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ミカヅキ『走れクルメロス』

2008.05.17 04:39

ミカヅキX

『走れクルメロス』
『麗しきヴォルティナーゼの微笑み』

 「やや、これはしまった、大失敗じゃ!」
 オリュンポスの大広間で、思わず大声を上げたのは、全能の神、大神ゼウスその人でした。
 「誰か!誰かおらんか!」
 ゼウスは大声で呼ばわり、ぴしゃりと自分の禿げ上がった額をたたきました。
 「そうじゃ、クルメロス!クルメロスはおらんか!」
 その言葉に答えたのは、一陣の風でした。
 「お呼びでしょうか、マイロード。クルメロスはここに」
 見ると、小さなカタツムリが、ゼウスの足元にいるではありませんか。
 「おお、クルメロス、ここにおったか。お主に頼みがあるのじゃ」
 「なんなりと、マイロード」
 「実はな・・・」
 ゼウスは、カタツムリのクルメロスに、自分の失態を話始めました。
 先日、ゼウスはパンドラという人間の少女に、世界のあらゆるものが入っている魔法の箱をプレゼントしたのです。
 その箱には、金銀財宝だけでなく美しさや美術の才能、正義や愛など、素晴らしいものが入っていました。
 しかし、ゼウスは、本来はその箱には不可欠な、魔法の鍵を渡す事をすっかり忘れてしまっていたのでした。
 神々がその箱を使うときは、自由に自分の欲しいものを取り出すことが出来ますが、ただの人間にはそれができません。もし、ただの人間が箱を開けたら、中身を選ぶ間もなく、全てが飛び散ってしまうのでした。それだけならばまだしも、箱の中にはありとあらゆる物が入っています。あらゆるものとはつまり、良いものだけではなく、悪いもの、腐った林檎や折れ曲がった剣、裏切りや醜さなどもたっぷり入っていたのです。
 「なぜ、悪いものなど入れたのですか?」
 クルメロスはゼウスに質問しました。
 「もっともな質問じゃ。確かに、良いものだけ入れることができたら、それが一番よかったじゃろう。しかしな、クルメロス、物事にはすべて表と裏があって成り立つのじゃ。光と影、朝と夜、男と女、わかるじゃろ?」
 クルメロスは、ごまかされたような気がしましたが、分かりましたと答えました。
 「それで、じゃ。この鍵をパンドラへ運んで欲しいのじゃ」
 ゼウスはそう言って、小さな小さな鍵をクルメロスに渡しました。
 「欲しいものを念じながらこの鍵を使って箱を開けると、念じたものだけが取り出せるのじゃ。さあ、急いでこの鍵をパンドラの下へ届けるのじゃ」
 「わかりました、マイロード。このクルメロスにお任せください」
 クルメロスは鍵を殻の中に大事にしまうと、自分自身も殻の中に入ってしまいました。
 「では、行ってまいります」
 「頼んだぞ、クルメロス」
 「はは」
 答えるや否や、丸い殻だけの姿になったクルメロスは、猛スピードで転がり始めました。
 クルメロスは、オリュンポスの山肌を転がり落ちながら、どんどんスピードをあげて、しまいには、風よりも雷よりも早く転がり続けました。
 クルメロスのあまりの速さに、オリュンポスから下界を眺めていた神々も喝采を送るほどでした。みな口々にその速さを称え、これからは伝令役をクルメロスにしようとまで言い出す神もいました。
 それを面白く思わなかったのが、足の速さに自信があった、ヘルメスでした。
 邪魔をするのは簡単でしたが、今のクルメロスはゼウスの使命を帯びています。
 そこでヘルメスは、一計を案じ、美の女神アフロディーテに、クルメロスに褒美をあげてはどうかと持ちかけました。
 アフロディーテは同意し、とても美しいメスのカタツムリを産み出しました。
 その美しいカタツムリは、ヴォルティナーゼと名付けられました。
 ヘルメスは、アフロディーテからそのカタツムリを受け取ると、一目散に駆け出しました。
 いくらクルメロスが速いといっても、やはり神の速さには敵いません。
 ヘルメスはクルメロスを追い抜くと、ヴォルティナーゼにクルメロスを誘惑するように言い含めました。
 やがて、ヴォルティナーゼが草を齧りながら待っていると、土煙を上げてクルメロスが迫ってきます。
 ヴォルティナーゼは、ヘルメスの言ったとおりに、わざとクルメロスの前に転がり落ちました。
 あわやぶつかると見えたその瞬間、クルメロスは、なんとかヴォルティナーゼを避けて止まりました。
 「危ないじゃないか!今私はマイロードの・・・」
 クルメロスの怒りの声は、ヴォルティナーゼの美しい殻模様の前に消えてしまいました。
 「あなた、快楽主義者?」
 ヴォルティナーゼは悪びれもせずに、甘い言葉で囁きました・
 「か、快楽主義者って、何のことだい?」
 「あら、知らないの?うふふ」
 ヴォルティナーゼの含むような笑い声に、クルメロスは頭じゃないどこが痺れるのを感じました。
 「教えて、あげましょうか?」
 「で、でも私は・・・」
 クルメロスは、無理矢理ヴォルティナーゼから視線を外し、目的地を見据え、ゼウスの言いつけを思い出そうとしました。
 クルメロスの眼に映ったのは、目と鼻の先にある、パンドラの住むお城でした。
 後もう少しなんだから、ちょっとぐらいなら休憩してもいいかもしれない。
 クルメロスの頭に、そんな考えが浮かびました。
 この場所でクルメロスを待ち受けたのも、ヘルメスの策略の一つでした。
 悩むクルメロスに、ヴォルティナーゼがそっと近づきました。
 「快楽主義者を知るためには、先に快楽から、知らなくっちゃ・・・ね」
 クルメロスは、何となく「快楽」の意味が分かったような気がしました。
 「う・・・うん」
 「うふふ」
 しかし、クルメロスの頭は、まだ自分の使命を忘れていません。
 心の中で、クルメロスはゼウスに助けを求めました。
 (物事にはすべて表と裏が・・・男と女・・・)
 クルメロスの心の中のゼウスは、そう言って莞爾と笑みを浮かべました。

