか言っていたのを思い出した。
「もうすぐ成人するっていうのに、なんの遊びよ……」
遊びとしか思えなかったのは、その箱があまりにもちゃちい箱だったからだ。
装飾もほとんどない、木の板と蝶番とボンドぐらいしか使ってなさそうな、
100円ショップでも売っていそうな箱だった。
なんというか、中身にも別に興味がわかない。
「えーと、開けるなって言ってたんだっけ……はいはい、開けません」
私は元のとおりに手紙と箱を紙で包むと、机の奥にしまった。
ミカヅキX
妹、なんというKY。05/29 18:40
モモと
えー。開けるなって言われたら開けたくなろうぜ。妹。05/29 20:35
野良(--)
ちょいと昔にこの兄のようなことをいう人がいっぱいいたんじゃなかったっけ。05/29 21:42
水上 える
いまもいるんじゃないかなあ。まだムーとかで募集してるんじゃないですか?
続きは何通りか考えたんですけど、
A:怪しい団体に加入して思考をやられてしまった兄を救おうとする妹
B:何かの拍子で箱を開けてしまって本当に人類VSかたつむりの戦いが始まる
C:箱を開けなかったせいで戦いが始まらず、兄は平和に老衰。
死に際に、運命を子供たちに託したり託さなかったり。05/30 00:55
最終更新:2009年10月16日 02:11