2008.05.30 01:12
ミカヅキX
『トーマ物語~雨上がりの午後~』
ひとしきり降り注いだ雨があがった、その日の午後。
空が赤く染まる、その少し前。
トーマは、神術院の庭の塗れた石畳にしゃがんでいた。
小さな口を開けながら、彼女は何かを見つめている。
それは、トーマの手よりも大きい一枚の鮮やかな緑の葉の上にいる、一匹のかたつむりであった。
「うーん」
トーマが頭を悩ませているのは、午前中の授業で言及された「螺旋の夢」という単語であった。
それは「無限の蛇」や「盲目の王」といった単語とともに語られた、とても幻惑的な言葉であった。
もちろん、その授業の内容は、トーマの頭の中には残っていない。
ただ、いくつかの単語が、彼女の心に纏わり付いて離れないのだ。
そして、雨上がりの午後、トーマは一匹のかたつむりを見つけ、その殻に刻まれた螺旋の形に魅入られてしまったのだ。
「あら、トーマくん。何を見ているの?」
「え?」
トーマは頭上からの声に、空を見上げた。
逆光の中、上級生のウレイ・マクザムが、逆さまになって笑みを投げかけていた。
「あ、えーと、こんにちわマクザムさん」
「あら、ウレイでいいわ」
「じゃ、じゃあ、こんにちわウレイ」
「うふふ」
「で、そのままウレイ姫を呼び捨てにしたってのか?」
「え?だって、だって、ウレイがそれがいいっていうんだもん」
悪友のアルオンの怒りに、トーマは焦って言い返した。
「ばか、お前がウレイ姫を呼び捨てにするなんざ、56億年はやいんだよ!」
「だって・・・」
夕食後、部屋に来たアルに昼間の話をしていたところであった。
「だってじゃ、ねえ!反省しろ、このちび!」
そういうアルオンも、世間でいえば、立派なちびであった。
「もういい!せっかくウレイにお茶に誘ってもらったから、アルも一緒にって思ったのに!」
トーマは、柔らかそうなほっぺたを膨らませ、アルから顔を背けた。
「え!嘘!嘘嘘!今のぜーんぶ嘘!」
アルは慌てて言うと、トーマの顔の前へ回り込んだ。
「いや、ウレイ姫を呼び捨てに出来るなんて、お前すげーな!感心したぜ!」
「・・・ほんとにそう思う?」
「思う思う!前から俺は、お前はやれば出来る子だと思ってたんだよ!」
「えへへへ。でしょ!」
トーマは別に、アルの歯の浮くようなお世辞に丸め込まれたわけではなかった。
お茶会の話に、本当に嬉しそうなアルの笑顔を見て嬉しくなったのだ。
「楽しみだねぇ」
「楽しみだな!」
トーマとアルは、手を取り合って、部屋の中をぐるぐると回り始めた。
「凄ぇな!」
「すごいね!」
まだまだ子供の二人は、単純に快楽主義的な生き物であった。
「パンドラの箱・・・という話を知っているかな?お嬢」
問いかけたのは、神術院の制服をきっちりと着こなしている黒髪に浅黒い肌の少年であった。
「何が言いたいの?」
応じたのは金髪の美少女、ウレイ・マクザムであった。
トーマの部屋とは、広さも内装も格段に違う、ウレイの私室である。
「別に」
「神の仕掛けたもうた罠であるなら、必ずそこには叡智と喜びがあるものよ」
ウレイは、春の日差しのように柔らかな笑顔を浮かべた。
「たとえあの子が、あなたの言うパンドラの箱であったとしても・・・」
言いながら、ウレイは窓の外の赤く染まった空を見上げた。
「そこには必ず、希望があるのよ」
黒髪の少年は、軽く首を振った。
「お嬢はお嬢の好きにすればいい。俺は、何があっても・・・」
少年の言葉は、ウレイの凛とした後姿には届かなかったようであった。
米※米※米※米※米※米※米※米※米※米※米※
トーマのことをすっかり忘れていたので、書いてみた
水上 える
おお、とーま。
とーまがぽかーんと口をあけてかたつむりに見入っている姿が目に浮かぶ…05/31 00:58
野良(--)
黒髪の少年が謎だな。なにを知っていやがるんだろう。05/31 21:13
最終更新:2009年10月16日 02:33