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ミカヅキ『ウレティスの受難~ある朝の情景~』

2008.05.04 18:17

ミカヅキX

ウレティスの受難~ある朝の情景~

 「キャー!」
 女の悲鳴に、俺は飛び起きた。
 視界に入ったのは、うっそうと生い茂る枝々と、その向こうに明けかけた青紫の空。
 確か、俺達は安全な場所で野宿をしていた。
 不寝番は、俺達の中では一番の剣の使い手、アイヒだったはずだ。
 明け方の森の湿った空気を鼻で感じながら、俺は枕代わりにしていた荷物の横に置いてあっ
た、夜露にぬれている大剣の柄に手を伸ばす
 注意深く立ち上がり、周囲の様子を伺う。
 魔鏡使いのネイドは、マントに包まって、すやすや寝息を立てている。
 聞こえるいびきは、僧兵上がりのタイウだ。ちらりと視線をやると、大口を開けた間抜けな
寝顔が見えた。
 こいつらは、あの悲鳴を聞いて、なんでこんなにすやすや眠っていられるんだ。
 毎度毎度のことながら、俺は怒りにも似たあきらめを抱く。
 本来ならば、あの悲鳴は俺の夢だったのかと疑うところだが、脳天気な二人の態度は考慮す
るに値しない。
 第一、不寝番のアイヒがいない。
 俺は、くすぶっている焚き火の脇をとおり、幸せそうなネイドをまたいで、昨夜の記憶の中
でアイヒが座っていた方向へと進んだ。
 「アイヒ?」
 小さく呼びかけてみる。
 返事はない。
 茂みを掻き分け、先に進む。
 「アイ・・・」
 もう一度呼びかけようとした俺が見たものは、乙女の姿であった。
 彼女は、倒木に片膝を立て腰を下ろし、立てた膝の上に両手を重ねて置いている。
 細い華奢な顎を、重ねた手の甲に当て、憂いをたたえた青い目で地面を見つめている。
 短く切り揃えられた深い紺色の髪の下で、今にも死を選びそうなぐらい、思いつめた表情を
している。
 細い体を、高価な魔法金属の軽鎧で包んだその姿こそ、戦場を駆ける麒麟剣士、我らが戦乙
女、アイヒ=ユーオ=コトマックその人であった。
 してみると、先ほどの悲鳴は彼女のものだったのか。
 俺は程よく伸びた無精ひげを撫ぜながら、彼女に近づいた。
 「あの・・・、アイヒ?」
 「・・・・・・」
 「アイヒさん?」
 「無いの・・・」
 「え?」
 婦女子が無くて悩むものといえば、俺にはアレしか思い浮かばないが、アイヒに限ってあり
えない。
 俺は、慌てて妄想を打ち消す。
 「無いって、何が?」
 アイヒが、キッと顔を上げ、俺を見据える。
 潤んだ瞳に、不覚にも俺の鼓動が早くなる。
 「角砂糖が無いの」
 「は?」
 「か・く・ざ・と・う」
 一音ずつ区切らなくとも、俺の耳は悪くない。
 そう思ったが、見捨てられた子供のように不安げなアイヒに対しては、何も言えなかった。
 「角砂糖・・・が、無い」
 俺の無意味な繰り返しに、アイヒはこくんとうなずく。
 「ウレティス、知らない?」
 俺は、知らないと答えた。
 こういう時のアイヒは、本当に可愛い。
 普段がああだから、その効果は高い。
 本人は、自分のそういった魅力に関してとんと無関心なことが、俺にはありがたかった。
 「で、それが無いと、なにか困った事になるのかな?」
 悄然としたアイヒの姿に、我知らず言葉が優しくなる。
 しかし、その言葉に、アイヒの表情が変わった。
 不機嫌そうに細い眉をしかめ、俺を馬鹿にしたような目つきで睨む。
 「ユーファライズが悲しむからに決まってるでしょ」
 言葉のニュアンスは、あんた馬鹿?、と言っているに等しかった。
 ユーファライズとは、アイヒの相棒である、幻獣麒麟の名前だ。
 ドラゴンとユニコーンを足して2で割ったようなその姿は、その特性も良く似ている。
 天空と大地を自在に駆け、時には炎のブレスを吐き、癒しの力も備えている。また、知性も
高く、純潔の乙女に誓う忠誠は揺るぎが無い。
 麒麟騎士が尊ばれているのは、その希少価値からだけではなく、戦場での実戦力からでもあ
る。
 「ユーファの大好物なのに、どうしよう」
 「ふぁーん」
 俺は、なんとか欠伸をかみ殺す。
 「林檎でもあげりゃいいじゃん」
 「ユーファをそこらへんの馬と一緒にしないでよ!田舎騎士!」
 毎度毎度のことながら、アイヒの盲目的な麒麟可愛がりには閉口する。
 「へいへい、すいませんね、田舎者で」
 「おかしいわ、あと10日分はあったはずなのに」
 助けになりそうも無い俺に対して興味を失ったのか、アイヒは再び地面をみながら呟いた。
 俺は、そんなアイヒに背を向けて、再び安眠をむさぼるため歩き始めた。
 角砂糖が勝手に消えるわけが無いし、アイヒが愛するユーファの事で勘違いをするとは考え
にくい。
 俺は食ってないし、大酒のみのタイウは、甘いものが大の苦手だ。
 そうなると、犯人は一人しかいない。
 それにアイヒが気付くのはいつのことだろうか。
 まあ、気付いたら大騒ぎするだろうから、すぐにわかるだろう。
 俺はマントで作った即席の寝床に潜り込みながら、そう考えた。
 そうなる前に、少しでも眠っておくのが、こいつらと付き合う最上の方法だ。
 そして、まどろみが訪れようとした、その瞬間。
 「ネイド!!あんたしかいないわ!ユーファの角砂糖返しなさい!!」
 アイヒの怒声が、今日一日の始まりを森全体に告げたのであった。

-End-
(///)初参加でお眼汚し申し訳。KYのそしりを気にしないで投下してみました。


野良(--)
参加ありがとうございます。
そして投稿もありがとうございました。
しっかりした背景設定を感じさせる内容ですね。独自のストーリーがあるのでしょうか?
おいおいそういったものに関しても話していけるとよいですねぃ。
今後もよろしくおねがいします。05/04 19:45

水上 える
うおおすごいまともな投稿だ!
こうあるべきなんですよね(笑
角砂糖を食べる麒麟かわいい…続きを読んでみたいです。05/04 20:27

abendrot
今回、何だか設定より長文派が多いですよねー。
麒麟の角砂糖10日分を一人で食った(?)ネイド、もしかして悲鳴で目覚めなかったんじゃなくて、お腹壊して目覚めないとか……^^;05/10 14:06
最終更新:2009年10月23日 02:33
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