2008.05.25 21:43
野良(--)
ぱしゃん
踏まれた小さな水溜りが王冠のような環を広げる。
爆ぜた飛沫が周りに落ち、さらに小さな波を生んだ。
「おおー」
自分の足が作りだした光景に、少女は嬉しそうな驚きの声を上げる。
そして、より大きな水溜りへと向かっていった。
近づく雨季を報せるような穏やかな小雨の降るある日、ニコラは水の世界を満喫していた。
雨具の一つもまとうことなく、濡れるのを気にもしていない。むしろ、落ちてくる雨粒を楽しげに浴びていた。
雨と草木の奏でる音を聞きながら、泥のだんごをこしらえる。
土の中からでてきたミミズを追っていくと、カエルの親子が歌っていた。
喉のふくらみに合わせて頭を揺らす。気がつけばいたるところから聞こえてくる別の音に、興味は尽きることがない。
顔といわず手といわず泥と雨水で汚しながら、ニコはいつもと少しだけ違う村を探検していった。
雨の後は毎度姉に怒られるのだが、今はそれどころではないのだろう。アジサイの葉を這い進むかたつむりにちょっかいを出しながら、泥まみれの顔には大きな笑顔が浮かんでいた。
ぱしゃん
「ん?」
不意に、後ろで水の音がした。
笑みを驚きに変えながら、ニコラは体ごと振り返る。
そこには、一人の女性がいた。
雨具の一つも携えず、濡れるがままに立っている。
纏った薄い絹の衣は貴婦人を飾る純白のドレス。
肌はそれに劣らぬ白磁の色で、血の流れすら思わせない。
細い面には赤い唇と鋭い眼。浮かんでいる小さな笑みは人形めいた美しさ。
そして波打つ黒い艶やかな髪は、それが自然であるかのように濡れそぼり、女性の姿を飾っていた。
初めて見る人物のあまりに鮮烈な存在感に、ニコラはしばし言葉を失っていた。
もっとも、疑いのない笑みを浮かべるまでの一瞬だけであったが。
「おねえちゃん、だれ?」
「私はパンドラ。雨と霧を司る者」
見上げる少女の明るい声に、そう名乗った女は変わらぬ微笑を返していた。しとしとと降り続く雨の中、その声はむしろ澄んで響く。
驚きながらも恐れは見せぬニコラを前に、パンドラの言葉は続いていく。
「お嬢ちゃん。エルドラはどこ? あの快楽主義者は」
「? だれ?」
「ああ、人の名前はエレンだったわね。知らない?」
「えれん……おお、トールのおねえちゃん」
向けられた問いかけに、ニコラは元気よく答えていた。若く美しいトールの母を、少女は姉だと思っているらしい。
「知ってる?」
「うん。エレンおねえちゃん、鳥さんとかお馬さんとか犬さんとかとお話しするのじょうず」
「そうでしょうね。あの子は森と風を司る者だもの……」
その答えに、パンドラは満足げな笑みを浮かべていた。細い眼差しに宿るのは、喜びと憎しみを湛えた光。
雨と共に立つ女の変化に、幼いニコラは気づかない。
「どこにいるか、教えてもらえるかしら?」
「いいよー。エレンおねえちゃんのおうち、あっちー」
答える元気のよさのまま泥の道を駆けていく。
パンドラはその後をゆっくりと追っていた。踏まれた土と水溜まりが確かな音を響かせる。
しとしとと降り続く雨は、次第に強さを増していた。
~~~~~~~~~~
謎な女性に謎な展開をくっつけてみました。
やはり先の展開は考えておりません。
あくまで普通の村なので。
先がどうなるかはわかりませんがね。
基本的に三題やら他のやらで俺の書く話はその場限りのもんだと考えてください。
ストーリー全体よりキャラクターの性格を示すためのものとしてみてくださいませ。
水上 える
謎だー
どんどん普通の村じゃなくなってる気がします。05/26 00:47
ミカヅキX
もっと普通のネタを投下して、不思議要素を薄めるのだ~。
農作業の話とか、夫婦喧嘩とか、キノコ料理の話とか。
男達が寄り集まって、髭談義してるところを書こうと思ったけど、髭に思い入れのない僕には無理だった模様です。05/26 00:58
野良(--)
うーん、やっぱりちょっと濃すぎるか。
薄めるように努力します。
かたつむりはいいんだが、パンドラと快楽主義が難しいんだよな。
話の中で自然に使おうと思うとどうしても謎っぽくなる。
がんばってみよう。05/26 21:03
最終更新:2009年10月19日 02:21