 そして、クルメロスが「快楽」について学んでいる間に、パンドラは箱を開けてしまいました。
 ゼウスが、クルメロスを見つけ出したときには、クルメロスとヴォルティナーゼは溶け合って一つになってしまっていました。
 怒ったゼウスは、クルメロスの一族に呪いをかけ、それからカタツムリは、二度と早く走ることが出来なくなってしまいました。

 どっとはらい。



モモと
擬人化ならぬかたつむり化……ある意味怖いです
ゼウスの口調が「~のじゃ」ばかりなのがちょっと気になりました。05/17 21:14

野良(--)
かたつむりって雌雄同体じゃなかったっけ?
ギリシャ神話的ではあるな。
殻で転がるカタツムリ型モンスターなんてのはありかもしれない。05/17 21:31

abendrot
ころがってるカタツムリが……永遠にころころころころ^^;
ところで、カタツムリ君、パシリにされた上にお仕置きなんて、ちょっと同情しちゃいました。05/17 23:47

水上 える
クルメロスかわええええ( ̄∀ ̄
ヴォルティナーゼ痴女ーーーーー( ̄∀ ̄
転がるだけなら今でも転がれる気がするけど…止まれないのか。ぐしゃっ。あああわれ。05/18 00:06

ミカヅキX
なんとなく全レス
 >モモとクン
ゼウスといえば、スーパーゼウス様なので、あんな口調に…。
 >野良クン
今回は、カタツムリが雌雄同体かつ動きがのろいことの、縁起物語です。
 >abengrotクン
やっぱり、お上からの言いつけは守らんといかんのでしょうな。とはいえ、本人いや本かたつむりは幸せなのかもしれません。
 >エルクン
ち、痴女って。ヴォルはまあ、機械仕掛けみたいなもんですからね。

次回こそ、きちんとしたものを書きたいなあ。
05/18 01:39

野良(--)
なるほど。ならば足が遅くなったことと一緒に、オスメスの区別がなくなったことも結末で示したほうがよかったな。これだと足が遅くなったことの理由でしかないようにとれる。
ギリシャ神話風なら、クルメロスは最初は人型の方が雰囲気はでたんじゃないかな。
呪いでオスメスの区別がなく鈍いかたつむりに変えられた、とした方がギリシャ神話の残酷性がでると思う。
うむ、よいネタなのでつい掘り下げてしまった。05/18 19:58

ミカヅキX
 >クルメロスは最初は人型
確かに、そのほうがよかったですね。
「異常に素速いかたつむり」が最初に出たので、転がるイメージに固執してしまいましたね。05/18 22:55
最終更新:2009年10月16日 03:26
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