2008.05.23 23:10
abendrot
快楽主義者たちの楽園は、その日、真紅の池に沈んだ。
カタツムリの殻の中心から、ゆっくりとズームアウトしてゆく。
カタツムリ、それが乗っていた葉、茎、植物の全体。焦らすようにゆっくりと、しかし停止せずに、徐々に場面が現れる。
雨の森林の全景まできたところで、一時停止。
シトシトと雨季を思わせる雨の、大地を叩く音だけが辺りに響く。
雨の音の音量が、どんどん大きくなる。肌に空気の震えを感じるほどにまで。
そして、突然のブラックアウト。同時に、雨の音も消える。
タイトルが画面全体にフェードイン。白い文字が浮かぶ。
『el pan de la sangre ~夢の園~』
静寂の中、タイトル文字が揺らめき、背景の黒に溶けて消える。
「Schwarz! Schwarz!」
遠くから、女性の声。悲壮な、それでいて、遠くからでもはっきり聞こえる叫び声。
再び、画面は森の中に。
人の歩く音が、雨音の中近づいてくる。
「Wo? Wo sind……Wo sind SIE!」
誰かを探す女性の声。
ずぶ濡れの女性は、目を閉じ、両手を前に突き出して、手探りで歩いてくる。
下着のように薄い白服を着た、盲目の女性。顔から首、首から胸、胴、腰と映像が下がる。画面が女性の腿まで来たところで、彼女は躓き倒れる。
倒れた彼女の目と鼻の先に、カタツムリ。
地面を撫でる彼女の細い指がカタツムリに近づき、それに触れた瞬間、彼女は慌てて手を胸元に引き寄せる。両手を抱え、震える。
小さな、すすり泣きの声。
「Helfe……bitte………Helfen Sie mir…bitte……」
先ほどよりも、小さく、消え入るような声で助けを求める。
カタツムリが、彼女から遠ざかってゆく。雨が、彼女の泣き声に重なる。
やがて、女性はゆっくりと起き上がる。顔は泥にまみれ、倒れたときに切った頬から、赤黒い血が滲み出す。
乱暴に、腕で涙をぬぐい、再び歩き出す。
「Schwarz……」
うわごとのように、その名を呼びながら、雨の森の奥へと進む。
映像は停止し、彼女だけが遠ざかってゆく。そして、ゆっくりと彼女の全身が現れる。
上半身は泥まみれ。そして、腰、腿、と現れる下半身。長い白服の、丁度膝あたりから下が、朱に染まっている。
別の服のように、赤黒い色に染まった服の裾からは、雨と血の混じった雫が、点々と滴る。
カタツムリが這った跡のように、彼女が歩んだ跡が、ひとつ、またひとつと、大地に刻まれる。
彼女が暗い森の奥に消え去る。
彼女の残した「跡」の一つに、一匹のカタツムリが近づく。
カタツムリへと、ズームインしてゆく。
そして、カタツムリの殻の中心で、映像が終わる。
快楽主義者たちは、血の海の底で雨が止むのを待ち続ける。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
映画のワンシーン(オープニング?)みたいなのを想像しながら書きました。
パンドラは、→「el pan de la sangre 」ここに。(発音は「パンドラ」じゃないのかな? それなりに近いのを選んだつもりですが。英訳で、「the bread of the blood」。英語だと韻になってた……)
ちなみに、「el pan de la sangre」はスペイン語なのに、劇中の女性が話すのはドイツ語です。
ミカヅキX
映像が眼に浮かびました。
シュワルツしか分かりません><。
字幕を・・・。
sangre→サングリア?05/23 23:43
モモと
やくおねがいしまーす、せんせい!! ドイツ語がわかりません。
「schwarz」なら見覚えくらいはあるんですけど…05/23 23:45
abendrot
んと、ドイツ語なんてどうでもいいんですよ。
理解できない言葉で、情景だけで、物語を想像してもらおうかなぁと。
まあ、その目的だったら、上下の一文ずつがちょっと邪魔かもしれませんけどね^^;
ドイツ語の部分は、前後の文で意味が通じるようにしたつもりなのですが・・・・・・とりあえず、Schwarzは人名でシュヴァルツと、sangreは、多分、サングレと読むのだと思います。05/24 00:31
水上 える
ホラー?
こんな短編映画ありそうですねえ。かたつむりが意味ありげでいいと思います。05/24 01:33
野良(--)
映画の台本とかをもう少し細かくするとこういう感じになるのかな。
ちょっとプロット段階のモノにも似ている。読ませることを意識しているところが違うが。
こういうのも面白い形式だな。導入には使えるかもしれない。全編通すのは難しいかもしれないが。05/24 20:24
最終更新:2009年10月19日 01:40